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エルフの奴隷姫
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「はあ、これじゃいくら血液採取しても意味がないわね‥‥‥」
とゆきは検査結果を見てため息をつく。
人間と比較できるものが限りなく少ないからだ。
血小板も、白血球も、なにもかも。
数千・数万体のエルフたちのサンプルを集めないと何が正常で何が異常なのかがわからない。
まさしく地球外生命体そのものだ。
「よくこんな状態で捕獲だの、調教だのする気になったわね‥‥‥」
何より、この患者が垂れ流している愛液というか潤滑油というか。
唾液もそうだし、吐き出す息すらも有害か無害かの判別もできない。
「そうですねえ、だから前の飼い主は死亡したのかもしれません」
と、自称助手のリオはのんびりとした口調で言う。
「死んだかもしれませんって。
そりゃ、もし性行為そのものが有毒な因子を体内に取り入れることなら、そうなるわね‥‥‥」
と、そこでゆきは気が付く。
「ねえ、その死んだ男性のカルテとか、死因解剖した結果のデーターはないの?」
うーん、とリオは考えこみ、
「あるかもしれません。
探させます」
と、部下に何やら話しかける。
「どうやら手に入るようですので。
白石様にお願いしてみます」
「そう、ならそれはそれでいいとしてーー!?」
とゆきの目が点になってしまう。
「ちょっと、何してるの!?」
え?
とリオは首を傾げる。
彼女はそのエルフの奴隷、イライアの秘部を撫でてやったり、臀部を叩いたりと交互に愛撫と痛みを与えていたからだ。
「その子、患者じゃない。
そんなことしたらー!」
「大丈夫ですよ、先生。
こうしないと駄目なんです」
「駄目って???」
だからーー
と、リオはイライアの目隠しを外してやる。
「見てください、先生。
これが、嫌がってる人間の目ですか?」
と、ゆきにその顎を取り、顔を向けさせるリオ。
イライアのその瞳にはーー
恍惚とした快楽へのいざないを拒否するものはなかった。
なにかとてつもなく見てはいけない世界を見てしまった。
ここに来て、そう何度思ったことだろう。
なんでそんなに嬉しそうな顔をーー
ゆきには理解できない、いや、まだ知らない未知が、そこには存在していた。
「先生、怖いですか?」
と、リオはイライアを愛撫してやりながら言う。
「これが、性的なオモチャ。
性奴隷なんですよ、先生。
頭の中まで、その毛先から足の先に至るまで。
全身で感じ、喜び、御主人様に奉仕する。
その行為を快感と感じるように躾けられたのが、わたしたちなんです。
怖いですか?」
怖い?
いや、そこにある狂気は異常だ。
だが、もっと異常なのは異常の中にも平常があることを実感した自分自身だった。
「先生、どうしました?」
異常な側からは、平常な人間が困惑する理由がわからないらしい。
それは当然だった。
性奴隷と名乗った彼女たちは、異常以外の世界を知らないのだからーー
「いえーー
なんでもないわ、ちょっとそれー」
と慌てて、リオの手を握る。
「駄目じゃない、こんなの舐めたらー」
そう、彼女はイライアの秘部から溢れ出たそれが手に着いたものを舐めようとしていた。
「なぜですか?
これ、媚薬とかではないですよ?」
「だって、死んだんでしょ?
この子の前のーー」
飼い主。
その言葉はさすがにまだ口に出来なかった。
「ああ、そうですね。
でも、エルフの愛液は、遅行効果があるんです。
寿命が少しだけ伸びますよ?」
先生もいかがですか?
とリオは指を差し出してくる。
とりあえず、ルーペにそれを塗り付けさせたが、舐める気にはならなかった。
と、あることに気づく。
「遅行効果?
そんな効果があるって誰に習ったの?」
リオはキョトンとした顔をする。
「習うというより、エルフそのものはもう10年以上前から捕獲されてますから。
その間に色々な研究もされてます」
研究もされてます‥‥‥
何よそれ。
じゃあ、今までの血液採取だの検査はなんだったのよ。
「あ、そうでした。
すいません。
先生がその気になられるまでは、教えないようにと白石様に命じられてましてーー」
悪びれたそびれもなく、屈託ない笑顔でリオは言う。
白石様に命じられてまして‥‥‥
あの男。
次に会ったらただじゃおかない。
ってちょっと。
と、リオを止める。
「はえ?
なんでしょう?」
「あのね‥‥‥。
そういう性的なことは私がいないところでして頂戴」
「でも、もう脱いでますし‥‥‥」
と、イライアの下半身の衣類をすべてのけさせて、リオは手での愛撫から口への愛撫へと移ろうとしていた。
「はあ……。
私はあなたたちがどういう行為をしようと、邪魔する気はないけど。
やるなら、いなくなってからして」
「だって。
先生、ほら‥‥‥イライアがーー」
「お願いします、御主人様。
どうか、どうかーー」
と、その口に噛ませていた革製のさるぐつわを外すと、流暢な日本語でそのエルフは懇願する。
「御主人様‥‥‥」
「私、この子の御主人様になった覚えはないんだけど?」
と、リオを睨んでやる。
「でも、ここ、先生のクリニックですから。
主人がいない性奴隷って、下手したら精神的に狂いだしますよ?」
狂いだしますよってーー
リオは慣れた手つきでイライアの秘部を愛撫してやりながら、
「ほら、ちゃんとご挨拶なさい。
新しい御主人様に。
ゆき様よーー」
などど言うものだから、その新しい御主人様にという単語にイライアが目を輝かせるのをゆきは見てしまった。
駄目だ。
ここから先にだけは、踏み込んだらーー
戻れなくなる。
「ゆき‥‥‥様?」
「そう、ゆき様よ。
ご挨拶なさい」
彼女はーー
イライアは、どこまでも希望を称えた目でゆきを見上げた。
「ゆき、様。
イライアと申します。
いやしくも、ご奉仕をさせて頂くだけで濡らしてしまうメス犬でございます。
どうかーーどうか。
御主人様にーー。
イライアをお傍にーー」
なんていう懇願をするのだろう。
闇の中に一条の光を見つけた時のように。
大好きな恋人に抱きしめられて至福の瞬間を味わっているかのように。
イライアはゆきを見ていた。
その全てをかけて、そのすべてを捧げて。
そのためだけに生きたいという切ない願いを。
ゆきに、いましているではないか。
「先生、どうします?
一人、先生だけの奴隷が手に入りますよ?
研究するには、いいんじゃないですか?」
リオが意地悪そうに笑う。
「だって、あなたたち数千万もするじゃない。
私にはそんなお金はないわよ‥‥‥」
ああ、それでしたら。
と、リオが何かを差し出す。
「どうぞ、白石様からお預かりしている前金だそうです」
「前金‥‥‥???」
スマホ並みのタブレットにはゆきの名義の口座が作られていてーー
「3億!?」
「はい。
先生にはそれだけの価値がある仕事をして頂きたいと。
白石様からのご伝言です。
もう振り込み済だとのことです」
なんてことーー
逃げ場を塞がれた。
これだけの大金の口座が明らかになっただけで、国税局からあらぬ疑いがかかることは間違いがない。
「これ、国内の口座じゃ‥‥‥」
「海外の白石様が経営されてるプライベートバンク、だそうです。
ですから、御心配はないかと」
と、またにっこりとリオは微笑む。
この子は天使どころか、悪魔よりも質が悪い。
「あなた、御主人様に命じられたらーー」
「なんでしょう?」
「躊躇なく私を殺すことも、迷わずやりそうね‥‥‥」
へ?
とリオは不思議な顔をする。
こんな質問はされたことがなかったのだろう。
だが、答えは明確だった。
「はい、もし、それが御主人様のご命令ならば」
即答だった。
つまり、ゆきの生死さえ自称、助手であるこの子に握られていることになる。
「あなた、さっき言ったわよね?
私の助手になるって」
「はい、もちろん、申しました」
なら、とゆきは続ける。
「いいわ、なら今から助手にしてあげる。
でも、その間。
私があなたを解雇するまでの間。
あなたとその部下は全員、私の奴隷、所有物になりなさい。
例え、いまの御主人様が違う命令を出しても。
私に従いなさい」
「え……でも、それはーー」
「できないならーー」
あのドアから出て行きなさい。
そう、ゆきは彼女たちに命じる。
「私が白石から解雇されても、よ?
分かった?
それが守れないなら、私はここを出ていく」
「そんなーー」
死にそうな顔になるリオ。
そしてその後ろの奴隷たちは‥‥‥不思議と困惑はしていなかった。
「あの子達には主人はいないの?」
「それはーー」
「いないの?!」
「はい‥‥‥。
まだ、調教済でどこにも出ていない。
未発送の在庫ですから‥‥‥」
在庫!?
どこまでも信じられない単語が飛び交う。
頭痛どころでは済まなさそうだった。
「あのーー」
とリオが声をかける。
「なに?」
「せめて、御主人様に許可を得る時間をください。
まだ、可愛がっていただいているのにーー」
ああ、そうだった。
この子だけは、正式な? 御主人様に飼われているのだった。
どんな御主人様かわからないが、人間的な善や正義と言った感覚の欠如している。
どうすればこんなように人間を変えることができるのか。
SMなんて、と思ってたけど。
洗脳どころじゃないわ。
共感依存の範疇を軽く越えている。
これは心理学者としてのゆきからすれば、いい対照実験の材料になるかもしれない。
だが、それはあくまで人道的な観点に立っての話だ。
「だめって言ったら?」
「ならー」
「なら?」
「死にますーー」
と、少女は近場にあった器具から、刃物を持ちだして首筋に突き立てようとする。
「わかった!」
と、寸前のところでその手が止まる。
「白石と私で話がしたいから、少しだけ待って。それなら、いい?」
「はい、それならーー」
と、刃先を収めるリオだったがその目に死への恐怖がないかといえば、それは嘘のように見てとれた。
死に対する恐怖はあるんだ。
なら、完全な洗脳とは言えないわね。
と、ゆきは少し安心する。
「ちょっと白石さん。
ここにいる子たち。全部買ったらいくらになるの?
一年じゃなくて、人生全部よ!」
と、リオが持つスマホに怒鳴るゆき。
「先生、いきなり、何を?」
「いいから、答えて!
いくらになるの?」
ちょっと待て、と白石は言い、しばし間を置いて驚くべき数字を言った。
「まあ、大体ーー」
「大体?」
「二千万ってとこだな。
未出荷のやつもいるし、リオはもう廃棄が決まってたしな。
イライアもそうだ。
大して価値はない」
え?
リオが驚いた顔をする。
「リオちゃんが廃棄ってどういうこと?」
「あー、そいつの飼い主な。
先日の手入れで捕まったんだよ。
で、リオが会計とかいろいろ、な」
トカゲの尻尾切り‥‥‥。
いけない。
「あなたたち、リオを抑えて!
はやく!!!」
ゆきはリオに足払いをかけると床に抑え込む。
口にそばにあったイライアがしていた、さるぐつわをはめ込む。
「なにか拘束するものー、ああ、それでいいわ。
縛りなさい」
奴隷たちがてきぱきとリオを拘束していく。
人間の意思があるようで、ないような人形を相手にしている気分だ。
「いいわ、私が全部買う。
それで、いい?」
「別に構わんがー……。
まあ、あいつも出てはこれんだろうしな。
どっかで処理されるだろ。手配はしとく」
そう言って、白石は通話を切る。
「イライア、あなたの御主人様は私よ。
いい、いまは少しだけ我慢しなさい。
理解できる?」
そういうと、エルフの性奴隷はうなづいた。
「はい、ゆき様」
と嬉しそうに言って。
ゆきは床に転がされたリオに向かって見下ろすようにする。
私が御主人様‥‥‥この子の。
前の主にあれほどの忠誠心を示したこの子の‥‥‥。
「さるぐつわを除けなさい」
そう奴隷の一人に命じる。
リオが憎しみを込めた目でゆきを睨んでいた。
「悔しい?
死ぬ自由が与えられなくて?
でも、舌を噛んでも死ねないわよ。
噛んだら縫合してあげる。
痛みだけ感じたいなら、そうしなさい。
でもーー」
「‥‥‥でも、なんですか!??」
初めてこの少女の怒りの側面を見た。
まだ、人間的な感情がある。
良かった。
それが最初の感想だった。
「あなたは哀れね、リオ。
愛していると信じていた御主人様に裏切られ、廃棄処分ですって。
あれほど、死ねと言われれば死ぬなんて公言したのにね?」
と冷ややかに見下してやる。
「なら、死を!」
と、リオは叫ぶ。
だが、ゆきは軽やかに否定した。
「残念だけど。
いまの御主人様が誰か理解してる?」
さっきの会話を聞いていたわよね?
そう付け加えてやる。
「あなたの主人はもう、飼育権も所有権も手放したのよ。
いまのあなたは、私が買い取ってあげたの。
意味がわかる?」
リオの目に涙が浮かぶ。
目尻から大粒の涙を浮かべながらーー
やがて、リオは口を開いた。
何もかも諦めた。
そんな口調で。
「はい、ゆき‥‥‥様」
その顔をゆきはヒールで上から踏みつけてやる。
「あうっ」
「情けない声出してるんじゃないわよ、リオ。
あなたの前の御主人様に失礼だと思わないの?
ちゃんと調教された成果を私に見せなさい。
あなたが不始末をしでかしたら、私だけじゃないのよ。
あなたの前の御主人様にも恥をかかせるのよ!」
そう言いながら額にめり込むように、ヒールで踏みつけてやる。
「ほら、何て言うの。
きちんとしなさい!
あなたは、前の御主人様の自慢した性奴隷リオだったんでしょ!?」
この子の生きる気力はゆきではない。
廃棄を命じた、かつての主人との思い出だ。
そこをゆきは煽る。
やがて、リオは口を開いた。
「リ‥‥‥リオと申します。
ゆき様、どうかこのいやしいメスのリオの生涯の御主人様に‥‥‥お願いします。
リオを‥‥‥所有物として可愛がってください。
御主人様ーー」
ああ。
これでよかったのか。
検討なんてつかない。
ただ、リオのその一言を最後に、他の奴隷たちも地に額をこすりつけて挨拶をした。
とりあえず。
「あんたが今日、最大の患者だったわよ、リオ」
といい、拘束を解くと抱きしめてやった。
「いい、もう死ぬなんて言ったらダメ。
あなたには生きる価値があるの。あなたたちも。
だから、いまはここで患者さんをケアしましょうね?」
「はい、御主ー‥‥‥ゆき先生」
涙交じりに言うリオの声は年齢相応のもので、ゆきは波乱の一日目を終えたのだった。
とゆきは検査結果を見てため息をつく。
人間と比較できるものが限りなく少ないからだ。
血小板も、白血球も、なにもかも。
数千・数万体のエルフたちのサンプルを集めないと何が正常で何が異常なのかがわからない。
まさしく地球外生命体そのものだ。
「よくこんな状態で捕獲だの、調教だのする気になったわね‥‥‥」
何より、この患者が垂れ流している愛液というか潤滑油というか。
唾液もそうだし、吐き出す息すらも有害か無害かの判別もできない。
「そうですねえ、だから前の飼い主は死亡したのかもしれません」
と、自称助手のリオはのんびりとした口調で言う。
「死んだかもしれませんって。
そりゃ、もし性行為そのものが有毒な因子を体内に取り入れることなら、そうなるわね‥‥‥」
と、そこでゆきは気が付く。
「ねえ、その死んだ男性のカルテとか、死因解剖した結果のデーターはないの?」
うーん、とリオは考えこみ、
「あるかもしれません。
探させます」
と、部下に何やら話しかける。
「どうやら手に入るようですので。
白石様にお願いしてみます」
「そう、ならそれはそれでいいとしてーー!?」
とゆきの目が点になってしまう。
「ちょっと、何してるの!?」
え?
とリオは首を傾げる。
彼女はそのエルフの奴隷、イライアの秘部を撫でてやったり、臀部を叩いたりと交互に愛撫と痛みを与えていたからだ。
「その子、患者じゃない。
そんなことしたらー!」
「大丈夫ですよ、先生。
こうしないと駄目なんです」
「駄目って???」
だからーー
と、リオはイライアの目隠しを外してやる。
「見てください、先生。
これが、嫌がってる人間の目ですか?」
と、ゆきにその顎を取り、顔を向けさせるリオ。
イライアのその瞳にはーー
恍惚とした快楽へのいざないを拒否するものはなかった。
なにかとてつもなく見てはいけない世界を見てしまった。
ここに来て、そう何度思ったことだろう。
なんでそんなに嬉しそうな顔をーー
ゆきには理解できない、いや、まだ知らない未知が、そこには存在していた。
「先生、怖いですか?」
と、リオはイライアを愛撫してやりながら言う。
「これが、性的なオモチャ。
性奴隷なんですよ、先生。
頭の中まで、その毛先から足の先に至るまで。
全身で感じ、喜び、御主人様に奉仕する。
その行為を快感と感じるように躾けられたのが、わたしたちなんです。
怖いですか?」
怖い?
いや、そこにある狂気は異常だ。
だが、もっと異常なのは異常の中にも平常があることを実感した自分自身だった。
「先生、どうしました?」
異常な側からは、平常な人間が困惑する理由がわからないらしい。
それは当然だった。
性奴隷と名乗った彼女たちは、異常以外の世界を知らないのだからーー
「いえーー
なんでもないわ、ちょっとそれー」
と慌てて、リオの手を握る。
「駄目じゃない、こんなの舐めたらー」
そう、彼女はイライアの秘部から溢れ出たそれが手に着いたものを舐めようとしていた。
「なぜですか?
これ、媚薬とかではないですよ?」
「だって、死んだんでしょ?
この子の前のーー」
飼い主。
その言葉はさすがにまだ口に出来なかった。
「ああ、そうですね。
でも、エルフの愛液は、遅行効果があるんです。
寿命が少しだけ伸びますよ?」
先生もいかがですか?
とリオは指を差し出してくる。
とりあえず、ルーペにそれを塗り付けさせたが、舐める気にはならなかった。
と、あることに気づく。
「遅行効果?
そんな効果があるって誰に習ったの?」
リオはキョトンとした顔をする。
「習うというより、エルフそのものはもう10年以上前から捕獲されてますから。
その間に色々な研究もされてます」
研究もされてます‥‥‥
何よそれ。
じゃあ、今までの血液採取だの検査はなんだったのよ。
「あ、そうでした。
すいません。
先生がその気になられるまでは、教えないようにと白石様に命じられてましてーー」
悪びれたそびれもなく、屈託ない笑顔でリオは言う。
白石様に命じられてまして‥‥‥
あの男。
次に会ったらただじゃおかない。
ってちょっと。
と、リオを止める。
「はえ?
なんでしょう?」
「あのね‥‥‥。
そういう性的なことは私がいないところでして頂戴」
「でも、もう脱いでますし‥‥‥」
と、イライアの下半身の衣類をすべてのけさせて、リオは手での愛撫から口への愛撫へと移ろうとしていた。
「はあ……。
私はあなたたちがどういう行為をしようと、邪魔する気はないけど。
やるなら、いなくなってからして」
「だって。
先生、ほら‥‥‥イライアがーー」
「お願いします、御主人様。
どうか、どうかーー」
と、その口に噛ませていた革製のさるぐつわを外すと、流暢な日本語でそのエルフは懇願する。
「御主人様‥‥‥」
「私、この子の御主人様になった覚えはないんだけど?」
と、リオを睨んでやる。
「でも、ここ、先生のクリニックですから。
主人がいない性奴隷って、下手したら精神的に狂いだしますよ?」
狂いだしますよってーー
リオは慣れた手つきでイライアの秘部を愛撫してやりながら、
「ほら、ちゃんとご挨拶なさい。
新しい御主人様に。
ゆき様よーー」
などど言うものだから、その新しい御主人様にという単語にイライアが目を輝かせるのをゆきは見てしまった。
駄目だ。
ここから先にだけは、踏み込んだらーー
戻れなくなる。
「ゆき‥‥‥様?」
「そう、ゆき様よ。
ご挨拶なさい」
彼女はーー
イライアは、どこまでも希望を称えた目でゆきを見上げた。
「ゆき、様。
イライアと申します。
いやしくも、ご奉仕をさせて頂くだけで濡らしてしまうメス犬でございます。
どうかーーどうか。
御主人様にーー。
イライアをお傍にーー」
なんていう懇願をするのだろう。
闇の中に一条の光を見つけた時のように。
大好きな恋人に抱きしめられて至福の瞬間を味わっているかのように。
イライアはゆきを見ていた。
その全てをかけて、そのすべてを捧げて。
そのためだけに生きたいという切ない願いを。
ゆきに、いましているではないか。
「先生、どうします?
一人、先生だけの奴隷が手に入りますよ?
研究するには、いいんじゃないですか?」
リオが意地悪そうに笑う。
「だって、あなたたち数千万もするじゃない。
私にはそんなお金はないわよ‥‥‥」
ああ、それでしたら。
と、リオが何かを差し出す。
「どうぞ、白石様からお預かりしている前金だそうです」
「前金‥‥‥???」
スマホ並みのタブレットにはゆきの名義の口座が作られていてーー
「3億!?」
「はい。
先生にはそれだけの価値がある仕事をして頂きたいと。
白石様からのご伝言です。
もう振り込み済だとのことです」
なんてことーー
逃げ場を塞がれた。
これだけの大金の口座が明らかになっただけで、国税局からあらぬ疑いがかかることは間違いがない。
「これ、国内の口座じゃ‥‥‥」
「海外の白石様が経営されてるプライベートバンク、だそうです。
ですから、御心配はないかと」
と、またにっこりとリオは微笑む。
この子は天使どころか、悪魔よりも質が悪い。
「あなた、御主人様に命じられたらーー」
「なんでしょう?」
「躊躇なく私を殺すことも、迷わずやりそうね‥‥‥」
へ?
とリオは不思議な顔をする。
こんな質問はされたことがなかったのだろう。
だが、答えは明確だった。
「はい、もし、それが御主人様のご命令ならば」
即答だった。
つまり、ゆきの生死さえ自称、助手であるこの子に握られていることになる。
「あなた、さっき言ったわよね?
私の助手になるって」
「はい、もちろん、申しました」
なら、とゆきは続ける。
「いいわ、なら今から助手にしてあげる。
でも、その間。
私があなたを解雇するまでの間。
あなたとその部下は全員、私の奴隷、所有物になりなさい。
例え、いまの御主人様が違う命令を出しても。
私に従いなさい」
「え……でも、それはーー」
「できないならーー」
あのドアから出て行きなさい。
そう、ゆきは彼女たちに命じる。
「私が白石から解雇されても、よ?
分かった?
それが守れないなら、私はここを出ていく」
「そんなーー」
死にそうな顔になるリオ。
そしてその後ろの奴隷たちは‥‥‥不思議と困惑はしていなかった。
「あの子達には主人はいないの?」
「それはーー」
「いないの?!」
「はい‥‥‥。
まだ、調教済でどこにも出ていない。
未発送の在庫ですから‥‥‥」
在庫!?
どこまでも信じられない単語が飛び交う。
頭痛どころでは済まなさそうだった。
「あのーー」
とリオが声をかける。
「なに?」
「せめて、御主人様に許可を得る時間をください。
まだ、可愛がっていただいているのにーー」
ああ、そうだった。
この子だけは、正式な? 御主人様に飼われているのだった。
どんな御主人様かわからないが、人間的な善や正義と言った感覚の欠如している。
どうすればこんなように人間を変えることができるのか。
SMなんて、と思ってたけど。
洗脳どころじゃないわ。
共感依存の範疇を軽く越えている。
これは心理学者としてのゆきからすれば、いい対照実験の材料になるかもしれない。
だが、それはあくまで人道的な観点に立っての話だ。
「だめって言ったら?」
「ならー」
「なら?」
「死にますーー」
と、少女は近場にあった器具から、刃物を持ちだして首筋に突き立てようとする。
「わかった!」
と、寸前のところでその手が止まる。
「白石と私で話がしたいから、少しだけ待って。それなら、いい?」
「はい、それならーー」
と、刃先を収めるリオだったがその目に死への恐怖がないかといえば、それは嘘のように見てとれた。
死に対する恐怖はあるんだ。
なら、完全な洗脳とは言えないわね。
と、ゆきは少し安心する。
「ちょっと白石さん。
ここにいる子たち。全部買ったらいくらになるの?
一年じゃなくて、人生全部よ!」
と、リオが持つスマホに怒鳴るゆき。
「先生、いきなり、何を?」
「いいから、答えて!
いくらになるの?」
ちょっと待て、と白石は言い、しばし間を置いて驚くべき数字を言った。
「まあ、大体ーー」
「大体?」
「二千万ってとこだな。
未出荷のやつもいるし、リオはもう廃棄が決まってたしな。
イライアもそうだ。
大して価値はない」
え?
リオが驚いた顔をする。
「リオちゃんが廃棄ってどういうこと?」
「あー、そいつの飼い主な。
先日の手入れで捕まったんだよ。
で、リオが会計とかいろいろ、な」
トカゲの尻尾切り‥‥‥。
いけない。
「あなたたち、リオを抑えて!
はやく!!!」
ゆきはリオに足払いをかけると床に抑え込む。
口にそばにあったイライアがしていた、さるぐつわをはめ込む。
「なにか拘束するものー、ああ、それでいいわ。
縛りなさい」
奴隷たちがてきぱきとリオを拘束していく。
人間の意思があるようで、ないような人形を相手にしている気分だ。
「いいわ、私が全部買う。
それで、いい?」
「別に構わんがー……。
まあ、あいつも出てはこれんだろうしな。
どっかで処理されるだろ。手配はしとく」
そう言って、白石は通話を切る。
「イライア、あなたの御主人様は私よ。
いい、いまは少しだけ我慢しなさい。
理解できる?」
そういうと、エルフの性奴隷はうなづいた。
「はい、ゆき様」
と嬉しそうに言って。
ゆきは床に転がされたリオに向かって見下ろすようにする。
私が御主人様‥‥‥この子の。
前の主にあれほどの忠誠心を示したこの子の‥‥‥。
「さるぐつわを除けなさい」
そう奴隷の一人に命じる。
リオが憎しみを込めた目でゆきを睨んでいた。
「悔しい?
死ぬ自由が与えられなくて?
でも、舌を噛んでも死ねないわよ。
噛んだら縫合してあげる。
痛みだけ感じたいなら、そうしなさい。
でもーー」
「‥‥‥でも、なんですか!??」
初めてこの少女の怒りの側面を見た。
まだ、人間的な感情がある。
良かった。
それが最初の感想だった。
「あなたは哀れね、リオ。
愛していると信じていた御主人様に裏切られ、廃棄処分ですって。
あれほど、死ねと言われれば死ぬなんて公言したのにね?」
と冷ややかに見下してやる。
「なら、死を!」
と、リオは叫ぶ。
だが、ゆきは軽やかに否定した。
「残念だけど。
いまの御主人様が誰か理解してる?」
さっきの会話を聞いていたわよね?
そう付け加えてやる。
「あなたの主人はもう、飼育権も所有権も手放したのよ。
いまのあなたは、私が買い取ってあげたの。
意味がわかる?」
リオの目に涙が浮かぶ。
目尻から大粒の涙を浮かべながらーー
やがて、リオは口を開いた。
何もかも諦めた。
そんな口調で。
「はい、ゆき‥‥‥様」
その顔をゆきはヒールで上から踏みつけてやる。
「あうっ」
「情けない声出してるんじゃないわよ、リオ。
あなたの前の御主人様に失礼だと思わないの?
ちゃんと調教された成果を私に見せなさい。
あなたが不始末をしでかしたら、私だけじゃないのよ。
あなたの前の御主人様にも恥をかかせるのよ!」
そう言いながら額にめり込むように、ヒールで踏みつけてやる。
「ほら、何て言うの。
きちんとしなさい!
あなたは、前の御主人様の自慢した性奴隷リオだったんでしょ!?」
この子の生きる気力はゆきではない。
廃棄を命じた、かつての主人との思い出だ。
そこをゆきは煽る。
やがて、リオは口を開いた。
「リ‥‥‥リオと申します。
ゆき様、どうかこのいやしいメスのリオの生涯の御主人様に‥‥‥お願いします。
リオを‥‥‥所有物として可愛がってください。
御主人様ーー」
ああ。
これでよかったのか。
検討なんてつかない。
ただ、リオのその一言を最後に、他の奴隷たちも地に額をこすりつけて挨拶をした。
とりあえず。
「あんたが今日、最大の患者だったわよ、リオ」
といい、拘束を解くと抱きしめてやった。
「いい、もう死ぬなんて言ったらダメ。
あなたには生きる価値があるの。あなたたちも。
だから、いまはここで患者さんをケアしましょうね?」
「はい、御主ー‥‥‥ゆき先生」
涙交じりに言うリオの声は年齢相応のもので、ゆきは波乱の一日目を終えたのだった。
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