1 / 13
序章
居残り侯爵
しおりを挟む
〇居残り=夜の店で遊んだが支払うお金がない客が、店に残って雑用をこなし、肉体労働で借金を返すこと‥‥‥。
***********
その朝。
いつものように夫がいない寝室で目覚め、ベッドを出たアンナが、冬の終わりかけの寒さに肩をすくめたころ。
夫であるレザルタス侯爵マクスウェルは屋敷から遠く離れた市内のある宿屋にいた。
今夜もまた一人寂しく夜を明かしてしまった。
結婚から半年。
そろそろ、愛が覚めてしまいそうな気もするが、アンナはのんびりと外泊を楽しんでいるはずの夫を待つようになっていた。
「‥‥‥また、かな?
今年に入って何回目かしら。
戻りは昼前かなあ‥‥‥?」
のんびりとした声でそう言うと、ベッドから這い出てガウンに袖を通す。
豊かな黒髪が邪魔だと後ろにまとめた侯爵夫人は、侍女たちが暖めてくれている隣の部屋に続く扉を開けた。
寝室の隣に化粧台や衣類を並べた着替えの間、その隣には書斎や暖炉を設置した大きめの応接室がある。
その向こう側には大広間、そこからさらに、と部屋は続くが‥‥‥
この広い屋敷をアンナは気に入っていない。
産まれてから十七年、同じ家に住んでいるが家族の温かみを感じたことが少ないからだ。
両親は十歳の頃に他界、それからは仕えてくれている家臣たちと共に生きてきた。
ようやく見つけた自分だけの家族――マクスウェルはここにはいない。
「寂しさも慣れたら気楽なものね‥‥‥」
そんなアンナのぼやきを聞き流して、侍女たちが侯爵家の妻として相応しい身なりを整えようと集まっていた。
「奥様、本日の髪型はどのように?」
「お出かけのご予定は御座いませんが、何かございますか?」
「奥様、今朝は冷えますから。
こちらの皮の御召し物はいかがですか?」
そんな提案があちらこちらから飛んで来る。
なら今日はこれ、服はこれにするわ。
そう答えながら、夫が遊んでいるのだ。
自分も出入りの商人からあれこれと好きなものを買い求めているから、無駄遣いに文句を言われないという点では、ストレスは解消されていた。
ただ、夫の遊ぶ代金はとても高額なのだ。
後ほど国から補填されるとはしても、あまりいい気分はしなかった。
「そうねえ‥‥‥どうせ、また来るでしょう、あれが?」
「あれが‥‥‥来ますね、たぶん。
昼前かその辺りかと思いますけど」
侍女の一人が呆れたような顔をしてそう答える。
無理もない、彼は週に数日は屋敷を空にするのだから。
「いつものように取り立てが来るでしょうから、また、お金を用意しておいて。
はあ‥‥‥結婚式の費用よりも遊び代が多くかさむなんて」
「本当に懲りませんねー旦那様は。
奥様がもっと強くお叱りにならないから‥‥‥」
侍女たちは全員アンナが産まれる前かその前後からこの侯爵家に仕えている。
彼女にとっては、母親に近い年代の女性も少なくない。
自分の夫が浮気なんてすればただじゃおかない、なんて叫べるような強い女性ばかりだから、子供の頃から仕えてきたアンナが不憫で仕方なかった。
「だって、仕方ないじゃない?
あの人も一人で遊んでいるわけじゃないのだし」
「お一人でないから余計に問題なのです。
お仲間の貴族子弟様たちを連れまわして、奥様が迎えにくるまで遊ぶ子をやめない。
旦那様はいつもお金が足りなくなって居残りではないですか‥‥‥」
「あはは、そうねえ。
今頃、あの人は雑巾で床を拭いているかもしれないわね」
「奥様!!」
そんな侍女たちの心を知ってか知らずか、当の本人はのんびりしたものだ。
浮気が始まったあの夏の夜から、新婦は夫に対して一度も怒ったことがない。
今だってそうだった。
「いいじゃない?
旦那様は旦那様。
やりたいことをさせてあげるのが、妻の務めよ」
そんな内容のことを眠たそうな声で言うものだから、侍女たちは逆に呆れてしまった。
もう少し怒ってもいいはずなのに。
屋敷の使用人たちが主人であるマクスウェルに愛想が尽きたとぼやくなか、妻の彼女だけはただただ黙って夫を迎えに行く日々だった。
「奥様‥‥‥。
本当にそれでいいのですか?
失礼ですが、あれは入り婿。
奥様の方が強い立場なのですよ??」
「そうね。
でも、お父様もお母様も、みんな先に逝ってしまって家族は彼だけがなのよ?
彼に捨てられたら、わたし、もう生きていけないわ」
「奥様、だからといって好き勝手させるのはまた違うのではないですか??」
「ねえ、あなたたちもそうだけど。
この屋敷の主は彼なのよ。
わたしは側で黙って待つのが妻の役割なの。
もうこれ以上、言わせないで頂戴」
「‥‥‥はい」
と、まあ。
毎日交わされる会話がこんな内容だから、侍女たちもアンナの説得はとっくのむかしに諦めていた。
どうしてこの子はこんなにも都合よく扱われて平気なのかしら。
可哀想な侯爵夫人は今朝もまた、使用人たちからの同情を集めるていた。
「さて、と。
いつものように請求書が届けられるまでに職務を終わらせないと。
彼が帰宅したら、ゆっくりと出来ないわ。
戻ってきた後にのんびりできない家なんて、家とは言えないもの。
頑張らないと」
「そのお役目も旦那様のお仕事なんですよ、奥様!?
もういい加減に代筆されるのは止められてはどうですか?」
侍女長が悲鳴に近い声を上げる。
この屋敷は王都の南側にあった。
侯爵が遊蕩三昧を楽しんでいる色街は真反対の北側にあり、侯爵家の領地ははるか遠い東側の国境沿いにある。
そこから上がってくる報告書、その他の書類を確認して署名をするのが侯爵の仕事なのに。
黙って代理の署名をするアンナのことを、使用人たちは可哀想だと嘆いていた。
「お仕事があるだけ貴族は平和というものだと思うの。
これが無くなれば、みんな遊んでしまう。そうなると国も傾くようになるかもしれない。
あなたはそうは思わない、?」
「奥様‥‥‥それは男性の言われるお言葉ですよ?
貴族の婦人は刺繍に詩歌、裁縫に芸術をたしなむものなのに」
あなたも考えが古いわね。
アンナはため息交じりにそう言う、侍女の一人にむかってそう言った。
そんなときだ、大声を上げて別の侍女‥‥‥幼なじみのステラが書斎に飛び込んできたのは。
ああ、来たわね。
いつものように慌てふためいているステラを横目で見ながら、今回は額が大きいかな?
そう、アンナは想像してうるさい侍女に注意するのだった。
「ねえ、もう少し静かに入ってこれないの?
もう慣れたでしょ?
あの人の借金の請求書が回ってくるなんていつものことじゃない」
「ですが、奥様。
今回は額が額です!!」
金額?
そんなに大きいの?
やっぱりとは思っていたが――
侍女が差し出したそれを見て、アンナからもため息が一つ。
確かにこれは、あの大声で叫びながら駆け込んできてもおかしくない。
そんな金額の書かれた請求書がそこにはあった。
「‥‥‥ねえ、ステラ?
あなたもういい年なんだから。
そろそろ、落ち着きなさい?」
「でも奥様!?
こんな大金は、今年に入って四度目ですよ??」
そんな回数を言われなくても分かっています。
ため息をつきたいのはアンナのほうだった。
「はいはい。
旦那様もよく遊んだものね。
あら、良い金額‥‥‥もう何回目かな、浮気ばかりして。
本当に懲りない人。
まあ、いいわ。ステラ?
あなたも、そろそろ慣れてね‥‥‥」
「奥様!?
そんな気の抜けたような返事なんてなさらないでください。
どうしてもっとお怒りにならないのですか??」
「だって、仕方ないじゃない。
泣いても叫んでも、見て、これ?」
そう言ってアンナが侍女に見せたのは、両手の綺麗にそろえた後がまだ鮮やかな爪だった。
侯爵夫人は他の侍女たちが気づかないところで、夫に抵抗していたのだ。
文句を言い、平手打ちを頬にかまし、しまいには爪を突き立てても夫の浮気癖は治らない。
いつの間にかこうして請求書が回ってくるまで放置しておいて、やってきたらお金を持参して彼を連れ帰る。
それがアンナのここ最近の日課のようなものになってしまっていた。
だからもう悩むのは止めたのよ。
あの人もただ遊んでいるだけではないのだし‥‥‥達観すれば楽なものよね。
彼は最後にはここに戻ってくるんだから。
そう思うようになってはや二か月。
侯爵夫人はのんびりと夫を迎えにいくのを待つようになっていた。
「戻らないものを、戻そうとしても無駄なのよ。
分かったら、そこに書かれている金貨を準備して」
「奥様‥‥‥。
家族は夜に、家で温まりあうものでしょ?
まだ二月だというのに、この真冬の寒い中、侯爵様はいない。
なんて可哀想なアンナ‥‥‥」
「そうね、ステラ。
我が家の旦那様は、落ち着いて屋敷にいたことなんて、一度もないわねー。
あの人にとっての我が家は、この侯爵家じゃないの。
あの色街なの。
だから、仕方ないでしょう?」
「仕方がないでは世間様が許しませんよ、奥様?
御結婚されたのは、昨年の夏ですよ?
それなのに旦那様――あの入り婿の道楽息子と来たら‥‥‥」
「やめなさい!
マクスウェル様は我が家の当主ですよ。
足りない部分はわたしたちが担えばいいじゃない。
あなたは騒ぎすぎよ」
「だって、アンナ!?
いいえ‥‥‥奥様。
誰にも限界というものがあります。
奥様は悔しくないのですか?」
(悔しい、ね?
色街――身体を売る女性や、お酒の相手をする女性が夜に輝く世界。
そこで夜な夜な遊び惚けている我が夫は‥‥‥まあ、世間から見れば堕落した浮気男と見えるかもしれません。
いえいえ、彼が一人でそこにいるならば、それはその通り。
でも、そこに同伴している誰かがいるとすれば、話が違ってきます。)
などとアンナは口に出したても出せないそれを、心で呟いていた。
でも、外見はおしとやかに黙って夫を待つ妻を演じなければならない。
それが、二か月前に大喧嘩をした際に彼に懇願された役割だった。
「わたしは旦那様のなされることに文句なんてないわ。
だってそうでしょう?
まだ結婚して半年近く。
あの人はこの家にずっといたことなんで一度もないけど‥‥‥戻らないことはなかったのだから。
まあ、いいわ‥‥‥出かける仕度をして早くして」
「奥様‥‥‥。
どうしてそんなに尽くすのですか??
こんなにも裏切られているのに」
「そんなことまであなたに言わなきゃいけないの?
執事長の娘のあなたとわたしは、幼なじみだけどいまは主の妻と召使い。
いつまでも同じ立場の気分でいられたら、それこそ、世間からばかにされるわ。
そうでしょ?」
それを聞いてショックを受けた顔をするステラだったが、そうですか!
そう言うとさっさと部屋を出て行ってしまった。
幼馴染の声も届かないと侍女は思ったらしい。
「ステラ。
私にはきちんと届いているのよ、あなたたちの心配の声。
でも、あの人が聞かないんじゃ、どうしようもないのよねー。
聞きたいって当人が心で悔やんでいても、それができないことも、ある‥‥‥かな?」
さ、請求書も来たし早く迎えに行かなくちゃ。
アンナは侍女たちの心配をどこか吹く風と受け流して、夫を迎えに王都の反対側へと出かけたのだった。
******
色街。
そう呼び称されるこの北側の街並みは、どこか古びていて、さびれていて、それなのに人の活気がある妙な場所。
貴族に軍人、その日暮らしの労働者から田舎から流れてくる季節労働者たち。
そして、行き場を無くした浮浪者や犯罪者たちまで。
ここは王都の掃きだめ。
冬の寒さと同じように、人間の心の闇が闊歩する場所だった。
そんな色街の一角で、窓の外を見上げるレザルタス侯爵マクスウェル、二十七歳。
黒髪に苔色の瞳が魅力的な偉丈夫。
そして、稀代の遊び人。
居残り侯爵なんて噂されるほど、彼はここの人気者であり、今も隣に一人の女性を侍らせてソファにもたれていた。
「やあ、来てくれたのか? アンナ。
いつも済まないな?」
「‥‥‥いいえ、旦那様。
これも妻の役目ですから」
隣に座る女性は誰かしら?
そう思いながら、アンナは夫を迎えに色街へと執事や護衛の兵と共にやってきていた。
「ありがとう。
昨夜ははしゃぎすぎたよ。ちょっとね‥‥‥」
「そのようですね、旦那様。
同じお店で遊ばれれば宜しいものを。
そうすれば、侯爵家の名前でツケも効きますのに」
一度借金を抱えて支払いをした店には二度と寄り付かない。
その割に、若い頃から慣れ親しんだこの街はマクスウェルを惹きつけて離さない。
まるで街に愛されているかのように、侯爵の周りにはいろいろな人間が集まりいつもにぎやかだった。
「僕は新しい場所が好きなんだ。
それは君も知っているだろ?」
「それは理解しておりますけど、昨夜はどうだったのですか?
また、二日酔いなんて聞きたくないですよ?」
「うん。
そうでもないな。
まだ飲もうとすれば飲めるほどだ」
「そうですか。
でもお店を変えるのは宜しいですけど‥‥‥。
なんだか、来るたびに色街の奥へ、奥へと入ってる気がします」
「ああ、間違っていない。
きみにはどう見える?」
マクスウェルは長いソファーに身を預けたまま、灰色の空が見える窓の外を指差した。
一人、こんな場末の宿屋には似合わない格好の少女、アンナは顔を隠した黒いレースの覆いの向こう側から、その先にある光景を眺めてみる。
暗い空、薄灯りを灯さないと目が痛くなるような室内。
陽光は入らず、空気はしんとして心を深い闇に沈めたかのように寂しさを感じさせていた。
「長くいたいとは思いません。
でも、あなたが好きなら‥‥‥わたしも好きになりたいと思います、旦那様」
「そうか。
君には見せたくない世界だよ、ここは。
戻ろうか‥‥‥払いは済んだか?」
「下で執事が済ませていると思います。
今回は少しだけ高いと文句も出ていました」
「すまないな。
侯爵家の財産を目減りさせるばかりだ‥‥‥」
「いいえ、お気になさらず。
どうせ、政府から返還されるものですから。
ところで、昨夜はとても激しかったようですね?
床に六人もいらっしゃいます。
他の方々は‥‥‥?」
「うん?
ああ、あいつらなら先に戻ったはずだ。
あとしばらくすれば、憲兵を連れてやって来るだろうな」
そう、と黒い喪服に身を包んだアンナは興味なさげに、しかし、寒さに肩をすくめた。
床には男女が六人倒れこんでいる。
生きているのはかすかに上下する胸の動きから息をしていることが見て取れるが、誰もが満身創痍だった。
折れた剣に短刀、その他、奇妙な形をした武器までが散乱している。
マクスウェルは片腕を汚しているようで簡単な手当の代わりに布を巻いていた。
無事ではないにせよ、夫がこうして生きていてくれることにアンナは今日も安堵する。
もっとも、それを見せて彼を甘やかそうとは思わなかったが。
「強かったのですか、彼らは?」
「強かった。
昨年の春に商人の家に押し込んだ盗賊どもだ。
この色街の奥に逃げ込んで次の仕事をしようとしていてな‥‥‥案外、時間がかかってしまった。
すまない」
「そうですか。
その隣の女性は?
いつもそばに集まっている女性たちとは違うように見えますが??」
「あー‥‥‥いや。
その、な。
成り行きで助けることになってしまった。
決して浮気じゃないぞ?」
夫の側で震えている、自分より年上の女性がどうにもアンナは気に入らない。
このまま連れ帰るとか言いだしそうで怖かった。
「この後に来られる同僚のかたがたにお渡しになるのですね?
もちろん?」
「もちろん、もちろんだ。
彼女の保護は王国に任せる。もちろん、そうする」
「そう。
では、戻りませんか?
二人の我が家に。
今夜は温かいベッドもありますよ?」
マクスウェルは十歳近くも年下の幼な妻の迫力にたじろぎながら、その宿を後にした。
そして、帰りの馬車の中。
アンナはいつものように冷たい笑顔で語り掛けてやる。
「ねえ、旦那様。
そろそろ、浮気なんてしていないと信じたいので真実の愛を下さいね?」
「しっ‥‥‥真実の、愛とは一体‥‥‥?
僕は君だけを愛しているよ、アンナ??」
「ですから!
物足りないと申しております!!
両親が死に、廃絶になりかけた我が侯爵家の跡継ぎになる代わりに与えられたお役目。
それが、この色街の管理と無法を正すことだと二か月前にお伺いしました。
お役目の為には、遊び人として世間の目を誤魔化すことも必要だとも」
「そうだな。
きみの理解には感謝しているよ‥‥‥」
「ですけど、旦那様?
我が家の使用人たちは、いま後ろの馬車に乗っている執事のグレアム以外。
みんな、旦那様を入り婿の放蕩息子。
どうしようもない遊び人だと疑っております。
それは良いですよ、そうする必要があるのですから。
ただ――」
「ただ、何かな?
アンナ‥‥‥言ってくれ。
頼む、公務にかまけて君を寂しがらせたとあっては‥‥‥僕が辛い」
「どうかしら‥‥‥?
いいですか、あなた!?
もし、この街で遊んでいるふりが本気になった時。
私の愛が消えて無くなっても知りませんよ、マクスウェル?
そのために、真実の愛が欲しいのです」
そう言い、アンナはたじろぐ夫に優しく微笑んでやる。
この人には伝わるかしら?
二人だけの宝物、子供が欲しいと言っているわたしの想いが。
妻はなにをすればいいのだ、そう悩んでいる夫に意地悪そうに微笑んでいた。
これくらいの悪戯と素っ気なくしてやる憂さ晴らし。
若い妻は、しかし、夫に対する愛が覚めることはなかった。
二か月前に聞かされたこの真実。
夫は役人の顔を隠してさまざまな飲み屋や風俗の店、宿屋に出入りする。
そこで借金を作って下働きをしながら、怪しいと目当てをつけた泊まり客や店の内情を探り尻尾を掴めば逮捕し、抵抗する相手とは交戦になることもしばしば。
その時には、今回のような盗賊などもいたりして凄まじい斬り合いに発展することも珍しくない。
借金の代金を持って彼を迎えにいくたびに、血が散乱する現場に出くわしていたら、いつの間にか少々のことではアンナは驚かなくなった。
ただ、いつも彼の隣には新しい女性の被害者だったり協力者がいて、アンナはどこか不安に感じていた。
そんな妻を見て、使用人にも内緒の夫婦だけの秘密を守らなくてはいけない。
いつかこの真実が夢にならないようにしなければならないと、マクスウェルは心に誓うのだった。
***********
その朝。
いつものように夫がいない寝室で目覚め、ベッドを出たアンナが、冬の終わりかけの寒さに肩をすくめたころ。
夫であるレザルタス侯爵マクスウェルは屋敷から遠く離れた市内のある宿屋にいた。
今夜もまた一人寂しく夜を明かしてしまった。
結婚から半年。
そろそろ、愛が覚めてしまいそうな気もするが、アンナはのんびりと外泊を楽しんでいるはずの夫を待つようになっていた。
「‥‥‥また、かな?
今年に入って何回目かしら。
戻りは昼前かなあ‥‥‥?」
のんびりとした声でそう言うと、ベッドから這い出てガウンに袖を通す。
豊かな黒髪が邪魔だと後ろにまとめた侯爵夫人は、侍女たちが暖めてくれている隣の部屋に続く扉を開けた。
寝室の隣に化粧台や衣類を並べた着替えの間、その隣には書斎や暖炉を設置した大きめの応接室がある。
その向こう側には大広間、そこからさらに、と部屋は続くが‥‥‥
この広い屋敷をアンナは気に入っていない。
産まれてから十七年、同じ家に住んでいるが家族の温かみを感じたことが少ないからだ。
両親は十歳の頃に他界、それからは仕えてくれている家臣たちと共に生きてきた。
ようやく見つけた自分だけの家族――マクスウェルはここにはいない。
「寂しさも慣れたら気楽なものね‥‥‥」
そんなアンナのぼやきを聞き流して、侍女たちが侯爵家の妻として相応しい身なりを整えようと集まっていた。
「奥様、本日の髪型はどのように?」
「お出かけのご予定は御座いませんが、何かございますか?」
「奥様、今朝は冷えますから。
こちらの皮の御召し物はいかがですか?」
そんな提案があちらこちらから飛んで来る。
なら今日はこれ、服はこれにするわ。
そう答えながら、夫が遊んでいるのだ。
自分も出入りの商人からあれこれと好きなものを買い求めているから、無駄遣いに文句を言われないという点では、ストレスは解消されていた。
ただ、夫の遊ぶ代金はとても高額なのだ。
後ほど国から補填されるとはしても、あまりいい気分はしなかった。
「そうねえ‥‥‥どうせ、また来るでしょう、あれが?」
「あれが‥‥‥来ますね、たぶん。
昼前かその辺りかと思いますけど」
侍女の一人が呆れたような顔をしてそう答える。
無理もない、彼は週に数日は屋敷を空にするのだから。
「いつものように取り立てが来るでしょうから、また、お金を用意しておいて。
はあ‥‥‥結婚式の費用よりも遊び代が多くかさむなんて」
「本当に懲りませんねー旦那様は。
奥様がもっと強くお叱りにならないから‥‥‥」
侍女たちは全員アンナが産まれる前かその前後からこの侯爵家に仕えている。
彼女にとっては、母親に近い年代の女性も少なくない。
自分の夫が浮気なんてすればただじゃおかない、なんて叫べるような強い女性ばかりだから、子供の頃から仕えてきたアンナが不憫で仕方なかった。
「だって、仕方ないじゃない?
あの人も一人で遊んでいるわけじゃないのだし」
「お一人でないから余計に問題なのです。
お仲間の貴族子弟様たちを連れまわして、奥様が迎えにくるまで遊ぶ子をやめない。
旦那様はいつもお金が足りなくなって居残りではないですか‥‥‥」
「あはは、そうねえ。
今頃、あの人は雑巾で床を拭いているかもしれないわね」
「奥様!!」
そんな侍女たちの心を知ってか知らずか、当の本人はのんびりしたものだ。
浮気が始まったあの夏の夜から、新婦は夫に対して一度も怒ったことがない。
今だってそうだった。
「いいじゃない?
旦那様は旦那様。
やりたいことをさせてあげるのが、妻の務めよ」
そんな内容のことを眠たそうな声で言うものだから、侍女たちは逆に呆れてしまった。
もう少し怒ってもいいはずなのに。
屋敷の使用人たちが主人であるマクスウェルに愛想が尽きたとぼやくなか、妻の彼女だけはただただ黙って夫を迎えに行く日々だった。
「奥様‥‥‥。
本当にそれでいいのですか?
失礼ですが、あれは入り婿。
奥様の方が強い立場なのですよ??」
「そうね。
でも、お父様もお母様も、みんな先に逝ってしまって家族は彼だけがなのよ?
彼に捨てられたら、わたし、もう生きていけないわ」
「奥様、だからといって好き勝手させるのはまた違うのではないですか??」
「ねえ、あなたたちもそうだけど。
この屋敷の主は彼なのよ。
わたしは側で黙って待つのが妻の役割なの。
もうこれ以上、言わせないで頂戴」
「‥‥‥はい」
と、まあ。
毎日交わされる会話がこんな内容だから、侍女たちもアンナの説得はとっくのむかしに諦めていた。
どうしてこの子はこんなにも都合よく扱われて平気なのかしら。
可哀想な侯爵夫人は今朝もまた、使用人たちからの同情を集めるていた。
「さて、と。
いつものように請求書が届けられるまでに職務を終わらせないと。
彼が帰宅したら、ゆっくりと出来ないわ。
戻ってきた後にのんびりできない家なんて、家とは言えないもの。
頑張らないと」
「そのお役目も旦那様のお仕事なんですよ、奥様!?
もういい加減に代筆されるのは止められてはどうですか?」
侍女長が悲鳴に近い声を上げる。
この屋敷は王都の南側にあった。
侯爵が遊蕩三昧を楽しんでいる色街は真反対の北側にあり、侯爵家の領地ははるか遠い東側の国境沿いにある。
そこから上がってくる報告書、その他の書類を確認して署名をするのが侯爵の仕事なのに。
黙って代理の署名をするアンナのことを、使用人たちは可哀想だと嘆いていた。
「お仕事があるだけ貴族は平和というものだと思うの。
これが無くなれば、みんな遊んでしまう。そうなると国も傾くようになるかもしれない。
あなたはそうは思わない、?」
「奥様‥‥‥それは男性の言われるお言葉ですよ?
貴族の婦人は刺繍に詩歌、裁縫に芸術をたしなむものなのに」
あなたも考えが古いわね。
アンナはため息交じりにそう言う、侍女の一人にむかってそう言った。
そんなときだ、大声を上げて別の侍女‥‥‥幼なじみのステラが書斎に飛び込んできたのは。
ああ、来たわね。
いつものように慌てふためいているステラを横目で見ながら、今回は額が大きいかな?
そう、アンナは想像してうるさい侍女に注意するのだった。
「ねえ、もう少し静かに入ってこれないの?
もう慣れたでしょ?
あの人の借金の請求書が回ってくるなんていつものことじゃない」
「ですが、奥様。
今回は額が額です!!」
金額?
そんなに大きいの?
やっぱりとは思っていたが――
侍女が差し出したそれを見て、アンナからもため息が一つ。
確かにこれは、あの大声で叫びながら駆け込んできてもおかしくない。
そんな金額の書かれた請求書がそこにはあった。
「‥‥‥ねえ、ステラ?
あなたもういい年なんだから。
そろそろ、落ち着きなさい?」
「でも奥様!?
こんな大金は、今年に入って四度目ですよ??」
そんな回数を言われなくても分かっています。
ため息をつきたいのはアンナのほうだった。
「はいはい。
旦那様もよく遊んだものね。
あら、良い金額‥‥‥もう何回目かな、浮気ばかりして。
本当に懲りない人。
まあ、いいわ。ステラ?
あなたも、そろそろ慣れてね‥‥‥」
「奥様!?
そんな気の抜けたような返事なんてなさらないでください。
どうしてもっとお怒りにならないのですか??」
「だって、仕方ないじゃない。
泣いても叫んでも、見て、これ?」
そう言ってアンナが侍女に見せたのは、両手の綺麗にそろえた後がまだ鮮やかな爪だった。
侯爵夫人は他の侍女たちが気づかないところで、夫に抵抗していたのだ。
文句を言い、平手打ちを頬にかまし、しまいには爪を突き立てても夫の浮気癖は治らない。
いつの間にかこうして請求書が回ってくるまで放置しておいて、やってきたらお金を持参して彼を連れ帰る。
それがアンナのここ最近の日課のようなものになってしまっていた。
だからもう悩むのは止めたのよ。
あの人もただ遊んでいるだけではないのだし‥‥‥達観すれば楽なものよね。
彼は最後にはここに戻ってくるんだから。
そう思うようになってはや二か月。
侯爵夫人はのんびりと夫を迎えにいくのを待つようになっていた。
「戻らないものを、戻そうとしても無駄なのよ。
分かったら、そこに書かれている金貨を準備して」
「奥様‥‥‥。
家族は夜に、家で温まりあうものでしょ?
まだ二月だというのに、この真冬の寒い中、侯爵様はいない。
なんて可哀想なアンナ‥‥‥」
「そうね、ステラ。
我が家の旦那様は、落ち着いて屋敷にいたことなんて、一度もないわねー。
あの人にとっての我が家は、この侯爵家じゃないの。
あの色街なの。
だから、仕方ないでしょう?」
「仕方がないでは世間様が許しませんよ、奥様?
御結婚されたのは、昨年の夏ですよ?
それなのに旦那様――あの入り婿の道楽息子と来たら‥‥‥」
「やめなさい!
マクスウェル様は我が家の当主ですよ。
足りない部分はわたしたちが担えばいいじゃない。
あなたは騒ぎすぎよ」
「だって、アンナ!?
いいえ‥‥‥奥様。
誰にも限界というものがあります。
奥様は悔しくないのですか?」
(悔しい、ね?
色街――身体を売る女性や、お酒の相手をする女性が夜に輝く世界。
そこで夜な夜な遊び惚けている我が夫は‥‥‥まあ、世間から見れば堕落した浮気男と見えるかもしれません。
いえいえ、彼が一人でそこにいるならば、それはその通り。
でも、そこに同伴している誰かがいるとすれば、話が違ってきます。)
などとアンナは口に出したても出せないそれを、心で呟いていた。
でも、外見はおしとやかに黙って夫を待つ妻を演じなければならない。
それが、二か月前に大喧嘩をした際に彼に懇願された役割だった。
「わたしは旦那様のなされることに文句なんてないわ。
だってそうでしょう?
まだ結婚して半年近く。
あの人はこの家にずっといたことなんで一度もないけど‥‥‥戻らないことはなかったのだから。
まあ、いいわ‥‥‥出かける仕度をして早くして」
「奥様‥‥‥。
どうしてそんなに尽くすのですか??
こんなにも裏切られているのに」
「そんなことまであなたに言わなきゃいけないの?
執事長の娘のあなたとわたしは、幼なじみだけどいまは主の妻と召使い。
いつまでも同じ立場の気分でいられたら、それこそ、世間からばかにされるわ。
そうでしょ?」
それを聞いてショックを受けた顔をするステラだったが、そうですか!
そう言うとさっさと部屋を出て行ってしまった。
幼馴染の声も届かないと侍女は思ったらしい。
「ステラ。
私にはきちんと届いているのよ、あなたたちの心配の声。
でも、あの人が聞かないんじゃ、どうしようもないのよねー。
聞きたいって当人が心で悔やんでいても、それができないことも、ある‥‥‥かな?」
さ、請求書も来たし早く迎えに行かなくちゃ。
アンナは侍女たちの心配をどこか吹く風と受け流して、夫を迎えに王都の反対側へと出かけたのだった。
******
色街。
そう呼び称されるこの北側の街並みは、どこか古びていて、さびれていて、それなのに人の活気がある妙な場所。
貴族に軍人、その日暮らしの労働者から田舎から流れてくる季節労働者たち。
そして、行き場を無くした浮浪者や犯罪者たちまで。
ここは王都の掃きだめ。
冬の寒さと同じように、人間の心の闇が闊歩する場所だった。
そんな色街の一角で、窓の外を見上げるレザルタス侯爵マクスウェル、二十七歳。
黒髪に苔色の瞳が魅力的な偉丈夫。
そして、稀代の遊び人。
居残り侯爵なんて噂されるほど、彼はここの人気者であり、今も隣に一人の女性を侍らせてソファにもたれていた。
「やあ、来てくれたのか? アンナ。
いつも済まないな?」
「‥‥‥いいえ、旦那様。
これも妻の役目ですから」
隣に座る女性は誰かしら?
そう思いながら、アンナは夫を迎えに色街へと執事や護衛の兵と共にやってきていた。
「ありがとう。
昨夜ははしゃぎすぎたよ。ちょっとね‥‥‥」
「そのようですね、旦那様。
同じお店で遊ばれれば宜しいものを。
そうすれば、侯爵家の名前でツケも効きますのに」
一度借金を抱えて支払いをした店には二度と寄り付かない。
その割に、若い頃から慣れ親しんだこの街はマクスウェルを惹きつけて離さない。
まるで街に愛されているかのように、侯爵の周りにはいろいろな人間が集まりいつもにぎやかだった。
「僕は新しい場所が好きなんだ。
それは君も知っているだろ?」
「それは理解しておりますけど、昨夜はどうだったのですか?
また、二日酔いなんて聞きたくないですよ?」
「うん。
そうでもないな。
まだ飲もうとすれば飲めるほどだ」
「そうですか。
でもお店を変えるのは宜しいですけど‥‥‥。
なんだか、来るたびに色街の奥へ、奥へと入ってる気がします」
「ああ、間違っていない。
きみにはどう見える?」
マクスウェルは長いソファーに身を預けたまま、灰色の空が見える窓の外を指差した。
一人、こんな場末の宿屋には似合わない格好の少女、アンナは顔を隠した黒いレースの覆いの向こう側から、その先にある光景を眺めてみる。
暗い空、薄灯りを灯さないと目が痛くなるような室内。
陽光は入らず、空気はしんとして心を深い闇に沈めたかのように寂しさを感じさせていた。
「長くいたいとは思いません。
でも、あなたが好きなら‥‥‥わたしも好きになりたいと思います、旦那様」
「そうか。
君には見せたくない世界だよ、ここは。
戻ろうか‥‥‥払いは済んだか?」
「下で執事が済ませていると思います。
今回は少しだけ高いと文句も出ていました」
「すまないな。
侯爵家の財産を目減りさせるばかりだ‥‥‥」
「いいえ、お気になさらず。
どうせ、政府から返還されるものですから。
ところで、昨夜はとても激しかったようですね?
床に六人もいらっしゃいます。
他の方々は‥‥‥?」
「うん?
ああ、あいつらなら先に戻ったはずだ。
あとしばらくすれば、憲兵を連れてやって来るだろうな」
そう、と黒い喪服に身を包んだアンナは興味なさげに、しかし、寒さに肩をすくめた。
床には男女が六人倒れこんでいる。
生きているのはかすかに上下する胸の動きから息をしていることが見て取れるが、誰もが満身創痍だった。
折れた剣に短刀、その他、奇妙な形をした武器までが散乱している。
マクスウェルは片腕を汚しているようで簡単な手当の代わりに布を巻いていた。
無事ではないにせよ、夫がこうして生きていてくれることにアンナは今日も安堵する。
もっとも、それを見せて彼を甘やかそうとは思わなかったが。
「強かったのですか、彼らは?」
「強かった。
昨年の春に商人の家に押し込んだ盗賊どもだ。
この色街の奥に逃げ込んで次の仕事をしようとしていてな‥‥‥案外、時間がかかってしまった。
すまない」
「そうですか。
その隣の女性は?
いつもそばに集まっている女性たちとは違うように見えますが??」
「あー‥‥‥いや。
その、な。
成り行きで助けることになってしまった。
決して浮気じゃないぞ?」
夫の側で震えている、自分より年上の女性がどうにもアンナは気に入らない。
このまま連れ帰るとか言いだしそうで怖かった。
「この後に来られる同僚のかたがたにお渡しになるのですね?
もちろん?」
「もちろん、もちろんだ。
彼女の保護は王国に任せる。もちろん、そうする」
「そう。
では、戻りませんか?
二人の我が家に。
今夜は温かいベッドもありますよ?」
マクスウェルは十歳近くも年下の幼な妻の迫力にたじろぎながら、その宿を後にした。
そして、帰りの馬車の中。
アンナはいつものように冷たい笑顔で語り掛けてやる。
「ねえ、旦那様。
そろそろ、浮気なんてしていないと信じたいので真実の愛を下さいね?」
「しっ‥‥‥真実の、愛とは一体‥‥‥?
僕は君だけを愛しているよ、アンナ??」
「ですから!
物足りないと申しております!!
両親が死に、廃絶になりかけた我が侯爵家の跡継ぎになる代わりに与えられたお役目。
それが、この色街の管理と無法を正すことだと二か月前にお伺いしました。
お役目の為には、遊び人として世間の目を誤魔化すことも必要だとも」
「そうだな。
きみの理解には感謝しているよ‥‥‥」
「ですけど、旦那様?
我が家の使用人たちは、いま後ろの馬車に乗っている執事のグレアム以外。
みんな、旦那様を入り婿の放蕩息子。
どうしようもない遊び人だと疑っております。
それは良いですよ、そうする必要があるのですから。
ただ――」
「ただ、何かな?
アンナ‥‥‥言ってくれ。
頼む、公務にかまけて君を寂しがらせたとあっては‥‥‥僕が辛い」
「どうかしら‥‥‥?
いいですか、あなた!?
もし、この街で遊んでいるふりが本気になった時。
私の愛が消えて無くなっても知りませんよ、マクスウェル?
そのために、真実の愛が欲しいのです」
そう言い、アンナはたじろぐ夫に優しく微笑んでやる。
この人には伝わるかしら?
二人だけの宝物、子供が欲しいと言っているわたしの想いが。
妻はなにをすればいいのだ、そう悩んでいる夫に意地悪そうに微笑んでいた。
これくらいの悪戯と素っ気なくしてやる憂さ晴らし。
若い妻は、しかし、夫に対する愛が覚めることはなかった。
二か月前に聞かされたこの真実。
夫は役人の顔を隠してさまざまな飲み屋や風俗の店、宿屋に出入りする。
そこで借金を作って下働きをしながら、怪しいと目当てをつけた泊まり客や店の内情を探り尻尾を掴めば逮捕し、抵抗する相手とは交戦になることもしばしば。
その時には、今回のような盗賊などもいたりして凄まじい斬り合いに発展することも珍しくない。
借金の代金を持って彼を迎えにいくたびに、血が散乱する現場に出くわしていたら、いつの間にか少々のことではアンナは驚かなくなった。
ただ、いつも彼の隣には新しい女性の被害者だったり協力者がいて、アンナはどこか不安に感じていた。
そんな妻を見て、使用人にも内緒の夫婦だけの秘密を守らなくてはいけない。
いつかこの真実が夢にならないようにしなければならないと、マクスウェルは心に誓うのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
63
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる