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第三章 竜の系譜
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「いきなりどうなさいました、だんな様?」
と、エミュネスタはきょとんとした顔をしてみせる。
「どうしたも、なにも。
お前。毎朝、毎晩のあの会話で僕がなにも気づかないと思ってるの?」
彼女はにっこり、と。
そう、最初の時よりもさらに魅力的な笑顔で答えてくる。
それはもう満天の笑顔で。
その下に、その豊かな青い髪と群青色の瞳とは真逆の炎を称えて。
たぶんね。
「お義母様には、良くして頂いているとは……思っています。
兄や、他の氏族の家庭ではうまくいっていないとも、聞いてますから……」
ふうん。
竜族のなかでもいろいろな情報網があるわけだね。
僕とほぼいつも一緒にいるのに、いつ連絡を取り合ってるのか。
そこはいまは聞いたら駄目なんだろうなあ。
でも、気にはなるよね?
そこで僕はこういう意地悪な手を使うんだ。
「お前、ちょっとおいで」
エミュネスタの顔が笑みでほころぶ。
僕が二人きりの時にこう切り出したら、それは僕の膝上に座ってもいいよ。
そういう暗黙の了解が出来ているからだ。
その先に何をするかは。
まあ、想像にお任せしますけど。
イスに座る僕の膝上で、背丈が僕より高い彼女は目線的には上から見下ろすようになる。
それは女性としてはあまり心地が良いものではないらしいけど。
僕としては逆に丁度いい。
なぜなら、竜族は女系社会。
なら、上から見下ろすことを許したって、本能的には嬉しいはずだ。
そう思ったからだ。
案の定、エミュネスタはこの扱いがお気に入りらしい。
だから、彼女と詳しい話をする時は僕はいつもこうする。
え?
卑怯だって?
そんなことはないよ。
まあ、少しだけ、ずる賢い気はするけどね。
「僕は人間だからさ、竜族の辛さにはもしかしたら、慣れることは難しいかもしれないね?」
背中から抱きしめながら、僕は妻にそう言う。
でも、きちんと完食する。
そういった食事を数日、続けてからの切り出しだけど。
いきなり、無理!
って突っ返したら、それは単なる人間の都合だからさ。
「やはり、そうですか……」
エミュネスタは少し残念そうに笑う。
「もしかして、竜族の宮廷料理には、辛い味付けしかないの?」
え?
と、エミュネスタは不思議そうな顔をする。
「なぜですか?」
「うん。
竜族の発祥の地がどこなのかは、僕にはわからないけどね。
もしかしたら、最初の種族としての勢力が小さい頃があったのかな、と。
そう思ってさ」
うーん、とエミュネスタは頭に竜族の歴史の振り返りをしているようだ。
「あまりにも古すぎて、まだだんな様と年齢の変わらないわたしには実感がありませんが」
おや、話が長くなるかな?
「はるかな古代。
もう、数万年も昔のことですね。
祖先は、最初の土地のとある惑星から渡ってきた。
と、言われています」
「数万年か。
それは長い歴史だね」
「はい。
異世界から渡ってきた時、祖先たちは二人だけだったと。
その時には、いまの様な宇宙や世界を渡る能力はなく。
単なる人に近い存在だったと」
「そうなの?
あんなに……」
大きくて勇壮な姿が、本当の姿なのに。
そういえば、僕は妻の、本当の姿を見たことがまだなかったな。
「ねえ、エミュネスタ」
あら、といった顔をエミュネスタがする。
僕がねえ、と切り出す時は二つ。
こうしなさい、という指示を裏にもたせた問いかけか、単純に甘える時だけだ。
今回は後者。
たまには、といってもまだ出会って一週間にもならないけど。
純粋に甘えてみることにした。
「お前の本当の姿は、いつ僕に見せてくれるんだい?」
「えっ?」
それは、どちらの本当の姿ですか?
と、妻は問い返してくる。
あれ、困ったな。
そんな回答は想定外だった。
「そうだね、お前。
竜としての、姿を見てみたい」
「えっっっ!?」
「駄目かい?
僕の本当の姿は、いま見たままの状態なんだけど」
「今ですか?」
「え……。
いや、今すぐとは言わないけれど」
「王宮のある空間以外ですと。
その……」
「その?」
なぜか困った顔の我が愛妻。
「ここで戻りますと、建物を壊してしまいますし」
「まあ、そうだよね」
「戻るときは、衣服を着ていないわけですし」
「えっと……。
竜族の群れが空を覆いつくした時のニュース画像では、ねえ?」
この、ねえ。は、答えが裏側にある方のねえ、だ。
「あれは、外皮できちんとしたものをー……」
ああ、そうなんだ。
それは無知でごめん。
「そうなんだね。
なら、駄目だな。ごめんよ、エミュネスタ」
そう言うと、だいたい彼女はムスッとした顔をする。
「夫として命じたりはしないのですか?」
「命じないだろ、いつかはその外皮をまとった姿を見てはみたいけどね。
ぼくたちはいまの姿でしか、愛せないのかい?」
「だんな様は、ほんとうに意地悪い……」
「うん。そうだね。
人間にはそう言った無理矢理を好む男性もたくさんいるよ。
少し前に、ほら、母さんが始めた義兄さんと僕の戦い妄想の話があっただろ?」
ああ、とエミュネスタは不思議そうな顔をする。
「あの、だんな様がお義兄様に勝たれる話ですねー。
わたしの欲しかったセリフを言ってくださらなかった……」
あ、しまった。
微妙に地雷を踏んだ気がする。
「そ、それはまあ、さておいてだね。
あの系統の話の小説をライトノベルで描いていくと、だね……」
あ、話を中断された。
とエミュネスタは面白くなさそうだ。
ごめんな、妻よ。
僕にも男のプライドがあるんだ……。
「へえ、ライトノベルですか。
ラブコメとかが人気だそうですね、わたしもいろいろと読みましたけれど」
「あれ?
そうなの?」
「あの図書館の本は、ほぼすべて読みましたから。
と、いうよりは、あの」
ああ、あの龍朱ね。
「あれで、この中には入っています」
と、角がある部分を指差す。
そこが記憶を司る部分なのかな???
「でもあれですね、だんな様。
この展開だと、主人公が無理矢理命じるか、わたしが恥じらいながらお見せするか、もしくは……」
「もしくは?」
「誰か第三者が乱入してきて」
と、エミュネスタが玄関を指差す。
「この流れは終わり、ですかね?」
なるほど。
「じゃあ、第四の展開はなしかい?」
「第四?」
「うん。第四の選択肢」
エミュネスタが少し不思議そうな顔をする。
「第四の選択肢とは?」
「こうするの」
と、僕は静かに彼女に顔を近づけた。
何をしたかって?
そこはご想像に、ね?
さて、僕は本題を切り出すことにした。
「実はね、隣にもい一つ、部屋を借りようと思うんだ。
とは言っても、政府にまたお願いしないといけないんだけど。
どう思う?」
「え?」
「僕は、親子が一緒に暮らせることに不満はないよ?
でも、ここは僕の名義だから。お前にも、不満はあるんじゃないかなって?」
どうだい? と尋ねてみた。
そしたら、うちの竜嫁もとい、ドラゴンプリンセス。
やっぱり不満がたくさんあったみたい。
「今日は、母さんは夜まで帰ってこないから。
本当は理解してあげれてない僕が悪いんだけど。
良かったら、教えて欲しいな?」
そこまで言って、ようやく話始めてくれた。
「あの、だんな様。
いえ、由樹。
由樹はもう、新竹家の当主なんです。ここは由樹の城なんです。
わたしは由樹の家のものです。
でも、お義母さまは……」
やっぱり。
「僕を子供のように扱う?」
「……はい」
「好きじゃないんだ?」
「……少しだけ」
「嫌?」
「はい」
「そっか」
ごめんな、エミュネスタ、と僕は彼女を抱きしめる。
「竜族は女流家系なんだよね?
でも、当主を立てるのが一族の習わしだから。
日本も昔は、当主を立てるって意味では同じだったんだけど。
100年くらい前からいろいろと変わったかな。
母さんは目上の人を立てるって世代だから、どこまで行ってもその意味ではすれ違いになると思う」
「だから、新しい部屋を?」
「うん。食事とかは一緒でもいいけどね。嫌かい?」
いいえ、とエミュネスタは首を振る。
ただ、それを素直には喜べないようにも、僕には見えた。
「由樹はわたしを優先しすぎてはいませんか?
お義母様はそれを、喜んではくださらないと思います。
また、お二人が喧嘩になるのは」
「辛い?」
「はい」
「じゃあ、どうしようか?
三人で暮らす間、僕は一人で食事しようか?
エミュネスタが僕のを作って、竜族は妻が夫の食事を補助というかさ。
日本人的に言えばご飯を装ったり、おかわりを用意してするだろ?」
「そうですね」
「僕は君と二人で席を共にするけど、僕だけが食べるから。
その間に、母さんにお前と母さんの分を作ってもらえばいいよ。
それで、二人で同じ食事をするといい。
そうすれば、僕はエミュネスタの食事を楽しめるし、エミュネスタは母さんと二人で仲良くできるだろ?」
これは、とても微妙な申し出だったらしい。
「三人で上手くいく方法はないのでしょうか?」
「うーん。
君に不満ばかり言わせてもだし。母さんは僕にだけ言うより三人の目の前でいうだろうね。
僕は、お前と母さんには、二人だけで不満を言い合える仲になって欲しいね」
「つまりー……。
わたしにお義母さまへの対応を変えろと。
そう、由樹は言いたいのですか?」
「竜族のやり方を曲げろ、とは言ってないよ?
ただ、少しだけ二人の。
母さんとエミュネスタの視点をお互いに変えて欲しいだけ、かな?」
出来るかい?
と、僕は妻の角をーー。意外にも柔らかいそれを撫でてやる。
それをされると安心できると、言うからそうしてるんだけど。
正しいかどうかは、僕にはわからないけどね。
竜族のマナー的に。
エミュネスタのはとてもとても、不満はあるようだったけど。
「二人の不満は、二人でね、話をしてみようか?」
という、僕の提案に渋々、頷いてくれたのだった。
と、エミュネスタはきょとんとした顔をしてみせる。
「どうしたも、なにも。
お前。毎朝、毎晩のあの会話で僕がなにも気づかないと思ってるの?」
彼女はにっこり、と。
そう、最初の時よりもさらに魅力的な笑顔で答えてくる。
それはもう満天の笑顔で。
その下に、その豊かな青い髪と群青色の瞳とは真逆の炎を称えて。
たぶんね。
「お義母様には、良くして頂いているとは……思っています。
兄や、他の氏族の家庭ではうまくいっていないとも、聞いてますから……」
ふうん。
竜族のなかでもいろいろな情報網があるわけだね。
僕とほぼいつも一緒にいるのに、いつ連絡を取り合ってるのか。
そこはいまは聞いたら駄目なんだろうなあ。
でも、気にはなるよね?
そこで僕はこういう意地悪な手を使うんだ。
「お前、ちょっとおいで」
エミュネスタの顔が笑みでほころぶ。
僕が二人きりの時にこう切り出したら、それは僕の膝上に座ってもいいよ。
そういう暗黙の了解が出来ているからだ。
その先に何をするかは。
まあ、想像にお任せしますけど。
イスに座る僕の膝上で、背丈が僕より高い彼女は目線的には上から見下ろすようになる。
それは女性としてはあまり心地が良いものではないらしいけど。
僕としては逆に丁度いい。
なぜなら、竜族は女系社会。
なら、上から見下ろすことを許したって、本能的には嬉しいはずだ。
そう思ったからだ。
案の定、エミュネスタはこの扱いがお気に入りらしい。
だから、彼女と詳しい話をする時は僕はいつもこうする。
え?
卑怯だって?
そんなことはないよ。
まあ、少しだけ、ずる賢い気はするけどね。
「僕は人間だからさ、竜族の辛さにはもしかしたら、慣れることは難しいかもしれないね?」
背中から抱きしめながら、僕は妻にそう言う。
でも、きちんと完食する。
そういった食事を数日、続けてからの切り出しだけど。
いきなり、無理!
って突っ返したら、それは単なる人間の都合だからさ。
「やはり、そうですか……」
エミュネスタは少し残念そうに笑う。
「もしかして、竜族の宮廷料理には、辛い味付けしかないの?」
え?
と、エミュネスタは不思議そうな顔をする。
「なぜですか?」
「うん。
竜族の発祥の地がどこなのかは、僕にはわからないけどね。
もしかしたら、最初の種族としての勢力が小さい頃があったのかな、と。
そう思ってさ」
うーん、とエミュネスタは頭に竜族の歴史の振り返りをしているようだ。
「あまりにも古すぎて、まだだんな様と年齢の変わらないわたしには実感がありませんが」
おや、話が長くなるかな?
「はるかな古代。
もう、数万年も昔のことですね。
祖先は、最初の土地のとある惑星から渡ってきた。
と、言われています」
「数万年か。
それは長い歴史だね」
「はい。
異世界から渡ってきた時、祖先たちは二人だけだったと。
その時には、いまの様な宇宙や世界を渡る能力はなく。
単なる人に近い存在だったと」
「そうなの?
あんなに……」
大きくて勇壮な姿が、本当の姿なのに。
そういえば、僕は妻の、本当の姿を見たことがまだなかったな。
「ねえ、エミュネスタ」
あら、といった顔をエミュネスタがする。
僕がねえ、と切り出す時は二つ。
こうしなさい、という指示を裏にもたせた問いかけか、単純に甘える時だけだ。
今回は後者。
たまには、といってもまだ出会って一週間にもならないけど。
純粋に甘えてみることにした。
「お前の本当の姿は、いつ僕に見せてくれるんだい?」
「えっ?」
それは、どちらの本当の姿ですか?
と、妻は問い返してくる。
あれ、困ったな。
そんな回答は想定外だった。
「そうだね、お前。
竜としての、姿を見てみたい」
「えっっっ!?」
「駄目かい?
僕の本当の姿は、いま見たままの状態なんだけど」
「今ですか?」
「え……。
いや、今すぐとは言わないけれど」
「王宮のある空間以外ですと。
その……」
「その?」
なぜか困った顔の我が愛妻。
「ここで戻りますと、建物を壊してしまいますし」
「まあ、そうだよね」
「戻るときは、衣服を着ていないわけですし」
「えっと……。
竜族の群れが空を覆いつくした時のニュース画像では、ねえ?」
この、ねえ。は、答えが裏側にある方のねえ、だ。
「あれは、外皮できちんとしたものをー……」
ああ、そうなんだ。
それは無知でごめん。
「そうなんだね。
なら、駄目だな。ごめんよ、エミュネスタ」
そう言うと、だいたい彼女はムスッとした顔をする。
「夫として命じたりはしないのですか?」
「命じないだろ、いつかはその外皮をまとった姿を見てはみたいけどね。
ぼくたちはいまの姿でしか、愛せないのかい?」
「だんな様は、ほんとうに意地悪い……」
「うん。そうだね。
人間にはそう言った無理矢理を好む男性もたくさんいるよ。
少し前に、ほら、母さんが始めた義兄さんと僕の戦い妄想の話があっただろ?」
ああ、とエミュネスタは不思議そうな顔をする。
「あの、だんな様がお義兄様に勝たれる話ですねー。
わたしの欲しかったセリフを言ってくださらなかった……」
あ、しまった。
微妙に地雷を踏んだ気がする。
「そ、それはまあ、さておいてだね。
あの系統の話の小説をライトノベルで描いていくと、だね……」
あ、話を中断された。
とエミュネスタは面白くなさそうだ。
ごめんな、妻よ。
僕にも男のプライドがあるんだ……。
「へえ、ライトノベルですか。
ラブコメとかが人気だそうですね、わたしもいろいろと読みましたけれど」
「あれ?
そうなの?」
「あの図書館の本は、ほぼすべて読みましたから。
と、いうよりは、あの」
ああ、あの龍朱ね。
「あれで、この中には入っています」
と、角がある部分を指差す。
そこが記憶を司る部分なのかな???
「でもあれですね、だんな様。
この展開だと、主人公が無理矢理命じるか、わたしが恥じらいながらお見せするか、もしくは……」
「もしくは?」
「誰か第三者が乱入してきて」
と、エミュネスタが玄関を指差す。
「この流れは終わり、ですかね?」
なるほど。
「じゃあ、第四の展開はなしかい?」
「第四?」
「うん。第四の選択肢」
エミュネスタが少し不思議そうな顔をする。
「第四の選択肢とは?」
「こうするの」
と、僕は静かに彼女に顔を近づけた。
何をしたかって?
そこはご想像に、ね?
さて、僕は本題を切り出すことにした。
「実はね、隣にもい一つ、部屋を借りようと思うんだ。
とは言っても、政府にまたお願いしないといけないんだけど。
どう思う?」
「え?」
「僕は、親子が一緒に暮らせることに不満はないよ?
でも、ここは僕の名義だから。お前にも、不満はあるんじゃないかなって?」
どうだい? と尋ねてみた。
そしたら、うちの竜嫁もとい、ドラゴンプリンセス。
やっぱり不満がたくさんあったみたい。
「今日は、母さんは夜まで帰ってこないから。
本当は理解してあげれてない僕が悪いんだけど。
良かったら、教えて欲しいな?」
そこまで言って、ようやく話始めてくれた。
「あの、だんな様。
いえ、由樹。
由樹はもう、新竹家の当主なんです。ここは由樹の城なんです。
わたしは由樹の家のものです。
でも、お義母さまは……」
やっぱり。
「僕を子供のように扱う?」
「……はい」
「好きじゃないんだ?」
「……少しだけ」
「嫌?」
「はい」
「そっか」
ごめんな、エミュネスタ、と僕は彼女を抱きしめる。
「竜族は女流家系なんだよね?
でも、当主を立てるのが一族の習わしだから。
日本も昔は、当主を立てるって意味では同じだったんだけど。
100年くらい前からいろいろと変わったかな。
母さんは目上の人を立てるって世代だから、どこまで行ってもその意味ではすれ違いになると思う」
「だから、新しい部屋を?」
「うん。食事とかは一緒でもいいけどね。嫌かい?」
いいえ、とエミュネスタは首を振る。
ただ、それを素直には喜べないようにも、僕には見えた。
「由樹はわたしを優先しすぎてはいませんか?
お義母様はそれを、喜んではくださらないと思います。
また、お二人が喧嘩になるのは」
「辛い?」
「はい」
「じゃあ、どうしようか?
三人で暮らす間、僕は一人で食事しようか?
エミュネスタが僕のを作って、竜族は妻が夫の食事を補助というかさ。
日本人的に言えばご飯を装ったり、おかわりを用意してするだろ?」
「そうですね」
「僕は君と二人で席を共にするけど、僕だけが食べるから。
その間に、母さんにお前と母さんの分を作ってもらえばいいよ。
それで、二人で同じ食事をするといい。
そうすれば、僕はエミュネスタの食事を楽しめるし、エミュネスタは母さんと二人で仲良くできるだろ?」
これは、とても微妙な申し出だったらしい。
「三人で上手くいく方法はないのでしょうか?」
「うーん。
君に不満ばかり言わせてもだし。母さんは僕にだけ言うより三人の目の前でいうだろうね。
僕は、お前と母さんには、二人だけで不満を言い合える仲になって欲しいね」
「つまりー……。
わたしにお義母さまへの対応を変えろと。
そう、由樹は言いたいのですか?」
「竜族のやり方を曲げろ、とは言ってないよ?
ただ、少しだけ二人の。
母さんとエミュネスタの視点をお互いに変えて欲しいだけ、かな?」
出来るかい?
と、僕は妻の角をーー。意外にも柔らかいそれを撫でてやる。
それをされると安心できると、言うからそうしてるんだけど。
正しいかどうかは、僕にはわからないけどね。
竜族のマナー的に。
エミュネスタのはとてもとても、不満はあるようだったけど。
「二人の不満は、二人でね、話をしてみようか?」
という、僕の提案に渋々、頷いてくれたのだった。
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