聖女は剣聖と呼ばれて

星ふくろう

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プロローグ 

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「まずね、当代の竜神アルバス様が選んだ竜王スィールズ様が、地上世界の竜族を束ねているんだけど。
 この方の奥様はもう亡くなられたんだけど。その御名前が、ハーミア様。 
 これって凄い偶然だと思わない?」
「‥‥‥思わない。
 それに、竜神様がやらかした何かなら、竜神様がしりぬぐいすればいいじゃない!!」
「いやまあ、竜神様がなにかをやらかしたわけじゃないから‥‥‥。
 まあ、それはごもっともな意見だけど。
 竜神様が何かをしていたら――」、と、イオリはそこは同意してくれた。
 しかし、考えてみて、とも言われた。
「竜神アルバス様って、神々の中でも最もおおくの聖女を抱えているのよ。
 百八人」
「百‥‥‥!? 
 まるで、仏教の煩悩ね‥‥‥」
「ブッキョ?」
「いいから、先を続けて」
「はいはい。
 それで、あなたはなぜか。百九人目だったのよ。ハーミア」

 知らないわよそんな、内情。
 百八番目だろうが、百十番目だろうが。
 そんなこと私には関係ないわ、とそう柚子ことハーミアは思うものの、もしかして誰かが死ねば繰り上がる? そんな疑問も浮き上がってきた。 
 でもそうなると誰が死んだのだろう?
 何より、その女性が死んだことでどんな役割が、自分にもたらされるの? と。
 私は単なる日本の女子高校生で、なんのとりえも無くて、無能聖女なのに。
「ああ、人生って‥‥‥最悪。
 なにかやれって言われも、なにもできないわよ?
 それにこの身体の持ち主にだって申し訳ないし」
「そうねえ、なにがあるかは分からないかな。
 でも、あなたは行かなければならない。そのことは、柚子。
 あなたにも連絡が来てたでしょ?」
 え? と柚子は背筋に冷や汗をかく。
 誰にも言わずにでていこうとおもっていたのに。
 この一年近くともに旅をしてきた仲間たちは他の勇者パーティを知らない柚子でも、理解できることがある。
 それはどこの国に行っても、どこのギルドでもそう。
 かれらを率いる勇者テダーのパーティは有能だと、誰からも褒め称えられてきたからだ。
 優秀な仲間にささえられて生きて来られただけで、自分は何もできていない単なる無能の聖女。
 その自分にも、ようやく竜神様からの使者が来たのは、つい先日のことだった。
「知ってたんだ?
 でも、その指令ってね、憎たらしい魔装人形さん。
 戦争とか、そんなのじゃないの。
 それに、まだ‥‥‥百九番目の聖女が認定されたってことは、神殿関係者も知らないのよ」
「へ?
 待って、それってどういうこと?
 あなた、聖女に認定されたんじゃ‥‥‥?」
 いぶかしむ魔装人形は、柚子に疑惑の視線を投げかける。
 それは、返事をまちがえばこの場におきざりにされそうな怖さを併せ持っていて、柚子は慎重に言葉をえらばなければならなかった。
 


「最初に異世界から。
 つまり日本からこの世界に召喚された時ね。私‥‥‥死んでたの。
 正確には、召喚された勇者になったあいつが、飛び降り自殺したの。で、私の真上に落ちてきた」
「え、嘘でしょ?
 それで、まさかの巻き込まれ召喚!?
 でも肉体は!? まだ死んだばかりなら、肉体だってあるはず」
 ううん、と柚子は首をふった。悲しげにまだ生きれたはずだったのにと涙するその様は、憐れでもあった。
「ないの。
 どうなったかは分からないけど。でも、無くて。でも、あの勇者だけはきちんと肉体があって‥‥‥悔しかった。このまま殺してほしかった。
 でも、死ぬのは‥‥‥怖かった。家族に会いたい。だから、まだ死にたくなかったの」
「なるほど、ね。
 事実は小説より奇なり、だっけ?
 で、その肉体を貰ったわけ?
 ハーミアはどこに行ったの? 元の持ち主は?」
 分からない、と柚子はフルフルと頭をふった。
「私がこの肉体を貰った時、竜神様は言ってたわ。
 この子は、ハーミアはもう、その寿命を終えているって」
「そうなんだ。なら、その子の分までしっかりと生きないとね、柚子は。
 それで竜神様はなんて寄越したの?」
「うーん‥‥‥それがね?
 ハーミアは神聖アーハンルド王国。
 つまり、私達が出発した国の神殿に勤めていることになってるって。
 でも、体調をくずしてここ一年は人前に出ていないことになっているらしくて」
 それって、周囲は混乱したりしないのかしら。そう、イオリは不思議そうな顔をする。
 さあ、どうなんだろうと柚子もまた、不思議な面持ちでそう答えるしかなかった。
「竜神様は多くを使者様に伝えてなかったけど。
 でも、家人もほどんど会ってなかったみたいなの」
 え? と魔装人形は、待って待ってと会話をさえぎった。
「会ってないってどういうこと?
 まさか、擬態した天使か竜の使い魔でも‥‥‥その子の家族と一緒に住まわせていたの?」
「さあ?
 使者様が言われるには、家族ももういないみたいだって。
 没落貴族で、家人もおらず、家族も全員死別。
 その上で、私に化けた何かが家の中で生活してても、逆に誰も不審に思わないかも?
 竜神様の配下の誰かが、時々、家を訪れていたって言ってたの」
「ふうん、まったく理解できないことを神々はなさるものね。
 まあ、いいわ。
 それなら、早く戻らなきゃいけないんじゃないの、アーハンルドに」
「そうだけど、でもあなたの要件は一体なんだったの?
 巻き戻し転生とか、ゲームの遊戯盤とか。
 私、それについては何も聞いてないんだけど?
 まさか、悪の竜神様の退治をしろとか、そんなのは無理だからね!?」
 想像しただけで怖気がする。
 柚子は両手を力いっぱい振って拒否をしめしていた。
「大丈夫よ、そんなにめんどくさいことじゃないから。
 わたしの方にも、魔界から指示がきてるだけなの。
 ここだけの話だけど、魔王と勇者の戦争なんて‥‥‥この数百年間、してないのよ。
 形だけ整えて、勇者にも魔王にも適度に戦ってもらって。
 経済と各種族間の勢力図が変わらないように調整してるだけなの」
 秘密ね、とイオリはそう言い、舌を出すが人間くさいなこいつと柚子は思う前に、「なら、勇者が光の牢獄に幽閉とかあれはなに?」 と聞いてしまった。その答えはもう出ていたのに‥‥‥。

「言ったでしょ? 
 勇者は魔王と小競り合いを演じているだけ。
 まあ、中には本気で領土拡大を目指す魔王もいるけど。
 それに対して、信仰を集めたいのよ神々は。
 魔神様もそう。なら、ある程度の被害で済むのが一番だと思わない?」
「いや、だから。
 それを言ったら勇者なんて召喚‥‥‥?
 まさか、地球人を利用して‥‥‥る???」
 半分正解、とイオリは片手をあげた。五本の指で五十点といいたいらしい。なら、残り半分は――?
「ねえ、柚子。
 信仰による力が欲しいのって、こっちの世界だけだと思う?」
 なんて、この魔装人形はまたとんでもないことを言いだした。
 こっちの世界だけ?
 なら、あっちの世界の神様たちも同じことを考えている?
 でも、地球には勇者もいないければ聖女も、魔王すらも存在しないのに。
 悩む柚子に、イオリはあっさりと言ってのけた。
「なければ、あるところから奪えばいいのよ?
 勇者を送り込むとか、ね?」
 と、まるで悪魔のような笑みを浮かべてそう言ったのだ。
 その言葉の意味を柚子が理解するまで、数分を要した。つまり、自分のように異世界召喚された。いや、このイルベルに呼ばれたと思っている地球人は実は、呼ばれたのではなく‥‥‥送り込まれた? 
 地球の神々の、尖兵。
 イルベルを植民地化しようと考えている、そんな連中の‥‥‥道具にされた?
 いや、まさか。そんなはずないわよ。
 実家は近所にある神社の氏子だ。祭りのとうや、と呼ばれる束ね役を務めたことも何度もあった。
 その神様たちが、まさか。自分の信者をそんな目にあわせるなんて。
 あるわけがない‥‥‥。
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