聖女と魔王の白い結婚

星ふくろう

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第一章 闇の聖女と魔王の誕生

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 ところでそろそろ、その舐め舐めをやめて頂きたいのですが。
 もう、いろいろとベトベトです、はい。
 ええい、やめなさい。そう思いつつ手で顔をぐいっと押すとなぜか残念そうに狼さんは顔を放してくれました。

「あれ??
 首輪? 鎖は?
 怪我は? 衣服が違う。
 それに手足が痛いのですが、これは何故に?」
「ふん。
 いろいろと不運というか、ろくでもないモノも憑いていた。
 身長なども、本来、あるべき姿に成長させた。悪くは無いだろう?
 服は我が主の着ていた物に似せている。紋章は我のものだ」
「ほうほう‥‥‥。
 丸い金縁の円が二つ。左側に三日月のようなものに、ひらがなの『く』とカタカナの『ノ』を縦にくっつけたような意匠? 文字?」
「左側が太陽の中にある闇を。右側が三神。
 我が主、その下に我と太陽神。それがその紋章よ」
「なるほど。だから、黒いんですね。
 太陽神の聖女なら赤?
 主神は‥‥‥?」
「地球の青、らしい。主曰く、な」
「好きですねえ、主様。
 まあ、今では私の主様の主様のなられるわけですが。
 どこにいらっしゃるんですか?」

 おや?
 黙ってしまう狼さん。
 寂しそうな顔をしていますねー‥‥‥。

「主は太陽神を連れて戻られた。
 地球に。最後の聖戦に」
「聖戦?」
「全ての世界の終末を賭けた、聖戦だ。
 いや、戦いに聖も悪もないな。
 それはさておこう」
「置き去り?
 良し良し、独りは寂しいですからねー」
「腹を触るな‥‥‥で、名は何にする?」
「詩音は、前のごしゅじん‥‥‥私が手にかけたあの男に与えられた名ですから。
 その前の名前は覚えていません。
 あ、忘れてました。
 私、二人殺してるんでしたね。いつか罰を受けないといけません」

 そうそう。
 自分で犯した罪を棚に上げて、狼さんを責めている私も卑怯者でした。
 これはいけません。
 殺人、それも二人。
 現代日本なら、よくて終身刑―でしょうか?

「それも不慮の事故だろう?
 そなたを拘束し、海に沈めようとしたその車が‥‥‥」
「まあ、サイドブレーキ引いたの私ですからね。
 車を理解されているのはなかなか、いい感じです。
 あ、あと‥‥‥武器が欲しいですね」
「武器?
 どのような?」
「そうですねー。
 等身大の、どこを握っても重さが均一になる。それでいて私に当たってもダメージが発生しない。
 撃った相手の能力を吸収できる。そんなのがいいですね」
「ほう。
 面白い武具だな。しかし、強度はどうする?」
「強度?
 なら――この? どこの世界のどんな素材を殴っても壊れない。
 あと、撃った時のダメージは私には来ないものを」

 いいですね。ゲームの中でやっていたアイテム精製のようでドキドキします。
 これでどれだけ殴っても私はノーダメージ。そして、スキルだけが上がっていくという。
 まさしく万能アイテム。
 あ、治癒がいるのか。

「治癒などは心配せずともいい。
 我を消滅させれるほどの攻撃でなければ、怪我など負うものか」
「へえ‥‥‥。
 ちなみにそれは、どの程度の攻撃で??」

 狼さん、いやにニヤニヤしたような顔で私に一言。

「この宇宙が消滅するのと同程度だ」

 なんてトンデモ発言。
 それって、手加減しなきゃこの世界が崩壊しますよ、ええ。
 あれ? ということは‥‥‥???

「そう、これから戦う勇者や英雄も、それなりに、な」
「数値化して欲しいのですが?」
「一から十あるとしよう」
「はいはい」
「我が主が八程度。
 我が六から七の間」
「意外に高スペック‥‥‥」
「で、あろう?」

 どこか自慢げな狼さん。
 そうなると、他の神々は??

「この世界の神の王、大神ダーシェは四、程度だ。
 他にいる六柱の神もあまり変わらん」
「‥‥‥狼さん?」
「我は動けん。
 六大陸の地下にはまだ、動くプレートがあるのでな。
 動けば、再び世界が火の海に変わってしまう」
「なんとも、大役を仰せつかってるんですね、驚きです。
 ところで、なぜ戦いを?」
「暗黒神ゲフェトの名は伊達ではない。
 闇の精霊王の名もな」
「ふうん?
 まさかの、魔族の仲間とか?
 魔族の神様とかですか??」
「魔神は別にいる。
 だが、仲は良いぞ。仲がいいだけに困っている」
「要領を得ませんね。
 往々にして、人と亜人やエルフと魔族は敵対しているものですけど?
 ゲームとかなら。あ、ゲーム。わかります?」

 それだ。とまあ、大きなため息一つの狼さん。
 なんでしょうか?
 あれ、でもそんな大きな力を持つ存在が多くいるのだとすれば、戦うと核爆弾並みの被害になるのでは?
 更に、魔族は別の異世界から来るのでは??

「残念だな。
 魔族は地下と地上世界にいる。
 まあ、その辺りの知識はまた降誕したときに分かるようにしておこう。
 問題はその破壊力ある武力だ。
 人の王、魔の王、エルフや精霊の王。
 どれもが形だけの争いでとどめていた。増えすぎた種族を減らす程度にな。
 しかし、六柱の神の二神、大神ダーシェと海神エストがな。好き勝手をまたやり始めた」
「あー‥‥‥理解。
 勇者と英雄を利用して魔族を攻撃したんですね。世界のバランスを崩すくらいの」
「賢いのか馬鹿なのかわからんな、そなたは。
 正解だ。ああ、名前はどうする?」
「いえ、その前に武器を頂けますか?
 この程度の高さの――棒を。綺麗に持ち手に革とか張って欲しいです」

 狼さんは、むうっ、と一言。
 空に向かって音にならない吠え声を上げると、それは銀色の光をともなって集束してゆき‥‥‥。

「おおっ!!
 漆黒の棒に。さすが、神様!!」
「満足したか?」

 なかなかに見事な一品。
 はてしかし、この真ん中だけにある妙な握り手部分はいったい?

「握り念じてみるがいい。いでよ、とな?」
「はあ?」

 うをっ!?
 念じたら、その部分以外の棒の部分が‥‥‥シャキン、シャキンッと音を立てて鋭い先端を持つ両端がまるで槍の穂先のように。
 
「危ないですね、これ」
「隠し武器だ。
 普段は短くして服の内にでも控えているがいい。
 で、受けてもらえるのか?」
「まあよく分かりませんが、まともな案件ではないようなので――えいっ」

 はい。
 そうです、ここまで心の内に潜めていた恨みや怒りの全てを込めて、思いっきり暗黒神ゲフェト様の横頬をぶってやりました。
 あー気持ちいい!!
 すっきりです!!

「‥‥‥噛まないんですか?」
「誰が噛むか」
「痛いでしょ?」
「凄まじくな。主に頂いたお叱りのように。
 だが、そなたはもう娘のような、いや、違うな。一心同体に近いものだ。
 怒りも何もかも理解できるもの。
 これで信じたか?」

 その質問に私はようやく狼さんを信じる気になり、円満の笑みで答えたのでした。

「はい、暗黒神ゲフェト様。
 我が主。どうか、その意を示すために。
 この、レイナ・ウテメをお使いくださいませ」

 と神妙に狼さんに従う私でした。レイナ・ウテメは好きだったゲームのヒロインです。
 闇の精霊王の聖女って設定もそっくり。
 狼さんはその口の端から、口内を切ったためか血をしたたらせながら。
 満足気にうなづき‥‥‥おもむろに私の片足をはむっ、と噛んだかと思うと――!!

「やっぱり、信用するんじゃなかった気がします――――!!!」

 そう叫びながら、私は二度目の溶岩の天井へと高く放り上げられたまま、気を失ったのでした。



 さて、それから多少のいざこざを経て私の脳内にはこの世界の情報がインプットされました。
 天界から下界へと暗黒神ゲフェトの神託と意思により降誕した聖女として。
 彼の神殿の神官たちが待ち受けるその場に降臨したのでした。

 ふむ。
 なかなかに荘厳な部屋?
 狼さんの神殿には及びませんが、素晴らしい装飾の数々。
 あーこれはさぞ、お金かけてますね。
 庶民から搾取しているに違いない。というか、シアザ帝国の統治と徴税の過酷さはリアルタイムで情報として脳内にありました。

 左手にいるのが現皇帝。
 その隣が大神官、と。そして――いたいた。
 まずは、帝国の誇る蒼炎の勇者ユリウス様、ですか。
 蒼い鎧に燃えるような真紅の髪。
 なるほど。彼が十数年前に起こした魔王リクトへの襲撃が、狼さんの怒りに触れた。
 そう、記憶しているのですが。
 若い。
 どう見ても、二十代前半。
 勇者はその任に就くと不老不死‥‥‥。

 ちょっと、ゲフェト様。
 そんな化け物、どうやって始末しろと言うんですか?
 ま、いいでしょう。
 これからは、闇の精霊王の聖女レイナ・ウテメ。
 その真の役割は――

 勇者と英雄の抹殺。そして、帝国と王国の精霊騎士の壊滅。
 さて、どうしますかねー。
 私の聖女の冒険譚はこうして始まったのでした。
 
  
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