婚約破棄~二度目の人生を手にした侯爵令嬢は自由に生きることにしました!!

星ふくろう

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第六章 水の精霊女王

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「そんなっー‥‥‥なんで、竜王!
 アリア様!?
 アルは!? 彼は!!
 なぜ見捨てるんですか!!!」
 ナターシャの声は静かな神殿の中、水の回廊さえ突き抜けて周囲に響いていた。
 その責める言葉を背に、アリアは回廊を浮上させる。
 もうこの神殿内部を行くわけにはいかない。
 外に出なければ―‥‥‥神とて消滅する。
 その事実をナターシャは理解できていなかった。
「ひどい、ひどい!!
 わたしには生きろとさんざん勇気づけておいて、その支えになってくれた彼を‥‥‥彼を」
 見捨てるなんて――
「ナターシャ。
 待て、聞いてくれ。
 無理なんだ。
 あの中ではわたしたちの命すら危うい。
 どうしようもないんだ!!」
 竜王の沈痛な叫びはナターシャには届かない。
「竜王様、言われたじゃないですか。
 大丈夫だって、アルフレッドも無事に戻れるって。
 アル、あの子‥‥‥兄弟がまだいるのに!!
 どうするんですか‥‥‥」
 竜王の言葉を聞いてナターシャは一度は黙ってしまう。
 だが、ここまで支えてくれた同年代の少年を、見捨てる気にはなれなかった。
「それは――戻ればわたしがどうにかー‥‥‥」
 その竜王の一言に、きっとナターシャはにらみつけた。
 だめだ、この神様はー頼りにならない。
 王国への復讐は神々じゃなきゃできない。
 でも、アルフレッドは!?
 彼をすくいにいけるのは誰!???
 落ちついてわたし。
 あの中からも生還できたわ。
 怨霊だの亡霊だの負の世界、闇の世界から――ふと、そこでナターシャは気づいた。
「アリア様?
 なぜ、あの神殿内であなたは力を使えるのですか?
 神様は制限されるはず‥‥‥???」
 ようやく返事をくれたわね、まともな返事を。
 水の精霊女王は上昇する水の回廊を制御しながら、その左手にいくつかの泡を浮かびあげた。
「ねえ、ナターシャ。
 もし、湖畔に設置されたダムのように神や魔もその力を貯めておけるとすればどう?」
「どうって‥‥‥なら、どこにいても力が使えるのでは???」
 まあ、そう上手くはいかないけどね。
 アリアは苦笑する。
 神も万能ではないのよ、と。
「元の力の少しばかり何割かは使えるわ。
 でもね、ナターシャ。
 これはわたしくらいなの。
 生まれながらの神々は自分の力を貯めて持ち歩いたりしないのよ。
 その力に自信があるし、力そのものが存在理由だから‥‥‥」
 理解して頂戴、ナターシャ。
 アリアは寂しそうにナターシャに語り掛けていた。
「竜王様はこれでもわたしと同格だけど、もっと古い神なの。
 それでも、この神殿内では存在そのものがあるようでないような。
 そんな状態にされてしまうの。
 ここに来るということは」
「アリア殿ー‥‥‥」
 竜王からの制止が入るが、
「あなた様はお黙り下さい。
 なんですか、竜王ともあろうものが。 
 大丈夫だと請け負いながら、その責を果たせないなどと嘆かわしい。
 どうお考えなのですか‥‥‥エバース様?」
 そう、水の精霊女王はきつく竜王を叱っていた。
 でも、それでは彼は戻らない。
 誰も助けにいかず、死んだのか生きているのかすらもー‥‥‥わからないなんて。
「アルフレッド‥‥‥可哀想。
 あの大きな口はなんなのですか、アリア様!?」
 何かと問われても、アリアには返答のしようがなかった。
 あんなもの、見たことも遭遇したことすらないのだから。
「分からないわ、ナターシャ。
 竜王様、あなた様は?」
 叱られ、己の無力さを痛感する竜王はそれでも長き年月を生きてきた神だった。
 あれが何か、程度には語れるほどに知識を持っていた。
「あれは猟師が仕掛けるような罠だ、ナターシャ。
 何か獲物が通れば口を開けて獲物を飲み込む。
 それだけの構造でしかない。
 ただ、闇の物か魔も物か、神の物か‥‥‥それはわからん」
 それはどういう意味だろう?
 ナターシャは考える。
 神殿を守る誰かが、時折やってくる虚無とやらを捕らえるために作った罠か、それとも??
「虚無なら、あの大きさのモンスターもいるのですか!?」
 え?
 竜王は返答に困ってしまう。
 虚無などといってもそこには神もいれば魔もいるし、彼等の敵はそのはるか先にある世界の裏側から来るのだから。
「いや、それはわからん。
 わからんが、ヤンギガルブの残した可能性もある。
 どうなのだ、アリア殿?」
 アリア殿?
 なぜ、奥様なのにそんなよそよそしい呼び方をするのかしら?
 ナターシャは水の精霊女王を見てああ、もしかしたらと思いだす。
 アルフレッドとアギスの会話の中に、ふと出てきたあの言葉。
 奥様はもういないとかなんとか。
 竜王様のこの頼りなさに出て行ってしまわれたのだわ、アリア様は。
 それでも、この仲の良い雰囲気。
 見捨てられずに側にいようと‥‥‥こんな神殿の管理人にまでなって。
「アリア様。
 可哀想‥‥‥」
「は?
 え、かわい‥‥‥なに?」
「いえー‥‥‥なんでもないです。
 竜王様、ならーアルフレッドがまだ生きている可能性もあるんですね!?」
「可能性の話ならいくらでもできるが、何をする気だ?」
 それがわかれば‥‥‥何をするか決まっているじゃないですか。
 ナターシャは不敵に笑うと背中の剣を引き抜いた。
「怨霊たち、力を――貸しなさい!!」
「ナターシャ!?」
 竜王とアリアが止めた時には既に遅し。
 ナターシャのその剣は綺麗に、水の回廊を叩き割っていた。
「待て、ナターシャ!!」
 竜王の声に少女は裂け目に片足を載せて振り返る。
「止めないでください、竜王様。
 アルフレッドは大事な‥‥‥存在なの。
 わたしを助けてくれたわ、心を癒してくれた。
 次はわたしの‥‥‥お願い」
 それだけ言うと、ナターシャは裂け目に身を投じてしまう。
 後を追おうとするが、しかし、竜王の目のまえでその壁は頑強な檻となって竜王を阻んでいた。
「アリア!!」
「エバーグリーン様。
 この高さから飛び降りる少女なんて冗談にもならないけど。
 なにかもっと大きな約束があるのではないですか?」
「だがあの二人だけではー‥‥‥」
「わたしたちがいることほど、余計に足枷になるかもしれませんよ、第一の眷属様。
 まずは上に。
 そこから、他の神々の手を借りるべきです。
 この神殿自体がもう、存在することが間違っているのかもしません。
 外にでましょう?」
 その正しい発言に、竜王は黙ってうなづくしかなかった。
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