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第五章 真実の物語
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その朝。
由樹が仕事に行くといい、早朝に出ていった朝だ。
二階の由樹の部屋のベッドで目を覚ましたエミュネスタが階下に降りていくと、その手紙は、リビングのテーブルに置かれていた。
白く飾り気のない封筒に、百円ショップで売られているような簡素な便箋。
中には彼らしい、頑固だがどことなく不器用そうな金釘流のような字体で幾枚かの手紙が入っていた。
「なんでしょうか?」
由樹から何も聞かされていないエミュネスタがそれを開けようとすると、手紙の隣に一つの金属の輪が見えた。
「これ……」
彼女が持参した金塊を、換金した際に、エミュネスタが由樹に欲しいとねだった物だ。
同じ物は彼女の右手の薬指に輝いている。
そして日本の離婚届に由樹の名前と印鑑が押されていた。
それが何を意味するかを察して、彼女は慌てて手紙を読み上げた。
それは、愛するエミュネスタへ。
という一文から始まっていた。
(愛するエミュネスタへ。
君がこれを目にする頃には、僕は君の元へと戻らない旅に出ていると思う。
愛しているという言葉を伝えるには、僕たちの互いに過ごした時間はあまりにも短いものだったから。
その事だけでも君は怒るだろうね。
でも、君がこの後に、誰も伴侶を迎えずに生涯を終えるなら。
これは僕の僕だけの満足になるけど、それは君の生きていく支えになると思う。
だから、これを書いておくよ。
ただ、これだけは気にしないで欲しい。
君を妻として迎えると言った決断とそれについてきた多くのもの。
多くのこと、周りの興味、竜族への畏怖、畏敬の念。
そのどれもが、僕に別れを決断させたり材料になったわけではないことを、信じて欲しい。
人間は複雑だ。
それは僕たちの何千、何万倍もの歴史を繰り返してきた君たちから見れば、単純なものかもしれない。
それでも人間は複雑なんだ、少なくとも僕たち家族にとっては、ね。
あの日。
君と婚姻届を役場に提出に行った日。
僕はあることを知った。
これは君も既知のことだけど。
僕が、養子として迎えられた、ということだ。
僕はあれから、本当の両親を探そうとしたんだ。
両親、家族、兄弟、姉妹。
もしいるならば、その他の家族にも会いたい。
僕は探したよ。
君の家族の力も借りた。
大学を卒業後、国の招聘に応じて竜族との共同運営団体に入ったのも。
君の兄上のさんざんな嫌味や横槍に耐えたのも。すべては家族を探すためだった。
記録から消された、僕の家族を。
僕だけの、真実を探すため。
それが、この手紙を書くまでの最大の動機だった。
君との共同生活を続ける最大の……動機だった。
ごめんよ、エミュネスタ。
そう謝るか、そして離婚をし、君を一族に戻すべきか。
僕は迷ったんだ。
何年も何年も何年もね。
ある事実を聞いて欲しい。
これは、僕と消えたーー
いやこれを読んでいる時点ではまだ生きている、僕の兄だけとその他数名が知った事実だ。
でも、君は知っていて僕の傍にいてくれたんだよね。
そのことは感謝している。
まず、この世界は作られた世界の一つであり、基本となった世界。
ある存在が世界を創造しようとして、なにかが起き、そしてその世界は分かたれた。
これは僕たちが出会ってかなり後に起きたことだ。
その世界は12の欠片に別れた。
そして……。
僕と僕の兄の母親は現在も生きている。
でも彼女の年齢は15歳だ。
まだ。出産経験もない。
ただの女子高校生だ。何も知らない、単なる女子高校生。
いいかい、エミュネスタ。
彼女のことを恨まないで欲しい。
彼女は巻き込まれ、そして僕らを産んだのだから。
同じ3年間を12回。
36年もの人生を、たった二人で。
僕らの父親ではない、男性の友人と共に。
肉体的な年齢を取らない状態である時は、東京で。
ある時は西日本で、ある時は九州で。
ある時は異世界で……。
二人は欠片を探し、その過程で同胞を求め、仲間と出会い。
そして君たちと出会った。
はるかな時空の彼方の異世界で。
君たちは頼まれたはずだよ。
欠片の一つを届けて欲しいと。
最後の一つを、彼女たちの元へと。
知ってるかい?
人間にはかつて、魔法使い。
そう呼ばれた存在がいたことを。
龍の伝説があり、悪魔や魔族、妖精や精霊。
そういった現代では存在しないはずのものたち。
でも、その中で語られた竜族と君たちの存在は別物だ。
僕はもう知っているんだ。
君の父上から頂いた、第三位の能力で多くを知ることができた。
君たちは地球を訪れたことはない。
これまで、一度もね。
今回が最初で、そして旅立つはずだ。
僕らの母親から託されたある物を、彼に渡すために君たちは数万年の時空を超えてやってきた。
ただ一つの約束。
ただ一つの物を正確に、的確に、間違いなく、ある人物に、指定された時刻に渡すために。
ただ、それだけの為に君たちを動かしたそれは何だい?
永遠に近い時間と無限に近い距離と、途方もない労力と、そしてあり得ないほどの疑問が重なったはずだ。
幾度もの種族の危機もあったはずだ。
それを乗り越えて、君を僕の元へ送り届けさせたそいつは誰だ?
君はすでに知っているだろう、新しい創造の存在。
全ての世界は彼を求めているだろう。だけど、僕は彼を求めていない。
エミュネスタ。
僕はこれでも怒っているんだよ。
君にでも、君の種族にでもない。
君たちの故郷をはるかに越えて、あり得ない危険を冒させた誰かに、その新たな存在にだ。
そして、詫びを言いたい。
夫の元を離れ、数年間のもの間、僕の妻を演じさせたことを。
僕を、世界を変えることを許さない存在から守っていてくれたことを。
あ、もう一つある。
君と肉体的に繋がったからかな?
ある夜、僕は君の父上フェイブに会い、彼の力を譲り受けた。
そのおかげで僕は世界の真実を知ることができた。
これは君たちの策略かい?
それとも単なる偶然?
僕たちの愛は……。
いや、これは聞かなかったことにしよう。
少なくとも、僕と君は世界で最初にできた二十数組の竜族と人間のうち。
数少ない、一年以上の時間を共有できた夫婦だったからね。
かりそめの、借り受けた妻だったけど。
僕の子供を君が妊娠しなかったことだけが、唯一の救いだ。
君の本当の夫は、もし、僕たちの子供がいれば。
この惑星を離れる前に存在を消そうとするだろう。
彼が、その程度には冷酷なことは僕は知っている。
それ以上に、君を愛していることもね。
でも、僕はこれだけは言えるよ。
僕の愛は、彼以上だった、と。
本題に戻ろう。
世界が欠片になったというところからだ。
僕と出会った日。
あの日は運命的な日だった。
だけど、君たちが間違えたんだ。
本当はその二年後の春。
しかも、僕ではない兄の方に、近付かずにある自然的な現象を起こさなければならなかった。
どうしてその手順を間違えたのかは、僕にはわからない。
でも、僕には嬉しかったよ。
あんなにも、この世界一美しい存在が声をかけてくれたのだから。
だけど、大丈夫だよ。兄は彼女に会うことに成功している。
そして、自然現象も起きた。
いや、彼女が起こしたというべきか。
不思議なものだね。
この世は例え一つの出来事が上手くいかなくても、必ず大きな補正が入る仕組みになっているらしい。
次の話は君は知っていたのかな?
瀬戸内海のある島と遠いはるかな彼方の惑星の一部が、僕の兄と彼女。
つまり、僕らの母親と会うことにより繋がった。
いや、はるか数十年前から繋げようとして努力し、その惑星に渡った人物がいたことを。
僕はその多くを君の父上の能力を借りて知ることができたんだ。
これは運命なのか。それとも全部、君たちの計算だったのか。
人間の僕は君たちのような深い精神構造を持たないからそこまでの推測はできない。
あくまで推測し、予測するだけだ。
そして、新たな世界へ生き延びて欲しい。
異界へ。
異世界という名の同じ宇宙や平行世界ではなく、次元を超えたこの世界の力が及ばない場所へ。
君たちはその術を知っているはずだ。
いいかいエミュネスタ。
君がこれを読んでいる時間が何時かは僕にはわからない。
だけど、毎朝の寝坊を楽しむ君の可愛い寝顔を観察してきた僕なら、だいたいの想像はつく。
時計をみてごらん、エミュネスタ。
今は、多分。
そう、11時を少し回った頃だろう。
僕たちと母親はその少し後に出会うことになる。
君はそこで待つんだ。
本当の夫、いや、彼女というべきか。
男性の肉体を持ち、女性の心を持つ彼女を。
たった二人で、元いた世界を追われ、飛ばされた異世界で親兄弟の仇である存在を。
女の魂であり、その異世界では男性の人間の英雄の肉体を得たルシールを、夫を迎えて。
たった二人から、数十万もの一族を産み出した君を僕は尊敬する。
彼には‥‥‥。
ルシールには君と離婚する気だということを伝えてある。
もうすぐ迎えにくるはずだ。
君は本当の家族の元へ戻るべきだよ。
7年間の愛を、ありがとう。
僕が愛したたった一人の女性。愛しのエミュネスタ。
さようなら)
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