夢探偵六曜麗の事件簿1~夢の中の不気味な日本屋敷で目覚めた俺、ドーベルマンの人面犬たちに襲撃を受けるも謎の美少女に救出された件~

星ふくろう

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幻想世界の鬼姫と夢探偵

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 目覚めると、そこはいつもの風景だった。
 もしくは、『夢の中』、だ。
 どこかにある夢の中っていう幻想の空間へと呼ばれたわけだ、俺は。
 覚醒まで三秒とかからないその世界で、俺はまたやつらに追い回される――。
 そう、ドーベルマンの人面犬たちに‥‥‥。

「おい、またかよ?」

 寝起き一発。
 その一言で、覚醒完了だ。
 俺の名は矢神ダイ。
 現実の世界じゃ、売れない小説家なんてもんで食っている二十代だ。
 ここは幻想の世界。
 夢の中なんて洒落た言い方もあるが、現代風に言えばそのほうがしっくり来るだろ?
 またかよ。
 その一言に注目して欲しい。
 俺はここ数週間、ほぼ同じ時間に同じ内容の夢にすっ飛ばされて目覚めるのだから。
 
「さて、今日は何階だ‥‥‥?」

 手元を確認して、俺はぼやいていた。
 この夢にはルールがある。
 呼び出される先は、日本家屋の中。
 広さは約四百坪程度。
 え? 坪換算がわからないって?
 そこはwikiでも、gg先生でも頼ってくれ。
 とりあえず、豪邸だ。

 建物は三階。
 正確には、中二階があり、屋根裏がある。
 地下にはまだ降りたことがないが、長年の雨水がどこかからか漏れ込んだのだろう。
 以前にたまたま入り口を見つけたが、見事に水没していたから入ることはまあ、ないだろう。
 今回はどうやら、その中二階らしい。
 え? 中二階の意味がわからない?
 二階から三階へと続く階段の、踊り場みたいなもんだよ。
 床があるのさ。広い床がな。

「ってことは思いっきり、不利だなこりゃ」

 ぼやきが悲鳴に変わる。
 手元を確認したのには理由がる。
 この幻想世界ルール、その一。
 

 一度獲得した武器は、自分の意思で手放さない限り手元に残る。
 もしくは戻ってくる。目覚めさえ、すればの話だが。
 そして都合のいいことに‥‥‥たとえ、刃が折れても再生される。
 銃なら、弾丸が補充されているし、盾なら補修されている。
 つまり、新品に戻っているってことだ。

 さて、いま手元にあるのは日本刀。
 長い方だ。作られた年代は不明。従ってその銘も不明。
 確認している暇なんてないし、ここは『あれ』があるから‥‥‥日本刀としか言えない。
 鞘も刀身も無事だ。
 
「またお前と一緒かよ。
 何度目だ?
 たまには、散弾銃程度は用意して欲しいね‥‥‥」

 目の前にあるのは漆喰が剥げて、中味がかけている壁と上階につづく階段の手すりが一つ。
 階段といってもそれは日本家屋。
 それも古い武家屋敷っぽいイメージで‥‥‥わかるだろ?
 鉄筋じゃないんだ。階段の羽目板一枚、一枚が――そうとうに腐りかけてる。
 足元はもちろん、スニーカーなんて履いてない。
 そして俺は寝たままの姿で転生したものだから、御想像の通り、戦える格好じゃないわけだ。

「またか‥‥‥。
 なんで用意周到にした夜に限って、こんなカッコなんだよ」

 そう。
 寝たままの姿と言っても、現実じゃないから寝たってイメージのままで再現されているに過ぎない。
 真夏の夜に、Tシャツと短パン以外の何で寝ろっていうんだ?
 そう心で悪態をつくと、慣れたもんだ。
 イメージは想像で、想像はそのまま夢にも転用できる。
 ここに何度も呼び出されて得た知恵ってやつだ。だが、あいにくと好きな武器は具現化できない。
 なんとも陳腐な夢だ。お粗末すぎて笑えない。

「ま、こんなもんか」

 いつものスニーカーにジーンズ、厚手のジャケット。そして、帽子。
 そして、手が滑らないように軍手が一つ。これで日本刀ぶん回して逃走劇が開始されるんだから悪趣味この上ない。そんな感じに皮肉気な笑みを浮かべた時だった。
 
 ピィ―――――――ッ!!!

 合図だ。
 開始の合図の笛が鳴らされた。
 さっきまで単なるはげた漆喰の壁だったところに、ぎょろりとした人間の等身大の顔が浮かび上がる。
 ニイっと意地悪く笑うそいつは、いつものように俺を上から下まで這い舐めるように見てからあの言葉をそっと口にした。

「よお、また来たのか?
 あいつらは一階だ。
 東の柳の間にいる。
 気を付けろよ、今夜は‥‥‥おひいさまがいらっしゃる」
「よお、入道顔。
 なんだよ、そのおひい様ってのは?」
「おひい様はおひい様だ。それだけだ。
 三階のうずらの間まで行ければ、お前は目覚めれる」
「うずら‥‥‥真っ反対の北側じゃねーか。
 いや、おい待て。そのおひい様ってのを捕まえるのは‥‥‥可能なのか?」

 この世界の案内役。
 入道顔はもう数週間の馴染みだ。
 しかし、さすがに夢の中。
 その声は現実と違っていて、どこかぼんやりとした感じに聞こえて仕方がない。
 どうにも、奇妙な感覚だった。
 こいつはふと思案するようにそのぎょろりとした目玉を上にやり、下にやり考えていた。
 数秒ほどして、

「出来る。
 だが、鬼だぞ。
 捕まえる前に、その身がもつかな?」
「鬼!?
 特徴は!?」
「特徴‥‥‥?
 白い和服。
 黒の高下駄を履かれ、顔を隠されておいでだ」

 隠された顔?
 まあ、人間型に出会うことなんて初めてだから、想像すらできない。
 情報は命だ。
 喰われたら‥‥‥最悪の目覚めだからな。

「どう隠してるんだ?」
「こう、な?
 額の角隠しから、和紙に文字を書かれて隠されているのさ」
「角隠しなら、額じゃなくて頭全体の頭巾だろうが‥‥‥なんて漢字だよ?」
「さて?
 見ればわかる。
 気を付けろ‥‥‥」

 そう言ってやつは消えた。
 あっさりし過ぎだろう?

 焦ってもこの腐った階段を上る気にはなれない。かと言って、下に歩を進めればそのまんま落下して即死亡コースだ。
 不気味に揺らぐロウソクが幾重にも立てられている一階の廊下が、ありありと手に取るように見える。

「高いな‥‥‥。
 前は落ち込んでそのまま内臓喰われたっけ‥‥‥」

 あの夜は数え中でも最悪の終わり方の一つだった。
 これまで与えられたコースの選択は自由。ただし、ゴールだけは決まっている。
 逃げきれたのは、総数を数えるのをやめたから覚えてないがたった、三回だけ。
 それも、まぐれだ。

「ま、おかげさんで屋敷の見取り図だけは手に入ってる」

 どこに?
 この頭の中に。
 さて、どうするかねー‥‥‥。
 禁煙が叫ばれる昨今だが、俺には関係ないね。
 少なくとも、この屋敷では吸い放題。愛用の赤マルボロに、側に設置されているロウソクの炎で火をつけて、とりあえずは一服。
 おひい様、か。
 意志のある人間のような型にはまだ出会ってない。
 会うのは、いつもの通り。
 ドーベルマンの人面犬ばかりだ。

「見てみたいな、どうせ、喰われても朝には目が覚める。
 隠された御姿を一目拝見したいものだ」

 怖いモノ知らず? 恐れを知らない?
 かもしれない。あー来た来た。
 音を立ててやつらがこっちに向かってくるのが分かる。だが、なんだ? 
 足音が多いな、おい。
 いつもなら軽やかなその足音が、今夜は数頭でなく数十頭いることを示していた。

(おひい様、今宵は若き男にて。
 その肺腑がお口に合いますれば)
(善き趣向じゃ、シュゼン。
 さあ、狩りと参りや)

 そんな声が遠くから聞こえてきた。
 まあ、これは夢だ。距離なんてないのかもしれない。
 しかしまあ、いい声だ。そしてシュゼン。秀善か主膳か。時代劇風なら後者だな。
 あいつだけは白い和犬っぽいんだよ。首回りに玉なんてつけて悦に入っている老人。
 そしてまた、デカさが半端ない。
 ライオンの数倍はあるような巨体だ。
 ドス、ドスってのはあいつの足音で間違いなさそうだった。

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