聖女は剣聖と呼ばれて

星ふくろう

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第一章

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「それはおもいますけど、でも誰にその伝令の役目をさせるんですか?
 猊下自らが動かれたら‥‥‥それはそれで、問題になりません?」
 ふふん、大丈夫だよ任せておきなさい。
 ルスティカ三世は、その育ちすぎたでっぷりとした腹を叩いてにやりと笑っていた。
「うちにはあいつらがいるでしょ?
 筆頭聖女の、ほらー」
「え!?
 まさか・‥‥あの連中に?
 だって、転生勇者や召喚された異世界の住人を見つけ次第、問答無用で抹殺するような連中ですよ?
 それに伝達役をやらせるんですか!?」
「そうよ?
 魔族には狂犬を噛ませておけばいいじゃない。
 どうせ、死んでもこっちの肚は痛まないんだから。
 手配、宜しくね?」
「えー‥‥‥。セリカ様にはお伝えはしますけど‥‥‥いいのかしら。
 あと、猊下?
 この大陸シェドのエルムド帝国とにらみあってるエルグランデ王国の神殿で魔族と戦っているあの子ですけど。
 どうするんですか?」
 エルグランデ王国?
 その言葉を耳にして、さきほどまで愛人と甘い時間を過ごしていた法王はその顔を引き締めた。
 あの王国の神殿には、功労者の聖女エレーナがいる。
 真紅のエレーナとも呼ばれる剣の使い手。
 その身一つで、魔王レガイアの侵攻を押し止め、先年は魔王城までその矛先を突きつけた女傑だった。
「エレーナを殺させるわけにはいかん。
 絶対にいかん」
「でも、前回の討伐戦で結果的には敗退したからって、国王は今回、負けたら‥‥‥」
「処刑、か。
 そんなことは、断じてさせません。断じて‥‥‥その件に関しては、大至急竜王様に連絡を。
 ここで見殺しにしたら、竜神の神殿が世界から舐められるわ!!
 エルグランデなんて小国、僕を怒らせたらどうなるか。
 見ているといいよ、エレンちゃん。この法王猊下の実力をね」
「はあ‥‥‥ねえ、ルスティカ三世ちゃん。
 その意気は良し、なんだけど。
 まずは、この王国の周りに出没してる魔獣騒動、どうにかしないと次期選挙に障ると思うんだけど。
 なんで、こんな上級の魔獣ばかり地上に出てくるようになったのかしら‥‥‥??」
「魔獣かあ‥‥‥。
 どっかに腕利きのテイマーいないかなあ?」
 この法王の呟きに、エレンはどこかにいないかしらねえ?
 と、いろいろと上がってくる報告を頭の中で探ってみる。
 なにか忘れていた気がするのだ。
 あれでもないしー、これでもないしー?
 自分の手を握ってくる法王の手の甲をつねりながら、エレン女官長は優秀なその記憶力をフル回転させていた。
 そして、ある報告を思い出す。
「ねえ、ルスティカちゃん?」
「なっ、なにかな、エレン女官長?
 その、僕の手、痛いんだけど――??」
 彼の苦情は無視して、手を放すと自分が法王のために淹れてきた紅茶を軽くひとすすりして、エレン女官長あのねえ、と続けた。
「エルグランデ王国って出たでしょ?
 エレーナ様のいらっしゃるところですけど。
 そこの宮廷調教師が放逐されたとかなんとか‥‥‥知りません?」
「それ、僕の紅茶‥‥‥。
 宮廷調教師?
 魔獣でも従えれるテイマーなら、さぞ有能なんだろうけど戦争中の国から放逐されるくらいだから、つかえないんじゃないの?」
「うーん‥‥‥。
 でも、彼がいたときまではあれなんですよー」
「あれ?
 なによ、あれって??」
 今度はお菓子まで机に座って頬張りだした愛人においおい、と思いながら法王は誰かに見られたらおわりじゃんこれ、と冷や汗をかいていた。
「彼がエルグランデ王国を放逐されてから、王国の主要な魔獣が消えてるんですよねー。
 おまけに周囲で発生しはじめた、魔獣とかの被害も、同時期だし」
「なにそれ?
 そのテイマーが連れて逃げたとか?」
 さあ?
 そこまではわかんないです、とエレンは居ずまいを正すと法王に向き直った。
「まあ、とりあえずはセリカ様です、ね。
 あんまり彼ら、好きじゃないんですけど。手配しておきます」
 宜しく、と法王のもうこれ以上いじめないでよ、との悲し気な声を背に受けて、エレン女官長は殺戮部隊と名高い、聖女セリカ配下のダルデ司教に声をかけに行くのだった。





 数日後。
 西の大陸、アルスト帝国の東端。
 そこに、かれらはようやく見つけ出した獲物を前にして戦いを繰り広げていた。
 いるのは大柄な男性と、まだ年若い少女。
 そして、この大陸では見慣れない衣装に身をつつんだ少年である。
 彼は、その大柄な男性と拳を交え、劣勢のように見えた。
「おらっ!!」 
 意気揚々とこの世界に転生してきた彼に、バルダックの重い拳の一撃が決まった。
 まだ、みためが少年‥‥‥十五・六歳の彼はそれをはらにうけて地面にしずみこんでしまう。
 自分がおかれた状況がしんじられないといったふうに頭をふり、まだいたむであろう腹部を抱えたまま彼は悲鳴とともにぼやいていた。
「ぐぇふっ‥‥‥!!?
 なんで、だ!?
 俺は最強のはず――」
「ばーか」
 まだ、わからねーのかよ?
 赤銅色に焼けたはだと、全身をおおうむだのない筋肉。そして、ところどころに残るふるきずは剣や槍でうけただろうことを連想させる。
 そんな、歴戦の勇士が黒髪に青い瞳の傭兵、バルダックだった。
 彼は少年がきている衣服のむなもとをつかみあげると、その辺りにある岩にむかってほうりなげてしまう。かわいそうに、少年はうけみもとれないまま、岩にぶつかってまたくずれおちてしまった。
 こちらは、黒髪に黒い目。
 肌はバルダックよりもやや白く、しかし、同じ場にいたハイエルフであるアリスのそれにはおよばない。
 まだ生きてる? 
 見ためは少女のアリスは、稲穂のような金髪に、苔色の瞳をして少年をうかがっていた。
「あまりいじめちゃだめよ、バル?
 また、ダルデ司祭様にお叱りを受けるわ」
 ええ?
 だがなあ、と長身の傭兵は小柄なハイエルフをかえりみる。
「しかし、こいつ転生勇者だぞ?
 このまま生かしておいたらまた、この世界に寄生するダニにしかならんだろ?」
「ダニ?! 
 なんだよ、ダニッて!!??」
 少年の抗弁は無視するかたちで、アリスは会話をつづけた。
「でも、司祭様はみつけしだい、送還するようにと言われていたし。
 あなたにすら軽く扱われるようでは‥‥‥無能でかないわ。この子」
「だよなあ。
 まさか、単なる傭兵の俺に負けるなんてよ?
 お前、それでも異世界からの侵略者か?」
 自分に注がれる四つの奇異の視線をうけて、少年はようやく、息を整えることができたらしく口を開いた。
「いや、おい。
 待ってくれよ。俺は、確かに異世界からきたぜ?
 でも、それは――」
「この世界に危険が迫っているから、好きな武器や能力を与えるから、勇者になって人々をすくってくれ。魔王をたおせばそれで、仕事は終わる。
 その後は、現世に戻してやろう、でしょ?」
 さらり、と自分が置かれている状況を、めのまえに立つ少女に言われて彼はあぜんとなる。
「えっ‥‥‥。
 なんでそれを?
 それに、転生勇者とか、ダニとか無能とか‥‥‥どういう、こと?」
「あー‥‥‥それな。
 めんどくさいが、とりあえず説明しといてやる」
「あ、ああ。
 それはどうも‥‥‥」
 めんどくさいってなんだよ、と思いながらまた殴られないように少年はいずまいをただして、この男の発言を待った。
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