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第六章 水の精霊女王
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「カーティス‥‥‥?
あなたも偽物でしょう?
その手を放しなさい。
こんなに都合よく物事が運ぶはずがないわ‥‥‥」
ナターシャは憤然としてカーティスの手を払いのけようとするが、彼はさきほどの最初のカーティスと同じく簡単には離そうとはしなかった。
むしろ、偽物呼ばわりされたことにショックを受けているようだった。
「ひどい主だなあ、ナターシャは。
まだ俺たちはあの呑み込まれた先を滑り落ちているんだぞ?
あんたの心に巣くう怨霊も亡霊もいま死なれたら困るんだよ。
ここは神の世界。
俺たちは簡単に消滅してしまう。
お姫様が死んだらな?」
「消滅ー???」
「そう、消滅だ。
おっと、髑髏のやつ。
俺の外見を勝手に使いやがって。
お前は動くなよ‥‥‥ここは虚無に通じているとはいえ、主はナターシャの心だ。
この子が死んだ瞬間に魂だけを手っ取り早く持ち去ろうと考えたんだろうが‥‥‥」
ふとナターシャの周囲にはカーティスだけではない。
見たことのない百を超す、騎士だの剣士だの、女魔導士だの。
そんな存在がいつの間にか彼女と髑髏の騎士の間を阻むように壁を作っていた。
「ここ、ならな?
死す前はその道で覇者と異名を取った連中もだ、普段はナターシャの中でおとなしくしているしかないが‥‥‥。ここなら、誰もが死せる前の姿に力で自在に戦えるのを失念したんじゃないのか、お前は?」
まあ、誰だか知らんがな?
そのこっそりと言った一言に、ナターシャは確信する。
このカーティスはあの竜王の友人のカーティスだと。
トラブルを呼び込んだり、カッコをつけたまま実は裏付けが無かったりと。
似たもの同士が集まるという言葉があるが、まさしくその通りだとナターシャは妙に納得してしまっていた。
「まあ、無責任な」
その小声での叱責に、周囲から緊迫した雰囲気の中なのに失笑が漏れていた。
「お姫様‥‥‥困るぜ。
一応、こいつらのまとめ役なんだからさ?」
とりあえずは顔を立ててくれ。
そういうこと?
呆れた人、みんなの前でだけ良い外見だけを見せて中身はー‥‥‥
「まるで、エルウィンみたいですね。
わたしは好きではありません。
姫でもなんでもありません。
姫‥‥‥?」
自分でそう言い、ナターシャは辺りを見渡して再度、その意味を知ることになる。
誰もが、彼女を守ろうし、彼女にかしづこうとしていたからだ。
「まるで怨霊のお姫様ね、わたしー‥‥‥?」
「怨霊の、は余計だよ。
あいつらも、あんたの考えや行動に惚れて来てくれたんだ」
来てくれた?
どこから?
わたしがここに引き込まれて、それを助けに来てくれた?
「なぜ?
わたしが死ねば、あなたたちだってー解放されるじゃない」
「あのなー‥‥‥」
カーティスは頭を抱える。
さっきから何度も説明しているのに。
ナターシャが死ねば、自分たちも消滅するのだ、と。
「だって、消滅したくないから助けにくるくらいなら、あの場でずっと待てばよかったのでは?
こんな役に立たない女に、すべてを託さなくても。
あなたたちは、怨霊としてかもしれないけれど、まだ生きれていたはずよ?」
「その怨霊としてが、嫌になったからみんながあなたと契約したのよ。
ナターシャ」
「あなたは‥‥‥どなた?」
自分と同じエメラルド色の髪を持つ綺麗な女性が、ふとナターシャの前にでてきてそう言うが、ナターシャの記憶に彼女の面影はなかった。
ただ、外見が人間とどこかが違っているように見えて、ナターシャは違和感を覚えてしまう。
なんだろう?
この余りにも完璧すぎる外見。
髪色に相応しい奥ゆかしい雰囲気を持つ彼女には、そう丸い耳がなかった。
そして、闇に光るその瞳はまるで獣のように光を反射して見える。
「エル、フ?
森の人?
そうなの?」
その問いかけに彼女は面白そうに微笑むだけだった。
カーティスはまた出てきたのかよ。
そう呆れているし、ナターシャはまるでおとぎ話の主人公に会ったような気分になってしまう。
「さあ、我らが姫。
帰りましょう、あれは単なる幻覚。
この世界ならば、我らがその持ち得る力を以てお守り致します故!」
後から後からやってくる彼女を慕う声が上がり、味方と思える布陣が広がりゆくなかで、ナターシャはだいぶ距離が開いてしまった髑髏の騎士の悲し気な視線が気になった。
殺そうとしていて、アルフレッドをああやって出汁にしてまでナターシャを引き込む気だったはずなのに、なぜそんな悲しそうな目でこっちを見るの?
骸骨の奥には目なんてないはずなのに、なぜかそれを理解できる自分がいた。
どちらかが正しくて、どちらかが嘘を話している?
でも、あの髑髏の騎士の後ろにはアルフレッドが鎖につながれているのは事実だ。
それが目の前にあるのだから、否定のしようがなかった。なら、こうしましょう。ナターシャは、早く戻ろうと勧める、自称、彼女の家臣団に最初の命令を下すことにした。
「皆様、ありがとうございます。
では、皆様のその御自慢の剣技で、わたしの友人を救いだして下さい。
それが叶うならばー戻ります」
その命令に髑髏の騎士の視線からは悲しさが減ったような気がすると共に、ナターシャは新たな怒りの波動に晒れていた。
あなたも偽物でしょう?
その手を放しなさい。
こんなに都合よく物事が運ぶはずがないわ‥‥‥」
ナターシャは憤然としてカーティスの手を払いのけようとするが、彼はさきほどの最初のカーティスと同じく簡単には離そうとはしなかった。
むしろ、偽物呼ばわりされたことにショックを受けているようだった。
「ひどい主だなあ、ナターシャは。
まだ俺たちはあの呑み込まれた先を滑り落ちているんだぞ?
あんたの心に巣くう怨霊も亡霊もいま死なれたら困るんだよ。
ここは神の世界。
俺たちは簡単に消滅してしまう。
お姫様が死んだらな?」
「消滅ー???」
「そう、消滅だ。
おっと、髑髏のやつ。
俺の外見を勝手に使いやがって。
お前は動くなよ‥‥‥ここは虚無に通じているとはいえ、主はナターシャの心だ。
この子が死んだ瞬間に魂だけを手っ取り早く持ち去ろうと考えたんだろうが‥‥‥」
ふとナターシャの周囲にはカーティスだけではない。
見たことのない百を超す、騎士だの剣士だの、女魔導士だの。
そんな存在がいつの間にか彼女と髑髏の騎士の間を阻むように壁を作っていた。
「ここ、ならな?
死す前はその道で覇者と異名を取った連中もだ、普段はナターシャの中でおとなしくしているしかないが‥‥‥。ここなら、誰もが死せる前の姿に力で自在に戦えるのを失念したんじゃないのか、お前は?」
まあ、誰だか知らんがな?
そのこっそりと言った一言に、ナターシャは確信する。
このカーティスはあの竜王の友人のカーティスだと。
トラブルを呼び込んだり、カッコをつけたまま実は裏付けが無かったりと。
似たもの同士が集まるという言葉があるが、まさしくその通りだとナターシャは妙に納得してしまっていた。
「まあ、無責任な」
その小声での叱責に、周囲から緊迫した雰囲気の中なのに失笑が漏れていた。
「お姫様‥‥‥困るぜ。
一応、こいつらのまとめ役なんだからさ?」
とりあえずは顔を立ててくれ。
そういうこと?
呆れた人、みんなの前でだけ良い外見だけを見せて中身はー‥‥‥
「まるで、エルウィンみたいですね。
わたしは好きではありません。
姫でもなんでもありません。
姫‥‥‥?」
自分でそう言い、ナターシャは辺りを見渡して再度、その意味を知ることになる。
誰もが、彼女を守ろうし、彼女にかしづこうとしていたからだ。
「まるで怨霊のお姫様ね、わたしー‥‥‥?」
「怨霊の、は余計だよ。
あいつらも、あんたの考えや行動に惚れて来てくれたんだ」
来てくれた?
どこから?
わたしがここに引き込まれて、それを助けに来てくれた?
「なぜ?
わたしが死ねば、あなたたちだってー解放されるじゃない」
「あのなー‥‥‥」
カーティスは頭を抱える。
さっきから何度も説明しているのに。
ナターシャが死ねば、自分たちも消滅するのだ、と。
「だって、消滅したくないから助けにくるくらいなら、あの場でずっと待てばよかったのでは?
こんな役に立たない女に、すべてを託さなくても。
あなたたちは、怨霊としてかもしれないけれど、まだ生きれていたはずよ?」
「その怨霊としてが、嫌になったからみんながあなたと契約したのよ。
ナターシャ」
「あなたは‥‥‥どなた?」
自分と同じエメラルド色の髪を持つ綺麗な女性が、ふとナターシャの前にでてきてそう言うが、ナターシャの記憶に彼女の面影はなかった。
ただ、外見が人間とどこかが違っているように見えて、ナターシャは違和感を覚えてしまう。
なんだろう?
この余りにも完璧すぎる外見。
髪色に相応しい奥ゆかしい雰囲気を持つ彼女には、そう丸い耳がなかった。
そして、闇に光るその瞳はまるで獣のように光を反射して見える。
「エル、フ?
森の人?
そうなの?」
その問いかけに彼女は面白そうに微笑むだけだった。
カーティスはまた出てきたのかよ。
そう呆れているし、ナターシャはまるでおとぎ話の主人公に会ったような気分になってしまう。
「さあ、我らが姫。
帰りましょう、あれは単なる幻覚。
この世界ならば、我らがその持ち得る力を以てお守り致します故!」
後から後からやってくる彼女を慕う声が上がり、味方と思える布陣が広がりゆくなかで、ナターシャはだいぶ距離が開いてしまった髑髏の騎士の悲し気な視線が気になった。
殺そうとしていて、アルフレッドをああやって出汁にしてまでナターシャを引き込む気だったはずなのに、なぜそんな悲しそうな目でこっちを見るの?
骸骨の奥には目なんてないはずなのに、なぜかそれを理解できる自分がいた。
どちらかが正しくて、どちらかが嘘を話している?
でも、あの髑髏の騎士の後ろにはアルフレッドが鎖につながれているのは事実だ。
それが目の前にあるのだから、否定のしようがなかった。なら、こうしましょう。ナターシャは、早く戻ろうと勧める、自称、彼女の家臣団に最初の命令を下すことにした。
「皆様、ありがとうございます。
では、皆様のその御自慢の剣技で、わたしの友人を救いだして下さい。
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