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第一章 自由への渇望

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「なによ、これ‥‥‥。
 昔の穴掘りの道具?
 柄の部分だけが外にでてる???」
 長ぼそいそれを土を払いのけながらゆっくりと引き上げてみる。
「なに、これ?
 重いーー」
 土に長年埋まっていたからだろう。
 それはなかなか引き抜けなかった。
「こんなことしてる場合じゃないのにーー」
 もうこうなったらヤケだ、そう思い両脚を踏ん張って彼女はその柄を握りしめそして一気に土中からそれをひきあげた。
「ひいっーー」
 本日、何度目に見ただろう。
 それは一本の長剣だった。
 死骸の腰のベルトに巻かれたまま、その中に埋まっていたらしい。
 数体の死体がそこかしこにその白い骨を地中から出し、おのれの存在を誇示しているかのようにその塔の周囲に散乱していることにようやくナターシャは気付いた。
「この数百年で、何百人を殺してきたの‥‥‥」
 狂ってるーー
 グラン王国。
 建国から八世紀はたつこの古い王国は、こうして邪魔者たちを消してきたんだ。
 そう、ナターシャは気付いた。
 その彼女の腕にある剣の柄に彫られた紋章は、初代の建国王時代のものだ。
 それは学院の創立祭で毎年のように見ている旗の物だからよく知っていた。
「剣と鞘があるのはいいけど‥‥‥なぜ、革製の鞘が腐らずに??」
 遺骨のベルトからそれを抜きとろうとすると、そのベルトはあっけなくボロボロと崩れ落ちた。
 しかし、剣を収めている鞘は不思議と、泥を落とすとまだ生きているかのような光沢を放っていた。
「抜けるのかしら?」
 演技で使う劇ようの剣と重さは変わらない気がした。
 学院では男女問わずに剣や槍、弓の訓練があるから取り扱いは慣れていた。
「さすがに‥‥‥硬いーー」
 なぜ抜けないのだろう。
 そう言えば、この剣にはあれがないーー
「留め金がない?
 そんな剣は初期の失われた技法のはず‥‥‥」 
 現代の騎士や衛士が持つ剣は、その刀身が下を向くとそのまま鞘から滑る。
 そのために、安全策として留め金が用いられる。
 そう学院の講義では聞いていた。
 鯉口を刃先にあわせて調整し、簡単に抜けなくするには真鍮などの細工が必要になりそれは武器よりも魔法が進化した現代では衰退したのだと。
「古王国時代の失われた剣、ね。
 うーんー!!」
 それを抜くにはどうやらコツがいるようだった。
 腰に当てるようにして垂直に持ちあげる。
 もしくは親指で押し上げる。
 そうすると、簡単に剣は鞘から放たれた。
「錆がない?
 そんな剣あるはずが‥‥‥」
 両刃ではない片刃の、少し歪曲した大刀。
 演習用で使ったものよりも、少しばかり柄と刀身が一回りは長かった。
「騎兵が使っていたというあれかしら?」
 講義を思い出しながら、ナターシャは剣を鞘に収め、その物言わぬ剣士に礼を心で述べた。
 大事に、護身用にさせてもらいます、と。 
 かつてこの王国はいまは飛び地となっている、海の対岸にある離島から生まれた。
 騎馬の精鋭を率いて、数千の船でこの大陸へと渡った初代国王は、一夜で国の半分を平らげたという。
 その時に活躍したのが、投槍兵と呼ばれる弓よりもはるかに威力のある人ではない、オーガと呼ばれる鬼人族だった。
 そして、この長刀を持つ騎馬兵。
 そう歴史の授業では習った。
 鬼人族や亜人たちは、いまは生まれ故郷である離島を中心に王国でも人と同じように暮らしている。
 中には貴族になったものたちもいたはずだ。
 残念ながら、ナターシャは単なる人間族。
 たいして人並み外れた能力は持ち合わせてなかった。
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