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第四章 平穏な日常とドラゴンプリンセス
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季節は秋。
ということで、うちの高校にも学園祭の季節がやってきた。
高校は地域の名前を取ってつけられたらしく、高柳高校という普通校なんだけど。
普通は高校の名前を略して〇〇祭と名付けるけど、うちの場合は高高祭となりそれでは芸がないということで。
そのまま、高柳祭と呼ぶようになったらしい。
僕の高校は学年ごとに、食・芸・観と決められていて。
それが毎年、順繰りになるように分野が違うものが回ってくるようになっている。
今年は1年生が食を担当するという話になり、8クラスある中でどこがなにをするか。
なるべく出し物が被らないように、各クラスから委員を選出して会議をする。
その結果、うちにはなぜか民族料理もしくは、郷土料理なんてよくわからないものが割り当てられた。
まあ、ようはある程度の歴史がある料理なら、なんでも出してもいいよってことなんだろうけど。
この時、僕は嫌な予感に気づくべきだったんだ。
うちのクラスには、僕の竜嫁、エミュネスタがいるという事実に。
「で、出し物なんだけど。
竜族の料理も一部いれたいかなって。
どうかな、新竹さん」
と、僕ではなく、妻の方をみる実行委員。
まあ、夫婦なんで同性なのは仕方ないんだけどね。
「え、竜族のですか?
それはかまいませんがーー」
と、僕のほうをチラッと見るエミュネスタ。
どうやら、竜族の料理は辛すぎると僕が言ったことを教訓に聞いて見る気になったらしい。
いや、毎日食べてる彼女の手料理はいまでも、充分辛いんだけどね。
「まあ‥‥‥いいんじゃないかな?
いまより、もっと薄めたら」
と言ったのがクラスの女子の勘に触ったらしい。
「えーそんなこと言う必要ないじゃん。
そのままでいいよ、ねー?」
と、エミュネスタを前回、和服という餌で見事に釣りあげた高木さんが口を挟む。
それに同調して、そうだそうだと叫ぶ女子たち。
そして、男子までそれに加わる始末。
「いーじゃん、新竹はいつも奥様の美味しい手料理食べれてるんだからさ」
と、悪友の一人、屋敷 疾風が調子づく。
こいつはエミュネスタがお気に入りらしく、執拗に僕の家に来たがるから妻には戒厳令を敷いてある。
「まあ、いいよ。
みんながそれでいいなら」
ただし、救急車を呼ぶ羽目になっても知らないけどね。
と、僕は心でそっと呟く。
ルシアンが持ってきたあの竜族のお酒といい、竜族の感覚ははるかに人間を上回っている。
みんな、まずはその犠牲になればいいよ。
僕は一応、止めたからな。
無言になった僕を見て、妻はなんとなく気まずそうだったけど。
「いいよ、お前。
好きにして」
と言うと、嬉しそうな顔をした。
高木さんたちは、この僕が妻の事を、お前、と呼ぶことを男女差別だ何だと叫ぶけど。
これも日本文化だよ。
適当に戦後に入って来た表面だけのウーマンリブを叫ばないで、と言ったら黙ってしまった。
なんで、みんな自分で知ろうとしないのかな?
戦前戦後あたりじゃ、妻が夫をあなた、じゃなくて、お前様って呼んだり。
夫が家内は言わずに、奥、とか奥殿とか。
互いに敬称をつけてたのは常識なのに。
お前って言うのは、お前様、の略だとは知らないんだよね、たぶん。
まあ、そんな感じでうちのクラスの出し物はあらかた決まった。
全部を竜族の料理というわけにはいかないから、ピザとか鍋物とか。
まあ、その辺りに上手くおさまりをつけたようだった。
当日はガス器具が使えないから電気調理器になるらしく、配電盤のブレーカーがもたないという話になり。
結局、携帯ガスコンロを数台用意しての、開始となった。
「だんな様、その御姿御似合いです」
と、エミュネスタがほめてくれる。
僕は配膳班。
なぜか、男子は執事で、女子はメイド服。
どこから調達してきたのかは不明だけど。
蝶ネクタイは、慣れないから首回りが凝って仕方なかった。
エミュネスタは午前中は仕込みをして、午後は配膳に回るみたいで。
僕たちは百円均一の、屋台のラーメン屋さんなんかで使うプラスチック製の容器を使う。
教室の奥に黒幕で仕切られた簡易調理室がありそこから人数分よそおわれたものがでてくる。
あとはそれを注文してくれた客席に運ぶのが配膳班の役割だ。
それと、食後の片付け。
あとは、飲料もつけて配膳かな。
まあ、そんな作業をしてて、なぜか気になって仕方なかった。
どうして、誰も辛いと言い出さないのだろう、と。
ちょうど隣にエミュネスタがいたから聞いてみた。
「あれ、ねえお前。
あの料理はいつ出てくるの?」
と尋ねると、
「ああ、あれは文化祭が三日ありますから。
明日まで仕込んで、最終日になります」
という返事だった。
なるほど、あと二日は犠牲者が出ないんだね。
僕はとりあえず、安堵した。
「じゃあ、仕込みはどこで‥‥‥?」
いまのこの部屋ないには、あのきつい香辛料の匂いは全くなかった。
「ああ、それでしたら。
家の方でーー」
という返事に僕は青くなった。
まさか、マンションの部屋であのきつい香辛料をずっと漂わせたら近所からクレームの嵐だ。
「え、家って?」
「あ、はい。
王宮の方で、ですね。
こちらの台所では少し手狭ですので‥‥‥」
ああ、なるほどね。
それなら、まあ。
良くないけど。
いいことにしておこう。
こうして、文化祭初日と二日目はなにごとも問題なく終了した。
「あれ?
今日は早いね?」
翌朝、ベッドでいつも寝坊寸前まで寝ている妻を起こすのが、僕の日課なのだけど。
最終日の朝のエミュネスタが起きる時間は早かった。
「はい、王宮まで仕込んでおいたものを取りに行きますから。
そのまま、学校に行きます。
お先に行きますね、だんな様」
「ああ、気を付けてね」
そう言って見送ったのはよかったけど。
さて、どうやって学校を休むか。
仮病にするか。
しかし、それだと内申点にも響きそうだし。
うーんどうしようと悩んでいたら、スマホになにやらメッセージが入っていた。
HELP!!!!
かわいらしい猫のスタンプでそう送ってきたのは母さんだった。
え?
なにがあった???
とりあえず、寝間着のまま、慌ててマンションの隣に住む母の部屋を合い鍵で開けて入ると‥‥‥
「義兄さん????」
ルシアン義兄さんと、見知らぬ女性、そしてーー母さん。
その三人が、見覚えのある料理と酒瓶と‥‥‥ビールの缶が大量に部屋に転がっていた。
「えっとー‥‥‥。
まさか、そちらは、さやか義姉さん???」
たぶんそうだろう。
エミュネスタの実の兄、竜族のルシアン。
彼の妻になった日本人の女性。
前に、写真を見せてくれたことがあったから覚えている。
まあ、母さんは二日酔いとして。
なんで、この二人がここで倒れてる???
「義兄さん、どうしたんですか!?」
と、声をかけるがどうにもきちんとした返事が返って来ない。
さやか義姉さんにも声をかけたが、これは酔って寝てるようでもない。
「母さん、何してたの???」
「あー、あんた、声うるさいから。
頭に響くー」
あー、これはいつもの二日酔いだね。
「で、母さんは二日酔い、と。
この二人は?」
あ、そこで僕は気づいた。
テーブルの上の料理。
これ、エミュネスタが最初の頃によく作ってたやつだ。
「それ、さ。
味が凄くて。
さやかちゃんがまず寝ちゃって、んでルシアンがお酒に酔ってーー」
いや、それはまずいでしょ、母さん。
竜族の味付けのままのもの食べたんだったらーー
「ああ、さやかちゃんには水で洗って辛さほとんどないの食べさせたから。
たぶん、大丈夫‥‥‥」
なんて母さんは言うけど、いや、それは大丈夫じゃない。
「え、でも。
この義兄さんの酒瓶、全部空いてるじゃない?
母さん、義姉さんには?」
「うん、それも飲ませてない。
ルシアン、結構弱くてさ。
半分以上、あたしが飲んだからーーもう、だめ」
って、ちょっと。
「あの純度何%どころじゃないのを飲めて生きてるって本当、どんな体してるのさー‥‥‥」
仕方ないから、救急車を呼んで母さんとさやか義姉さんを病院へ。
義兄さんはもう、そのまま、寝ててもらうことにした。
ちょうどいい口実ができたから、学校とエミュネスタには休みと連絡を入れたけど。
このきつい香辛料の料理。
どんな味なんだろう?
と、小指に少しだけつけて舐めてみた。
「ぶはっ!!!??」
視界が歪むほどに酷い辛さ。
こんなのを食べた日には。
「学校に連絡しよう‥‥‥」
しかし、その時は既に遅く。
エミュネスタの竜族の料理は、配膳された後だった。
もうこれ以上深みにはまりたくなかったから、とりあえず、僕は自宅で待つことにした。
夕方のニュースで、大量に病院に搬送された学園祭のニュースを‥‥‥
しかしーー
そんなニュースはどこにも流れず、エミュネスタは高木さんを連れて帰宅した。
「あ、あれ???
ど、どうだった、のさ。
文化祭は」
と、エミュネスタに聞いた質問は高木さんが返してきた。
「美味しかったよ、エミュネスタさんの料理。
薄情なだんな様を持つと本当に苦労するよねー?
わざわざ、学校に味の連絡とかするなんて、サイッテー!!!」
と。
「え、なにも、なかったんだ?」
その一言が、女性陣の怒りに触れたらしい。
僕はさんざんエミュネスタと高木さんに、優しくないだの、亭主関白だの、甲斐性がないだのと言われたよ。
まあ、一通り聞いた後で、
「僕はちゃんとエミュネスタを信じてたよ?
ただ、隣にいくとわかるけど」
と、二人を母さんの部屋に案内すると義兄はいつの間にか帰宅していたけど。
あの料理はそのままだった。
「これを昨日さ、義兄さん夫婦と母さんが食べたらしくて。
いま病院。
だから連絡したんだよ。
なんなら、高木さんも食べてみたら?」
と、彼女に振ってみた。
高木さんはエミュネスタが今日、文化祭で披露したのが竜族の料理だと思っているから‥‥‥
「ぶはっ!!!??」
と、愚かにも骨付き肉にかじりつき、死にそうに悶えていた。
「これでわかったろ?」
と落ち着いた高木さんに水を入れたコップを渡しながら聞くと、彼女はうなづいていた。
「で、お前もまだ僕のことをひどいって言うの?」
とエミュネスタを見ると、こちらはこちらで反省しているようだったからそれ以上は言わなかった。
帰り際に高木さんに一言、嫌味を言ったけどね。
「前回は、大きな竜が釣れたみたいだね?」
って。
彼女はそそくさと帰って行ったよ。
その晩、エミュネスタがいつも以上に、ベッドでひっついてくるから僕は抱きしめて寝た。
波乱になるかなと思った文化祭は、こうして幕を閉じてくれたからまあよかったかな。
可愛い竜嫁を抱きしめて、僕らはゆっくりと夜を過ごすことにした。
ということで、うちの高校にも学園祭の季節がやってきた。
高校は地域の名前を取ってつけられたらしく、高柳高校という普通校なんだけど。
普通は高校の名前を略して〇〇祭と名付けるけど、うちの場合は高高祭となりそれでは芸がないということで。
そのまま、高柳祭と呼ぶようになったらしい。
僕の高校は学年ごとに、食・芸・観と決められていて。
それが毎年、順繰りになるように分野が違うものが回ってくるようになっている。
今年は1年生が食を担当するという話になり、8クラスある中でどこがなにをするか。
なるべく出し物が被らないように、各クラスから委員を選出して会議をする。
その結果、うちにはなぜか民族料理もしくは、郷土料理なんてよくわからないものが割り当てられた。
まあ、ようはある程度の歴史がある料理なら、なんでも出してもいいよってことなんだろうけど。
この時、僕は嫌な予感に気づくべきだったんだ。
うちのクラスには、僕の竜嫁、エミュネスタがいるという事実に。
「で、出し物なんだけど。
竜族の料理も一部いれたいかなって。
どうかな、新竹さん」
と、僕ではなく、妻の方をみる実行委員。
まあ、夫婦なんで同性なのは仕方ないんだけどね。
「え、竜族のですか?
それはかまいませんがーー」
と、僕のほうをチラッと見るエミュネスタ。
どうやら、竜族の料理は辛すぎると僕が言ったことを教訓に聞いて見る気になったらしい。
いや、毎日食べてる彼女の手料理はいまでも、充分辛いんだけどね。
「まあ‥‥‥いいんじゃないかな?
いまより、もっと薄めたら」
と言ったのがクラスの女子の勘に触ったらしい。
「えーそんなこと言う必要ないじゃん。
そのままでいいよ、ねー?」
と、エミュネスタを前回、和服という餌で見事に釣りあげた高木さんが口を挟む。
それに同調して、そうだそうだと叫ぶ女子たち。
そして、男子までそれに加わる始末。
「いーじゃん、新竹はいつも奥様の美味しい手料理食べれてるんだからさ」
と、悪友の一人、屋敷 疾風が調子づく。
こいつはエミュネスタがお気に入りらしく、執拗に僕の家に来たがるから妻には戒厳令を敷いてある。
「まあ、いいよ。
みんながそれでいいなら」
ただし、救急車を呼ぶ羽目になっても知らないけどね。
と、僕は心でそっと呟く。
ルシアンが持ってきたあの竜族のお酒といい、竜族の感覚ははるかに人間を上回っている。
みんな、まずはその犠牲になればいいよ。
僕は一応、止めたからな。
無言になった僕を見て、妻はなんとなく気まずそうだったけど。
「いいよ、お前。
好きにして」
と言うと、嬉しそうな顔をした。
高木さんたちは、この僕が妻の事を、お前、と呼ぶことを男女差別だ何だと叫ぶけど。
これも日本文化だよ。
適当に戦後に入って来た表面だけのウーマンリブを叫ばないで、と言ったら黙ってしまった。
なんで、みんな自分で知ろうとしないのかな?
戦前戦後あたりじゃ、妻が夫をあなた、じゃなくて、お前様って呼んだり。
夫が家内は言わずに、奥、とか奥殿とか。
互いに敬称をつけてたのは常識なのに。
お前って言うのは、お前様、の略だとは知らないんだよね、たぶん。
まあ、そんな感じでうちのクラスの出し物はあらかた決まった。
全部を竜族の料理というわけにはいかないから、ピザとか鍋物とか。
まあ、その辺りに上手くおさまりをつけたようだった。
当日はガス器具が使えないから電気調理器になるらしく、配電盤のブレーカーがもたないという話になり。
結局、携帯ガスコンロを数台用意しての、開始となった。
「だんな様、その御姿御似合いです」
と、エミュネスタがほめてくれる。
僕は配膳班。
なぜか、男子は執事で、女子はメイド服。
どこから調達してきたのかは不明だけど。
蝶ネクタイは、慣れないから首回りが凝って仕方なかった。
エミュネスタは午前中は仕込みをして、午後は配膳に回るみたいで。
僕たちは百円均一の、屋台のラーメン屋さんなんかで使うプラスチック製の容器を使う。
教室の奥に黒幕で仕切られた簡易調理室がありそこから人数分よそおわれたものがでてくる。
あとはそれを注文してくれた客席に運ぶのが配膳班の役割だ。
それと、食後の片付け。
あとは、飲料もつけて配膳かな。
まあ、そんな作業をしてて、なぜか気になって仕方なかった。
どうして、誰も辛いと言い出さないのだろう、と。
ちょうど隣にエミュネスタがいたから聞いてみた。
「あれ、ねえお前。
あの料理はいつ出てくるの?」
と尋ねると、
「ああ、あれは文化祭が三日ありますから。
明日まで仕込んで、最終日になります」
という返事だった。
なるほど、あと二日は犠牲者が出ないんだね。
僕はとりあえず、安堵した。
「じゃあ、仕込みはどこで‥‥‥?」
いまのこの部屋ないには、あのきつい香辛料の匂いは全くなかった。
「ああ、それでしたら。
家の方でーー」
という返事に僕は青くなった。
まさか、マンションの部屋であのきつい香辛料をずっと漂わせたら近所からクレームの嵐だ。
「え、家って?」
「あ、はい。
王宮の方で、ですね。
こちらの台所では少し手狭ですので‥‥‥」
ああ、なるほどね。
それなら、まあ。
良くないけど。
いいことにしておこう。
こうして、文化祭初日と二日目はなにごとも問題なく終了した。
「あれ?
今日は早いね?」
翌朝、ベッドでいつも寝坊寸前まで寝ている妻を起こすのが、僕の日課なのだけど。
最終日の朝のエミュネスタが起きる時間は早かった。
「はい、王宮まで仕込んでおいたものを取りに行きますから。
そのまま、学校に行きます。
お先に行きますね、だんな様」
「ああ、気を付けてね」
そう言って見送ったのはよかったけど。
さて、どうやって学校を休むか。
仮病にするか。
しかし、それだと内申点にも響きそうだし。
うーんどうしようと悩んでいたら、スマホになにやらメッセージが入っていた。
HELP!!!!
かわいらしい猫のスタンプでそう送ってきたのは母さんだった。
え?
なにがあった???
とりあえず、寝間着のまま、慌ててマンションの隣に住む母の部屋を合い鍵で開けて入ると‥‥‥
「義兄さん????」
ルシアン義兄さんと、見知らぬ女性、そしてーー母さん。
その三人が、見覚えのある料理と酒瓶と‥‥‥ビールの缶が大量に部屋に転がっていた。
「えっとー‥‥‥。
まさか、そちらは、さやか義姉さん???」
たぶんそうだろう。
エミュネスタの実の兄、竜族のルシアン。
彼の妻になった日本人の女性。
前に、写真を見せてくれたことがあったから覚えている。
まあ、母さんは二日酔いとして。
なんで、この二人がここで倒れてる???
「義兄さん、どうしたんですか!?」
と、声をかけるがどうにもきちんとした返事が返って来ない。
さやか義姉さんにも声をかけたが、これは酔って寝てるようでもない。
「母さん、何してたの???」
「あー、あんた、声うるさいから。
頭に響くー」
あー、これはいつもの二日酔いだね。
「で、母さんは二日酔い、と。
この二人は?」
あ、そこで僕は気づいた。
テーブルの上の料理。
これ、エミュネスタが最初の頃によく作ってたやつだ。
「それ、さ。
味が凄くて。
さやかちゃんがまず寝ちゃって、んでルシアンがお酒に酔ってーー」
いや、それはまずいでしょ、母さん。
竜族の味付けのままのもの食べたんだったらーー
「ああ、さやかちゃんには水で洗って辛さほとんどないの食べさせたから。
たぶん、大丈夫‥‥‥」
なんて母さんは言うけど、いや、それは大丈夫じゃない。
「え、でも。
この義兄さんの酒瓶、全部空いてるじゃない?
母さん、義姉さんには?」
「うん、それも飲ませてない。
ルシアン、結構弱くてさ。
半分以上、あたしが飲んだからーーもう、だめ」
って、ちょっと。
「あの純度何%どころじゃないのを飲めて生きてるって本当、どんな体してるのさー‥‥‥」
仕方ないから、救急車を呼んで母さんとさやか義姉さんを病院へ。
義兄さんはもう、そのまま、寝ててもらうことにした。
ちょうどいい口実ができたから、学校とエミュネスタには休みと連絡を入れたけど。
このきつい香辛料の料理。
どんな味なんだろう?
と、小指に少しだけつけて舐めてみた。
「ぶはっ!!!??」
視界が歪むほどに酷い辛さ。
こんなのを食べた日には。
「学校に連絡しよう‥‥‥」
しかし、その時は既に遅く。
エミュネスタの竜族の料理は、配膳された後だった。
もうこれ以上深みにはまりたくなかったから、とりあえず、僕は自宅で待つことにした。
夕方のニュースで、大量に病院に搬送された学園祭のニュースを‥‥‥
しかしーー
そんなニュースはどこにも流れず、エミュネスタは高木さんを連れて帰宅した。
「あ、あれ???
ど、どうだった、のさ。
文化祭は」
と、エミュネスタに聞いた質問は高木さんが返してきた。
「美味しかったよ、エミュネスタさんの料理。
薄情なだんな様を持つと本当に苦労するよねー?
わざわざ、学校に味の連絡とかするなんて、サイッテー!!!」
と。
「え、なにも、なかったんだ?」
その一言が、女性陣の怒りに触れたらしい。
僕はさんざんエミュネスタと高木さんに、優しくないだの、亭主関白だの、甲斐性がないだのと言われたよ。
まあ、一通り聞いた後で、
「僕はちゃんとエミュネスタを信じてたよ?
ただ、隣にいくとわかるけど」
と、二人を母さんの部屋に案内すると義兄はいつの間にか帰宅していたけど。
あの料理はそのままだった。
「これを昨日さ、義兄さん夫婦と母さんが食べたらしくて。
いま病院。
だから連絡したんだよ。
なんなら、高木さんも食べてみたら?」
と、彼女に振ってみた。
高木さんはエミュネスタが今日、文化祭で披露したのが竜族の料理だと思っているから‥‥‥
「ぶはっ!!!??」
と、愚かにも骨付き肉にかじりつき、死にそうに悶えていた。
「これでわかったろ?」
と落ち着いた高木さんに水を入れたコップを渡しながら聞くと、彼女はうなづいていた。
「で、お前もまだ僕のことをひどいって言うの?」
とエミュネスタを見ると、こちらはこちらで反省しているようだったからそれ以上は言わなかった。
帰り際に高木さんに一言、嫌味を言ったけどね。
「前回は、大きな竜が釣れたみたいだね?」
って。
彼女はそそくさと帰って行ったよ。
その晩、エミュネスタがいつも以上に、ベッドでひっついてくるから僕は抱きしめて寝た。
波乱になるかなと思った文化祭は、こうして幕を閉じてくれたからまあよかったかな。
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