聖女と魔王の白い結婚

星ふくろう

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第一章 闇の聖女と魔王の誕生

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「あのですね、狼さん」
「狼さん‥‥‥はあ。
 せめて神様とか、闇の精霊王様とか、暗黒神ゲフェト様、など敬称をつけようとは思わぬのか?」
「あら、また自爆しましたね、駄狼さん‥‥‥」
「知っていて申したのだ。
 もうよい、好きに致せ」

 はいはい、そう致しますとも。
 闇の精霊王はともかく、暗黒神ゲフェトとか名乗られたら存外にどきりと心が苦しくなりましたけど。

「厨二病、満開なネーミング‥‥‥」
「それを笑うなら、そなたの原点である地球と日本を笑ういい」
「はてさて、それはなぜに?」
「我が主は‥‥‥そなたの住んでいた時代のその国の出身だからよ」

 これは驚きでした。
 そんな現実があろうとは‥‥‥。

「なんで助けたんですか?」
「なに?」
「私を助けた動機です。
 神や魔という神秘的な存在が明確な意思を持って呼びつけた。
 それも現世に対するしがらみまで断ち切らせて。
 つまり、この世界で‥‥‥」

 ああ‥‥‥言いたくないなあ。
 また、形が変わっても同じことをしないといけないのですから。

「死ね」
「‥‥‥えっ?」

 先に言われてしまいました。
 この駄おおかみ‥‥‥空気よめよ! です!!
 あ、違うか。

「とは言わんぞ。
 むしろ、力を貸して欲しい。
 が、正しいな。
 それもどうかよろしくお願いいたします。
 そう伏して頼みたい程の願いだ」
「ええっ――――!!???」
「なんだ、耳元で叫びおって騒がしい」
「だって。 
 ‥‥‥ありません」
「話を戻して良いか?」

 あ、狼さん耳を伏せてしまい不機嫌そうです。
 そうですね、どこまでも話を遮って脱線させているのは私ですから‥‥‥。

「あ、はい。
 どうぞ‥‥‥」
「うむ。
 まず、我が名は暗黒神ゲフェト。南の大陸では闇の精霊王で通っておる。名はそのままだ」
「つまり、闇の精霊王ゲフェト様、と」
「そこは良いな?
 帝国の名はシアザ帝国という。すでに四世紀ほどの歴史ある大国だ」
「構成民族は‥‥‥?
 一神教? ですか?」
「基本は人、だな。
 奴隷階層に亜人、魔族がいる」
「へえ‥‥‥いるんですね、モフモフが」
「なぜ、断言できるのだ‥‥‥」
「なんとなく、お約束なので」
「また、webノベルか?」
「ま、そんなとこです。
 で、一神教?」
「いや、多神教だ。
 主神たちである六柱の神。
 我が主が降誕したとき以降に生まれた多くの新しき神、もしくは―」
「狼さんのように、地球の神様が引っ越しされてきた、と?
 それで仲が悪いわけですね、その古き神の方々」
「いや、それはない」

 なぜに、全否定!?
 だって主神がその神様六体なら‥‥‥その他の世界からきた狼さんなんて侵略者のようなものではないですか‥‥‥。

「我が主は主神である六神が生まれる以前より、この惑星におるわ‥‥‥」
「待って!?
 だって、私と同じ世界の同じ時代でしょ?
 どれだけこの世界の過去に戻ったんですか。
 あ、でも関係ないか‥‥‥」
「大ありだがな。
 数万年は過去だな。懐かしきことよ」

 あーあ、遠い目をし始めましたよ狼さん。
 やっぱり老人は話が長いですねえ‥‥‥。

「狼さん、伏せ」
「はあっ?! 
 神に対して、それを命じるか!?」
「いいから伏せて下さい。
 寝そべって頂けると嬉しいのですが。
 あと、手鏡など頂けると更に感謝の率が上がります」

 なんと図太い娘だ。
 彼はそう言いながらも私を囲むようにぐるり、と床に伏せてくれ更に姿見と手鏡まで。
 あれ‥‥‥衣類が死んだときのものに――???

「サービス、だ。
 で、これがなにを意味するのか知りたいものだ」
「いえその‥‥‥なんというか。
 どう思います、この格好。 
 あ、その前にノミとかダニとかいませんよね‥‥‥?
 ふかふかな毛皮。やはり、モフモフという表現は誤表記ですね、うん」
「噛みついていいか?
 他人様の更に神の腹を撫でるなどと、主ですらしなかった暴挙をするとは。
 まったく、その恰好?
 なぜに、首輪と鎖がついている?
 その裸に近い格好はなんだ?」
 
 私は手鏡で顔を確認。うん、ありますね。
 あの時の傷が。
 姿見で確認、全身を。
 あはは‥‥‥犬のような首輪にぶっとい鎖。十年近くあんな生活をさされていたから、もうこの首輪の跡はとれないなあなんて思いながら、身体の露出が激しいその衣装を引きちぎりたいくらい。

「見たんでしょ?
 私の過去。
 言わせたいのですか?」
「言いたくなければ言わなくてもいい」
「でも言わせたいから聞いたんですよね?」
「そなた、性格が悪いな」

 あはは?
 そうですかね?
 まあ、くだらない人生です。語るには端的に。

「簡単に言えば、性奴隷です。
 六歳で誘拐、そのままこのような格好で男性に奉仕するように躾けられた。
 意志を持つ人形ですよ。性的な奉仕をする殴っても蹴ってもいい。
 主人が望めば殺すことも可能な‥‥‥道具です」
「十年か。
 主が新たな奴隷をさらってきたから、愛憎が激しさを増して殺意を持った、と」
「そうですねえ。
 反撃されて、この通り。
 左眼に大きな裂傷。もう見えません。
 罰としてバーナー‥‥‥火炎で全身を焼かれました。死なない程度に。
 お陰様で、髪もないほど。こんな火傷だらけの肉体ですよ。
 見えますか、これ?」

 そう言い、私はあんぐりと口を開けます。
 その中には‥‥‥舌以外に白い物はない。そんな拷問すら受けましたね、そういえば。

「抜かれたか」
「ええ、十二歳の頃に。
 噛みついたんですよ、奉仕してるときに苦しくて。
 全部抜かれました。気が狂いそうだった。
 分かりますか、狼さん。
 安全で、安定した異世界の生活。
 誰にも痛めつけられない、苦しまなくていいそんな人生。
 私の、何よりの夢をあの黒い神様は約束してくれたんです。そのときの嬉しさ。
 溶岩の中に放り込まれた時のあの憎しみ。裏切られたって悲しみ。
 許されるなら、この――」
「ぶっ!」

 とまあ、いくぶんの怒りと恨みをこめて狼さんの柔らかいお腹を思いっきり掴んでやりました。
 犬とにているなら、ここは弱点のはず。
 これで反撃されたら、また私の奴隷の人格が出てくるのでしょう。
 そして、私はまた自分を失う。

「あれ‥‥‥?
 なぜ、噛まないのですか?」
「はあっ。
 その程度で噛むか。何より、それも含めての詫びだ」
「そんなもんですか。
 いいですね、この肌触り、柔らかさ。
 甘えれる感覚。安心感。
 狼さんがこのままずっと私に優しいなら、ここで死ぬまでいたいくらい」

 フンーッ。
 なんて大きな鼻息を出して私を舐めてくれる狼さん。
 ザラザラの舌は猫のようでどうにも意外でした。

「助けを求める声に気づけず、済まなかった」
「いいんです。
 現世に干渉しないのが、神様でしょうから。
 それをすれば誰もが望むでしょう? 
 異世界転生させて、新しい人生を。なんて特例を作ったらダメですよ、ゲフェト様。
 私は栄養も少なくて、こんな十六歳のはずなのに。
 まるで幼女のような外見ですけどね、あはは‥‥‥」
「その笑えるたくましさがあれば、やっていけるだろうな。
 本来の姿、成長すべき姿にもなれる。
 それでは――不満か?」
「では、やはり聖女になってゲフェト様の依頼を遂行せよ、と?」
「聖女はこの世界では特例だ。
 あらゆる王族などの特権階級を越えた、準神族と呼んでもいい。
 誰も邪険には扱わず、奇跡も行える。
 そなたが望む真実の愛、もあるかもな?」
「ふう‥‥‥交渉がお上手ですね。
 でも、裏腹のある行為だけは嫌です。人間の汚い側面はもう見たくないほどに体験しましたから。
 何を頂けますか?」

 鼻先で涙をためる私をつつき、狼さんは提案します。
 それは悪くない提案でした。

「本来の成長すべき姿。
 心配せずとも、そなたはそこいらの人間の女よりも美しい。平均を大きく越えている。
 これは、死ぬ前の日本文化と比較対象した美しさの評価だ。我が主には劣るがな」
「最後の一言だけ余計ですよ。
 他には?」
「我が力、闇と虚空を統べる能力。
 世界に関する知恵と知識を補填しよう。
 好きな名を与える。帝国には、聖女が降誕するとそう神託を出そう。
 望むなら、永遠に近い寿命を」
「みかえりはなんですか、ゲフェト様?」
「戦いだ。
 シアザには多くの神の信徒がいる。
 聖女も、そして‥‥‥勇者や英雄もな。
 そのどれもが正しいとは限らん」

 出来るか?
 そう舐めならがら言われても、返事に困りますねえ。
 甘えん坊の神様のようで。子犬のようにじゃれつかなくてもいいのに。
 私はそう思いながら、どうやらその勇者や英雄との戦いが待っているのだなと。
 静かに予感したのでした。

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