ギルド嬢のひとりごと

星ふくろう

文字の大きさ
9 / 40
第一章 緑の水晶と山賊たち

5

しおりを挟む
 そして、上にはまだ――

「あれ、どうするの旦那様?
 天をいくなんてどうしようもないわよ?」

 いや、どうしようもある。
 茜だけなら。
 でも、それはここでは披露したくない。

「あれ、な」
 
 アッシュは形成不利と見て逃げ出そうとする、女首領に向けて手にしていた数本の槍を構える。
 逃がす気はないぞ?
 そう呟くと、彼が投げた槍はそのつばさの両翼を貫き‥‥‥まだ越えていない建物の壁に女首領を縫い付けてしまっていた。

「すっごい‥‥‥あんなに正確に、よく見えますね!?」

 ぎぃやああ―――なんて悲鳴を上げるところを見ると、もしかしたら肩口か。
 それとも、腕か胸も貫かれたのかもしれない。

「あーあ‥‥‥悲鳴だけで近所迷惑ですね、旦那様?
 あれ、どうなさるのですか?」

「ん?
 あれはな、こうするんだ」

 アッシュは手近な建物を伝い、その女首領の縫い付けられた壁の上にと移動する。
 そのまま、剣を引き抜きー‥‥‥

「いや、待て、待ってくれ!!!
 頼む、翼だけは、これだけは――いや、お願いっ!!!」

 そう、先ほどまでの勢いはどこに行ったのやら。
 彼は容赦なく、その背の根元? から両翼をバッサリと切断してしまった。

「うっわ。えげつない‥‥‥」
 
 ボコ、ボコンっなんてそこかしこにある窓だの壁のでっぱりに身体を打ち付けて翼を失った罪人は堕ちてきた。
 そして、その側に音もなくシュタっ、なんてかっこよく降り立つアッシュ。
 忍者みたい‥‥‥茜はそう思いながら、切り裂いた翼の片方を容赦なく持ち、女首領が自害しないように口にその頭巾を無造作に押し込んで引きずりながらやってくるアッシュ‥‥‥

「もう少し優しく――、ね旦那様?」

「優しく?
 剣を抜いた時点で死を覚悟しているはずだ。
 そんな優しさは相手に失礼だぞ、茜?」

 これが生きてきた世界の常識の違い、文化の違い‥‥‥
 彼等の現代には、死と生が当たり前に存在している。
 なかなか慣れないのよねえ、これ。
 腕と足を、アッシュは駆けつけてきた警吏? から受け取った縄で縛り上げそれを貰い受ける。
 そう彼等に伝えていた。

「え‥‥‥渡さないんですか?
 それ、悪党の親玉‥‥‥」

「ん?
 十数人も捕縛したのだ。
 拷問すればどうにでも吐くだろう。
 これはな、黒い翼。
 鳥人は珍しい。その黒い翼を称して、黒曜族なんぞと呼ばれている。
 狩ったのは俺だ。  
 つまり、俺の奴隷にしようが、皮をはごうが‥‥‥どうにでもしていいということだ」

「本気で‥‥‥皮をはぐつもりですか‥‥‥?
 いや、彼女、それ泣いてるし。
 あ、でも可愛い。
 まだ幼い?
 わたしと変わらないくらい‥‥‥」

「亜人は年齢が経過するのが遅い。
 見た目に騙されると痛い目にあうぞ、茜。
 皮をはいでもいいな、肉を喰らうのもいい。
 まだ食したことはないが、黒曜族の肝は長命になるともいうしな???」

 ああ、これは恐怖を煽るだけにやってるんだろうなあ。
 数か月でも付き合いのある茜にはその心内がよくわかる。
 でも、黒曜族の彼女は恐怖に恐怖を感じているだろう。
 それに、気になることが二つ。
 一つは生きたまま捕らえたこと。
 まあ、これは奴隷なり売るなりするならありかもしれない。
 ただ――

「旦那様?
 なぜ、羽を根元からではなくー‥‥‥半分以下程度で切断されたんですか?」

 なんとなく、嫌な予感しかしないでもない。
 それに、この一団。
 なぜ、ここで警吏たちと斬り合いになっていたのかすら、茜には知る術がない。
 でも、アッシュはそれ以外の目的で羽を残したような気がしてならなかった。

「なあ、見事な切り口だろ、これ?」

「そんなエグイもの、見せないでー‥‥‥なんですか、それ???」

 翼の一番太い部分の手前に、青い光輝くものが片方に一つ。
 両方で二つ‥‥‥

「ふふん、これはな?
 黒曜族の力の制御する元なんだよ。
 これを無くさない限り、こいつらは羽を再度生やせるんだ。
 だが――」
 
 再度、生やさせるつもりはないがな。
 その冷たい一言に、黒曜族の女は、顔面を蒼白にする。

「あのな、茜。
 この根元にはな?
 あるんだよ、こいつらの羽は単なる飾りなのさ。
 魔素、つまりこの世の中に充満している魔力の源を集積して、浮遊を管理する、もっと大きな魔石がな‥‥‥」

「ムグ、フムっ、ブググ―――!!!???」

 悲痛どころではない。
 まるで死刑宣告を受けたかのように、彼女は激しく頭を振り、縛られた手でアッシュの足にすがって泣いていた。
 どうかそれだけはお許しください、そう言わんばかりに‥‥‥

「ふん、あれだけ人を殺しておいて。 
 今更、なにを言うか‥‥‥」

 アッシュはそれを蹴り上げて怒りをあらわにする。
 それは茜が知らない、彼の新しい一面。
 残酷とかではなく、怒りと悲しみの念がその顔に現れていた。

「人殺し‥‥‥???」

「お前も聞いたことはないか?
 最近、王都を騒がせている‥‥‥盗賊だけならまだいい。
 入った商家に豪農などな。
 家人、皆殺しの上に火つけまでやりおっての最悪の集団よ。
 どこに盗賊宿だの、隠れ家があるのか。その洗い出しは彼等に任せるとして。
 せめて、魔石程度はな。
 今夜の駄賃として頂かねば、割に合わないよ、茜。
 こいつらは、特にこいつはな‥‥‥」

「こいつは??」

 なんだろう。
 なにか後があるような含んだ言い方をする不思議な旦那様。
 茜はそう思った。

「俺の大事な新妻に、手を出そうとした。
 許すと思うか、俺が?」

 新妻?
 本気でそれを思ってたんだ。
 ただの慰み者にされるだけの、奴隷以下にしか使われないと思っていたのに‥‥‥

「あっ‥‥‥」

「あ?」

「アッシュの‥‥‥旦那様のばか‥‥‥」

「おい、泣くな。
 こんなとこでー‥‥‥すまなかった。
 怖い目に合わせたな。
 すまなかった」

 そう言い、彼は茜を本当に大事な存在のようにだきしめてくれる。
 もう泣くしかないじゃない。
 こんな場所で、情けないけど。
 茜は嬉しさに、黒曜族の女は己の決められた末路に。
 それぞれ、同じだが違う種類の涙を流した夜だった。

「では、各々がた。
 これは、わたしが頂くという事で、宜しいな?」

 文官だがその身分の札を見た警吏たちは文句の言い様がない。
 あれだけ暴れまわると、周囲の家々も灯りを照らして階下の路面を覗き見る始末。
 これは早めに撤退しようとアッシュの一言に、茜はうなづいた。

「あ、でもそれどうします?
 そんなまま、持って行くの‥‥‥?」

 切断された羽の面は痛々しいほどに赤身を覗かせている。
 すまん、それを借りれるか?
 アッシュが示したのは茜のコートだった。
 あれに丸めて、包んでしまおうという魂胆なのだろう。
 夜もそろそろ明けそうなほどに白んで来ていた。

「あれ、まあいいですけど‥‥‥。
 どうせ、あのオークからもらった忌々しい品物だし」

「オーク?」

「いえ、なんでもないです。
 どうぞ、お使いください。」

 そう言い、茜はコートを手渡す。
 茜が打ち倒した連中は、あとからやってきた警吏たちによって連行されていく。
 彼等、生きて戻ってこれるのかしら。
 人殺し集団とはいえ、現代の日本なら死刑になる可能性もあるが拷問はありえない。
 生きる時代が違うって大変‥‥‥
 茜はコートにぶかっこうに包まれた黒曜族の女の顔を見て、

「あなたも可哀想にね。
 片目をえぐられる程度で済めばいいけどね‥‥‥」

 そう言って、恐怖心を煽るのを忘れないのだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。 ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。 涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。 女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。 ◇表紙イラスト/知さま ◇鯉のぼりについては諸説あります。 ◇小説家になろうさまでも連載しています。

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

雨の日にやさぐれお姉さんを拾ったと思ったら胃袋も心も掴んでくるスーパーお姉さんだった

九戸政景
恋愛
新人小説家の由利美音は、ある日の夜に一人の女性を拾う。太刀川凛莉と名乗る女性との共同生活が始まる中、様々な出会いを果たしながら美音は自身の過去とも向き合っていく。

ストーカーに狙われたので歳上騎士様に護衛をお願いしました。

ねーさん
恋愛
 「氷の彫刻」と呼ばれる美貌の兄を持つ公爵令嬢のクラリッサは不審な視線に悩まされていた。  卒業を二日後に控えた朝、教室のクラリッサの机に置かれた一通の偏執狂者からの手紙。  親友イブを通じてイブの婚約者、近衛騎士団第四分団員のジョーンズに相談すると、第四分団長ネイトがクラリッサのパートナーとして卒業パーティーに出席してくれる事になって─── 〈注〉 このお話は「婚約者が記憶喪失になりました。」と「元騎士の歳上公爵様がまさかの××でした!?」の続編になります。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

【完結】恋につける薬は、なし

ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。 着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

処理中です...