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SM診療士の高市クリニック開院
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「おや、先生。
まさか、来てくれるとはね」
高石がそう言って地下の例の部屋で、ゆきを歓待する。
例によって窓の外では、オークションが開催されていた。
「相変わらず、盛況なのね‥‥‥」
自分の意思で、自分を売り出す奴隷M嬢。
その感覚に、高市ゆきはついていけないでいた。
「まあ、お陰様でね。
彼女たちの安全面を考慮したりと、俺もいろいろと忙しい」
と悪びれたそぶりも見せずに、白石は言う。
「白石さん。
あなたの本職は弁護士じゃないんですか?
こんな反社会的なこと‥‥‥」
「そうは言うけどね、先生。
ほら、あそこ」
と、白石は手元のリモコンを操作する。
すると、窓の一部かモニター代わりになり、そこにある人物が映し出された。
「あ、あれーー」
「そう、誰とは言いませんけどね。
与党の大物代議士もいたり、ほら」
とまた別の角度からの画像が切り替わる。
そうして、何名かの芸能人であったり財界の大物であったり、社会的な著名人であったりーー。
「はあ。
人の悪意というものを憎みたくなるような光景ね」
「人間の裏側なんて、こんなもんだよ、先生」
と、白石は言う。
「その中に私も混じろうとしてるんだけど‥‥‥」
「先生、そんな悔やむような言い方をするなら、なんでここに来たんだい?」
白石は不思議そうな顔する。
「だってそんなの」
「そんなの?」
ゆきは困った顔をしながら答えた。
「助けて欲しいと願う患者がいるのに、見捨てるなら。
その人間は医者とは言わないわ。
単なる、金儲けに心を売ったけだものよ」
なるほど!
そう白石は面白そうに、ゆきにも提供したワイングラスを傾けて笑う。
「なら、先生はそのけだものとの間に一線を引きながら。
それでも、けだものどもの世界に自分から足を踏み込んだわけだ。
医者、として」
そこにかなりの嫌味があるようにゆきには聞こえた。
「そうよ、だけど誘ってきたのはあなたじゃない?!」
確かに。
白石は認めた。
「そうだよ、先生。
俺が先生を誘った。
なぜなら、先生が適任だと思ったからさ。
こんな救いようのない場所でも、心を病んで助けを求める者がいる。
それは、間違いのない事実だからさ」
だから、先生は来たんだろ?
最低限の一線を踏み越えずに、医者としてあるために。
と、白石はゆきを見据えた。
「だが、先生。
ここではその、医者って看板は捨てた方がいいかもな。
診療も必要だが、心のケアだけでは収まらない時がある。
そう、例えばーー」
と、白石は大きめのタブレットをゆきに手渡す。
「今日、見てもらいたい患者のカルテだ」
カルテ、と言い難いそれは、患者である奴隷の全身画像、これまでの経歴、どのような扱いを受けてきたか、出身や年齢はおろか、月経の周期に至るまで。
事細かに記録されていた。
「えーー」
それを見たゆきは驚いた。
そこにいたのは、まず緑色の髪に青い瞳。
尖った耳に陶磁器のように透き通った肌。
「人間、よね、彼女???」
明らかに、人間であるならばーー。
彼女の年齢はおかしかった。
年齢の項目には250歳と書かれている。
エッシュナブの森で捕獲。
5年前のとそれは記録にある。
「いや、残念だが。
人間じゃないんだ。
異種族、そう言った方がいいだろうなあ」
「あの。
馬鹿にしてるなら帰りますよ?」
まあまあ、と白石は他も見てみなよ、ゆきに言う。
レントゲン写真。
人類なら心臓がある位置に、脾臓がある。
代わりに、胃の少し下に心臓らしき臓器が。
血液サンプル、脈拍数、遺伝子のDNA塩基配列ーー。
そのどれもが、『人類』、彼女が人類ではないことを示していた。
「うそ‥‥‥。
そんな、こんな種族が地球上にまだいるのーー???」
明らかに伝説だと思っていた種族。
種族の項目名には「エルフ」と書かれていた。
「いやー違うんだよな」
「違う?」
捕獲場所を見てみて、と白石に言われて再度確認する。
「エッシュナブ?
そんな地名、聞いたことがないわ」
「だろ?
まあ、試しに検索してくれてもいいけどな」
「つまりーー」
「地球外生命体。
ってやつかな?」
そんな。
そんな簡単に、あっけなく地球外生命体なんて言われても。
そこでゆきは何かに気づいた。
「え。待って!?
地球外生命体とか言ってるけど。
捕獲したってことは、まだ繋がってるってこと?」
そうだよ、と白石は面白そうに言う。
「まあ、かなり昔から繋がってた入り口はあったみたいだけどな。
乱獲騒ぎが起こり始めたのはここ最近だ。
お陰で、うちの商売にも、さ。
ほら、ああして異世界の種族が紛れ込んでくるわけだ」
と、オークションの舞台を見ると、そこにが確かに見たことのない人種がたくさんいた。
翼のある女性、猫のような全身を毛におおわれた女性、小柄だが、背に蝶のような羽も生えた種族もいた。
「あの子達は‥‥‥。
どうなるの?」
どうしようもできん。
そう白石はぼやく。
「人間で、この地球人なら。
まだ俺がどうにか出来る。
だが、あの子たちは他所の存在だ。
いるかいないか。そういう存在だ。
俺の管轄外さ。
願わくばーー」
いい飼い主の元へ行くことを祈るだけだ。
そう寂しそうに白石は言う。
「けど、このエルフの子は?
なんで、私に任せようってなったの?」
あー、それなあ。
と白石がボヤく。
「買い取ったんだよ。うちが」
「買い取った?」
「ああ。
うちとは違う業者からある金持ちが購入してな。
好き勝手に調教したらしい。
身体のあちこちにピアスだの、刺青だの入れてな。
挙句に、心臓発作で死んじまった。まあ、異種族と交わるんだ。
何がしかの病気がある可能性だってある。
それで、掃除屋の元に廃棄処分されたのさ」
廃棄処分って。
「そんなものみたいにーー」
「先生、それがここの現実なんだよ。
だからうちから売る子たちには自分で値段をつけさせて、1年契約で戻させるんだ。
もちろん、何か異常があった場合はそれ相応の報復も踏まえて、な」
でもそれじゃ、根本的な解決にはならないじゃない。
ゆきはそう言いたくなる。
「これでも、異世界での乱獲を監視して止めるレンジャーなんかも派遣してるんだぜ、うちは。
あそこで売られても、最終的には買い戻してあちらに帰してる。
その為には、莫大な資金がいるのさ、先生」
少なくともーー。
白石は彼なりの何かを背負って行動しているらしい。
それを聞くと、ゆきは彼のすべてを責める気にはなれなかった。
「じゃあ、会ってもらおうかな?」
「え?」
「えって。
患者にだよ。
第一号はエルフのーー」
少女は。
いや、年齢的にはそうではないが外見的には14歳前後に見える彼女は。
一人静かに椅子に座っていた。
両手を拘束され、目隠しと耳には音が聞こえないようにヘッドホンがつけられていた。
「なんでこんなことーー」
案内してくれたのは、白石ではなく、多分、彼の抱える商品の一人の奴隷姫と呼ばれる存在だろう。
日本人の様だが、少しだけ瞳の青い少女だった。
「ああ、しないと自慰行為に及んで止まらないんです。
何より、音と光に敏感で。
何かの感覚的な刺激を受けると、すぐに性的な刺激に脳内で変換されるような調教を受けたらしくて‥‥‥」
ああ、なるほど。
でも、そんな脳内で変換するようなことが果たして可能なのか。
痛みを与えながら、更に強い快楽を与えることにより、痛みそのものを快楽だと脳が誤認して快楽物質を出すようになる。
そんな文献を読んだことがあったが、まさか本当に目の当たりにするとは。
「とんでもない人体実験をしてくれたものね‥‥‥」
というと、その奴隷姫は不思議そうな顔をする。
「何?」
「いえ、その‥‥‥」
「ん?」
「先生みたいな人もいるんだなと思いまして」
と不思議そうに言う。
「私たち奴隷は、まあ、その‥‥‥。
性的な意味で御主人様に喜んで頂けるのが喜びになるように、躾けられますしーー。
そうなりたいと望んで奴隷になる子もいますから。
だから、人体実験っていう言葉を使う人には、初めて出会いました」
ああ、そうか。
自分と彼女たちの常識は違うのだ。
隷属してそこに生きる喜びを見出すMと、それを飼いならし心どころか脳すらも支配するS。
まったくゆきの死っている常識とはかけ離れている世界だ。
「そう‥‥‥。
で、この子。
えっと名前はイライア、ね。
外傷とか見たいんだけど‥‥‥」
「ああ、なら脱がせますね」
と、その少女は他の数名の奴隷姫? いや、その僕になるのか。
女性たちに合図をする。
全裸になったイライアには、ものの見事に、SMといえる跡が残されていた。
「乳首に、性器、背中から腹部への突起的なピアス。
これはなんのために‥‥‥?」
「ああ、それは鎖ですね」
「鎖?」
「はい、背中や腹部から、性器回りまでを繋いで、首輪に通して散歩させるんです。
こう、犬のように」
と、彼女は四つん這いになってみせる。
「本当に動物扱いなのね‥‥‥」
「酷いですか?
でも、楽しいですよ、御主人様とのお散歩」
私は好きです。
と少女は屈託なく笑う。
「えーと、あなた、お名前は?」
「私ですか?
御主人様にはリオと呼ばれています」
本名は?
と尋ねると、
「捨てました。
リオが全てです」
と明確に答えるその姿勢に、ゆきは眩暈を覚えた。
「狂ってると思われるかもしれません。
でも、これが私たちの至上の喜びなんですよ、先生」
と少女はまた笑顔で笑う。
その奥に秘められた狂気にこれから触れていかねばならないことを考えると、ゆきは吐き気がした。
「どうします、先生」
「どうしますって?」
「ここから先は、先生の知らない世界。
でも、先生は奴隷にも御主人様にもならない、第三の存在でいれます。
たぶん、そんな人はこれまでいませんでした。
だから、私たちもたくさん、戸惑っています。
でもーー」
でも?
「そんな人がいてくれれば、たまにおきる不幸な出来事が減るかもしれないって。
そう思ったので。
リオは助手になりたいと白石様にお願いしました」
ああ、彼女の言う御主人様はまた別にいるのね。
それだけは、理解できた。
「そうーー。
本当はもう帰りたいくらいだけど。
こんな患者がいるんじゃ、ほっておけないわ。
でも、人間の医療じゃ無理かもしれない。
とりあえず、血液採取して‥‥‥。
彼女の同族でまだ正常な人がいれば、脳波とかのサンプルを欲しいけど。
どう?」
と尋ねられてリオは部下の女たちに何かを合図する。
「大丈夫です。先生。
ここは今日から、先生のクリニック。
SM診療士の高市クリニックですね」
そう笑顔でリオは言う。
お手伝いができて嬉しいです、と。
しかし、ゆきには頭痛とストレスの要因にしかならないような気がしてならなかった。
まさか、来てくれるとはね」
高石がそう言って地下の例の部屋で、ゆきを歓待する。
例によって窓の外では、オークションが開催されていた。
「相変わらず、盛況なのね‥‥‥」
自分の意思で、自分を売り出す奴隷M嬢。
その感覚に、高市ゆきはついていけないでいた。
「まあ、お陰様でね。
彼女たちの安全面を考慮したりと、俺もいろいろと忙しい」
と悪びれたそぶりも見せずに、白石は言う。
「白石さん。
あなたの本職は弁護士じゃないんですか?
こんな反社会的なこと‥‥‥」
「そうは言うけどね、先生。
ほら、あそこ」
と、白石は手元のリモコンを操作する。
すると、窓の一部かモニター代わりになり、そこにある人物が映し出された。
「あ、あれーー」
「そう、誰とは言いませんけどね。
与党の大物代議士もいたり、ほら」
とまた別の角度からの画像が切り替わる。
そうして、何名かの芸能人であったり財界の大物であったり、社会的な著名人であったりーー。
「はあ。
人の悪意というものを憎みたくなるような光景ね」
「人間の裏側なんて、こんなもんだよ、先生」
と、白石は言う。
「その中に私も混じろうとしてるんだけど‥‥‥」
「先生、そんな悔やむような言い方をするなら、なんでここに来たんだい?」
白石は不思議そうな顔する。
「だってそんなの」
「そんなの?」
ゆきは困った顔をしながら答えた。
「助けて欲しいと願う患者がいるのに、見捨てるなら。
その人間は医者とは言わないわ。
単なる、金儲けに心を売ったけだものよ」
なるほど!
そう白石は面白そうに、ゆきにも提供したワイングラスを傾けて笑う。
「なら、先生はそのけだものとの間に一線を引きながら。
それでも、けだものどもの世界に自分から足を踏み込んだわけだ。
医者、として」
そこにかなりの嫌味があるようにゆきには聞こえた。
「そうよ、だけど誘ってきたのはあなたじゃない?!」
確かに。
白石は認めた。
「そうだよ、先生。
俺が先生を誘った。
なぜなら、先生が適任だと思ったからさ。
こんな救いようのない場所でも、心を病んで助けを求める者がいる。
それは、間違いのない事実だからさ」
だから、先生は来たんだろ?
最低限の一線を踏み越えずに、医者としてあるために。
と、白石はゆきを見据えた。
「だが、先生。
ここではその、医者って看板は捨てた方がいいかもな。
診療も必要だが、心のケアだけでは収まらない時がある。
そう、例えばーー」
と、白石は大きめのタブレットをゆきに手渡す。
「今日、見てもらいたい患者のカルテだ」
カルテ、と言い難いそれは、患者である奴隷の全身画像、これまでの経歴、どのような扱いを受けてきたか、出身や年齢はおろか、月経の周期に至るまで。
事細かに記録されていた。
「えーー」
それを見たゆきは驚いた。
そこにいたのは、まず緑色の髪に青い瞳。
尖った耳に陶磁器のように透き通った肌。
「人間、よね、彼女???」
明らかに、人間であるならばーー。
彼女の年齢はおかしかった。
年齢の項目には250歳と書かれている。
エッシュナブの森で捕獲。
5年前のとそれは記録にある。
「いや、残念だが。
人間じゃないんだ。
異種族、そう言った方がいいだろうなあ」
「あの。
馬鹿にしてるなら帰りますよ?」
まあまあ、と白石は他も見てみなよ、ゆきに言う。
レントゲン写真。
人類なら心臓がある位置に、脾臓がある。
代わりに、胃の少し下に心臓らしき臓器が。
血液サンプル、脈拍数、遺伝子のDNA塩基配列ーー。
そのどれもが、『人類』、彼女が人類ではないことを示していた。
「うそ‥‥‥。
そんな、こんな種族が地球上にまだいるのーー???」
明らかに伝説だと思っていた種族。
種族の項目名には「エルフ」と書かれていた。
「いやー違うんだよな」
「違う?」
捕獲場所を見てみて、と白石に言われて再度確認する。
「エッシュナブ?
そんな地名、聞いたことがないわ」
「だろ?
まあ、試しに検索してくれてもいいけどな」
「つまりーー」
「地球外生命体。
ってやつかな?」
そんな。
そんな簡単に、あっけなく地球外生命体なんて言われても。
そこでゆきは何かに気づいた。
「え。待って!?
地球外生命体とか言ってるけど。
捕獲したってことは、まだ繋がってるってこと?」
そうだよ、と白石は面白そうに言う。
「まあ、かなり昔から繋がってた入り口はあったみたいだけどな。
乱獲騒ぎが起こり始めたのはここ最近だ。
お陰で、うちの商売にも、さ。
ほら、ああして異世界の種族が紛れ込んでくるわけだ」
と、オークションの舞台を見ると、そこにが確かに見たことのない人種がたくさんいた。
翼のある女性、猫のような全身を毛におおわれた女性、小柄だが、背に蝶のような羽も生えた種族もいた。
「あの子達は‥‥‥。
どうなるの?」
どうしようもできん。
そう白石はぼやく。
「人間で、この地球人なら。
まだ俺がどうにか出来る。
だが、あの子たちは他所の存在だ。
いるかいないか。そういう存在だ。
俺の管轄外さ。
願わくばーー」
いい飼い主の元へ行くことを祈るだけだ。
そう寂しそうに白石は言う。
「けど、このエルフの子は?
なんで、私に任せようってなったの?」
あー、それなあ。
と白石がボヤく。
「買い取ったんだよ。うちが」
「買い取った?」
「ああ。
うちとは違う業者からある金持ちが購入してな。
好き勝手に調教したらしい。
身体のあちこちにピアスだの、刺青だの入れてな。
挙句に、心臓発作で死んじまった。まあ、異種族と交わるんだ。
何がしかの病気がある可能性だってある。
それで、掃除屋の元に廃棄処分されたのさ」
廃棄処分って。
「そんなものみたいにーー」
「先生、それがここの現実なんだよ。
だからうちから売る子たちには自分で値段をつけさせて、1年契約で戻させるんだ。
もちろん、何か異常があった場合はそれ相応の報復も踏まえて、な」
でもそれじゃ、根本的な解決にはならないじゃない。
ゆきはそう言いたくなる。
「これでも、異世界での乱獲を監視して止めるレンジャーなんかも派遣してるんだぜ、うちは。
あそこで売られても、最終的には買い戻してあちらに帰してる。
その為には、莫大な資金がいるのさ、先生」
少なくともーー。
白石は彼なりの何かを背負って行動しているらしい。
それを聞くと、ゆきは彼のすべてを責める気にはなれなかった。
「じゃあ、会ってもらおうかな?」
「え?」
「えって。
患者にだよ。
第一号はエルフのーー」
少女は。
いや、年齢的にはそうではないが外見的には14歳前後に見える彼女は。
一人静かに椅子に座っていた。
両手を拘束され、目隠しと耳には音が聞こえないようにヘッドホンがつけられていた。
「なんでこんなことーー」
案内してくれたのは、白石ではなく、多分、彼の抱える商品の一人の奴隷姫と呼ばれる存在だろう。
日本人の様だが、少しだけ瞳の青い少女だった。
「ああ、しないと自慰行為に及んで止まらないんです。
何より、音と光に敏感で。
何かの感覚的な刺激を受けると、すぐに性的な刺激に脳内で変換されるような調教を受けたらしくて‥‥‥」
ああ、なるほど。
でも、そんな脳内で変換するようなことが果たして可能なのか。
痛みを与えながら、更に強い快楽を与えることにより、痛みそのものを快楽だと脳が誤認して快楽物質を出すようになる。
そんな文献を読んだことがあったが、まさか本当に目の当たりにするとは。
「とんでもない人体実験をしてくれたものね‥‥‥」
というと、その奴隷姫は不思議そうな顔をする。
「何?」
「いえ、その‥‥‥」
「ん?」
「先生みたいな人もいるんだなと思いまして」
と不思議そうに言う。
「私たち奴隷は、まあ、その‥‥‥。
性的な意味で御主人様に喜んで頂けるのが喜びになるように、躾けられますしーー。
そうなりたいと望んで奴隷になる子もいますから。
だから、人体実験っていう言葉を使う人には、初めて出会いました」
ああ、そうか。
自分と彼女たちの常識は違うのだ。
隷属してそこに生きる喜びを見出すMと、それを飼いならし心どころか脳すらも支配するS。
まったくゆきの死っている常識とはかけ離れている世界だ。
「そう‥‥‥。
で、この子。
えっと名前はイライア、ね。
外傷とか見たいんだけど‥‥‥」
「ああ、なら脱がせますね」
と、その少女は他の数名の奴隷姫? いや、その僕になるのか。
女性たちに合図をする。
全裸になったイライアには、ものの見事に、SMといえる跡が残されていた。
「乳首に、性器、背中から腹部への突起的なピアス。
これはなんのために‥‥‥?」
「ああ、それは鎖ですね」
「鎖?」
「はい、背中や腹部から、性器回りまでを繋いで、首輪に通して散歩させるんです。
こう、犬のように」
と、彼女は四つん這いになってみせる。
「本当に動物扱いなのね‥‥‥」
「酷いですか?
でも、楽しいですよ、御主人様とのお散歩」
私は好きです。
と少女は屈託なく笑う。
「えーと、あなた、お名前は?」
「私ですか?
御主人様にはリオと呼ばれています」
本名は?
と尋ねると、
「捨てました。
リオが全てです」
と明確に答えるその姿勢に、ゆきは眩暈を覚えた。
「狂ってると思われるかもしれません。
でも、これが私たちの至上の喜びなんですよ、先生」
と少女はまた笑顔で笑う。
その奥に秘められた狂気にこれから触れていかねばならないことを考えると、ゆきは吐き気がした。
「どうします、先生」
「どうしますって?」
「ここから先は、先生の知らない世界。
でも、先生は奴隷にも御主人様にもならない、第三の存在でいれます。
たぶん、そんな人はこれまでいませんでした。
だから、私たちもたくさん、戸惑っています。
でもーー」
でも?
「そんな人がいてくれれば、たまにおきる不幸な出来事が減るかもしれないって。
そう思ったので。
リオは助手になりたいと白石様にお願いしました」
ああ、彼女の言う御主人様はまた別にいるのね。
それだけは、理解できた。
「そうーー。
本当はもう帰りたいくらいだけど。
こんな患者がいるんじゃ、ほっておけないわ。
でも、人間の医療じゃ無理かもしれない。
とりあえず、血液採取して‥‥‥。
彼女の同族でまだ正常な人がいれば、脳波とかのサンプルを欲しいけど。
どう?」
と尋ねられてリオは部下の女たちに何かを合図する。
「大丈夫です。先生。
ここは今日から、先生のクリニック。
SM診療士の高市クリニックですね」
そう笑顔でリオは言う。
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