6 / 9
プロローグ
その見識は本当か?
しおりを挟む
アリスはまだ不満を発散できないから、イライラがおさまらない。
何に八つ当たりしてやろうかと当たりを見渡しても、目に留まるのは銀色の猫もどきだけだ。
「あれじゃだめね」
「ん? 何がだ? アリス」
「あなたには関係ないわよ、ナバル王子様。もう殿下なんて呼ぶのも嫌になるくらい。同胞には悪いけど、この国ごと消滅させて出て行こうかしら」
「‥‥‥。それが王族の口にすべき言葉か? 情けない限りだ。この恥知らずめ」
「どっちがよ!? あなたはその同胞を利用してわたしを意のままにしようと企む、悪の権化でしょうが!」
「意のままに?」
なにを言っているんだと王子はきょとんとした顔をしていた。
そんな悪逆非道なことを王族がいるわけがないだろう、とも。
「頭がおかしくなったのか、お前? 王族は正義のため、大義のためにだけその剣を振るい裁きを下すことを許されるのだ」
「いやだって、あなたわたしを幽閉して自分の好き勝手にしようと今もしているじゃない!?」
「当たり前だろう」
「‥‥‥は???」
もしかしたら、この王子‥‥‥
アリスはここにきてある疑問を感じ始めていた。
まさか――本当にどこか狂っている?
国だけでなく、神々の代理人である勇者までこんなことに利用するのも、そのせいかしら?
まともな判断ができなくなっているとすれば、それは病気だ。
何より、彼がもともとこんな奇行をしていたかといえば‥‥‥と、アリスの思考はそこで無下にも絶たれてしまった。この王子の心ない一言で。
「お前はグレイエルフだ。僕は人間族の王子。人間族の大義のため、正義のためになら他種族など――どうなろうがしったことか」
「――殺すっ!!」
「ああ、なんてはしたない。それでも僕の側妃になろうかという女か?」
「はっ‥‥‥正室なら許してやらないでもないわ。愚物な殿下‥‥‥」
「お前には無理だ。他種族との交流にエルフのままで挑む、その考えではな‥‥‥」
「人間の考えはいかに!? いま国内にいるグレイエルフの同胞があなたをどう感じているか、聞いて回りたいものですわ」
ここでふと考えこむような仕草をするものだから、この王子はタチが悪い。
黒髪をかきあげ、瞳の色と同じ朱色の天鵞絨のマントが肩より後ろに下がる。真っ白な首筋はまるで白磁器のよう。
髪と目の色、耳の形を魔法で見た目をすこし変えてやれば、エルフ族の憧れ、ハイエルフにも勝るとも劣らない。
アリスは本来なら水色の髪に緑色の瞳、茶色に近い肌のグレイエルフより髪と瞳の色が違う。
これは母系の曾祖父である、金麦の龍帝もしは竜王と呼ばれる彼の血を濃く受け継いでいるからだが。
どうやら、ナバル王子からすればその見た目も奇異に映るようだった。
「なあ、アリス。その質問には真面目に答えよう」
「真面目にと言われますが殿下。殿下がその答えをご存知のはずがありませんわ」
「いや、知っているとも」
「断言? そんな人望も人すらも殿下の周りにはいないはずでは?」
「どうしてそう決めつける? 君の悪い癖だ。もっとも身近な存在が、グレイエルフだというのに」
「身近な存在? 誰がそうなのですか? まさかお妃様なんて言われませんよね。この国に、同族が嫁いだという記録はありません」
「君は狭量だなあ‥‥‥。君の同族でもないかもしれないし、純血でもないかもしれないじゃないか」
「ですから! グレイエルフは六大陸にそれぞれ、一氏族と決まっているんです。往来は自由ですが、必ず旅証に国に申請を上げて許可を得なければなりません。それを怠ると、国家反逆罪に問われて処刑ですよ??」
「本当に野蛮だ。その習慣が君たちの文化を狭めていると認識したことはないのか、アリス」
「野蛮‥‥‥? 十万年あるグレイエルフの文化を野蛮? そりゃ、古代帝国時代から換算すれば人間も四万年。長い長い歴史を持ち、独自の様式美を備えてはいますけど」
「間になんども途絶してはよみがえり、途絶してはよみがえりを繰り返したのは、お互いさまだ。さっきの国外にでれば処刑の話だが。奴隷などに落とされてしまった場合はどうする? 意図せずに、奴隷商人に狩られた場合は?」
「状況に拠りますわ。無下に殺したりはしません」
王子はなんだ知らないのか、そんな冷ややかな目でアリスを見ていた。
何よその眼は‥‥‥
まるで避難されているかのような、そんな視線に奇妙な罪悪感をアリスは抱いてしまっていた。
何に八つ当たりしてやろうかと当たりを見渡しても、目に留まるのは銀色の猫もどきだけだ。
「あれじゃだめね」
「ん? 何がだ? アリス」
「あなたには関係ないわよ、ナバル王子様。もう殿下なんて呼ぶのも嫌になるくらい。同胞には悪いけど、この国ごと消滅させて出て行こうかしら」
「‥‥‥。それが王族の口にすべき言葉か? 情けない限りだ。この恥知らずめ」
「どっちがよ!? あなたはその同胞を利用してわたしを意のままにしようと企む、悪の権化でしょうが!」
「意のままに?」
なにを言っているんだと王子はきょとんとした顔をしていた。
そんな悪逆非道なことを王族がいるわけがないだろう、とも。
「頭がおかしくなったのか、お前? 王族は正義のため、大義のためにだけその剣を振るい裁きを下すことを許されるのだ」
「いやだって、あなたわたしを幽閉して自分の好き勝手にしようと今もしているじゃない!?」
「当たり前だろう」
「‥‥‥は???」
もしかしたら、この王子‥‥‥
アリスはここにきてある疑問を感じ始めていた。
まさか――本当にどこか狂っている?
国だけでなく、神々の代理人である勇者までこんなことに利用するのも、そのせいかしら?
まともな判断ができなくなっているとすれば、それは病気だ。
何より、彼がもともとこんな奇行をしていたかといえば‥‥‥と、アリスの思考はそこで無下にも絶たれてしまった。この王子の心ない一言で。
「お前はグレイエルフだ。僕は人間族の王子。人間族の大義のため、正義のためになら他種族など――どうなろうがしったことか」
「――殺すっ!!」
「ああ、なんてはしたない。それでも僕の側妃になろうかという女か?」
「はっ‥‥‥正室なら許してやらないでもないわ。愚物な殿下‥‥‥」
「お前には無理だ。他種族との交流にエルフのままで挑む、その考えではな‥‥‥」
「人間の考えはいかに!? いま国内にいるグレイエルフの同胞があなたをどう感じているか、聞いて回りたいものですわ」
ここでふと考えこむような仕草をするものだから、この王子はタチが悪い。
黒髪をかきあげ、瞳の色と同じ朱色の天鵞絨のマントが肩より後ろに下がる。真っ白な首筋はまるで白磁器のよう。
髪と目の色、耳の形を魔法で見た目をすこし変えてやれば、エルフ族の憧れ、ハイエルフにも勝るとも劣らない。
アリスは本来なら水色の髪に緑色の瞳、茶色に近い肌のグレイエルフより髪と瞳の色が違う。
これは母系の曾祖父である、金麦の龍帝もしは竜王と呼ばれる彼の血を濃く受け継いでいるからだが。
どうやら、ナバル王子からすればその見た目も奇異に映るようだった。
「なあ、アリス。その質問には真面目に答えよう」
「真面目にと言われますが殿下。殿下がその答えをご存知のはずがありませんわ」
「いや、知っているとも」
「断言? そんな人望も人すらも殿下の周りにはいないはずでは?」
「どうしてそう決めつける? 君の悪い癖だ。もっとも身近な存在が、グレイエルフだというのに」
「身近な存在? 誰がそうなのですか? まさかお妃様なんて言われませんよね。この国に、同族が嫁いだという記録はありません」
「君は狭量だなあ‥‥‥。君の同族でもないかもしれないし、純血でもないかもしれないじゃないか」
「ですから! グレイエルフは六大陸にそれぞれ、一氏族と決まっているんです。往来は自由ですが、必ず旅証に国に申請を上げて許可を得なければなりません。それを怠ると、国家反逆罪に問われて処刑ですよ??」
「本当に野蛮だ。その習慣が君たちの文化を狭めていると認識したことはないのか、アリス」
「野蛮‥‥‥? 十万年あるグレイエルフの文化を野蛮? そりゃ、古代帝国時代から換算すれば人間も四万年。長い長い歴史を持ち、独自の様式美を備えてはいますけど」
「間になんども途絶してはよみがえり、途絶してはよみがえりを繰り返したのは、お互いさまだ。さっきの国外にでれば処刑の話だが。奴隷などに落とされてしまった場合はどうする? 意図せずに、奴隷商人に狩られた場合は?」
「状況に拠りますわ。無下に殺したりはしません」
王子はなんだ知らないのか、そんな冷ややかな目でアリスを見ていた。
何よその眼は‥‥‥
まるで避難されているかのような、そんな視線に奇妙な罪悪感をアリスは抱いてしまっていた。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
冷たい仮面を被り、悪役令嬢と呼ばれた私が国王陛下になぜか気に入られました
さこの
恋愛
冷たい仮面の奥に感情を隠し続ける令嬢クラリス・フォン・ローゼンブルク。
婚約を破棄され、貴族社会で悪女と囁かれる中、国王レオンハルトにより王宮へ呼び出される。
接待係として働く中で見せる誠実ぶりは、やがて周囲の見える目を変え、名誉回復への道が開かれる。
無表情の奥に隠された繊細さに気がついたレオンハルトは次第にクラリスに惹かれはじめる。
一方、彼女を敵視していた聖女エミリアとの関係も、ある事件をきっかけに意外な絆へと変わっていく。
仮面を外した時にクラリスが手にするのは?
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる