聖女は剣聖と呼ばれて

星ふくろう

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第一章

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「まずな、ここはとある帝国の、はるかな東の端。
 となりの王国との国境付近だ。そんなことはどうでもいいか。
 もう何年もつづけて、異世界勇者が攻めてきている。
 意味がわかるか?
 攻めて来ているんだ。この世界にはびこる魔族を殲滅し、世界を解放する。
 そんなくだらない御題目を掲げてやってきやがった。
 いいか、攻めて来たんだ。異世界からこの世界に、戦争を吹っ掛けに来たんだよ」
「は?」
「なにが、は? だ?」
「いやだって‥‥‥」
 少年は呆けたような顔をして、バルダックを見あげていた。
 どうにも理解出来ない。
 そんな顔をして。
「この世界に魔族がいるんだろ??
 で、それを絶滅させて、世界を救いに来たんだろ?
 ‥‥‥何が悪いんだ?」
「この、大馬鹿野郎!!」
「いでっ!!?」
 バルダックは加減を知らずに、堅い拳の一撃を少年のあたまにたたきこむ。
 彼はあたまをかかえて、再度、うめいていた。
「なにすんだよー‥‥‥」
「何するもこれするもあるか!
 お前、何歳だ?」
「はあっ!?
 なんの関係が‥‥‥十六だよ」
「そうか、俺は三十二だ。
 倍近くも年齢が離れている先輩に向かって、なんだその口の利き方は?
 親もよほど、まともな生き方はしていないんだな‥‥‥可哀想に」
「はああ!!?
 親は関係ねーだろうが!!
 うちは母子家庭で、母親は俺をきちんと育ててくれたんだ。
 てめーにはーはぐっ!?」
「おじさんには、だ!
 その言葉づかい、態度。
 どれもが、自分の親はわたしをまともに育ててくれませんでしたって。
 そう宣伝してんだよ。この間抜け!
 恥ずかしいと思うなら、まず敬語だ。 
 年上は敬え!」
「‥‥‥ふざけんなよ。
 異世界転生してやってきてみたら、いきなり殴られて説教? 
 おまけに赤の他人のあんたを敬え?
 老害じゃねーか!!」

 はああ。
 そう大きなためいきとかわいそうな子供だ。
 そう、二人の異世界の人間からさげすんだ目で見られて、少年は妙な気分になった。
 まるで自分が、ほんとうに憐れな、礼儀知らずに思えたのである。
「いいかぼうず。
 名を問う気はないからそう呼ぶぞ?
 例え一時間でもさきに生まれていれば、その人間はおまえよりもなにかの苦労をしてるんだ。
 それが分からないお前は、老害ならぬ若害だ。
 ここに来る、勇者志望はみんな同じことを言う。
 権利だの義務だの、人権だのなにを世迷言をほざくんだおまえたちは?
 それはすべて、自分でなにもかもを成した者の言う言葉だ。
 自分で独立し、仕事を持ち、家族を養い、子を育て、まともに働く。
 それが出来て初めて、そんな権利を認められるんだ。
 お前たちの世界では、個人の存在がとても大きな権利を持てるようだな。
 それは良いことか、悪いことか。まあ、とりあえず、ここでは年上には敬語だ」
「長ったらしい説教しなくても‥‥‥。
 そっちが最初からなにもせずに話を聞いてくれたら、俺だってそれくらいしたさ。
 でも、いきなり鉄拳じゃ‥‥‥なあ?」
「当たり前だ。
 お前は国境?
 いや、神々が定められた世界の境目を勝手に乗り越えてきた。
 いわば、不法侵入者だぞ?
 つまり、犯罪者だ。
 そりゃ捕まるのは当たり前だろう?」
 バルダックやアリスからしたら、何言ってんだ、こいつ? 状態である。
 しかし、少年からすれば寝耳に水、なのはいうまでもない。
「だからさ!
 俺はそれを知らないんだってば!!
 知らずに来て、いきなり暴力かよ? 
 それが、あんたらの帝国の礼儀か!?」
「アホか。
 違法の物品や麻薬なんぞ運んでいて、それを知りませんでした。
 それで通ると思ってるのか?
 お前の世界のお前の国の国境を守る軍隊は、そんなに緩いのかよ?」
「あっ、いや‥‥‥それは――。
 でも、神様に守ってくれって!!」
「頼まれたんだよな?
 あー残念。
 可哀想にな?」

 なにが可哀想なんだよ、侵略ってなんだよ!?
 少年は泣きそうになって、二人の異世界人を見ていた。
 神様からは、死後の世界で会ったあの神様を名乗る老人からは、ほぼ無敵の能力があるぞ。
 異世界に行けば、チートもモフモフの亜人女子のハーレムも、尊敬される勇者様ならばいくらでも需要はあるぞ。
 そう、言われてきたのに。
 そう、信じていたのに‥‥‥。
 これが現実かよ。
 まるで‥‥‥クソゲーだ‥‥‥。
「じゃあ何か?
 俺は、俺は、利用されたってのか?
 あの神様を名乗る老人に?
 それに侵略って、なにをして侵略するんだよ‥‥‥?」
「ああ、それな」
 バルダックがやれやれ、まだ説明しなきゃならんのか、と首をコキコキと鳴らした。
 単なる暇つぶしでしょあなた? アリスは冷たい目でしれっとしているバルダックを横目でにらんでいる。
「要するにだ。
 神様ってのは信仰が命。
 信者がいなきゃ、だめなんだよ。
 ところでお前さんの世界の人口はすげーらしいな?
 どうじに、神様の数のまた、な?
 かなりの数になるだろ?」
「そりゃあ、数十億人はいるから。
 でも、それが?」
「数十億いても、だいたい数種類の宗教に大別されるだろ? 
 おまけにな。神の力の源である魔素ってのはどの世界にもあるんだ。
 でもな、人口が増えるとその量は一定だから。つまり、減るんだよ。
 神様の持てる力は人間や、亜人みたいな生きている存在が少なくて、その上で神の数が少ないのが一番美味しいのさ」
「ってことは‥‥‥。
 俺のやってきた世界に魔法とかがないのは‥‥‥???」
「人口が増えたのと、神の数が増えたのと。
 あとは、信者の集中化、だな。
 神はな、信者の信仰から特別な力を得るんだ。
 それをある程度、蓄えると星から旅立っていくのさ。その代わり、信仰心から来る力だけは延々、その神様に注がれる訳だ」
「じゃあ、貧乏な神様はずっと貧乏じゃん」
「そうだよ。
 だからこその、異世界侵略じゃねーか。
 人口少ない、神様が少ない、文明もまだ若い。
 そこを植民地にすれば、どうだ?」
「貧乏がなくなる‥‥‥??」
 その通りよ、とアリスが会話を交代する。
「でもね、そんな異世界にはまだ魔素がたくさんあるし。
 神様も少ないでしょ? 人口も少ない。
 なら、あなたたちの侵略してくる程度の能力に対抗することくらいは、ね?
 可能なのよ。それに、なぜか送り込まれてくる人間は‥‥‥」
 と、ここでアリスは何故か言いづらそうに顔を伏せてしまう。
 しばらく迷った後、意を決したかのように言葉にした。
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