家族の絆? では、大広間に参りましょう旦那様。

星ふくろう

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 ある吟遊詩人はこう語っている。

 太陽が昇り、月が西の山すそにその姿を隠しても。
 幾度のそれを繰り返しても。
 王様も王妃様も誰も来ない。
 みんな、自分の部屋が大好きだから。
 孤独に、家来に気を使うことなく過ごせるから。
 貧乏人を避け、安全に食事ができるから。
 暖炉と水道がすべてを変えた。
 今日も、大広間には‥‥‥誰も来ない。


 王国の西に広い荘園を持ち、亡き父親からそれを受け継いだレーゼン侯爵令嬢アリス。
 十七歳の彼女が、成人を迎えた翌年のことだった。
 後見人の加護から離れることでこの荘園から挙がる税金やその資産に目をつけた貴族は多い。
 女侯爵を名乗ることもできたが、それでは結婚の意思がないと世間に教えるようなものだったからまだ令嬢、という名目を使っていた。
 黒の瞳に赤毛という、あまり見映えのしない彼女だったがそれでも求婚者は後を絶たなかった。

「たいしたものね、どの殿方たちも。
 もうわたしは十七よ?
 十二歳で嫁に行き、すでに子を産んでいるミーシャやヘイゼルが羨ましいわ」
 そう、アリスは執事のグラウスに不満を述べる。
 この執事は祖父の代から仕えてくれていて、もう六十を迎えようとしていたからそろそろ、休みを与えねばならなかった。
 いつだったか、アリスと年齢の変わらない孫娘が数人の、彼にとってはひ孫を連れてきた記憶がある。
「皆様、愛の語らい、というにはすこしばかり。
 欲目が過ぎるかもしれませんな、お嬢様」
 そう、グラウスは嫌味をこめてアリスの書斎の机の上に置かれた求婚を申し込む手紙の山を見た。
「欲目と言っても皆さま方、わかっていらっしゃるのかしら?
 この侯爵家の荘園、その他に城が二つ。
 砦は四つ。
 国王様より許可を頂いた、我が家の私兵は三千。
 それらすべてを最低、五年はゆうに養えるだけの輿入れの資金がいる、そういうことを」
 わたくしが思いますに、とグラウスが意見を述べる。
「皆様方、未だに旧法の乗っ取られておいでではないか、と」
 旧法?
 アリスは一昨年に、国王が代替わりをした際に発せられた議会からの改正法令の一覧を持ちだしてくる。
「これかしら?
 未亡人、もしくは貴族の子女がその父祖の爵位および資産、領地、その他におけるすべての遺産相続。
 これまでの二十歳までの後見人制度を改め、十六歳で成人とすることにする?」
 その改正された部分をアリスは読み上げる。
「左様でございます、お嬢様。
 もしくはまだ皆様方が、数え年でお嬢様の御年齢を十六歳、と。
 そう、考えられている可能性もございます」
 でも、この国の数え歳は実年齢より一年引くからそれならまだ十六だけど。
 アリスは口ごもる。
「でも、わたしの誕生日は、もう二日も前に過ぎているのに。
 誰もそれに対する祝いの祝辞は贈ってこないのねー‥‥‥」
 寂しそうに誰からも祝いの言葉すらもらえなかった彼女は不服を漏らす。
 まあ、その理由はわかっているのだけれどとも付け加えて。
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