ギルド嬢のひとりごと

星ふくろう

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第一章 緑の水晶と山賊たち

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「なんて凄い‥‥‥」

 そう嘆息するほどに華麗で、壮絶な銀色の閃光の中を踊る人影がひとつ。
 アッシュはそれらをかわし、軽くあしらっていく。
 数人に囲まれればその弱いところではなく、最初に打ち込んできた相手の懐まで潜り込み、その手からバトンを渡されたかのように剣を抜きとって、その峰だの、両刃なら平たい部分だので相手の背から首筋を正確に打ち込み。
 死なない程度の威力なのだろう、だが、敵はその一撃だけで悶絶し、崩れ去る。
 茜が見ていたたった数分で、アッシュは六人もの相手をそうやって叩きのめしていた。

「どうなってんの、あれ。真剣白刃取り? 違うか。それにしてもなんか入り混じってない?」

 服装が違うのが二種類いる。
 片方は少数。
 アッシュの着ている文官の制服は紺色の上着に、下は灰色のパンツだ。
 あまり、ゆったりとした感じは見て取れない。
 彼が加勢している陣営は四人ほど。
 緑かそれとも濃い紫に近い上着を着ていて、全員が同じ帽子をかぶっている。

「あーそういうことね。こっち側が、旦那様の‥‥‥仲間というか武官かな? それとも警吏? わたしたちマールの管理をしていた衛士とは違うなあ‥‥‥」

 彼等もそれなりに強いが、その相手が悪かった。
 背に大きな翼を生やし、間合いを近づければ空に舞い上がって急降下し一撃を加えて離脱していく。
 そんな亜人?
 それが数人いるから、苦戦していたのだろう。
 石畳の路面には数人が血を流して倒れていた。

「酷い、まだ助かるかな‥‥‥。助かるなら、見捨てたら寝ざめが悪い」

 わたしにできることはあるけど‥‥‥
 あかねは、それを行うことを逡巡してしまう。
 自分の能力を晒すことで、それをアッシュやこの国の政府に知られるのはどうにもまずい。
 それはまだ明かしたくないものだからだ。

「このあと、いろいろやりづらくなるしなあ。でも、人が死ぬのは見てられないし。仕方ないか‥‥‥」

 茜の持つ杖ととんがり帽子。
 そこの付け根に巻かれた青い帯。
 それは、伊達ではない。
 ここに来る前の二つほど前の――まあ、いっか。
 過去を思い出すのはやめよう。
 茜は杖を構えると、足元に円陣を形成するようにイメージを固める。
 この術には光の魔法陣が伴う。
 それをこんな夜中に見られたら、いかにも怪しいですなんて自分から暴露するようなものだ。

「大気の精霊。粒子だけを集めよ。其の力は我が血、我が肉、我が魂との結びつきをえにしに、いまここに血脈の証をあらわにせん‥‥‥」

 わざわざ唱える必要なんてないけど、ま、カッコつけは大事。
 目には見えない魔法陣が茜の足元に形成され、それは彼女の腰にまで浮かび上がる。

「さ、お前たちの力をかしてね。あの死に近づいた人たちの細胞の流れを、その治癒の力を高めて。退行する命の悲しみをせき止めて‥‥‥」

 魔法陣はその願いを受けとめて、石畳に倒れこむけが人たちをそっと包みこんでいく。
 路面にしみ込んだ血液が彼等の体内に、元あるべき姿で戻り、その傷口から流れ出る血と細胞の壊死、それに伴う死への時間が退行していく様を茜は見て取っていた。

「ま、これくらいなら。許されるかな‥‥‥ごめんね、旦那様。手助けできーって、ええええ――――!!!??」
「そこだ!! 仲間がいるぞ!! 捕えろ‥‥‥っ」

 あらま。
 天空に一人。
 真っ黒な衣装に真っ黒な羽。
 女の声で、指示をだす一味の頭目と思しきその姿‥‥‥

「仲間じゃない――!!! いや、仲間だけど、嫌―――っ!!!」

 いきなりバトルなんて聞いてないよ――!!
 叫ぶまま、茜は向かってくるアッシュから標的を変えた三人から慌てて逃げ出す始末。

「もうっ、こんなことならおとなしくしてればよかった――あっ!!」

 相手の方が足が早い。
 くそー、こんなとこでこの太い足の役立たず。
 鈍足なんて、日本の学友たちには馬鹿にされたものだけど。
 それは的を得ていた。
 おまけにあの女党首?
 女首領?
 あれまで、茜の目の前に舞い降りる始末だ。

「えっ!? うわっ、そんなあ‥‥‥勝ち目ないじゃない!!」
「茜!!」

 アッシュがそれに気づいて叫ぶがことは遅し。
 彼がたどり着くまでに、少女はあわれ肉塊になっているか、それとも、物言わぬ骸に――

「さっさと殺してしまえ。そんなマールなど。肉くれにしてしまうがいい」

 その一言が、茜の怒りに火をつけた。

「そんなもん、なるわけないでしょうが! 日本のJKなめんなっ――――!!!」

 振り上げられる茜の杖。
 少女は勇ましく三人の敵に向かい戦う意思を固めていた。

 女首領は茜にその剣を振り下ろそうとして――
 その余裕があんたの負けよっ!
 茜は来ていた外套を女首領に向かい、その端をもって覆いかぶせるように振り回した。

「当たるか、こんなものっ」

 笑い飛ばす彼女は、それはやすやすと羽を広げて宙に浮かび上がる。

「だから、間抜けだっての!!!」

 茜の狙いは女首領ではなくー‥‥‥。
 その背後に迫り、今にも彼女に剣を突き立てようとしていた三人の最初の一人だ。
 ええいっ!!
 そう思い切り引いた外套のポケットには、あのディバッグにはおさまりきらなかった銅貨が数十枚。
 両方のポケットにまるで重し代わりのように入れられていた。
 それはそのまま、都合のよい鈍器となり――

「ぐっ!?」
「ばーか、間抜け――!!!」

 最初の黒服の腹に見事に命中する。
 ふふん、こっちだってね、この数か月。
 ただ、生き延びてきたわけじゃないんだから。
 それに、ここに来るまでに‥‥‥

「下に二人。上に一人。まあ、いっか。相手してあげる‥‥‥さあ、来なさい?」

 余裕をかまして茜は被っていた帽子をどこかに消してしまう。
 動くに邪魔な外套もそれと共に消え、残るは制服姿に杖の茜が一人。

「物を消したー‥‥‥???」

 不審がる女首領だが、こんな少女に挑発されて黙っている気はないらしい。
 やれ、とばかりに片手で指図をすると二人のこちらは男らしい。
 体格のいいのがじわり、じわりと距離を詰めてきた。
 茜の視界にはこちらに向かい走りくるアッシュが映っている。

「ま、旦那様の手を借りることもないのよ!!」

 少女は何かをぼそりと呟くと、地を滑空する。
 いや、大地の上をまるで氷の上を滑るように‥‥‥その一人の胸元に茜の杖の先が差し込まれていた。

「迅っ!?」
「遅いわよ!!」

 その勢いのまま杖先は茜の渾身の力と共にみぞおちに叩き込まれる。
 ぶっ、なんてカッコ悪い声を漏らしてこれで一人が倒れる。
 茜はそうそう小柄でもない。
 百六十前後の身長がまさか、いきなりの低身。
 自分の膝下までその頭が下がり杖の先端が、膝の皿の片方に叩き込まれるなんて――

「あーあ、やり過ぎたかな‥‥‥」
 
 剣を取り落とし、片膝を抱えて転げまわる男が憐れに見えて仕方がないがこれも勝負。
 命をかけたやり取りで、それだけで済んで感謝して欲しいくらいよ。

「茜、お前‥‥‥」

 てっきり悲鳴と共に大怪我を負ったと勘違いしたアッシュは、その刺客二人を見てよくやったなあ。
 なんて呆れていた。

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