夢探偵六曜麗の事件簿1~夢の中の不気味な日本屋敷で目覚めた俺、ドーベルマンの人面犬たちに襲撃を受けるも謎の美少女に救出された件~

星ふくろう

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幻想世界の鬼姫と夢探偵

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「ってことは‥‥‥。
 この階段、先にぶっ壊すか」
 
 夢ってやつは面白い。
 現実にある武器をある程度なら呼び出せる。中には、そう。
 VRゲームなんかで体感したまんまの、魔法のようなもんだってありだ。
 まあ‥‥‥威力は軽減されるけどな。

「召喚魔法とか使えないのかねー、陰陽師みたいに式神なんてあれば便利なのに。
 さて、出るかな‥‥‥?」

 出すのは、『テレサの境界線』って名前の魔法世界を舞台にした対戦RPGの魔法。
 亡霊の紫電ファントム・ボルト
 本当なら、偉大なる英霊様が召喚されてその両腕から積層型魔法陣が展開し世界を焼き尽くす稲妻の嵐が巻き起こる。そんな呪文なんだが‥‥‥。

「ま、こんなもんだよな」

 結果は、轟って音と派手な光と少しばかり勢いの強い台風の真っただ中で吹きすさぶ程度の暴風が吹き荒れる。まあ、犬っころども相手ならこれでも威嚇か、よくて駆逐する程度には役に立つ。
 現に階段はその原型をとどめていない。
 しかし、忘れていけないのはこの踊り場すらも、その一部だってことだ。

「出ろよ、亡き女の砂時計バンシーズ・タイマー

 そう呟くと、左手に砂時計と腕時計並みの時計板がワンセットになった、変な装置が具現化される。
 毎回、これで戻るのも癪だが、まあ仕方ない。

「タイマーセット。
 二分」

 俺の指示に従って、時計板の短針が二分だけ交替する。同時に、砂時計の砂もその分だけ上の瓶に集約されていく。
 これがきっちりと二分で長針と短針が合わさると、亡き女(バンシー)が出現する。
 その鳴き声を聞いた存在は絶命‥‥‥とまあ、あのゲーム世界ならそうなるがここでは威力は軽減されるのでそこまでの効果は期待できない。
 良くて犬どもが失神し、俺もまた‥‥‥情けない話だが気を失う。
 すると、朝がきて元の異世界に戻れるわけだ。ここから見た、異世界に。

「スタート」

 あいつらに付き合ってやる義理なんてないね。
 俺はさっさと開始宣言。
 ここまで来るのにあと数十秒。
 そっから、適当にいなして会話して、壁を駆け抜けてくるあいつらに日本刀の一撃をお見舞いしてやる。なんで魔法を同時に使えないかって?
 この幻想世界ルールその二があるんだ。


 この夢の中に属している存在の前ではズルは許されない。
 
 ようは人間が普通に出来ないことは、違法とみなされて効果が打ち消される。
 そうなる前に下準備はしておくが、いざ、亡霊の紫電ファントム・ボルト 、なんて打ち込もうもんならあっという間にかき化されておしまいだ。
 ポケットに隠しておける、亡き女の砂時計バンシーズ・タイマー
 これが関の山ってとこなのさ。

 わんわんわんわんっ。
 来た来た、人間の声で犬の鳴き声を真似するって、なかなか気持ち悪いもんだな。
 そう思うようにならなくなったのは、つい最近だ。二か月、いや三か月?
 夢の世界だからなー‥‥‥。
 やって来たのは、シュゼンが筆頭にこれまで見たことのない数の、母衣衆ほろしゅうとやつが読んでいるドーベルマンの人面犬軍団。

「おのれ、こざかしくも階段を落とすとは!?
 貴様、どのような面妖な手段を使いおった!?」
「よっ、じーさん。
 どのようなって、腐ってたんじゃないのか?
 一踏みしたらあっけなく抜けてくれたぜ?
 そろそろ、改修工事しなよ?
 それとも、そちらのおひい様もそうだが、できない程度に貧乏なのかい?」
「この無礼者が!!
 我らがミヤコ様をどなた様と心得ておる!!」

 いやーニメートル以上下から叫ばれてもなあ?
 気味が悪いの一言に尽きるよ、シュゼンのじーさん。
 どうせ、今頃はその母衣衆の一部を西の階段からまわらせてんだろ?
 上からの襲撃なんてお見通しなんだよ。
 さて、あと一分と少し。

「どなた様かな?
 俺にはあんたがしつぜん? だっけか?
 それしかわからんよ?」
「無礼者!
 我は、常闇のクレハ王に仕える、ヤシキタカサゴノカミシュゼンである!!」
「あー‥‥‥次にあった時にさ。
 せめて、墨で和紙に名前書いておいてくれよ。
 冥途の土産にするからさ?」
「‥‥‥口の減らんやつめ。
 貴様、名乗り程度はせんか。
 この栄誉あるクラク城に招いてやっておるというに‥‥‥」

 何て言い草だよ。
 俺はそんなこと、これっぽっちも望んでないのに。

「毎晩、毎晩、そのバカどもの相手さされて不眠症にされてる俺に名乗れってか?
 知りたきゃ、ここまで来いよ。
 ミヤコ‥‥‥? どんな字だ?」
「この無知蒙昧の輩に教えることなど――!!」

 そうシュゼンのじーさんが叫んだ時だ。
 あの入道顔が教えてくれた、白い和服に顔を隠した‥‥‥いや、あれは三角のやつっていうか。
 長方形の和紙に紐でもつけて、頭の後ろで括り付けたようなそんなふうに見えた。
 漢字が書かれている?
 いやいや、読めないよ、入道顔。
 あれは‥‥‥達筆すぎる。
 そのおひい様が、カランっと履物の音を立てて、優雅に舞うように‥‥‥宙に浮かびやがった。

「おい‥‥‥っ、待て――」
「待ちはせん」

 すいっとあっという間にニメートル以上の空間を彼女は渡りあがってきた。
 俺が身を引く間をあたえずに、まるで瞬間移動でもしたかのように‥‥‥そこにいた。

「聞きたくば、教えてしんぜよう。
 和の国の愛しきモノ。
 その内腑がいかに美味か。
 この二月半、逃げて逃げて――そなたは得たのだ。
 我に食される、その栄誉をな?」
「なっ!?
 いつも喰われてるじゃねーかよ、あの人面犬どもに!!」
「あれは単なる余興。
 これからは‥‥‥真なる馳走の宴よ」
「滅茶苦茶だな、おい‥‥‥」
  
 その時、俺の手はなぜか彼女の顔を覆っている、その隠しを除けたくてそこにある顔を拝みたくて仕方なかった。
 亡き女の砂時計バンシーズ・タイマーの短針の音が、残り二十秒に入ったことを俺に教えてくれていた。まだ、時間がある。

「我が名の字と申したな、贄よ?」
「あーああ‥‥‥それを承れるなら、食材としては‥‥‥光栄だね」

 手が、やめとけって心の制止を振り切って眼前数歩どころか、ほぼ、息が降りかかるような距離にきたミヤコ姫のその隠しへと彼女の視界の外からそっと‥‥‥伸びていく。
 これ、不味いんじゃないか?
 心が激震を起こしてやがる。早鐘のように脈打つその鼓動が聞こえてくる経験、いつぶりだろうな?

「では、教えて進ぜよう。
 我が字はな‥‥‥あの美しき、そして忌まわしき故郷。
 応仁の乱を起こし我らを追いだした、京の都。
 その一字よ」
「ああ、そう‥‥‥。
 いつかは還らん、懐かしきってわけ‥‥‥」

 うなづく彼女、そして、その隠しにかかる俺の手に京姫が気づいた時。

「おのれ、下郎!!」

 さっとあまりにもあっけなく見えたその下には――、二本の小さな角とあまりにも美しい日本人形のような少女の顔があった。

「おい、綺麗だな‥‥‥ミヤコ‥‥‥」
「なっ!
 そのような戯言を!!」

 うわっ、これはないだろう!?
 美女が鬼女になる様をまじまじと見せ付けられた俺は、もう逃げ場がなかった。
 そして京姫の多分、鉄でも切り裂いてしまいそうな、両手に生やした長い爪先が俺を引き裂こうとした瞬間――

 ヴィィヤアアア――――――――!!!!

 亡き女の砂時計バンシーズ・タイマーが、あまりにもいいタイミングで作動した!
 俺はそれを今回だけは聞きたくなかった。
 だって、死に直面していても‥‥‥気を失いかけつつあった京のその素顔があまりにも美しかったからだ。
 しかし、亡き女はきっちりとその仕事をこなしてくれた。
 問題は‥‥‥。

「なんで、気を失わないっ!?」

 俺の気があまりにも昂っていたか、それとも、京姫がいたからなのか。
 その効果で俺の意識は完全に飛ぶことはなかった。
 朦朧とする目の前で、彼女が、京姫が崩れていく。
 そしてその背後から迫る、白い人面犬の巨体。
 シュゼンが俺にむかってその爪先を振り上げた時。

「飛んで!!」

 後ろで声がした。
 まぎれもない、人間の声。
 こんな夢の中で響くような、ぼんやりとした感触を感じさせない生の生きた女の声。
 もう無我夢中でそれに従い、どうにか踵で床を蹴った時。
 俺の身体は背後に開いた何かから突き出た、白い手によってむんず、とわしづかみにされたのだろう。
 素晴らしい勢いでそこに引きずり込まれてしまった。
 そして、俺は気を失い‥‥‥。

「なんだってんだよ、おい‥‥‥」

 自宅の寝室のベッドの上で目覚めた翌朝。
 俺の手には、あの京姫がつけていた面隠しの和紙が握られていたのだった。
 どこかで嗅いだことのある、柔らかい甘い匂いと共に。

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