聖女は剣聖と呼ばれて

星ふくろう

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「死なないわよ?
 ただ、眠っていらっしゃるだけ。
 魔神様とその奥様は地下に。竜神様とその奥様である大地母神様はほら、あそこ」
 と、イオリが指差したのは世界樹のまわりをたゆたう巨大な天空大陸だった。
「あの天空大陸にいらっしゃるの。
 天空と地下でそれぞれ、世界の管理をしているのよ」
「そうなんだ‥‥‥。
 でも、なんでわたしそんな質問するの?」
 そう問われると、イオリは困ったような顔をしていた。
 まるで、自分でできない判断を他人に委ねるかのような複雑な不安の入り混じったような表情にも見えてしまい、柚子はどうしたの? と心配になって聞き返していた。
「うーん?
 なんとなく、要領がつかめないわよね?」
「うん、わたしもめんどくさいなーって思ってる。
 話があるなら、さっさと進めて欲しい。
 ただでさえ、この世界では‥‥‥」
 その先を言いたくなくて柚子は言葉を濁した。
 パーティー仲間は優秀だ。
 でも自分は?
 そこに、大きな悩みがあった。
「まあ、正直、わたしにはどうでもいいんだけどね。
 現在の世界の問題なんて」
「どうでもいいんかい!
 はっ‥‥‥!
 つい、つっこみを‥‥‥」
 柚子のつっこみを軽やかにかわし? いや無視してかたわらの魔装人形が示したのは、三連の月の影にかくれて地上からは見えない、銀色の第四の月だった。
「ごめんね、だってわたしはまだまだ数万年生きれるもの。
 これだって、さっさと過ぎゆく時間の流れの一筋にあった出来事になってしまうわ――。
 ま、いった。
 ねえ、柚子。あれが見える? 銀色の月、あれが問題なの。
 あの月ね、地上からは見えないように古代の神々が隠したんだけど。
 ちょっとね、つよすぎるのよ」
「つよすぎるのよって何が?
 古代の神々が隠蔽するくらいだから、イルベルに悪影響あたえるってこと?」
 そうねえ、とイオリは過去をなるべく噛み砕いて話せるようにと、頭を回転させているようだった。


 遊戯盤があるのよ、あそこに。
 しばらくの沈黙のあと、魔装人形が発した言葉はまったく、意味不明なものだった。
 遊戯盤?
 何の話?
 どんな遊戯をするの?
 柚子のあたまのなかにも、いくとおりもの質問が浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返していた。
「まあ、簡単に言うと。
 時間を逆行させてなんども繰り返すことのできるやつ。
 それが、あそこにあるの」
「‥‥‥へえ、それは凄いわね‥‥‥」
 もはやイオリが伝えたいことがあまりにも壮大すぎて、柚子の理解の範疇を越えていた。
 しかし、魔装人形はまあ、想像してみてよとむちゃぶりの手を止めようとはしなかった。
「あなた、竜神様の聖女、よね?」
「まあ、一応。
 なぜか知らないけど、そうなったみたいね?」
「なら、神様が選んではじめて聖女になるって理解できるでしょ?」
「それはまあ、私がそうだから、わかるけど。
 それがどうしたの?」
 なら、とイオリは会話を続けた。
 神様や魔神様の力の源ってなんだと思う?
 そう、問いかけられて柚子は思案する。
「‥‥‥多分、信者の信仰心?
 それと、元々生まれ持った力とか?
 あとは、そう。イオリのように、システムで増幅するとか???」
 どうやらその中に、イオリが欲しかった答えがあったらしい。
 魔装人形はニンマリと意地悪く笑って、じゃあ、と指先を柚子につきつけた。

「その聖女を任命するシステムって、どこまでも神様に都合が良いと思わない?
 だって、神の代理人が地上にいて、自分のちからの源である信仰心を魔王討伐なんて一大イベントを通じてたっくさん、集めれるのよ!?」
 そんなに勢いよく語らなくてもいいじゃないと柚子は半ば引きそうになりながら、まあそう言われれば神様にとっては都合の良い存在だと思っていた。
「だけど、私以外にも聖女はいるわけだし。
 勇者だって、いるじゃない?」
「そうね、でも勇者は魔王をたおしたら、あ‥‥‥知らないんだ」
 残念な子を見る目つきで、イオリは柚子を見つめてくる。
 勇者が魔王を討伐したら? その後は‥‥‥??
「勇者は神にちかい能力をもつ存在だから。
 故郷に帰ったとか、新たなダンジョン探索とか与えられて――」
 スっと、イオリは片手で喉元をきるような仕草をした。それはつまり――。
「勇者は‥‥‥殺される?」
「正確には、光の牢獄って呼ばれる永遠にでてこれない世界にいかされてー」
「行かされて‥‥‥?」
「魔王も勇者や神並みに強いから。殺せないのよ。だから行く先はおなじ」
 つまり、その牢獄を管理しているのが――。
「あの、銀色の‥‥‥月?」
「正解。
 さて、さっき話した遊戯盤。これは本来、魔王や勇者の閉じ込められた空間が開かないように管理するものなの。でもね、おバカな管理人たちが遊んじゃって」
 後は理解できるでしょ? とイオリのむちゃぶりを受けても柚子にはまだ合点がいかない。
 管理人は誰?
 遊んだって何をしたの?
 まったく理解ができないことを言うから、なぜだかイライラしてきてしまった。
「あのね、イオリ?
 仮にその管理人さんが何かをしたとしても、私にはなんの能力もないこと‥‥‥理解してる?」
「あ、確かにそうね。
 あなた、無能な聖女だったわ‥‥‥」
「無能言うな!!
 これでも普通の一般人が使える程度の魔法は‥‥‥できるわよ」
「剣は、体術は、弓は?」
「‥‥‥できません」
「無能聖女じゃない」
 くっ!
 悔しいが反論できない。これ以外にあるとすれば、地球からもってきた高校二年生程度の数学や地理、化学の知識しかなかった。
 そんな柚子をして無能聖女でも世界の役に立てるんだなー、これが。
 そう嬉しそうに笑う魔装人形のあたまに、天誅をくわえたいのを我慢して柚子はイオリの話に耳をかたむけた。理由は簡単。ここで見捨てられたら‥‥‥宇宙の迷子になるからだ。
 無能な自身を恨みながら、いつかこの生意気な魔装人形をクズ鉄にしてやると心に誓いつつ、柚子は黙ってイオリの話に相づちをうっていた。

「それでね、柚子。
 その管理人って言うのが‥‥‥はるかな古代の昔に、神々を統べた二神なのよ。
 大神ダーシェと海神エストっていうんだけど」
「‥‥‥ごめん。
 ほんっとうに知らないの。この世界の伝説とか神話とか歴史って、地球からきたわたしには何もわからないの、本当に!!」
 まあ、それはそうか。
 肩をすくめて、イオリはくすりと笑ってしまう。
「神様もたくさんいるからね、この世界には。
 文明だって地球よりは数万年長いからいろいろとあるのよ」
 なんだ、それ。
 まるで自分たちが優れてるみたいな言い回しをするじゃない。
 イオリの発言に、柚子はイラっとした。
 過去の神様の問題なら、いまの神様がどうにかすればいいんじゃないの?
 と、そう思ってしまうほどに。
「イオリ、それわたしに関係あるの?
 そんな管理人がどうこうって‥‥‥」
「まあ、関係あるわよ。
 いまの世界の頂点にいるのは、竜神様、大地母神様、魔神様で。
 魔神様は眠ってる。そうなると?」
 そのための神様で、そのための聖女‥‥‥あれ?
 私、竜神の聖女だ。
 竜神アルバス様の聖女だ。
 まさか、ね? いやな予感というものは便利なものでよく当たる。
 当たって欲しくないときにこそ、高確率で当たる。
 それって‥‥‥私? 
 自分自身をまさかと思いながら指差して、柚子は後悔するのだった。この無責任な魔装人形は、せいかーい!! と、ばかりに拍手をしやがったのだから。

「ねえ、それでなにをすればいいの?
 だって、私!!
 無能聖女なの‥‥‥よ、ねえ?
 イオリ??!!」
「そんな泣かなくてもいいじゃない。
 ね?
 みんな、協力するから――」
「協力って言われたって!!
 そんなどうしろって言うのよ‥‥‥」
「説明するから、落ち着いて聞いてくれる?」
 うん、と涙目になりながら柚子はうなづいた。なぜ、宇宙空間なのに水滴は浮かばないのだろうと思いながら。
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