竜姫からの招待状

星ふくろう

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第二章 失われた遺伝子

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「ルシアン!」
 僕は剣を収めて義兄に返したよ。
 なんでこんな竜族の政権闘争に僕らが巻き込まれなきゃならないのさ。
「どういうことだ?
 見事に死んで見せるのではなかったのか?」
 あざけるように彼は言う。
 悔しいね。
 同じ力があるなら、思いっきり殴り倒したいところだ。
 だけどいまは抑えておく。
 少なくとも、うちは。
 新竹家は竜族の、どうやらそれも高位の血統の遺伝子を持ってるようだからさ。
 なら、試そうじゃないか。
 その血統の高さ。
 家柄の格式ってやつを吐いてもらうのが一番手っ取り早い。
「エミュネスタ」
「はい、だんな様」
「泣いてる場合じゃないぞ。
 お前、見たくないか?」
 こっちにおいで、と僕は妻を抱き寄せる。
「何をですか?」
 彼女にそっと耳打ちする。
「あの、傲慢な義兄さんの、困った顔だよ」
 エミュネスタは信じられない、という顔をする。
「兄は五氏族でも、勇猛で名の通った男です。
 だんな様が勝てるなど……」
 おいおい、嫁よ。
 そこは少しでも期待してくれよ。
 まあ、いいや。
「誰も直接戦うなんて言ってないだろ?」
「え?」
 どうも、僕は妻を驚かせることが好きらしい。
 頬にキスをした時の、エミュネスタはとても可愛かった。
「なっ、何を……」
「僕の、エミュネスタだ。
 好きなようにするさ。
 なあ、ルシアン」
「おい、そろそろ引き裂いて塵にでもしてやろうかと思っていたところだ。
 人間風情が」
「やっぱり、そうか」
「やはり?」
「人間風情。
 それが竜族の、いや、ホルブ王。
 あなたの氏族の総意ということでよろしいか?」
 黙ってことを推移を見守っていた王が、初めて口を開く。
「いいや、婿殿。
 それは、あの者一人の意見だ。
 友好を求めるのが竜族の総意だよ」
 ほらね、と僕はエミュネスタに再度キスをする。
「ちょっとは信じろよ。
 お前が惚れた男をさ」
 ああ、僕はいつからこんな偉そうなことを言えるようになったんだろ。
 自分でも信じれない。
 ありがとう、僕の中の英雄たち!
「ルシアン、いえ、義兄上。
 ホルブ王はああ申されておりますが、御意見やいかに!?」
 時代劇がかったセリフになっちゃったなあ。
 まあ、いいか。
 彼ら竜族はそれを地でいく文化なんだから。
 母さん、頼むからいまは黙っていてくれよ。
 ここは、ホルブ氏族の王子対別のどっかの氏族の新竹家当主との喧嘩なんだ。
 言ってみれば、ある国の王子と、別の国の国王が喧嘩をしているようなもの。
 立場は、僕が強い。
 そうあってくれと、祈るだけだ。
 まったく、こんな情けない喧嘩なんかないよな、本当に。
 母親は泣かすわ、嫁は泣かすわ、嫁の実家の義兄と喧嘩するわ。
 こんなことは思いたくないけど。
 感謝するよ、これまで読んできた、視てきた全ての主人公たちに。
 ラノベの主役たちにもさ。
 彼らがいなかったら、僕はこんなことはできなかった。
 こんな理不尽な交渉に負けてたまるか。
 勝って帰るんだ。
 立派な宇宙船も、偉大なる仲間も、優秀なクルーもなにも僕の傍にはいないけど。
 母さんとエミュネスタだけは。
 守って帰る。
 あの狭いマンションにさ。
「御意見、か……。
 お前ー」
 と、ルシアンが言うと、ホルブ王が彼を睨んだ。
 敬称をつけろ、とそういうことだろう。
「新竹家当主殿。
 そちらがもたれる血統の、氏族がどこに値するかを知ってこれほどに強気に出られたのか?」
「まさか。
 例え、血統が無くとも。
 こう言いますよ。
 人類はいずれ、竜族に追いつく。
 それが今か、未来か。
 まだ未熟な文明かもしれません。
 宇宙の終わりに至るまで、そちらの比肩することなど叶わないかもしれません。
 それでも、いままで語ったことと同じことを語ります。
 僕はー」
 そうだな、なんて言うべきだろう。
 ここはあれしかないよな。
「人類は学び、成長し、進化のできる存在だと。
 そう信じているからです。
 過去の過ちから自らの可能性を見出せる存在だと。
 現に、いま母は死を選ぶことをやめました。
 これも小さな進歩ではないですか?
 それでも、偉大なる竜族にその名を響かせる、勇者たる義兄上はー」
 ああ、息がつまりそうだ。
 自分を一瞬で消し去れる相手に僕はどれほど無謀な喧嘩を売っているのか。
「まだ、人類風情と。
 妹御が見初めた相手が属する種を、言われますか?」
 さあ、どうでる?
 エミュネスタが心配そうに見ている。
 大丈夫だよ。
 彼が竜に姿を変えて炎で僕を焼いたとしても。
 お前の前から動くことはないから。
 でも、いまは口を挟むな、エミュネスタ。
 お前の帰る場所だけは、残すのが僕の役目だ。
 夫としての、最初で最後の役目になるかもしれないけど。
 あと、ごめん。
 母さん、その時は一緒に死んでくれ。
 まあ、彼らは未亡人の母を妻にめとろうとするかもしれないけど。
 そうなったとしても、あのホルブ王なら……。
「エミュネスタ。
 母さんを頼む」
 本当に彼女にだけ聞こえるように僕は言った。
 すまない。
 最後まで頼らなければいけなくなるなんて。
「はい……由樹」
 うん。
 その名前で呼んでくれることが何よりも嬉しいよ。
 さあ、ルシアン義兄さん。
 黙ってないで、何か言ってくれないと進まないんだけどね。
 高笑いで済ませてくれるような、馬鹿な英雄では、ないよね。さすがに。
「全部、聞こえているぞ」
「え……」
「何が同じことを語るだ。
 まったく。
 最後は我が妹頼みではないか、婿殿」
 ああ、良かった。
 最悪の事態は、回避されたっぽい。
 でも、まだ半分も解決してないけれど。
「ええ、そうですよ。
 義兄上。
 今でも死ねと言われるなら、その剣を御貸し下さい。
 ですが、母には再婚の意思はありません」
「?
 何が言いたい?」
「だってそうではないですか。
 氏族が誇る勇者と聞いてみれば、人間風情と小馬鹿にされる。
 しかし、その人間風情の遺伝子に頼らないといけない何かが、あるのでしょう?
 いまのホルブ氏族。いえ、五氏族に」
「ふんっ」
 苦虫を踏み潰したような顔になった。
 まあ、これの予測は的中、と。
「ですが、それは僕たちには関係ない、そう言いたいだけです」
「関係がない?」
「新竹家は、五氏族間の政変には干渉しません。
 そう言ってるんです。
 母の麻友が、再婚しないことと、エミュネスタを僕が妻に迎える。
 これを条件として、我が一族への不干渉を約束して頂きたい」
 あー言えた。
 あ……。
 なんか一名、めっちゃ僕をにらみつけてる存在が……。
 母さん、恋人とかいたりしないよね……? 
 まあ、いっか。
 とりあえず、無視することにした。
「一族、と言ったか?」
「一族です」
「だが、いまそちらの家族は二名だけだろう?」
「いいえ。
 僕には兄がいます。
 彼と、彼を含めた一族にも。
 不干渉を」
「ふむ……」
 どうにかなりそうかな、と思った時だった。
 予想外の行動を母さんが取ったのは。
 テーブルの上の剣を手にすると、それを鞘から抜きー。
「お義母様!???」
 あれだけ長かった髪を根元からばっさりと。
 それはもう、見事にばっさりと。
 女の命を……。
 切ってくれたんだ。
 本当に、予想外だったよ、母さん。
「あーもうめんどくさい!
 はい、これ!!!
 あんた、ルシアン?!」
「あ、ああ……」
「これ、返すわ。
 あと、遺伝子欲しいならこんだけ髪ありゃ、培養なりなんなりして、そっから取り出しゃいいでしょ?
 うちの馬鹿息子と、可愛いエミュネスタちゃんは連れて帰るからね。
 文句ある!??」
 うん。
 人類最強は、僕の母さんかもしれないね。
 帰ったらどんな虐待が待ってるかな。
 エミュネスタを見たら、彼女も不安そうな顔になってた。
「な、怖いだろ?」
「はい、とても」
 と、夫婦でヒソヒソやってたら聞かれてた。
「あんたたち。
 帰ったら、話あるからねー」
 はい。
 もうね、僕の当主とか、さ。
 そんなもん、全部掻き消えちゃった。
 あーあ、ピカード艦長みたな名交渉だったのに。多分、ね。
「文句はないが……。
 どこまでを受けれ入れればいいのだ?」
 あ、それはそうだよね。
 提案がかなり多かったから。
 そりゃ、そうなるよね。
「あたしは再婚します!!!!
 あと、うちの可愛いエミュネスタちゃんに手だしはだめ!
 あの馬鹿!」
 と、僕を指差す。
「あれなら好きにしていいわ。
 あんた勇者なんでしょ?
 死なない程度に鍛え上げてみたら?
 ひょっとしたら、もう一段上の何かに進化するかもよ?」
「母さん!?」
「お義母様!!!???」
 冗談……じゃない。
 エミュネスタと見つめ合い、義兄を見た僕をー。
「そうか。
 ならば是非、進化して頂こう。
 なあ、婿どの???」
 ルシアンがとっても意地悪そうに笑いながらそう言ってくれたよ。
「そんな、だんな様が死んでしまいます!!!」
「いいんじゃないの?
 どっちにしても、あの子の言ってたことは始まるわよ、エミュネスタちゃん」
「始まるって……」
「人間による、人間狩り、よ。
 もう始まってるかもね。
 あたしのこの怪我だってそうかもしれないし。
 いーじゃない。
 あんた、惚れた男が更に強くなるとこ、見たくないの?」
 これはエミュネスタの心を痛く刺激したらしい。
「見たいです!!!!」
 おい!
 嫁!
 そこ、見たいです! じゃ、ないだろ!?
 はあああ……。
「わかりました……。
 いずれまた、挨拶に伺います。
 ルシアンお義兄様」
 どうぞよろしくお願い致します。
 そう言って、深々と頭を下げるしか僕にできることはもう無かったよ。
 そうして、僕たちは竜族の王宮を後にした。
「結局、母さんの一人勝ちじゃないか……」
 夫の権威なんてどこに行ったものやら。
 エミュネスタは完全に母さん陣営に取り込まれてしまったし。
 はあ……。
 僕の決死の演説は何だったんだろ。
 母さんは遠慮なく、例の円盤の上で松葉杖の先端で僕の足をゲシゲシっと突きまくるし。
 ルシアンからは、毎週来い、鍛えてやる。
 竜族なりにな、と宣言されるし。
 エミュネスタは、あちら側の御両親に抱きしめられて幸せそうだったからそれは良かったけど。
 僕の思想や行動は、どうやら義父には心地よかったらしく……。
 妻として務めに励むように言われたらしい。
 竜族なりの作法で。
 もう何世紀も前のやり方になるんだろ、これから先。
 僕にはもう、ため息しかなかったよ。
 さすがに、あれだけカッコつけた後だから。
 二人の前ではつかなかったけどね……。


 エミュネスタと暮らすようのマンションは勿論、母さんが乗り込んできた。
 古いアパートを解約して。
 新婚生活どころじゃないよ。
 まったく。
 とんだ一日だった。
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