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しおりを挟む「ひどいわ、ライルったら。
わたしが慌てふためく様を見て、楽しんでいるのだから」
アリスは不満げに頬を膨らませて彼に文句を言いながらこげた食材を勿体ないと言いつつ廃棄する。
「その心が大事だよ、アリス。
僕たちは普段の生活には困らない。
食べるものにも困らない。
でも、あの王都では、そうではなかったからね。
この土地の人々は、まだ幸せだよ‥‥‥」
王都のあの日。
第二王子がやってきて、二人が王都を去った日。
アリスは下町を抜ける時に、道端に寝転びそこで過ごすしかない人々を多く見かけた。
それは領内ではあまり見ない光景だった。
「あれはやはり、王都の治安が悪いからですか?」
「それもある。しかしー‥‥‥」
ライルは寂しそうに王都の方角に視線をやる。
「貴族や役人はもう家族で食事をしなくなった。
王様や王妃様もだ。
自室で食事をしたほうが、安全だからね。
でも、いつかはそれが悪いことになるよ」
悪いこと?
アリスはそれはなんだろう、そう考えてみた。
秘密に出来ることが多くなると、人は隠し事を増やすことに興味を持つものだ。
それはどんどん大きくなり、やがてー‥‥‥
「賄賂や税金が高くなり、貴族だけが裕福になる?」
そうだね、とライルはうなづいた。
「もう、その悪いことの結果が出始めている。
それがあの、路上の生活者たちだよ。
働く場がなくなり、税金が高くなり、食材の値段があがり、そしてーー」
飢えて死んでいく。
悲しいことだ。
その後の事もライルは心配していた。
「多くの死者が路上で死ねば、疫病が流行る。
それはもうすぐだろうね。
この領地だけでも守らないといけないよ?」
移民として頼ってくる人々を受け入れ、仕事を与え住む場所を与えて生活させる。
疫病の患者に対する医者も必要になる。
「多くのお金がかかりますね。
我が侯爵家には城も兵もおります。
いまから準備すればどうにかなるかもしれません」
こんな会話から数か月後。
王都ではライルが言ったように疫病が流行り、第二王子など贅沢をしていた貴族の多くがその病に倒れた。
質素に暮らし、領民だけでなく逃げてくる人々を招き入れたアリスとライルの領地はやがて領民が増え、税金が多く納められるようになり、人々は生活に苦しまなくてよくなった。
数年後。
あの時、こうして良かったね。
そう、ライルとアリスは子供たちとともに大広間でテーブルを囲んで食事をする毎日を送っていた。
大広間には誰も来ない。
王様も王妃様も。
そう吟遊詩人が歌ったあの歌は、この家族には違うようだ。
幸せは、家族だんらんの中にあるのかもしれない。
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