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しおりを挟む「これはまたお若いご令嬢を‥‥‥どうぞ、こちらへ」
紳士然として彼は、黒髪にとび色の瞳を持つ少女をソファーへと案内した。
なるほど、たしかに琥珀色だ。
その瞳の色を、スローン卿はいまでも覚えている。
三人を交えた会話は、秘書に用意させたお菓子や紅茶も場を和ませてある程度は弾んでいた。
「で、挙式はいつにするつもりなんだ?」
スローン卿がレオンにあてた質問に、まだ十四歳の侯爵令嬢は利発的に返事をした。
「早ければ、翌年を目指しております、スローン卿」
よくとおる少しばかり少年のようなその声は、彼女の知性の片鱗をスローン卿に感じさせた。
いいのか?
彼はそんな視線を子爵に送る。
このような場所では、婦人は黙って微笑んでいるか、少しばかりだけはにかんではい、いいえを言うのが当たり前だったからだ。
「ああ、そうだんだよ。イゼア。
この子、マキナはなかなかに紳士顔負けの利発さを持っている。
僕の事業を担うには、いや、手伝ってもらうには申し分ないほどにいい存在だ」
子爵はもうこの少女に惚れているのだろう。
この場所では構わないが‥‥‥。
この時、スローン卿はなにか嫌なものをこのマキナ嬢に感じていた。
「そうですか、翌年。
いまは秋ですから、春か六月がよろしいですな。
大司教猊下もその時期には、神殿においでになる。
さぞ、祝福を頂けることでしょう」
そう言いながら、この少女。
友人の婚約相手だというマキナ嬢の視線の先が、自分たちとはまったく違う方向に向けられていることにもスローン卿は気づいていた。
「新聞社がどうかされましたかな?」
少女はすこしはにかむと、
「はい、スローン卿。
ここではこのフロアに来る前にも、一つの階だけで数十人が忙しそうに慌ただしく仕事をされておりました。
まるで、生糸や綿花の縫製工場のようですね」
そう言い、また視線はグルグルと回る印刷機の一部へと注がれる。
「レオン、君はそんな事業に手をだしていたかな?」
いいや、違うんだよ。
そう、子爵は言う。
マキナ?
ご説明しなさい、そうレオンは婚約者に促した。
「ああ、申し訳ございません。
その‥‥‥」
そう言い、少女はその幼い指先を両手ともテーブルの上にかざして見せた。
淑女というよりは農村で働いている農民のような痩せこけたその指先は節くれだっていた。
もう何年も、その作業を続けてきた労働者のような指先に、スローン卿は驚いた。
「これは失礼。
レオン、いいかな?」
スローン卿は子爵を連れて、マキナを残し、隣の部屋へと移動する。
「おい、どういうことだ?
侯爵令嬢ではなかったのか!?」
すこしばかりの怒りを含んで、彼は子爵を問い詰めた。
もしかしたら、何かの悪戯をされているのか?
それならやりすぎだ。
そんな抗議の声を含んでいた。
「いや、そうではないんだよ、スローン卿。
彼女はちゃんとした貴族籍を持つ、侯爵令嬢だ。
ただ‥‥‥数代前にご先祖が事業に失敗してな。
いまもああしてよそ行きの服に身を包んではいるが、それが外側だけだ。
見ればわかるだろう?
流行の服ではないことを」
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