婚約破棄~二度目の人生を手にした侯爵令嬢は自由に生きることにしました!!

星ふくろう

文字の大きさ
29 / 90
第三章 スレイプニール峡谷

4

しおりを挟む
 どう答えた方がいいだろうか?
 ありのまま、事実だけを言う方がいいような気がして、ナターシャは少し長くなりますが、と前置きを言い事情を話し始めた。
 第二王子からの婚約破棄とサーシャの、そう二人の陰謀にはめられたこと。
 実家はその罪を問われ爵位を降格され、財産を奪われたこと。
 昨夜、そう昨夜なのだ。 
 話していて今ここにいることの奇跡をナターシャは実感していた。
 昨夜、あの嘆きの塔から脱出した時に、声が聞こえた事。
 泥棒だと知りながら死体から服を剥いだこと。 
 あの小屋での身分証明書を作ったこと。
 あの濃霧が起こした不可思議な幻影と、塔の声がもし何か関係しているのなら、必ず彼らの無念を晴らせるようにできる何かをすると約束すると濃霧が晴れたこと。
 そして、背に負っていた太刀をルクナツァグに見せた。
 この太刀で濃霧を切ろうとすると晴れたことも。
 まずは隣国に逃亡し、そしてそこから基盤を築いて国に戻り無念を晴らす。
 第二の人生も送りたいが、あの亡者たちの無念は晴らしてやりたいしその約束は守りたい。
 それを、ありのままナターシャは伝えた。
 彼女が語り終えるまで十数分はかかっただろう。
 しかし、ルクナツァグはそれをただ黙って聞いていた。
 時折、なるほど、などと相槌を打ちながら。
 

「わたしが申し上げれることは以上です‥‥‥あ、それと。
 申し訳ございません、精霊に魚の料理法を聞きたいと願ったらなぜか、そのーー」
 呼び出してしまった理由はそれなのです、とナターシャは自分が捕獲した魚を指差した。
 黙って聞いていた妖魔は、たまらずおかしげに笑いだしてしまった。
「まさか、その料理法を聞くために呼ばれたとはな。
 あの子ら、そう、お前の精霊がどうしてもと呼ぶから来てみれば‥‥‥。
 まあ、人助けは二度目だ。
 とりあえず、すまんな」
 ケルピーはそう言うと、ナターシャの目のまえの魚二匹を宙に浮かばせた。
 同時に、ナターシャの背中をくわえると、自分の背に乗せて空中を蹴り、より高い場所へと移動する。
「あ、あのーー!!??
 なぜ!!?」
 馬の背に乗り、天空を駆けるなど、ナターシャには産まれて初めての体験だったからその驚きも大層なものだった。
 ケルピーは、一段上のこれまた路面の整備された街道に降り立つと、そっとナターシャを降ろしてくれた。
「時間が無かったのだ。
 嘘を語ればそのまま放置する気だったのだがな。
 見るがいい」
 言われるがままに下を覗くと、上流域から凄まじい水量の水がなだれ込んでくるのが見えた。
「鉄砲水‥‥‥!!??」
 なぜ、こんなことに?
 振り返り妖魔に聞くと、
「ナターシャだったな?
 お前は道そのものを間違えている。
 ここが街道だ。もう長く使われていないがな?
 その濃霧とやらが邪魔をしたのはお前を谷底に落とすためではない。
 あの間違った道を行くな、と。
 そう言う意味だったのだ。
 気づかなかったのか?
 途中から舗装されていないことに?」
 そう諭すように言われ、ナターシャは気付いた。
「あ‥‥‥そう言えば、途中から舗装が無い方を選びました」
「その道はな、危険だから行くなと。
 まあ、獣道のようなものだ。
 まったく、水に溺れそうになった女性に、なりかかった女性。
 蒼に緑。
 どうにも奇妙な縁だな‥‥‥」
「あの、ルクナツァグ様?
 緑がもし髪の色だとすればーー蒼の髪の女性をお助けになられたことが‥‥‥?」
 ある。
 そう断言するがなぜか、妖魔はため息交じりだった。
 なぜ、そんな辛そうな返事をするのだろう?
 ナターシャは不思議で仕方がない。
 興味本位で質問をしてしまった。
「なぜ、そのように悲しそうに言われるのですか?」
 と。
 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

『完璧すぎる令嬢は婚約破棄を歓迎します ~白い結婚のはずが、冷徹公爵に溺愛されるなんて聞いてません~』

鷹 綾
恋愛
「君は完璧すぎる」 その一言で、王太子アルトゥーラから婚約を破棄された令嬢エミーラ。 有能であるがゆえに疎まれ、努力も忠誠も正当に評価されなかった彼女は、 王都を離れ、辺境アンクレイブ公爵領へと向かう。 冷静沈着で冷徹と噂される公爵ゼファーとの関係は、 利害一致による“白い契約結婚”から始まったはずだった。 しかし―― 役割を果たし、淡々と成果を積み重ねるエミーラは、 いつしか領政の中枢を支え、領民からも絶大な信頼を得ていく。 一方、 「可愛げ」を求めて彼女を切り捨てた元婚約者と、 癒しだけを与えられた王太子妃候補は、 王宮という現実の中で静かに行き詰まっていき……。 ざまぁは声高に叫ばれない。 復讐も、断罪もない。 あるのは、選ばなかった者が取り残され、 選び続けた者が自然と選ばれていく現実。 これは、 誰かに選ばれることで価値を証明する物語ではない。 自分の居場所を自分で選び、 その先で静かに幸福を掴んだ令嬢の物語。 「完璧すぎる」と捨てられた彼女は、 やがて―― “選ばれ続ける存在”になる。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さくら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

今度は、私の番です。

宵森みなと
恋愛
『この人生、ようやく私の番。―恋も自由も、取り返します―』 結婚、出産、子育て―― 家族のために我慢し続けた40年の人生は、 ある日、検査結果も聞けないまま、静かに終わった。 だけど、そのとき心に残っていたのは、 「自分だけの自由な時間」 たったそれだけの、小さな夢だった 目を覚ましたら、私は異世界―― 伯爵家の次女、13歳の少女・セレスティアに生まれ変わっていた。 「私は誰にも従いたくないの。誰かの期待通りに生きるなんてまっぴら。自分で、自分の未来を選びたい。だからこそ、特別科での学びを通して、力をつける。選ばれるためじゃない、自分で選ぶために」 自由に生き、素敵な恋だってしてみたい。 そう決めた私は、 だって、もう我慢する理由なんて、どこにもないのだから――。 これは、恋も自由も諦めなかった ある“元・母であり妻だった”女性の、転生リスタート物語。

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

悪役令嬢に転生したと気付いたら、咄嗟に婚約者の記憶を失くしたフリをしてしまった。

ねーさん
恋愛
 あ、私、悪役令嬢だ。  クリスティナは婚約者であるアレクシス王子に近付くフローラを階段から落とそうとして、誤って自分が落ちてしまう。  気を失ったクリスティナの頭に前世で読んだ小説のストーリーが甦る。自分がその小説の悪役令嬢に転生したと気付いたクリスティナは、目が覚めた時「貴方は誰?」と咄嗟に記憶を失くしたフリをしてしまって──…

処理中です...