78 / 90
第八章 エイジスの蒼い髪
2
しおりを挟む
「カーティス?
そんな名前に聞き覚えはないな」
「えっ?
そんな、だって彼はわたしの代わりに妖魔を退治してその為に剣を必要としていて――。
彼の記憶に、竜王様の王宮の中での会話もありました。
竜王様が必死に止めても彼はまた戻ってくる、と‥‥‥」
ナターシャはカーティスの外観を覚えているだけ正確に竜王に伝えてみた。
しかし、彼は首を振るばかりだ。
「ナターシャ‥‥‥それは幻覚を見せられたのだろう。
怨霊たちも必死だったのだな。
あの剣の鞘にはわたしの身体の一部を使っている。
それを利用して、結界を抜け出るために――エルフの能力が必要だったのだろうな」
「そんな――‥‥‥」
あれほど、騙したことに対して狂おしいほどの後悔を見せたのに?
彼等は騙すだけだったの?
そんな馬鹿な。
そう思いたいが、竜王はカーティスなど知らないと言う。
なんて自分は騙されやすい女なんだろう‥‥‥
「まあ、ここまで戻れたのだ。
今から戻ってもいいが、しかし、やはり虚無の道を行くのはなあ‥‥‥」
「行きません‥‥‥。
せめて、アルフレッドを‥‥‥返してあげてください竜王様。
彼にはなんの罪もないのにわたしは巻き込んでばかりです!!!」
ナターシャは涙する。
自分の非力さ、運の無さ、そして、誰が本当に大事な男性かを知った時。
彼を幸せにする力も縁も、彼の隣にいる資格すらも自分にはない。
そう、理解してしまったから。
「わたしは彼の側にはいれません。
いたいと言えるほど、恥知らずでもありません。
ここまで危険に合わせてしまって‥‥‥許しを請う勇気すらないんです。
それは、失礼ですけど竜王様も理解して頂けると思います」
「そう‥‥‥だな。
わたしにもそれを非難することはできない。
だが、王国はどうするのだ、ナターシャ?
その約束は、まだ果たされてないぞ?」
「約束‥‥‥?
誰とですか?」
これには竜王が面食らっていた。
だって、約束したではないか、怨霊たちともわたしとも、あの水の精霊の馬とも‥‥‥と。
「それは‥‥‥神と交わした約束は契約であり、そんな簡単に無くなるものではないぞ?」
これにはナターシャもあんまりです!
そう食って掛かっていた。
「だって安全に連れて行くからエイジスに行こうと。
そう言われたのは竜王様ではありませんか!!」
「なんだと!?
それは違うぞ、あれは――」
竜王が本気で怒りかけた時。
それを静かにひかせたのは誰でもない、気付いたアルフレッドの声だった。
「あれは違うよ、ナターシャ。
竜王様は行きたくなかったんだよ。
でも、ナターシャが行きましょう!!
ってさ、覚えてない?
あー‥‥‥頭痛い」
「アル!!」
その呼び方にアルフレッドは嬉しい顔をするが、呼んだ当人は恥ずかしさと申し訳なさで後ろにさがってしまって寄ってこない。
はあ、俺から行くのかよ。
まだ痛む頭をさすりながら、アルフレッドはアリアやイフリーテの手を借りて立ち上がり、竜王を見た。
「竜王様、みんな、ごめんなさい。
俺のせいです。
でも、ナターシャ。
行きたいって言ったのはナターシャだよ。
竜王様は、シーナ王妃様に会いたくなかったんだから。
まあ、危険に合わせた罰ですよね、竜王様?
きちんと行きますよね?」
「行きますよね、とお前。
わたしにむかって‥‥‥」
「それは行くべきでしょう、エバーグリーン?
わたしに話したのも嘘にするつもりですか?」
アリアが話に割り込んで来て、竜王は閉口してしまった。
その間にアルフレッドは顔を伏せ、膝を抱えて落ち込んでいる少女の元へと向かう。
「ナターシャ?」
しかし、ナターシャは顔を上げない。
「ナターシャ‥‥‥」
アルフレッドは触らずに、距離もつめない。
ナターシャが自分から顔を上げるのをじっと待っていた。
「どうして‥‥‥?
なんで怒らないの、アル?」
数分?
それ以上かもしれない。
泣きながらどうしていいかわからない少女は不器用に顔を上げた。
「なんでだろね?
怒る理由がないからじゃないかな?
ここにいるのはみんな、子供じゃない。
自分の意思で来てるからね?
まあ、あんなー‥‥‥いい加減な神様でも竜王様なんだから。
行こう?
ナターシャはナターシャの無罪を証明しなきゃ、な?」
「嫌‥‥‥」
少女はぷいっと他所をむいてしまう。
やれやれ、困ったお姫様だ。
アルフレッドは頭を抱えるのだった。
そんな名前に聞き覚えはないな」
「えっ?
そんな、だって彼はわたしの代わりに妖魔を退治してその為に剣を必要としていて――。
彼の記憶に、竜王様の王宮の中での会話もありました。
竜王様が必死に止めても彼はまた戻ってくる、と‥‥‥」
ナターシャはカーティスの外観を覚えているだけ正確に竜王に伝えてみた。
しかし、彼は首を振るばかりだ。
「ナターシャ‥‥‥それは幻覚を見せられたのだろう。
怨霊たちも必死だったのだな。
あの剣の鞘にはわたしの身体の一部を使っている。
それを利用して、結界を抜け出るために――エルフの能力が必要だったのだろうな」
「そんな――‥‥‥」
あれほど、騙したことに対して狂おしいほどの後悔を見せたのに?
彼等は騙すだけだったの?
そんな馬鹿な。
そう思いたいが、竜王はカーティスなど知らないと言う。
なんて自分は騙されやすい女なんだろう‥‥‥
「まあ、ここまで戻れたのだ。
今から戻ってもいいが、しかし、やはり虚無の道を行くのはなあ‥‥‥」
「行きません‥‥‥。
せめて、アルフレッドを‥‥‥返してあげてください竜王様。
彼にはなんの罪もないのにわたしは巻き込んでばかりです!!!」
ナターシャは涙する。
自分の非力さ、運の無さ、そして、誰が本当に大事な男性かを知った時。
彼を幸せにする力も縁も、彼の隣にいる資格すらも自分にはない。
そう、理解してしまったから。
「わたしは彼の側にはいれません。
いたいと言えるほど、恥知らずでもありません。
ここまで危険に合わせてしまって‥‥‥許しを請う勇気すらないんです。
それは、失礼ですけど竜王様も理解して頂けると思います」
「そう‥‥‥だな。
わたしにもそれを非難することはできない。
だが、王国はどうするのだ、ナターシャ?
その約束は、まだ果たされてないぞ?」
「約束‥‥‥?
誰とですか?」
これには竜王が面食らっていた。
だって、約束したではないか、怨霊たちともわたしとも、あの水の精霊の馬とも‥‥‥と。
「それは‥‥‥神と交わした約束は契約であり、そんな簡単に無くなるものではないぞ?」
これにはナターシャもあんまりです!
そう食って掛かっていた。
「だって安全に連れて行くからエイジスに行こうと。
そう言われたのは竜王様ではありませんか!!」
「なんだと!?
それは違うぞ、あれは――」
竜王が本気で怒りかけた時。
それを静かにひかせたのは誰でもない、気付いたアルフレッドの声だった。
「あれは違うよ、ナターシャ。
竜王様は行きたくなかったんだよ。
でも、ナターシャが行きましょう!!
ってさ、覚えてない?
あー‥‥‥頭痛い」
「アル!!」
その呼び方にアルフレッドは嬉しい顔をするが、呼んだ当人は恥ずかしさと申し訳なさで後ろにさがってしまって寄ってこない。
はあ、俺から行くのかよ。
まだ痛む頭をさすりながら、アルフレッドはアリアやイフリーテの手を借りて立ち上がり、竜王を見た。
「竜王様、みんな、ごめんなさい。
俺のせいです。
でも、ナターシャ。
行きたいって言ったのはナターシャだよ。
竜王様は、シーナ王妃様に会いたくなかったんだから。
まあ、危険に合わせた罰ですよね、竜王様?
きちんと行きますよね?」
「行きますよね、とお前。
わたしにむかって‥‥‥」
「それは行くべきでしょう、エバーグリーン?
わたしに話したのも嘘にするつもりですか?」
アリアが話に割り込んで来て、竜王は閉口してしまった。
その間にアルフレッドは顔を伏せ、膝を抱えて落ち込んでいる少女の元へと向かう。
「ナターシャ?」
しかし、ナターシャは顔を上げない。
「ナターシャ‥‥‥」
アルフレッドは触らずに、距離もつめない。
ナターシャが自分から顔を上げるのをじっと待っていた。
「どうして‥‥‥?
なんで怒らないの、アル?」
数分?
それ以上かもしれない。
泣きながらどうしていいかわからない少女は不器用に顔を上げた。
「なんでだろね?
怒る理由がないからじゃないかな?
ここにいるのはみんな、子供じゃない。
自分の意思で来てるからね?
まあ、あんなー‥‥‥いい加減な神様でも竜王様なんだから。
行こう?
ナターシャはナターシャの無罪を証明しなきゃ、な?」
「嫌‥‥‥」
少女はぷいっと他所をむいてしまう。
やれやれ、困ったお姫様だ。
アルフレッドは頭を抱えるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました
鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」
そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。
しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!?
だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。
「彼女を渡すつもりはない」
冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!?
毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし!
さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜――
リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される!
政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー!
「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
婚約破棄された侯爵令嬢ですが、帝国の次席秘書官になりました ――王の隣ではなく、判断を誤らせない場所へ
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として王宮に仕える侯爵令嬢ゼクレテァ。
彼女は華やかな場に立つことはなく、ただ静かに、しかし確実に政務と外交を支えていた。
――その役割が、突然奪われるまでは。
公の場で告げられた一方的な婚約破棄。
理由はただひとつ、「愛している相手がいるから」。
ゼクレテァは感情を見せることなく、その決定を受け入れる。
だが彼女が王宮を去った後、王国には小さな歪みが生じ始めた。
些細な行き違い、遅れる判断、噛み合わない政策。
それらはやがて、国家全体を揺るがす事態へと発展していく。
一方、行き場を失ったゼクレテァの前に、思いもよらぬ「選択肢」が差し出される。
求められたのは、身分でも立場でもない。
彼女自身の能力だった。
婚約破棄から始まる、
静かで冷静な逆転劇。
王の隣に立つことを拒んだ令嬢は、
やがて「世界を動かす場所」へと歩み出す――。
-
婚約破棄された伯爵令嬢ですが、国の経済を掌握しました
鍛高譚
恋愛
「経済を握る者こそ、世界を動かす――」
前世、日本の証券会社で働いていた**瑞穂紗羅(みずほ さら)**は、異世界に転生し、サラ・レティシア伯爵令嬢として生まれ変わった。
貴族社会のしがらみや婚姻政策に巻き込まれながらも、彼女はひそかに動き始める。
「まずは資金を確保しなくちゃね」
異世界の為替市場(FX)を利用し、通貨の価値変動を読み、巨額の富を得るサラ。
次に狙うは株式投資――貴族の商会やギルドに出資し、国の経済に食い込んでいく。
気づけば彼女は、両替所ネットワークと金融システムを構築し、王国の経済を裏から支配する影の実力者となっていた。
そんな中、彼女に公爵令息との婚約話が舞い込む。
しかし、公爵令息は「格下の伯爵令嬢なんて興味がない」と、一方的に婚約破棄。
それを知った公爵は激怒する――
「お前は何も分かっていない……! あの女は、この国の経済を支配する者だぞ! 世界すら掌握しかねないのだ!」
サラの金融帝国の成長は止まらない。
貴族たちは彼女にひれ伏し、国王は頼り、王太子は取り込もうとし、帝国は彼女の影響力に戦慄する。
果たしてサラは、異世界経済の頂点に立ち、さらなる世界の覇権を握るのか――?
今度は、私の番です。
宵森みなと
恋愛
『この人生、ようやく私の番。―恋も自由も、取り返します―』
結婚、出産、子育て――
家族のために我慢し続けた40年の人生は、
ある日、検査結果も聞けないまま、静かに終わった。
だけど、そのとき心に残っていたのは、
「自分だけの自由な時間」
たったそれだけの、小さな夢だった
目を覚ましたら、私は異世界――
伯爵家の次女、13歳の少女・セレスティアに生まれ変わっていた。
「私は誰にも従いたくないの。誰かの期待通りに生きるなんてまっぴら。自分で、自分の未来を選びたい。だからこそ、特別科での学びを通して、力をつける。選ばれるためじゃない、自分で選ぶために」
自由に生き、素敵な恋だってしてみたい。
そう決めた私は、
だって、もう我慢する理由なんて、どこにもないのだから――。
これは、恋も自由も諦めなかった
ある“元・母であり妻だった”女性の、転生リスタート物語。
『婚約破棄された令嬢ですが、王国は私抜きでは立てなかったようですね』
鷹 綾
恋愛
「愛しているのは彼女だ」
王太子ロネスにそう告げられ、婚約を破棄された侯爵令嬢エルゼリア・クローヴェル。
感情をぶつけることも、復讐を誓うこともなく、
彼女はただ――王宮を去った。
しかしその直後から、王国は静かに崩れ始める。
外交は滞り、判断は遅れ、市場は揺れ、
かつて「問題なく回っていた」はずの政務が、次々と行き詰まっていった。
一方、エルゼリアは帝国で新たな立場を得ていた。
帝国宰相ハインリヒ・ヴォルフの隣で、
彼女は再び“判断する側”として歩み始める。
やがて明らかになるのは、
王国が失ったのは「婚約者」ではなく、
判断を引き継ぐ仕組みそのものだったという事実。
謝罪も、復縁も、感情的なざまあもない。
それでも――
選ばれ、認められ、引き継がれていくのは、誰なのか。
これは、
捨てられた令嬢が声を荒げることなく、
世界のほうが彼女を必要としてしまった物語。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる