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プロローグ
やりすぎな歌姫様
しおりを挟む「おい、やり過ぎだ、アリスよ‥‥‥」
「ランディス? だってついつい。止めてくれればいいのに」
「猫にどうやってあんな瞬殺の一撃を止めろと言うのかな? このグレイエルフの歌姫は無茶な要求ばかりをしたがる」
「あら、そうかしら? あなたがついて来ただけでしょ? 嫌なら戻ったら?」
「そういった嫌味はあとにするものだよ、アリス。ああ、ナバル、可哀想に」
「なによあの程度。ちゃんと防御呪文を付与していれば内臓が揺れた程度でしょ?」
「その程度で血がでるなら、見ものだな?」
猫もどきはそう言い、銀色のふかふかした前足で王子の顔面をアリスのほうにごろんと向けてやる。
たしかに、その口元からは一筋の‥‥‥いや、血泡を吹いた王子がそこにいた。
「あらあ? そんなに弱いの? 王子のくせに??」
「王子のくせにとはなんだ、アリス。君は人間の脆弱性をまったく考えていないな?」
「だって、人間族って。ほら――」
「なにかな?」
「まだ馬で草原や森林を荒らしていた頃から、王族ともなれば一番強い男が最前線で戦っていたじゃない?」
はああ‥‥‥
銀色の猫もどきの口から大きなため息が漏れた。
もう、こんな世間知らずのエルフ、見たことがない。
批判じみた視線で、どこなく叱られている気がしてアリスは少しだけ目をそむけた。
「君のその常識は一体、何百年前で止まっているのだ? 嘆かわしい。いまや人類の王族は後方からの指示を飛ばすのみだ。文化も時代も変わったというのに。かつて馬や牛を飼い、大地にへばりついていた弱小な種族。いまでは魔眼を開発し、飛竜をてなづけ、はるかな天空大陸まで昇る天空航路を開拓する一大勢力だぞ?
まあ、天空航路についてはあくまで王者は猫耳族であり、人類はそのいちぶを借り受けているにすぎんがな‥‥‥それでも、彼らはかれらなりに進化してきたのだ」
「だからってなんで私が糾弾されなきゃいけないのよっ!?」
「糾弾しているのではない! 弱小と理解していながら、その有り余る魔法の能力をただおもちゃを操るように仕向けた君だ! 君のその常識を我は疑っている」
「だって、いきなりあんなこと言われたら。侮辱罪で死刑でしょ、普通。この私が歌ったことを罪だって言いだしたのよ?」
「話を深く聞けば、そうはならなかったかもな。どちらにせよ、治療してやらないのか? もうすぐ死ぬぞ」
「あなたがすればいいじゃない。私にはそんな義理はないわ」
そうか、とランディスは言うと、自前の竜族の魔法であっさりと瀕死だったナバルの怪我を回復させてしまう。目が覚めるまで時間があるだろうと言い、彼はさきほどまで寝そべっていたソファーに戻ろうとして背中越しにアリスに一言、嫌味を飛ばした。
「なあ、アリス」
「なによ、治療はごくろうさま」
「そんなことではない。君は分かっていてそうしただろう?」
「‥‥‥? 何のことかしら?」
「理解していないなら、我の眼も曇ったということになるな」
「意味が分からないわ、ランディス」
「‥‥‥君も世のなかに広くいる、差別主義者となにも変わらないと、そういうことだ」
「知らないわよ。こんな虫けら一匹。死んだところでグレイエルフの未来は暗くならないわ」
「そうかな? 勇者が帰還し、グレイエルフどころかあの竜王ですら手をやいていた、魔王レガイアを討伐したという。君のその首を落とすと息巻いている王子は滑稽だが‥‥‥」
「だからなによ?」
「君の歌が罪かどうかは我は知らん。だが、その虫けらごときと言える独善的な生き方は‥‥‥是正されるべきだろうな」
そこからの会話に興味はない、と猫は丸くなってしまった。
やがて王子の部下たちが室内に彼をしんぱいしておとずれたとき。
血まみれの主とそれを自分がやったと告白したアリスの末路は決定的になってしまう。
そして、断罪の朝が訪れた。
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