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しおりを挟む「赤毛の魔女のせいでございますね、お嬢様」
グラウスは寂し気に呟いた。
まだアリスが産まれる十年以上前。
この国を含む周辺諸国で、伝染病が広まった。
教会はそれをある村からでたものだとして、その村の村長の娘を魔女だと認定し。
そして火あぶりにかけた。
赤毛に黒い瞳。
その魔女の名はソフィアと言った。
「容姿が似ているからといって、生年月日まで貴族名鑑に載せるのを偽ることはないと思わない?」
この国の貴族は、そのすべてが貴族院が発行し販売している貴族名鑑にその爵位から財産。
産まれから系譜に至るまで克明に記される。
魔女ソフィアの死んだ日とアリスの産まれた日が同じでは将来、婚姻の際に不都合があるだろう。
そう申し出てきたのは、貴族院側だ。
アリス側には何の落ち度もない。
教会に申請した出生証明書には、きちんと二か月だけ日がずれている生年月日が記されている。
「それは致し方ありません。
お嬢様様にはなにも不手際がございませんので」
まあ、そうは言いましても、そう老執事は続ける。
「その名鑑に目をつけたどなた様からか、後見人にと。
名乗りが来ているようではございますが?」
彼は、失礼いたします。
そう一言おくと、申込書の山の中から、一際立派な書類を取り出した。
「ウィルソン王子様。
このエドワーズ王国の第二王子様よりの、招聘書類でございますな…‥‥」
そう、それなのよねえ。
アリスは肩肘をついてそこに頬をのせる。
「中を読んでいいわよ、グラウス」
「宜しいのですか?
王令でございますよ?
わたしのような身分の人間が見たと知れればー‥‥‥」
王令は、王とその書記官、関係者と相手方。
それ以外に読むことを許されていない。
老執事が躊躇するのは当然だった。
「いいのよ、わたしが読み上げたことにするから。
なら、わたしが読むわ。
いい?
いまが三月の末日。
四月の十日までに王都への招聘を命じる。
まあ、王都にそれまでに来い、と。そういう話かな‥‥‥。
指定の屋敷、その他、爵位に相応しい待遇を用意する。
五月の指定日まで待つように。
それ以降は、正しき身分の夫人としての待遇をもって王城に迎える」
どう?
アリスは呆れたように、その書類を床に放り捨てた。
「お、お嬢様!?」
そんなところを誰かに見られでもした日には!
老執事は慌てて書類を取りあげた。
「これってつまり、愛人。
側室になれ。そういうことよ?
だって、第二王子にはもすでにハーゲン大公家のサーシャ様が二年前に正妃として入られているもの」
わたしより若い、十四歳の‥‥‥
「第二王子様は確か、当年ー」
「三十六歳。
それも、あの結婚式ではた目から見ていたけど。
白豚。
そう呼んでいいほどに、腹に頭が載るほどの巨漢。
金髪碧眼だけは、吟遊詩人のうたう王子様だけどね」
失礼に当たるとは思いながらも、クスリと笑ってしまうアリスだった。
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