竜姫からの招待状

星ふくろう

文字の大きさ
10 / 30
第二章 失われた遺伝子

4

しおりを挟む


「おい、起きろ!」 
 乱暴なその一撃が僕の静かな静かな。
 そう、それは平和な朝の安眠をぶち壊してくれた。
 ベッドに寝ている僕の腹部への、多分、松葉杖の一撃。
 犯人は確認するまでもない。
 そう我が母、新竹家の当主……。
 新竹麻友、36歳である。
 (一応、シングルマザー)
「母さん、なんでそう乱暴なのかな?」
 部屋の扉に鍵をかけることを、忘れていたようだ。
 ということは、隣にいるのがバレてるな。
 さっきのはそれに対する一撃か。
 なるほど。
「うるさい!
 まったく、16歳で女を連れ込もうなんて百万年早いんだよ!」
 と、再度、僕を小突こうとするからその先を掴んでやる。
「うるさいの、母さんでしょ?
 もう、僕たち夫婦なんだけど?」
 そう、隣には愛妻のエミュネスタが。
 あれ?
「ばーか。
 エミュネスタちゃんなら、昨日の夜、あんたが寝た後にあたしと寝たのよ」
 へえーー
 裏切ったな、我が妻よ。
「鍵開けたの、エミュネスタかよ……」
「そうそう。
 まだルシアンに勝てないあんたには、身体を預けたくないそうよ?」
「身体って!?
 そんなこと考えてないよ!」
「へーえ。
 さっきは夫婦だのなんだのと言ってたの誰だった?」
「いや、僕だけどさ。
 なんか、昨日の一件から僕の扱いひどくない?」
「そりゃそうでしょ。
 未成年者がしかも高校生で、親に無断で婚約するわ、国が特例認定したとはいっても入籍するわ。
 可愛いエミュネスタちゃん連れてくるわ……これは、まあ、いいわ。
 あたしの見せ場を勝手に潰してみなよ、これ」
 ほら、と腰まであった豊かな茶髪がボブ・ショートになったと見せつけてくる。
「いや、それしたの自分でしょ?」
「させたのあんたでしょ?
 しかも、親に手を挙げる始末……」
 虐待、という言葉は我が家には適用されないのだろうか?
「それは謝るけど。
 行き当たりばったりで、殺してくれ、とか言い出したの母さんだよね?」
 うっ、と目線を逸らす我が母。
「仕方なく、僕がない知恵振り絞って、エミュネスタを泣かせてまでどうにかしようとして。
 自分で髪の毛ぶった切ったんでしょ?
 ほとんど、勢いであの場を収めて、しかも……ルシアンに僕を売り渡してさ。
 で、僕がこんな朝を迎えなきゃいけないのかな?」
「でも、最初にあたしに言いに来るべきだよね?
 せめて、結婚させてください、とあちらから頭を下げにくるのが筋でしょ?」
 それは本当に、言い訳のしようがない。
 正論だ。
「ごめんなさい、とは言わないよ」
「何その傲慢な態度。
 由樹、あんたいつからそんなになったの?」
「傲慢じゃないよ……。
 母さんだって言ってたじゃないか。
 人類による人類の狩りが始まるって」
「そりゃ、言ったけどさー」
 母さんは面白くなさそうな顔をして、どっかとベッドに腰かけてくる。
「いつから、そのことを考え付いたのさ。
 まさか、エミュネスタちゃんに会った時から、とか言わないよね?」
 あんたそんなに頭が回る子じゃないとあたしは思ってたんだけど?
 そう母さんは言う。
 そりゃ、そうだよ、母さん。
 僕だけなら、こんな知恵なんて出ないよ。
「一晩」
「ん?」
「エミュネスタが来た日の夜に、一晩中考えた。 
 いままで使ったことのないくらいに、考えたよ。
 何もできないってのが、結論だった。
 僕には、何もできないってのが、さ」
「由樹ー?
 あんた何言ってるかわかってんの?
 何もできないってのがわかったのに、なんでエミュネスタちゃん受け入れたの?」
「断られたら、一族を追放されるなんて言われて、僕が断ると思う?
 それが逆にできるって母さん、言える?」
「そんな経緯だったんだ?」
「うんー」
「なら、追放されてから、受け要れたらよかったのに。
 あんた、馬鹿だねー」
「え……?」
 母さんは横に松葉杖を揃えて放り出すと、ベッドの上にあおむけに倒れこむ。
「痛いよ……」
 彼女の頭部が当るのは、僕の腹部だ……。
「全部無くした哀れな女を仕方なく引取りました、だったらあんたヒーローじゃん。
 大好きなラノベの主人公になれんじゃないの?」
「いや、それ悪役じゃない?」
「そうでもないでしょ?
 断って、追い返して、エミュネスタちゃんはあの王様夫婦から国外追放されて。
 行くとこ無くなって、あんたはあのルシアンに殴られてさ」
「いや、ちょっ……」
 何勝手に話作ってるんだよ……母さん。
「で、力でかなうわけ無いルシアンにぼっこぼこにされてるあんたを、侍女とか、そうねえ。
 ……幼なじみの同級生の女の子とかさ。
 こう、土砂降りの雨の中を行く当てもなくびしょ濡れになったエミュネスタちゃんをさ。
 その誰かが見つけてさ。あんたが大変なの、なんで縁談なんか持ち込んだのー!
 とか言って怒る訳さ。あたしの方が好きなのにって言わせるか、由樹君がルシアンに挑発されて戦ってる!!!
 そんな感じにセリフ言わせて」
「あのー母さん……」
「で、そこでエミュネスタちゃんがわたしのせいでーー
 みたいな感じで何でルシアンにあんたが殴られてるかを聞くわけよ。
 そしたら、その幼なじみがこういう訳さ。
 なんであんたを受け入れないで返したかわからないの?って」
「はいはい、それで?」
「幼なじみは涙と雨に濡れながらエミュネスタちゃんを責めるのよ。
 人間社会は醜いんだ、あんたを受け入れたら、幸せにしてあげれないからだって」
「ふーん……」
 母さんは、うつぶせに、僕の上になると続けて言う。
「差別と興味と恐怖の視線と、周りからの反応にー」
「反応に?」
「あなたを失望させたくなかった。
 人間を嫌いになって欲しくなかったから!
 だから‥‥‥由樹くんはっ!!!!」
「母さん……」
「あなたを返したのよ!
 でもあなたが追放されることがわかっていたから、その責任を取るためにいま殴られてるんだって。
 下手したら、命と引き換えにあなたを一族に戻させるって言ってるかもしれない!
 なんで、なんであんたなんか、来なきゃよかったのに!!!???」
 と、母さんは拳を握りしめて一人、独演会を始めてる……。
「はいはい、それで?」
「で、エミュネスタちゃんはそれを聞いて、竜に化けるか魔法使うかわからないけど。
 あんたとルシアンの元に行くのよ。
 そこで、幼なじみが言ったこととほとんど同じことを言うあんたを、影から見るわけさ」
「そこは本当にいい見せ場になると思うよ……」
 僕はもうボロ布みたいになってるだろうけどね。
 現実なら。
「で、ルシアンのセリフよ。
 なら、その命を賭けてみるかってさ」
「で、僕はこう言うんだろ?
 ああ、賭けてやるよ。
 だけど、彼女の一族への復帰が条件だって」
「そうそう、で、ルシアンの怒りを買うわけだ。
 お前が受け入れていたら、妹が悲しむことはなかったってさ」
「でも、僕は言わないんだろ?
 人類がどうこう、とかさ。
 ただ、約束しろ、くらいしか」
「まあ、あんたが好きな時代劇とかアメリカのあれ、何だっけ?
 SFのドラマの提督ならそうするんじゃない?」
 そこは少し違うよ、と僕は訂正する。
「時代劇の主役なら、多分そうするけど。
 提督たちなら……もっと言葉を選ぶだろうね。
 両種族のためになる言葉を。多分」
「ふーん……。
 で、あんたはルシアンの最後の一撃を受けそうになったところでー」
「エミュネスタが登場するんだろ?」
「そうそう。
 エミュネスタちゃんはー」
「お待ちください、お兄様。
 この方に、由樹様に手出しは許しません、ってわたしなら言います、お義母さま」
 とここで我がドラゴンプリンセスの登場。
 部屋の入口でセリフが流れ出す。
「お前」
「エミュネスタちゃん。こら、由樹。
 あんたは、まだお前なんてあの子を呼べる身じゃないだろ!」
 と、額に頭突きされる。
 なんでこう手が早いんだ、うちの母親は……。
「いいんです、お義母さま。
 わたしがだんな様にそう言って頂きたいのです」
 ベッドの傍にしゃがみ込む、僕のエミュネスタ。
「あらら、いまそんなに甘やかしてたら、後から大変だよ?
 この子、亭主関白になるから」
 意地悪く母さんが言う。
 だけど、うちの嫁はー。
「それで、わたしがいいんです。
 それでこそ、だんな様ですから」
 はあ……
 母さんは大きいため息をついた。
「で、さっきの続きは?」
 そうですねー、とエミュネスタは僕を見て少し考えてから。
「お兄様には到底かないませんけど。
 でも、身を張って戦いますかね……だんな様を守りたいから」
「それでさ。
 由樹が目覚めさせるんだよ。
 眠っていた先祖の力を」
「それは都合が良すぎでしょ、母さん」
「だって、今時のアニメとかならこんなもんでしょ?
 軽いノリで無双とか無敵に近い力を瞬間的に発動させてー」
「ルシアンお兄様は、敗北するわけですね?」
 そうそう、よくわかってんじゃん!
 と母さんはおおはしゃぎだ。
「でもだんな様は動けなくなってますから、わたしが抱きしめてあげてー」
 おい、ちょっと待て。
「え、僕が抱きしめる場面でしょ、そこ?」
 僕の抗議は二人に無視されて、母さんがまた主導権を握ろうと話出す。
「それでもいいかもしれないけど
 それでこう言うんだよ。こんな情けない男でも、嫁に来てくれるかい?
 幸せにできるかどうか、わからないけどって」
 あら、とエミュネスタは意外そうな顔をする。
「だんな様、そこは僕が必ず守ってみせるから。
 一緒に、御両親にご挨拶に行こうって」
「あらーエミュネスタちゃん。
 だめだって、こいつそこまで男気ないから」
 と、母さんが僕をコケ降ろす。
「そんなことないですよ、お義母さま!
 だんな様は必ずそう言って下さいます!」
「いやいや、そんなことないって。
 ねえ、由樹?」
 母さんが顔を近づけてきた。
 ああ、面倒くさい!
「そんなことありますよね、だんな様!?」
 お前もかよエミュネスタ!!!
 二人の大蛇に睨まれてる気分だよ、まったく……。
「僕は、どっちも言わない」
 そう言うと、二人は呆れた顔と悲しい顔を同時に浮かべた。
「えー!!!!
 あんたそんなセリフも言えない訳?!」
「ひどいですわ、だんな様!
 わたし、身を挺してお守りしたのに!!!」
 いや、それ物語の中の話でしょ……。
「僕なら、こう言う」
「へーなんて言うのさ」
「聞きたいです」
 本当に、反応のいい二人だよ。
 いつからそんなに仲良くなったのさ。
「すまなかった。
 最初は守ってやれる自信がなかったんだ。
 でも、これからは違う。
 謝るよ。こんな僕でも良ければ、結婚してくれないかってさ」
 精一杯、カッコつけてやった。
 だけど、二人の反応はまるっきり良くなかった。
「はあ?
 それアメリカ映画のラストじゃん。
 アニメやラノベじゃないでしょ!?」
「ラノベの主人公になった気はないよ」
「でもさあ、流行りってやつがーねえ、エミュネスタちゃん?」
 と、相槌を求めるように母さんはエミュネスタを見る。
「そうですねえ……。
 だんな様にはもっと男らしくなって頂きませんと」
「なら、あれだね」
 嫌な予感がする。
「はい、お兄様に今すぐにでも連絡をー」
 ほら来た。
 なんて固い女の結束。
「あーもう、いいよ。
 わかったから!!!
 母さんどいて!
 エミュネスター」
 と、僕は母さんをごろん、と押し退ける。
「はい、だんな様」
「とりあえず、朝ごはんにしようか」
 渋々と会話を終わらせられた母さんとエミュネスタはそれに従ってくれた。
 はあ……。
 僕はため息をつく。
 さっきの物語の内容なら、僕は最終話では命を失うか、孤独に全部を無くすか。
 どちらかしか選択肢がないのを、二人はまだ読めないんだろうな。
 どちらにせよ。
 その小姑、要注意につき、だね……。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

処理中です...