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第一章 母親の愛情
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「由樹、あんたこれでよかったと思ってるのかい?」
着替えが終わった母さんが、病院の駐車場で僕に話しかけてきた。
「良かったって、結婚が?」
「他に何があるって?」
母さんは、痛む片足をさすりながら言う。
「大丈夫なの?
足」
「いいから。
答えなさい」
僕は母を支えながら、返事を考えた。
「母さん。
僕は、竜とか人間とか。
そんなことはどうでもいいんだ。
ただ」
そこで言葉に詰まってしまう。
「あんた。
まさか」
あー、やっぱり母親は騙せない。
「うん。
だめかな?」
はーあ、と母はため息をつく。
「父さんも。
かっこよかった。
誰もみんながあたしを疎んで、嫌ってたのに。
だからどうした、俺がそう思ったからそう言ったんだって」
親子ってのはどうしてこうも似るんだか。
「カッコ良かったんだ?
だから、結婚したの?」
「そんなことっ」
母さんは少しだけ頬を赤らめる。
「そうなんだ。
へーっ。
だからさ、僕も、だよ。
母さん」
まったく、と母は言う。
「反対はしない。
でもね、本当に楽じゃないよ?
あの人はあたしを貰ってくれたけど。
それは人間って中での話だからね」
と、エミュネスタが不安そうにこちらを見ていることに気づく。
「おいでよ、三人で話そう」
母さんは本当に、偉大だ。
僕は彼女に頭が上がらない。
「はい、お義母様!」
エミュネスタが嬉しそうに寄ってくる。
「いつ来るの?
あなたの家族の迎えは?」
空を見上げては母言う。
エミュネスタは母に抱きしめられて、驚いていた。
「お義母様!?」
「いいだろ?
16歳なんてまだ早いけど。
それでも、娘が出来たんだ。
三人だけの家族なんだからさ」
三人だけ。
その言葉に僕の心は揺れ動く。
「あと少しですわ、お義母様。
もう少しで、門が開きます」
「門?」
母が問い変えす。
「はい、ゲートと言うべきかもしれません。
空間と空間を繋げる門が開きます」
そう、エミュネスタが答える。
母は僕を見た。
くぐったことがあるのか?
そういう顔つきだ。
僕は静かに頭をふる。
「初めてなんだ。
だから、三人で行きたかった。
そう、三人で」
そう、ね。
三人という単語に、母は顔を曇らせる。
あとから深く尋ねることになるであろうその単語に、僕たちはあえて触れないようにしていた。
「来ました」
エミュネスタがそう言うと、駐車場の一角。
ほぼ何もない場所にある一点が、不思議な発光をともなって広がっていく。
それはまるで小さな円が広がっていくようなそんな感じで、やがて僕たち三人が通れるほどの大きさになるとそこで固定されたかのように止まってしまう。
円のあちら側は駐車場の光景ではなく、まるで違う場所を風景を見せていた。
「なにこれ……」
「なんだろ?
亜空間通路?
みたいなものかい、エミュネスタ?」
と、僕は妻の方を見た。
「空間と空間を繋げたものです、だんな様。
さあ、参りましょう。
わたしの一族が住む場所へ」
さ、どうぞ。
と、彼女は僕の手をとって穴の入り口へと足をかけた。
僕は母を補助しようとしたら、母に拒絶された。
「一人で歩けるから。
あんたは母親より、嫁を大事にしな」
えー……と僕は戸惑う。
それをすればエミュネスタは僕を親を大事にしないと責めるだろうし、あちらの両親も良くは思わないだろう。
「いいからさ。
頼むよ。
竜族は古い日本人の考え方に似た文化なんだ。
親を大事にしない夫なんて、ね。
わかってよ」
母さんは、自立した女性だ。
強く、独りで僕を育ててくれた。
その自負が、僕の介助を拒否しようとしている。
でも、今回だけは僕の頼みごとをきいてくれそうだった。
「古いっていつ頃の?」
明治とかあの辺り?
そう尋ねてくる。
僕は首を振った。
「いや、多分。
江戸時代、とか……」
「は?
え、本気なの?」
「うん。
だから、エミュネスタは僕の後について歩くし……」
と、僕は普段の妻の行動を母さんに説明する。
「それって、時代劇みたいなもん?
あんな感じにすればいいの?」
「いやー、それも違うと思うんだけど……」
「違うって……そんな状態でよく結婚とか考えたね、あんた……」
母さんは本当に、呆れたとかそういった類の顔ではなくー。
信じられない、という顔をした。
「いや、本当に、そう思うだろうけど。
でも、エミュネスタは僕をー」
それは言葉にするには余りにも重い。
ここで言えば、拳が飛んでくる言葉だ。
「ねえ、由樹」
「なんだい、母さん?」
「あたしには、あんたが宇宙人に思えてきたよ……」
光栄だね、僕はそう言い返した。
「あの、お辛いですか、お義母様」
エミュネスタは僕が支えている母を見て言う。
歩くのがつらいか、そういう意味だろう。
「まあ、後遺症が残るみたいだから。
仕方ない」
母さんは諦めたように言う。
突然の交通事故。
左足の大半が、複雑骨折していた。
担当医からは、ギブスが外れても後遺症が残るだろうと、そう言われていた。
「わたしたちの病院といいますか、治療する技術を持つものなら、多分、完治できるかと……」
穴を通り抜け、数人のエミュネスタと似た服装を着た竜族に案内されて、僕たちは建物へと入ろうとしていた。
巨大な、都庁よりもはるかに巨大で壮大なその建物は、まさしく、竜族の威厳を見せつけていた。
エミュネスタの申し出を、母さんは喜ばなかった。
「駄目だね、エミュネスタさん。
それをしちゃうとさ、特別になっちゃうんだわ。
わかる?
由樹があなたと結婚したから、あたしの怪我がまるで魔法にかかったみたいに完治した。
周りの人間はどう思う?
それは、由樹にも、あなたにも。
もし産まれるなら孫やその子供たちにも。
いいことにはならないんだよ」
わかる?
と、母さんはエミュネスタに言う。
だけど、生まれながらの王族である彼女、いや、僕の妻はいま一つ理解できないらしい。
「ですが、お義母様。
わたしとだんな様の子供には、王族としての特権がどちらの種族にも与えられますが……?」
そう。
これが、平民と貴族との差、いうものらしい。
いや、違うかもしれない。
普通の日本人?
いや、人間ならどうするだろう?
いや、そうじゃない。
恐いのは世間とかそういう、大きなものじゃない。
特権を、失う連中だ。
血統とか伝統とか。
何よりも権力を維持したいものたち。
人間の王族、とか、ね。
いつの時代にも、権力者はそれを守りたいものだから……。
「そうねー……」
母さんはどう伝えればいいかを迷ってた。
「特権はいいものかもしれない。
でも、それは誰もが欲しがるもの。
そうじゃない?」
「いいえ、お義母様。
特権は選ばれたものにのみ、与えられるべきです。
それを正しく扱える者に」
「正しく扱える者、か。
まるで、夢を見るように現実を見よ、ね。
まったく」
エミュネスタは不思議そうな顔をする。
「夢ですか??
いまは起きていらっしゃいますが……」
母さんは少しだけ笑った。
「引用よ。
昔の、人間の作った世界有数の強大な帝国の皇帝が残した言葉、かな。
ローマ帝国って言うんだけどね。
まあ、いいや」
母さんは何かを諦めたような顔をした。
僕にはこの時、その意味がわからなった。
「で、この先はどうなってんの、由樹?」
と話を僕に振られても……。
長い廊下の先には、すこしばかりの曲がり角がりー。
それを曲がると更に長い、廊下が待っていた。
「はあ……」
そうだよね。
そのため息の意味はよくわかるよ母さん。
その廊下は本来の巨体に戻った竜族になら短い距離だっただろうけど。
僕たち、人間にしてみれば……。
数キロはあるだろう、長い道のりだからだ。
「エミュネスタ、なんとかならないか?
さすがに、母さんが歩くにはこの距離は長すぎる」
ああ、と彼女も気づいたようだ。
「では、これでー」
エミュネスタが手を挙げると、いきなりー。
「えっ?」
「わわっ!?」
いきなり床の一部が競りあがった。
そのまま、円形のそう、まるで浮かぶ円盤のようになった。
「なによこれ???」
さすがに、母さんもこれには驚いたようだ。
「そうですね……。
浮いて移動する床、とでもいいましょうか?」
エミュネスタがとても不思議そうに答える。
「地球にはまだなかった……でしょうか、だんな様?」
僕は困った顔をして答えるしかできなかった。
「そうだね、お前。
多分、人類にこの技術ができるのはあと数世紀はいるかもしれないね……」
と。
「そうですか……。
では、このことは外部には伝えない方がいいですね、だんな様」
「うん、人類には伝えるべきじゃないね。
未知の力をまだ扱えるほどには賢くないよ。
それを……母さんは言いたいんだと思うよ。エミュネスタ」
なぜだろう?
母さんも、エミュネスタも。
二人して悲しそうな顔をした。
お互いに見つめ合って、何かを確かめたいように。
僕のことを見つめていた。
物語のヒーローたちはみんな勇敢で、知識に富んでいて、そして、エリートだ。
僕は、ヒーローにはなれないよ。
エミュネスタ。
お前の笑顔を、できれば母さんの笑顔も。
どちらも守り抜くだけで精一杯だろうから。
「だんな様?」
「え、あ……うん?」
エミュネスタが僕に微笑みかけてくる。
「どうかされましたか?」
「あ、いや。
なんでもないよ。
で、そろそろかな?」
動く円盤に運ばれて、僕たちは通路の行き止まりへとやってきた。
巨大すぎる、扉の前に。
ここまでくると、案内のかれらはいつの間にかいなくなっていた。
そして、エミュネスタがその扉を押すような仕草をするとともにー。
扉は滑らかにそして音もなく、開いていった。
着替えが終わった母さんが、病院の駐車場で僕に話しかけてきた。
「良かったって、結婚が?」
「他に何があるって?」
母さんは、痛む片足をさすりながら言う。
「大丈夫なの?
足」
「いいから。
答えなさい」
僕は母を支えながら、返事を考えた。
「母さん。
僕は、竜とか人間とか。
そんなことはどうでもいいんだ。
ただ」
そこで言葉に詰まってしまう。
「あんた。
まさか」
あー、やっぱり母親は騙せない。
「うん。
だめかな?」
はーあ、と母はため息をつく。
「父さんも。
かっこよかった。
誰もみんながあたしを疎んで、嫌ってたのに。
だからどうした、俺がそう思ったからそう言ったんだって」
親子ってのはどうしてこうも似るんだか。
「カッコ良かったんだ?
だから、結婚したの?」
「そんなことっ」
母さんは少しだけ頬を赤らめる。
「そうなんだ。
へーっ。
だからさ、僕も、だよ。
母さん」
まったく、と母は言う。
「反対はしない。
でもね、本当に楽じゃないよ?
あの人はあたしを貰ってくれたけど。
それは人間って中での話だからね」
と、エミュネスタが不安そうにこちらを見ていることに気づく。
「おいでよ、三人で話そう」
母さんは本当に、偉大だ。
僕は彼女に頭が上がらない。
「はい、お義母様!」
エミュネスタが嬉しそうに寄ってくる。
「いつ来るの?
あなたの家族の迎えは?」
空を見上げては母言う。
エミュネスタは母に抱きしめられて、驚いていた。
「お義母様!?」
「いいだろ?
16歳なんてまだ早いけど。
それでも、娘が出来たんだ。
三人だけの家族なんだからさ」
三人だけ。
その言葉に僕の心は揺れ動く。
「あと少しですわ、お義母様。
もう少しで、門が開きます」
「門?」
母が問い変えす。
「はい、ゲートと言うべきかもしれません。
空間と空間を繋げる門が開きます」
そう、エミュネスタが答える。
母は僕を見た。
くぐったことがあるのか?
そういう顔つきだ。
僕は静かに頭をふる。
「初めてなんだ。
だから、三人で行きたかった。
そう、三人で」
そう、ね。
三人という単語に、母は顔を曇らせる。
あとから深く尋ねることになるであろうその単語に、僕たちはあえて触れないようにしていた。
「来ました」
エミュネスタがそう言うと、駐車場の一角。
ほぼ何もない場所にある一点が、不思議な発光をともなって広がっていく。
それはまるで小さな円が広がっていくようなそんな感じで、やがて僕たち三人が通れるほどの大きさになるとそこで固定されたかのように止まってしまう。
円のあちら側は駐車場の光景ではなく、まるで違う場所を風景を見せていた。
「なにこれ……」
「なんだろ?
亜空間通路?
みたいなものかい、エミュネスタ?」
と、僕は妻の方を見た。
「空間と空間を繋げたものです、だんな様。
さあ、参りましょう。
わたしの一族が住む場所へ」
さ、どうぞ。
と、彼女は僕の手をとって穴の入り口へと足をかけた。
僕は母を補助しようとしたら、母に拒絶された。
「一人で歩けるから。
あんたは母親より、嫁を大事にしな」
えー……と僕は戸惑う。
それをすればエミュネスタは僕を親を大事にしないと責めるだろうし、あちらの両親も良くは思わないだろう。
「いいからさ。
頼むよ。
竜族は古い日本人の考え方に似た文化なんだ。
親を大事にしない夫なんて、ね。
わかってよ」
母さんは、自立した女性だ。
強く、独りで僕を育ててくれた。
その自負が、僕の介助を拒否しようとしている。
でも、今回だけは僕の頼みごとをきいてくれそうだった。
「古いっていつ頃の?」
明治とかあの辺り?
そう尋ねてくる。
僕は首を振った。
「いや、多分。
江戸時代、とか……」
「は?
え、本気なの?」
「うん。
だから、エミュネスタは僕の後について歩くし……」
と、僕は普段の妻の行動を母さんに説明する。
「それって、時代劇みたいなもん?
あんな感じにすればいいの?」
「いやー、それも違うと思うんだけど……」
「違うって……そんな状態でよく結婚とか考えたね、あんた……」
母さんは本当に、呆れたとかそういった類の顔ではなくー。
信じられない、という顔をした。
「いや、本当に、そう思うだろうけど。
でも、エミュネスタは僕をー」
それは言葉にするには余りにも重い。
ここで言えば、拳が飛んでくる言葉だ。
「ねえ、由樹」
「なんだい、母さん?」
「あたしには、あんたが宇宙人に思えてきたよ……」
光栄だね、僕はそう言い返した。
「あの、お辛いですか、お義母様」
エミュネスタは僕が支えている母を見て言う。
歩くのがつらいか、そういう意味だろう。
「まあ、後遺症が残るみたいだから。
仕方ない」
母さんは諦めたように言う。
突然の交通事故。
左足の大半が、複雑骨折していた。
担当医からは、ギブスが外れても後遺症が残るだろうと、そう言われていた。
「わたしたちの病院といいますか、治療する技術を持つものなら、多分、完治できるかと……」
穴を通り抜け、数人のエミュネスタと似た服装を着た竜族に案内されて、僕たちは建物へと入ろうとしていた。
巨大な、都庁よりもはるかに巨大で壮大なその建物は、まさしく、竜族の威厳を見せつけていた。
エミュネスタの申し出を、母さんは喜ばなかった。
「駄目だね、エミュネスタさん。
それをしちゃうとさ、特別になっちゃうんだわ。
わかる?
由樹があなたと結婚したから、あたしの怪我がまるで魔法にかかったみたいに完治した。
周りの人間はどう思う?
それは、由樹にも、あなたにも。
もし産まれるなら孫やその子供たちにも。
いいことにはならないんだよ」
わかる?
と、母さんはエミュネスタに言う。
だけど、生まれながらの王族である彼女、いや、僕の妻はいま一つ理解できないらしい。
「ですが、お義母様。
わたしとだんな様の子供には、王族としての特権がどちらの種族にも与えられますが……?」
そう。
これが、平民と貴族との差、いうものらしい。
いや、違うかもしれない。
普通の日本人?
いや、人間ならどうするだろう?
いや、そうじゃない。
恐いのは世間とかそういう、大きなものじゃない。
特権を、失う連中だ。
血統とか伝統とか。
何よりも権力を維持したいものたち。
人間の王族、とか、ね。
いつの時代にも、権力者はそれを守りたいものだから……。
「そうねー……」
母さんはどう伝えればいいかを迷ってた。
「特権はいいものかもしれない。
でも、それは誰もが欲しがるもの。
そうじゃない?」
「いいえ、お義母様。
特権は選ばれたものにのみ、与えられるべきです。
それを正しく扱える者に」
「正しく扱える者、か。
まるで、夢を見るように現実を見よ、ね。
まったく」
エミュネスタは不思議そうな顔をする。
「夢ですか??
いまは起きていらっしゃいますが……」
母さんは少しだけ笑った。
「引用よ。
昔の、人間の作った世界有数の強大な帝国の皇帝が残した言葉、かな。
ローマ帝国って言うんだけどね。
まあ、いいや」
母さんは何かを諦めたような顔をした。
僕にはこの時、その意味がわからなった。
「で、この先はどうなってんの、由樹?」
と話を僕に振られても……。
長い廊下の先には、すこしばかりの曲がり角がりー。
それを曲がると更に長い、廊下が待っていた。
「はあ……」
そうだよね。
そのため息の意味はよくわかるよ母さん。
その廊下は本来の巨体に戻った竜族になら短い距離だっただろうけど。
僕たち、人間にしてみれば……。
数キロはあるだろう、長い道のりだからだ。
「エミュネスタ、なんとかならないか?
さすがに、母さんが歩くにはこの距離は長すぎる」
ああ、と彼女も気づいたようだ。
「では、これでー」
エミュネスタが手を挙げると、いきなりー。
「えっ?」
「わわっ!?」
いきなり床の一部が競りあがった。
そのまま、円形のそう、まるで浮かぶ円盤のようになった。
「なによこれ???」
さすがに、母さんもこれには驚いたようだ。
「そうですね……。
浮いて移動する床、とでもいいましょうか?」
エミュネスタがとても不思議そうに答える。
「地球にはまだなかった……でしょうか、だんな様?」
僕は困った顔をして答えるしかできなかった。
「そうだね、お前。
多分、人類にこの技術ができるのはあと数世紀はいるかもしれないね……」
と。
「そうですか……。
では、このことは外部には伝えない方がいいですね、だんな様」
「うん、人類には伝えるべきじゃないね。
未知の力をまだ扱えるほどには賢くないよ。
それを……母さんは言いたいんだと思うよ。エミュネスタ」
なぜだろう?
母さんも、エミュネスタも。
二人して悲しそうな顔をした。
お互いに見つめ合って、何かを確かめたいように。
僕のことを見つめていた。
物語のヒーローたちはみんな勇敢で、知識に富んでいて、そして、エリートだ。
僕は、ヒーローにはなれないよ。
エミュネスタ。
お前の笑顔を、できれば母さんの笑顔も。
どちらも守り抜くだけで精一杯だろうから。
「だんな様?」
「え、あ……うん?」
エミュネスタが僕に微笑みかけてくる。
「どうかされましたか?」
「あ、いや。
なんでもないよ。
で、そろそろかな?」
動く円盤に運ばれて、僕たちは通路の行き止まりへとやってきた。
巨大すぎる、扉の前に。
ここまでくると、案内のかれらはいつの間にかいなくなっていた。
そして、エミュネスタがその扉を押すような仕草をするとともにー。
扉は滑らかにそして音もなく、開いていった。
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