竜姫からの招待状

星ふくろう

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第四章 平穏な日常とドラゴンプリンセス

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 恥ずかしながら、僕はこの年齢まで恋人というものに縁がなかった。
 いたことはあったけど、僕の感覚とはあわないなって。
 去って行くか、終わりをつげないままうやむやになるか。
 数度の出逢いとわかれはそんな感じで終わっていった。
 だから、知らなかったんだよね。
 ああ、避妊とかそういう話ではなくて‥‥‥
 誰かと肌をあわせ、その中に包みこんでもらえる。
 そんな幸せがあることを。
 これは母さんも、そりゃ瀬尾さんと楽しみたくなるわけだ。 
 だって、二人だけの。
 誰にも邪魔されないそんな世界があるんだから。
 ただ、エミュネスタはどういえばいいかなあ。
 とても苦しそうだった。
 それは初めて受け入れた存在が僕だからかもしれないし。
 もちろん、妻はそのあれだね‥‥‥
「旦那様?
 エミュネスタはまだ‥‥‥誰にも肌を許しておりませんからね!?」
 なんて、僕はそんなこと一言も言ってないのに。
 妻は力強く否定していた。
 朝方になるまで、僕らは数度、愛し合っただろう。
 その間、残念ながら避妊なんてものは頭から抜け落ちていた。
 この世界で最も美しくて、愛おしくて、僕だけを望んでくれる女性。
「旦那様はエミュネスタだけの旦那様ですからね?
 竜族は‥‥‥多くの妻を持つことを王族は許されます。
 旦那様はもう、ホルブ王家の人間ですから。いえ、竜?
 まあ、どちらでもいいですけど。
 どうしたいですか?」
 どうしたいですか?
 なんてしおらしく言いながら、彼女は僕の首周りにその長い尾を巻き付けて返事次第では、なんて微笑んでいた。
 これはもうそのまま死刑宣告のようなもので、答え方を一つ間違えば‥‥‥
 なんて未来を想像させるには難しくないそんな質問だった。
「あのね、お前?
 その優しい問いかけに対して、僕に巻き付くこれはなんだい?」
 そう言い、尾を撫でてやると妻は微妙な顔をする。
 前にも述べたけど、尾はエミュネスタたち竜族にとっての大事な器官。
 心理的なものを色で表示させたり、触りどころによっては炎を吐かれるし、その逆もありうる。
「そ、そこは‥‥‥だめです、由樹!」
「なにがだめなのかは僕にはわからないんだけどね、お前?」
 こんな不利な状況を打破するのに、手段を選ぶほど僕は優しくないのだよ。
 なんて言ってみたいしながら、この尾を操縦桿のようにしてエミュネスタを遊ぶのも一つの手だ。
 ただし、あまりやり過ぎると数日は不機嫌になる。
 ふと、僕は思い立ってあることをしてみた。
 手で触られてこれなら、舌ならどうなんだろう、と。
「ふぅうっーー!??」
 あれ?
 なんか変な声を出してますよ、エミュネスタさん?
 噛んでみて、舐めてみて、さてどうだろう。
「はあーー‥‥‥っ」
 なんて甘くて熱い吐息がその口から流れでてくる。
 へえ‥‥‥
 男性が、口で愛撫されるのと同じように感じてるわけだ。
 さて、それはこの尾と、その僕を受け入れてくれた部分と。
 どちらが敏感なのだろう?
「どうしたのかな?
 エミュネスタ?」
 我ながら優しく甘くささやいてみた。
「なんて‥‥‥」
「へ?」
「由樹なんて、だいっきらいです!!!」
 おお、妻よ。
 その尻尾で僕の首を絞めるのは反則だ。
 僕は窒息プレイには興味がない。
 まあ、でも。
 扱い方はだいたい理解した。
 根元より上の尾の半分より上。
 そこにある、少しだけ色違いのウロコだね。
「ここなんだ?」 
 意味ありげにそっとさすってみる。
「あ、それは・・・・・・だめ。
 だめなの、旦那様。
 お願い‥‥‥」
 どう駄目なんて聞かないよ?
 僕はサディストじゃないからね。
 でも、強い刺激がお好みなら。
 この首を絞めたのは間違いだっよね、エミュネスタ。
 だって、僕の目のまえにそれはあるんだもの。
「ねえ、エミュネスタ?」
「なんですか!」
 あ、どことなく不機嫌だ。
 そりゃ初めての体験で、僕の妻は控えめな性格を装ってるけど。
 実は誰よりも苛烈なんだから。
 合わせるほうもなかなか大変なんだよ?
「手が不満足なら、噛んでみる、なんてのもーー」
 言い終えないうちに、僕は噛んでみた。
 意地悪く、力を込めて。
「はあっ‥‥‥!?」
 あれ?
 おーい?
 エミュネスタさーん?
「おかしいな‥‥‥感覚器官では、ない?
 もしかして、これって逆鱗の類かな?
 そう言えば、あのコタツの時も‥‥‥」
 この辺りを軽く踏んで炎を吐かれそうになった覚えがある。
 ‥‥‥と、いうことは?
「これは失神?
 竜族が?」
 あーこれはしまった。
 そういえば、僕が他に噛んだ部位はなにもないのに、この場所だけは見事に歯形が残っている。
「これ、政府が知ったら最大機密になるだろうなあ‥‥‥」
 どうしよう?
 このまま妻を介抱するか?
 それだと起きた後にさんざん、叱られ、今度は炎が待っているだろう。
 困ったな。
 あのアスラン義兄さんが、言い残して言った一言を思い出す。
「竜族のまあ、なんだ。
 交わりは数日、続くぞ?
 その間に相手がもし、‥‥‥ないとは思うが気を失えば手を緩めるな。
 気付いた時に、愛が足りないと食い殺される時もある」
 どんな愛だよと叫びたかったけど。
 これはつまり、そういうことなのだろうと‥‥‥
「人間社会なら倫理観を問われる行為だよなあ、これ?」

 --弱点があるからな。
   見つけたら容赦するな。
   主導権を永遠に奪われるぞ?

 アスラン‥‥‥彼の余計な一言が僕らの夫婦生活の主導権争いに一翼を担うなんて。
 まあ、噛むのもありかな?
 どれくらい噛んだら、でも血は出てないしなあ。
 なんて思いながら、容赦するな、食い殺されるぞ。
 その一言が、脳裏をよぎる。
 精魂尽き果てるまで奉仕してみるか‥‥‥
 そう思いあれやこれやとやっていて、エミュネスタが気付いたのは約半日後。
 例の逆鱗にいくつかついた歯形に、まだ自分の胎内から去ることのない僕を見てーー
「旦那様、兄上になにか言われましたね?」
 僕は脂汗がじんわりとでるのを感じた。
 やはり食い殺されるのだろうか?
 そう思った時だ。
「では、今度はエミュネスタの番ですわ。
 お覚悟なさいませ?」
 その宣言は死刑宣告に等しかった。
「一つだけ、頼みがある‥‥‥」
「なんでしょう?」
「いま、お前の中にある部分を、噛むのだけはやめてくれ‥‥‥。
 再生できないんだ」
 エミュネスタはそれはそれは悪魔のようににんまりと笑って言ってくれたよ。
「そうですか?
 なら、それ以外ならいいですわね?
 竜族はこの星の時間で、最低でも三日はしないと満足しませんよ?」
 と、ね‥‥‥

 
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