聖女は剣聖と呼ばれて

星ふくろう

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第一章

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「ところでエレンちゃん。
 例のあれはどうなってるの?」
 例のあれ?
 エレン一等秘書官はどのあれ、かしら? と頭を捻っていた。 
 何しろ、百八人。いや百九人も聖女がいて、その他には神殿だけでも二千を超える人員がいるのだから把握する事柄はあとを絶たない。
 自分でも良くやっているものだと励ましながら、候補となるべき事項をいくつか頭の中で数え上げてみた。
 めんどくさいと思われる、新しい聖女の問題は片付いた。
 とりあえず、本人がそのまま働いてくれればそれでいい。
 エレンは、ハーミアの体調が戻り次第、王宮にあがるようにと指示書を出すのでこれは片付くと考えた。
 他にあるとすれば最近、王国の周囲を騒がせている魔獣の出現とその対処だが、これは専門家に依頼してあるから問題ない。
 そういえば、アテンドル半島のダライアス王国から聖騎士の救援要請が来ていたわねと、思いだす。
 なんでも、半島にある密林のなかに点在する亜人の国の軍勢が、王国の漁村を襲ったのだとか。
 まあ、亜人は魔族とみなすのが通常だから、まずはこれを裁可頂きましょうか。
 エレンはそう考えて、その要請書類を法王に提出したのだった。

「なにこれ?
 救援要請?
 なーんでこんなもの。
 うちの聖騎士を行かせるまでもないでしょう?
 一人動かすだけでいくらいると、ねえ? 
 ダライアス王国のエリオス王家は金持ちだし、それにあそこはうちの聖騎士並みの、精霊騎士がいるじゃない。
 それでも、救援要請っていうなら‥‥‥うまいことふんだくったらいいんだよ」
「えーと‥‥‥いいの、猊下?
 その書類よく読んでくださいね?
 ラブラスの大量発生って。それに単なる亜人じゃないんですよ?
 炎豹族ですよ?
 一人で兵士十人に匹敵するって言われている、魔族じゃないですか」
「ああ、本当だ。
 嫌になるなあもう。
 これで聖騎士がだれか死んだらその費用、うちの神殿持ちだよ。
 でも、ラブラスに炎豹族かあ‥‥‥あいつら強いんだよねえ。
 僕もわかいときに戦ったけど、本当に強くてさー。
 ‥‥‥たった二人に、味方があっさり殺されちゃったもん。
 これは、聖騎士では無理じゃないかなあ?」
 うーん、と冷静になったルスティカ三世はやはり、現場からのたたき上げの才人だ。
 救援要請が書かれた書類をさっと読みながしただけで、神殿が擁する聖騎士団では荷が重いと判断したらしい。
 金よりも、名声。
 資金を惜しんで神殿への世間の期待を裏切れば、それこそ大好きな金も入ってこなくなる。
 もちろん、聖騎士でも対応できないことはない。彼らは魔法と武術の達人だ。
 だからこそ、生まれながらに魔法をあやつる魔族とは相性が悪かった。
「神聖魔法は魔族には効果的だけど。
 密林ってのがちょっと困るよね。
 あいにくとうちにはその土地の戦い方に精通した連中がいないもん」
「では、光の賢者の都ハグーンか、闇の賢者の塔ジェニス。
 どちらかに救援を要請しますか?」
「いやあ?
 あいつら、賢者って名前だけ使うだけで、いくらって計算して行動するからなあ‥‥‥」
 とぼやく法王猊下はどうやら賢者に関しては、覚えが宜しくないらしい。
 なら、次に上がるのはアルスト帝国の星霊戦姫だが、こちらはダライアス王国とは犬猿の仲だ。
 十数年前まで半島全土をかけた大戦と呼ばれる魔法合戦をやりあっていた。
「ハグーンとジェニスがあの大戦で両国の裏についていたから、どっちも仲が悪いんだよねえ」
 法王のぼやきに、エレンはダライアス王国の精霊騎士の事まで考えたのね、ルスティカちゃんと察した。

 彼はあの大戦で大怪我をその身に受けたのだ。
 そして、神殿をまとめあげて大戦を和解に持ち込んだのも、この法王だった。
 まだ十二歳だったエレンはその姿に一目ぼれし‥‥‥とまあ、それは彼女の回想においておくとしよう。
「じゃあ、あの辺りに神殿関係者を派遣するのも、あまり宜しくないですね?
 帝国も王国もまだいがみ合ってますし。ハグーンもジェニスも、恨んでいるはずですから」
「人間って本当に、恨みが深いもんね。
 よし、なら魔族のことは魔族に依頼しようじゃない。
 ねえ、どう思いますか?」
 えっ?
 竜神の神殿をまとめる、法王がそれを言っていいのかしら?
 エレン女官長は、数年先に控えている次代の法王を決める選挙に影響しなければいいんだけど。
 そう思いながら、地上世界をまとめる魔王の名をいくつか挙げてみた。
「魔族ですと、いま地上にいるのは――。
 グレイシア、シェイブにレガイア‥‥‥それに南の大陸のルクスター?」
「あとはルクスターと同じ大陸のリクト、だったっけ?
 南の森の大森林にすんでいたエルフの村を焼き払って奴隷売買で大成功した魔王だったよね。
 酷いことするよねー村を焼き払うなんて」
 ああやだやだ、みんな平和がいいのにと法王は片手で顔を仰ぐ真似をする。
 人身売買はこの西の大陸でも当たり前のように行われているから、言えた義理でもないと思うんだけどなーとエレンは心で呟いていた。
「でも人間も似たようなことをしていますから。
 それに、リクトは魔王と名乗っていますが大地母神様の聖女と仲が良いとか」
「魔王が聖女と結婚するかもなんて、世も末だね‥‥‥。
 ルクスターは竜王様と本気で戦争してるからダメだよ。
 グレイシアは北の大森林で静かに勢力を保っているし、依頼しても来ないだろうなあ。
 そうなると、やっぱり‥‥‥」
「地上世界の魔王の全てをその配下に治めている、魔王シェイブですねー。
 しかも、竜王様の盟友と来ていますし。
 魔都グレイスケーフは先代の魔王が手掛けただけあって荘厳だとか。
 ルスティカちゃん、いつになったら奥様と離婚してくれるの?」
 ふと、わたしにもそろそろ幸せが欲しいな、そんなことを思いエレン女官長が発した言葉に法王は誰かに聞かれていないかと真っ青になる。
「待ってよ! 
 エレンちゃん、お願い!
 人類最大のエイジス連邦の主都エイジスともひけを取らないって評判らしいね、魔都グレインスケーフ‥‥‥ね?」
「いつに、なります?」
「待ってよー、いまの妻がなかなか。
 先代の大神官の娘だからさー。
 ちゃんと、なんとかするから‥‥‥」
「本当に公爵様のとこに行こうかなー。
 ああ、そう言えば。
 ルスティカちゃん、魔獣はどうするの?」
「魔獣って‥‥‥。
 先に王国からの救援要請でしょ?
 魔族のことは魔族に任せたらいいのよ。
 DACIS、DACISだよ。魔王軍犯罪捜査局!
 あそこに案件だよーってしれっと流すのが一番だと思わない?」
 法王は神殿の手をよごさないですむよね、と嬉しそうにかたっている。
 エレンはそのよろこびように、一抹の不安を感じていた。

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