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プロローグ
その見識は本当か?
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アリスはまだ不満を発散できないから、イライラがおさまらない。
何に八つ当たりしてやろうかと当たりを見渡しても、目に留まるのは銀色の猫もどきだけだ。
「あれじゃだめね」
「ん? 何がだ? アリス」
「あなたには関係ないわよ、ナバル王子様。もう殿下なんて呼ぶのも嫌になるくらい。同胞には悪いけど、この国ごと消滅させて出て行こうかしら」
「‥‥‥。それが王族の口にすべき言葉か? 情けない限りだ。この恥知らずめ」
「どっちがよ!? あなたはその同胞を利用してわたしを意のままにしようと企む、悪の権化でしょうが!」
「意のままに?」
なにを言っているんだと王子はきょとんとした顔をしていた。
そんな悪逆非道なことを王族がいるわけがないだろう、とも。
「頭がおかしくなったのか、お前? 王族は正義のため、大義のためにだけその剣を振るい裁きを下すことを許されるのだ」
「いやだって、あなたわたしを幽閉して自分の好き勝手にしようと今もしているじゃない!?」
「当たり前だろう」
「‥‥‥は???」
もしかしたら、この王子‥‥‥
アリスはここにきてある疑問を感じ始めていた。
まさか――本当にどこか狂っている?
国だけでなく、神々の代理人である勇者までこんなことに利用するのも、そのせいかしら?
まともな判断ができなくなっているとすれば、それは病気だ。
何より、彼がもともとこんな奇行をしていたかといえば‥‥‥と、アリスの思考はそこで無下にも絶たれてしまった。この王子の心ない一言で。
「お前はグレイエルフだ。僕は人間族の王子。人間族の大義のため、正義のためになら他種族など――どうなろうがしったことか」
「――殺すっ!!」
「ああ、なんてはしたない。それでも僕の側妃になろうかという女か?」
「はっ‥‥‥正室なら許してやらないでもないわ。愚物な殿下‥‥‥」
「お前には無理だ。他種族との交流にエルフのままで挑む、その考えではな‥‥‥」
「人間の考えはいかに!? いま国内にいるグレイエルフの同胞があなたをどう感じているか、聞いて回りたいものですわ」
ここでふと考えこむような仕草をするものだから、この王子はタチが悪い。
黒髪をかきあげ、瞳の色と同じ朱色の天鵞絨のマントが肩より後ろに下がる。真っ白な首筋はまるで白磁器のよう。
髪と目の色、耳の形を魔法で見た目をすこし変えてやれば、エルフ族の憧れ、ハイエルフにも勝るとも劣らない。
アリスは本来なら水色の髪に緑色の瞳、茶色に近い肌のグレイエルフより髪と瞳の色が違う。
これは母系の曾祖父である、金麦の龍帝もしは竜王と呼ばれる彼の血を濃く受け継いでいるからだが。
どうやら、ナバル王子からすればその見た目も奇異に映るようだった。
「なあ、アリス。その質問には真面目に答えよう」
「真面目にと言われますが殿下。殿下がその答えをご存知のはずがありませんわ」
「いや、知っているとも」
「断言? そんな人望も人すらも殿下の周りにはいないはずでは?」
「どうしてそう決めつける? 君の悪い癖だ。もっとも身近な存在が、グレイエルフだというのに」
「身近な存在? 誰がそうなのですか? まさかお妃様なんて言われませんよね。この国に、同族が嫁いだという記録はありません」
「君は狭量だなあ‥‥‥。君の同族でもないかもしれないし、純血でもないかもしれないじゃないか」
「ですから! グレイエルフは六大陸にそれぞれ、一氏族と決まっているんです。往来は自由ですが、必ず旅証に国に申請を上げて許可を得なければなりません。それを怠ると、国家反逆罪に問われて処刑ですよ??」
「本当に野蛮だ。その習慣が君たちの文化を狭めていると認識したことはないのか、アリス」
「野蛮‥‥‥? 十万年あるグレイエルフの文化を野蛮? そりゃ、古代帝国時代から換算すれば人間も四万年。長い長い歴史を持ち、独自の様式美を備えてはいますけど」
「間になんども途絶してはよみがえり、途絶してはよみがえりを繰り返したのは、お互いさまだ。さっきの国外にでれば処刑の話だが。奴隷などに落とされてしまった場合はどうする? 意図せずに、奴隷商人に狩られた場合は?」
「状況に拠りますわ。無下に殺したりはしません」
王子はなんだ知らないのか、そんな冷ややかな目でアリスを見ていた。
何よその眼は‥‥‥
まるで避難されているかのような、そんな視線に奇妙な罪悪感をアリスは抱いてしまっていた。
何に八つ当たりしてやろうかと当たりを見渡しても、目に留まるのは銀色の猫もどきだけだ。
「あれじゃだめね」
「ん? 何がだ? アリス」
「あなたには関係ないわよ、ナバル王子様。もう殿下なんて呼ぶのも嫌になるくらい。同胞には悪いけど、この国ごと消滅させて出て行こうかしら」
「‥‥‥。それが王族の口にすべき言葉か? 情けない限りだ。この恥知らずめ」
「どっちがよ!? あなたはその同胞を利用してわたしを意のままにしようと企む、悪の権化でしょうが!」
「意のままに?」
なにを言っているんだと王子はきょとんとした顔をしていた。
そんな悪逆非道なことを王族がいるわけがないだろう、とも。
「頭がおかしくなったのか、お前? 王族は正義のため、大義のためにだけその剣を振るい裁きを下すことを許されるのだ」
「いやだって、あなたわたしを幽閉して自分の好き勝手にしようと今もしているじゃない!?」
「当たり前だろう」
「‥‥‥は???」
もしかしたら、この王子‥‥‥
アリスはここにきてある疑問を感じ始めていた。
まさか――本当にどこか狂っている?
国だけでなく、神々の代理人である勇者までこんなことに利用するのも、そのせいかしら?
まともな判断ができなくなっているとすれば、それは病気だ。
何より、彼がもともとこんな奇行をしていたかといえば‥‥‥と、アリスの思考はそこで無下にも絶たれてしまった。この王子の心ない一言で。
「お前はグレイエルフだ。僕は人間族の王子。人間族の大義のため、正義のためになら他種族など――どうなろうがしったことか」
「――殺すっ!!」
「ああ、なんてはしたない。それでも僕の側妃になろうかという女か?」
「はっ‥‥‥正室なら許してやらないでもないわ。愚物な殿下‥‥‥」
「お前には無理だ。他種族との交流にエルフのままで挑む、その考えではな‥‥‥」
「人間の考えはいかに!? いま国内にいるグレイエルフの同胞があなたをどう感じているか、聞いて回りたいものですわ」
ここでふと考えこむような仕草をするものだから、この王子はタチが悪い。
黒髪をかきあげ、瞳の色と同じ朱色の天鵞絨のマントが肩より後ろに下がる。真っ白な首筋はまるで白磁器のよう。
髪と目の色、耳の形を魔法で見た目をすこし変えてやれば、エルフ族の憧れ、ハイエルフにも勝るとも劣らない。
アリスは本来なら水色の髪に緑色の瞳、茶色に近い肌のグレイエルフより髪と瞳の色が違う。
これは母系の曾祖父である、金麦の龍帝もしは竜王と呼ばれる彼の血を濃く受け継いでいるからだが。
どうやら、ナバル王子からすればその見た目も奇異に映るようだった。
「なあ、アリス。その質問には真面目に答えよう」
「真面目にと言われますが殿下。殿下がその答えをご存知のはずがありませんわ」
「いや、知っているとも」
「断言? そんな人望も人すらも殿下の周りにはいないはずでは?」
「どうしてそう決めつける? 君の悪い癖だ。もっとも身近な存在が、グレイエルフだというのに」
「身近な存在? 誰がそうなのですか? まさかお妃様なんて言われませんよね。この国に、同族が嫁いだという記録はありません」
「君は狭量だなあ‥‥‥。君の同族でもないかもしれないし、純血でもないかもしれないじゃないか」
「ですから! グレイエルフは六大陸にそれぞれ、一氏族と決まっているんです。往来は自由ですが、必ず旅証に国に申請を上げて許可を得なければなりません。それを怠ると、国家反逆罪に問われて処刑ですよ??」
「本当に野蛮だ。その習慣が君たちの文化を狭めていると認識したことはないのか、アリス」
「野蛮‥‥‥? 十万年あるグレイエルフの文化を野蛮? そりゃ、古代帝国時代から換算すれば人間も四万年。長い長い歴史を持ち、独自の様式美を備えてはいますけど」
「間になんども途絶してはよみがえり、途絶してはよみがえりを繰り返したのは、お互いさまだ。さっきの国外にでれば処刑の話だが。奴隷などに落とされてしまった場合はどうする? 意図せずに、奴隷商人に狩られた場合は?」
「状況に拠りますわ。無下に殺したりはしません」
王子はなんだ知らないのか、そんな冷ややかな目でアリスを見ていた。
何よその眼は‥‥‥
まるで避難されているかのような、そんな視線に奇妙な罪悪感をアリスは抱いてしまっていた。
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