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第六章 水の精霊女王
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「あなた、正気ですか!!??」
目の前に迫る顎だけではない‥‥‥犬歯のようなよく研ぎ澄まされた牙が上下にずらりと居並ぶその光景は圧巻かつ畏怖をもナターシャに抱かせる。
食べられる――
その恐怖もいまは自分で思い通りにならない態勢で二人の男女は、
「当たり前だろ!?
ここで行かなくてどこに行くんだよ、お姫様!」
お姫様?
行くは逝く、の間違いではなくて??
本当に怖い時には人間、叫び声など出せないものだ。
だが、自殺志願者のいきなり現れた騎士の飛び込む角度はなかなかに正確だったらしい。
バクンッ、と大きな音を立てて閉じた視線の先には綺麗に、白い壁が見えていた。
それも一瞬。
「わっ?
やっぱり、こうなるか!」
こうなる、どうなるの?
彼の首にすがりつき、後ろ向きに首を向ければそこには更に墨を浸したような暗黒が広がり――
「おちる‥‥‥?」
呟きもそこそこに、ナターシャはすさまじい勢いで下方へと滑り出す床に失神寸前になりかけていた。
なんでいつもこうなるの‥‥‥?
消えゆく意識の中で、ナターシャは己の運の無さに嘆くのだった。
「おい待て、いまの王国はー」
なんだろう?
声が聞こえる。
二人の男性が言い争い?
いや、片方は引き取めようとして声が荒くなり、片方はそんな心配は無用だ。
そう言いたくて声が荒くなっている。
だけど、その行こうとしている片方は本当は不安で不安でたまらない。
自分の剣技には自信がある。
魔導の腕にもだ。
だがそれでもあの教会に立ち向かい、生きてこの人ではない心配性な竜に再度会える。
そんな確信は彼の心にはなかった。
「いいから行かせてくれ。
俺の強さは知っているだろう?
なあ、金麦の竜王」
「そんな異名などなんの役にも立たん。
お前は魔導だの剣の腕だのとほのめかしているが‥‥‥その前に」
彼はそれを言えなかった。
言えば、親友は去ってしまうから。
忠誠を誓った王の元へと、馳せ参じる為に。
それが、騎士だからだ。
「帰ってくるよ。
な?
だから、行かせてくれ。
エバーグリーン」
「カーティス‥‥‥」
ああ、彼はそんな名前なんだ。
エバーグリーン?
エバース様だったはずなのに。
金麦の竜王様って、はるか北の肥沃な大地を治めているって伝説じゃなかったかしら?
伝説も神話も捻じ曲げられている。
あの王国の創世記の神話。
そう、あの舞台ーそうだ。
わたしをあの嘆きの塔に閉じ込めたあの王子。
第二王子エルウィン。
あれが憎い。
婚約者だのと言いつつ、我が家も家族も愛した誰しもを奪っていく‥‥‥
あんな王国、滅べばいいのに――
意識の底でナターシャは悪夢と戦っていた。
そこにいてくれるのはエバーグリーンでも、アリアでも、カーティスでもない。
ただ、大丈夫だよ。
そう言って、手を引き上げてくれる彼――
彼はどこに‥‥‥???
(彼ならここにー)
後ろで声がする。
闇の中に立つのは自分自身だ。
そこは不思議な空間だった。
闇の中なのに、一面に金色の稲穂が咲き誇るように黄金の光がそこかしこから湧いて出ては消えて行く。
それが波のように近付いてくるとナターシャはそっと手を差し伸べる。
「綺麗‥‥‥」
現実のすべてを忘れてしまいそうなその光景に魅了されそうになった時。
「だめだぜ、お姫様。
そこは死者の世界だ。
戻ろうか?」
え?
あなたはー‥‥‥?
「カーティス‥‥‥?
アルフレッドは?
誰かが後ろにいると」
カーティスは首を振る。
「違うよ。
あれは俺たちよりもタチが悪い。
虚無の魔物だ。
帰って来いよ、お姫様」
「虚無の魔物??」
だってそれを諦めたら――彼はここから戻らない。
ナターシャはそう首を振る。
「大丈夫だ、お姫様。
あいつはあそこにいる――ほら」
カーティスが指差した先には、
「あれは‥‥‥嘆きの塔??
なぜ!?」
それは簡単だよ。
クククっ、そう怪し気に微笑むカーティスは、あの夜の。
そう、髑髏になった死骸の姿でナターシャを嘆きの塔に引きづっていく。
そのか細い腕を乱暴に扱うその様は、まるで死神が死の宣告を告げに来ているようで――
「あなたは!!
‥‥‥カーティスじゃない――」
「さあ?
そんなことは関係ないよ、お姫様。
犠牲者は多い方が良い。
ほら、もう少しで断首台だ。
なあ?
死ぬにはいい夜だろう?」
違う。
あんな銀色の月が上がる世界はわたしの知っている夜じゃない。
わたしの世界の月はー‥‥‥
「嫌です!!」
ナターシャは髑髏の騎士に捕まれた手を引き放そうとしてそれが敵わないとわかると、彼の腰の剣に手をかけた。
それは簡単に制止されたが、彼は面白そうに見下ろすと短刀を引き抜き、ナターシャの後方に放り上げた。
地面に突き刺さるそれを見、騎士はナターシャの腕を放してしまう。
「なっ、何を‥‥‥!?」
「抜けよ?
で、かかってこい。
俺に勝てば帰れるかもな?
負ければ――」
少しばかり先延ばしにされていたあんたの死が、やってくるぞ?
そういやらしさをまき散らして笑う彼は確かにカーティスではなかった。
「勝てば‥‥‥?
なら、勝つよりもいい方法があるわ」
短刀を地面から抜くと、ナターシャは騎士に笑いかける。
「あなたの好きなようになんてさせるもんですか。
あれはアルフレッドじゃない。
でも、ここであなたを止める方法があるわ」
「方法?
俺に勝てずにか?
どうするつもりだ??」
どうするつもり?
決まっているじゃない。
魔物を引き連れて戻るくらいなら――
「ここで死ぬわ。
アルフレッドを巻き込み、カーティスに助けられてまでこんなとこに来るなんて‥‥‥。
本当にわたしは救えない女。
でも、竜王様は神殿の外にいるはず。
王国が救われるなら、怨霊たちとの契約もなされるはずでしょ!?
なら‥‥‥」
もう、死んだ方がましだ。
自分が誰かを巻き込んでいくのならば死を選ぼう。
でも、なんでこんなどうしようもない無力感に襲われているんだろ、わたし。
せめて、アルフレッドを無事に戻したかったな。
竜王様、アリア様‥‥‥どうかアルフレッドを助けて下さい。
「面白い。
見届けてやる。
死んでみろ」
止めないのね。
最後は獲物?
エサにでもなるから?
こんな貧弱な女で満足するなら、そうすればいいわ。
そしてナターシャは剣を逆手に持つと、喉元に突き立て――
「そこまでだな‥‥‥
つまらない魔物さんよ?
俺の姿を借りるなら利子は高いぜ?
主は‥‥‥返して貰うぞ?」
その短刀を持つ手は、誰であろうあのカーティスによって止められていた。
目の前に迫る顎だけではない‥‥‥犬歯のようなよく研ぎ澄まされた牙が上下にずらりと居並ぶその光景は圧巻かつ畏怖をもナターシャに抱かせる。
食べられる――
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「当たり前だろ!?
ここで行かなくてどこに行くんだよ、お姫様!」
お姫様?
行くは逝く、の間違いではなくて??
本当に怖い時には人間、叫び声など出せないものだ。
だが、自殺志願者のいきなり現れた騎士の飛び込む角度はなかなかに正確だったらしい。
バクンッ、と大きな音を立てて閉じた視線の先には綺麗に、白い壁が見えていた。
それも一瞬。
「わっ?
やっぱり、こうなるか!」
こうなる、どうなるの?
彼の首にすがりつき、後ろ向きに首を向ければそこには更に墨を浸したような暗黒が広がり――
「おちる‥‥‥?」
呟きもそこそこに、ナターシャはすさまじい勢いで下方へと滑り出す床に失神寸前になりかけていた。
なんでいつもこうなるの‥‥‥?
消えゆく意識の中で、ナターシャは己の運の無さに嘆くのだった。
「おい待て、いまの王国はー」
なんだろう?
声が聞こえる。
二人の男性が言い争い?
いや、片方は引き取めようとして声が荒くなり、片方はそんな心配は無用だ。
そう言いたくて声が荒くなっている。
だけど、その行こうとしている片方は本当は不安で不安でたまらない。
自分の剣技には自信がある。
魔導の腕にもだ。
だがそれでもあの教会に立ち向かい、生きてこの人ではない心配性な竜に再度会える。
そんな確信は彼の心にはなかった。
「いいから行かせてくれ。
俺の強さは知っているだろう?
なあ、金麦の竜王」
「そんな異名などなんの役にも立たん。
お前は魔導だの剣の腕だのとほのめかしているが‥‥‥その前に」
彼はそれを言えなかった。
言えば、親友は去ってしまうから。
忠誠を誓った王の元へと、馳せ参じる為に。
それが、騎士だからだ。
「帰ってくるよ。
な?
だから、行かせてくれ。
エバーグリーン」
「カーティス‥‥‥」
ああ、彼はそんな名前なんだ。
エバーグリーン?
エバース様だったはずなのに。
金麦の竜王様って、はるか北の肥沃な大地を治めているって伝説じゃなかったかしら?
伝説も神話も捻じ曲げられている。
あの王国の創世記の神話。
そう、あの舞台ーそうだ。
わたしをあの嘆きの塔に閉じ込めたあの王子。
第二王子エルウィン。
あれが憎い。
婚約者だのと言いつつ、我が家も家族も愛した誰しもを奪っていく‥‥‥
あんな王国、滅べばいいのに――
意識の底でナターシャは悪夢と戦っていた。
そこにいてくれるのはエバーグリーンでも、アリアでも、カーティスでもない。
ただ、大丈夫だよ。
そう言って、手を引き上げてくれる彼――
彼はどこに‥‥‥???
(彼ならここにー)
後ろで声がする。
闇の中に立つのは自分自身だ。
そこは不思議な空間だった。
闇の中なのに、一面に金色の稲穂が咲き誇るように黄金の光がそこかしこから湧いて出ては消えて行く。
それが波のように近付いてくるとナターシャはそっと手を差し伸べる。
「綺麗‥‥‥」
現実のすべてを忘れてしまいそうなその光景に魅了されそうになった時。
「だめだぜ、お姫様。
そこは死者の世界だ。
戻ろうか?」
え?
あなたはー‥‥‥?
「カーティス‥‥‥?
アルフレッドは?
誰かが後ろにいると」
カーティスは首を振る。
「違うよ。
あれは俺たちよりもタチが悪い。
虚無の魔物だ。
帰って来いよ、お姫様」
「虚無の魔物??」
だってそれを諦めたら――彼はここから戻らない。
ナターシャはそう首を振る。
「大丈夫だ、お姫様。
あいつはあそこにいる――ほら」
カーティスが指差した先には、
「あれは‥‥‥嘆きの塔??
なぜ!?」
それは簡単だよ。
クククっ、そう怪し気に微笑むカーティスは、あの夜の。
そう、髑髏になった死骸の姿でナターシャを嘆きの塔に引きづっていく。
そのか細い腕を乱暴に扱うその様は、まるで死神が死の宣告を告げに来ているようで――
「あなたは!!
‥‥‥カーティスじゃない――」
「さあ?
そんなことは関係ないよ、お姫様。
犠牲者は多い方が良い。
ほら、もう少しで断首台だ。
なあ?
死ぬにはいい夜だろう?」
違う。
あんな銀色の月が上がる世界はわたしの知っている夜じゃない。
わたしの世界の月はー‥‥‥
「嫌です!!」
ナターシャは髑髏の騎士に捕まれた手を引き放そうとしてそれが敵わないとわかると、彼の腰の剣に手をかけた。
それは簡単に制止されたが、彼は面白そうに見下ろすと短刀を引き抜き、ナターシャの後方に放り上げた。
地面に突き刺さるそれを見、騎士はナターシャの腕を放してしまう。
「なっ、何を‥‥‥!?」
「抜けよ?
で、かかってこい。
俺に勝てば帰れるかもな?
負ければ――」
少しばかり先延ばしにされていたあんたの死が、やってくるぞ?
そういやらしさをまき散らして笑う彼は確かにカーティスではなかった。
「勝てば‥‥‥?
なら、勝つよりもいい方法があるわ」
短刀を地面から抜くと、ナターシャは騎士に笑いかける。
「あなたの好きなようになんてさせるもんですか。
あれはアルフレッドじゃない。
でも、ここであなたを止める方法があるわ」
「方法?
俺に勝てずにか?
どうするつもりだ??」
どうするつもり?
決まっているじゃない。
魔物を引き連れて戻るくらいなら――
「ここで死ぬわ。
アルフレッドを巻き込み、カーティスに助けられてまでこんなとこに来るなんて‥‥‥。
本当にわたしは救えない女。
でも、竜王様は神殿の外にいるはず。
王国が救われるなら、怨霊たちとの契約もなされるはずでしょ!?
なら‥‥‥」
もう、死んだ方がましだ。
自分が誰かを巻き込んでいくのならば死を選ぼう。
でも、なんでこんなどうしようもない無力感に襲われているんだろ、わたし。
せめて、アルフレッドを無事に戻したかったな。
竜王様、アリア様‥‥‥どうかアルフレッドを助けて下さい。
「面白い。
見届けてやる。
死んでみろ」
止めないのね。
最後は獲物?
エサにでもなるから?
こんな貧弱な女で満足するなら、そうすればいいわ。
そしてナターシャは剣を逆手に持つと、喉元に突き立て――
「そこまでだな‥‥‥
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