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第五章 真実の物語
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しおりを挟む「由樹。
そんな‥‥‥全部知っていたの‥‥‥!!?」
翼を広げて窓から飛び立とうとするエミュネスタを数人の同族が止める。
そこにはルシールの姿もあった。
「行くつもりか?
いえ、行くつもりなの? エミュネスタ」
彼、いや彼女というべきか、彼と形容するべきか。
竜族の幻を着た、異世界の女英雄は言う。
いや、竜族の王は、妻の行為を阻もうとした。
「もうこの惑星からわたしたちの記録を消す作業は始まってるわ。
時間がない」
目のまえに立ちふさがる存在にエミュネスタは意義を唱えられない。
王の意思は絶対。
それが、魔族だから。
「なぜ、彼を行かせたの?
このまま、すべてを隠して世界が補正されるのを待っていても。
わたしたちは生き残れた。その力はあの世界からこの世界にたどり着くまでに手に入れてきたじゃない。
多くの子供を産んで、多くの仲間が死んでいった。
全部、私が愛した子供たちだった!」
「そうだな。
だが、途中からはそれもなくなったじゃない。
あなたが、私を求めなくなったから」
ルシールは寂しそうに言う。
「はっ。
なによ、これこそ本物のかりぞめの夫婦じゃない」
「しかし、母上!!」
周囲にいた魔族の一人が止めに入る。
「お前は黙りなさい。
これは王と、その妻の会話よ」
エミュネスタはルシールを睨みつける。
「怖い顔をしないで欲しいわ、エミュネスタ。
もう時間は残されていない。
行くわよ」
と、ルシールはエミュネスタに背を向ける。
だが、エミュネスタは動かない。
「父上はあなたを婿に迎えた。
竜族の王としてね。異世界の男の英雄の肉体に、別の惑星から精神生命体として飛ばされてきたあなたを。
その精神を入れてそれは成功したわ。でもー」
ルシールはため息をついて妻を見る。
「でも、なんだい?
エミュネスタ」
「父上の力は全て由樹が受け継いでいるわ。
フェイブスタークの第三位の力は‥‥‥もうここにはない」
「なるほど。
だから、彼はあれほどに大きな力で喰らうものたちと戦えたわけか。
まあ、我らがこの地に遺伝子を残したなどど言う話はしょせんは作り話。
人間も鍛えればあれほどになるのかと感心していたが。
そういう話か」
「ルシール‥‥‥。
あなたまさか。
由樹を人間だと知りながら、あの虚無のものたちと戦わせたの!?」
なんだ、知らなかったのか?
そんな顔を、ルシールする。
「考えてもみろ、エミュネスタ。
お前にはもう、あの喰らうものたちと戦う力などなかった。
それがこれまで、何事もなく平和裏にこれたのは誰が戦っていたからだと思う?
少なくとも、私はそのうちの数回しか手を下してないわ。
数えれば100を超える敵からあなたを。
その異界の欠片の匂いに釣られてやってきた喰らうものたちを滅ぼしたのはあの男だ。
そういう意味では、彼はこの人間という存在の中では、英雄だったな」
「そ、そんな。
わたしは全てあなたがしていてくれたものだと!?
なぜ、由樹を戦わせたの!??」
おいおい、私を恨むなよ、ルシールはそう肩をすくめて言った。
「それが、彼の望みだったからだ。
まあ、どこかで死んでくれれば‥‥‥。
我らの愛もまた会ったかもしれんがな」
ルシールは寂しそうに言い、そして、エミュネスタはそれを否定する。
「竜族の王たる力の象徴はこの王冠にはもうないわ。
あなたは地位を得たわ。わたしとあなたとの魂が繋がった状態だったから、あれはかなった」
「つまり、君は、どうしたい?
エミュネスタは無言で……。
その竜族の象徴たる角を剥ぎ取った。
「おい!?」
そのまま、ルシールに投げて寄こす。
「それが。
あなたの精神体の半身と、竜族の王たるものの全てよ!!!」
ルシールは呆然と、しかし、冷静に手元にきたそれらとエミュネスタを見比べて嘆息すると、血まみれの王冠を頭に拝した。
「つまり、私はフラれたってことね?
いいの?
あなたとの子たち、私たちの子供たちもあそこにいるのよ?」
と、上空を指差す。
「いまさら何を言うのよ……。
わたしがあなたを拒否した?
あなたが、ネフィリムを。
娘を側室に迎えるなんて言わなければ、わたしはあなたを拒否なんてしなかった!
少なくとも、元の世界で、わたしの父上以外の全ての家族を滅ぼした勇者のあなたを!!
わたしは……愛したいとは思わなかった!!!」
涙を流しながら、エミュネスタは、自分たちの歴史を聞く仲間を見渡す。
「わたしは、もうあなたを愛せない。
あの人を!
一番、共に過ごした時間の短かかった由樹を!
失いたくない……ごめんなさい、ルシール」
仕方ない、とルシールは首を振る。
「もう時間がない。
我らは別の時空に行く。歴史の補正が始まる前にな。
エミュネスタ……さよならだ。
我が最愛の妻」
「さようなら……ルシール」
ルシールが片手を振り上げる。
エミュネスタは炎のような何か。
檻のようなものに捕らわれた。
「ルシール!?」
「最後の手向けだよ、我が妻よ」
何かを叫びながら、しかしそれは声にならずにエミュネスタは掻き消える。
「王よ。何を……」
側近の一人が訝しんだ顔をする。
それはーーあの魔法は。
「いいじゃないか。
数万年の時を共にした仲だ。
せめて、最後くらいは会わせてやろう。
もう間に合うかどうかはわからんがな。
さあ、我らも行くぞ。
神の気まぐれでここまで来たわけではない。
消されぬ為の手段を模索してようやく見つけたのだ。
行くぞ、新たな大地へ」
そう言うと、その一団は姿を消し、上空にいた数万の竜族もまた姿を消した。
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