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第一章
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「自殺したりとか、交通事故で死んだ、とか。
その大半が、社会で不遇だった人間ばかり。
自分で自分の環境を変えれないまま、負け犬のような人間が多いのよ」
「ひどいな、負け犬って。
まあ‥‥‥俺もいじめに負けて投身自殺したんだけどさ‥‥‥」
どこか遠くを見るように、少年は悲し気な視線で足元を見ていた。
負け犬。
それは、隠し切れない事実だった。
「もちろん、病気もあるだろうし。
その人の環境もあるだろうけど。異世界にいけばどうにかなるって、そんな本や物語が多いらしいわね、あなたの世界では?」
「多いって言うか‥‥‥まあ、ブーム。
簡単に言うと、それが好まれてるよね」
「でもね、現実世界で半端者は、どこにいっても‥‥‥適当にしか生きれないのよ。
特にそれが原因で自殺したような、人生を捨てた人間が異世界を救おうなんて。
おこがましいと思わない? その異世界でも、あなたの世界でも。必死に生きて頑張ってる人がいるのに。その人たちに恥ずかしいと思わない?
胸を張ってわたしは生きています、頑張ってますって言える?」
「うっ‥‥‥。
でも、言えなくても。
死をどう選ぶかは‥‥‥、本人の決めることじゃないか。
誰も死にたくて死んだわけじゃない」
そう?
アリスは少年の言い分に納得がいかないようだった。
なら、と言葉を続ける。
「死んだなら、あなたは、そうね。
あなたの世界で言うところの、ゲームオーバー。
終わったの。死人は黙って、来世でやり残したことを完遂できるように努力なさい。
少なくとも、異世界転生なんてのは単なる、逃げでしかないのよ。
そして、わたしたちにとっても異世界勇者は害悪なの」
「なんで、害悪‥‥‥」
「この世界のことはわたしたちが、この世界に生きる存在がみんなで必死になって決めることだから。
わかった?」
「なんとなく。
でも、だからってどうするのさ?
追い返すのか?
どうやって??」
それは簡単だ。
バルダックが少年に振り上げたそれは‥‥‥。
「嘘っ‥‥‥!!?」
その一声を残して、少年の首と胴は綺麗にわかれてしまった。
アリスが魔法を唱え、その肉体を骨も残さないように灼熱の業火で焼き上げる。
数分もしない間に、少年の痕跡はこの世界から消えてしまった。
「また、一つ罪を犯してしまったわね‥‥‥」
アリスは主神である竜神にどうかお許しくださいと、懺悔をしていた。
バルダックはこれも仕事だと割り切るように、彼女に声をかける。
「しかたないさ。
異世界からの侵略を防げと、それがこの世界の神の思し召しだ。
しかし、あいつ。
どうなるんだろうな、また死んで。
その後は?」
「わたしの魔法は肉体だけでなく、魂までも消滅させるから。
知らなくて利用されただけとはいえ、世界を侵略する行為は重罪よ。
それに‥‥‥」
「それに?」
「異世界で逃げ出した半端者は、この世界に来ても半端者よ。
そんな存在、利用されたって仕方ない」
「まだ来世で利用されないように、魂まで消滅させてやった方が本人の為、か。
それが正解かどうかはわからんが‥‥‥」
「また来るのかしら?
次で何人だったかしら?」
「さあ?
二十を超すまでは数えたがなあ」
また、ダルデ司祭様。
あの御方に報告すれば、わかるわね。
そう言い、アリスはバルダックに帰りましょう? と誘いをかけた。
世界を照らす太陽は地平線に姿を隠そうとしている。
また一日、聖職者としてのアリスとその護衛としてのバルダックのささやかな日常が幕を閉じるのだった。
とりあえず近隣の街に宿を取ると、二人は騎竜に乗った竜神アルバス神殿直属の聖騎士の訪問を受けた。
特に名乗りもしなかったその騎士は、「法王猊下からの勅命です」とだけ告げると、蜜蝋で封をされた文箱に入った密書を手渡し、戻って行ってしまった。
「なんだよ、ありゃ?
まるで風みたいな野郎だな?」
仕事上がりのエールは格別だ。傭兵はそう言うと、ジョッキになみなみと継がれたそれを何倍も飲み干してしまう。
「あなたねえ、法王猊下からの勅命なのよ?
少しは控えたらどうなの?
もう、礼儀知らずなんだから‥‥‥」
相棒の振る舞いに呆れた顔をして、アリスはとりあえず、部屋に戻りましょう?
そうバルダックを促し、アリスの部屋へと集まることにした。
「結界、敷くのか?」
「当たり前でしょう?
こんな重要な命令、どこの誰にも知られる訳にはいかないわ」
「まあ、そりゃそうか‥‥‥」
直属の上司のそのまた上。
聖女セリカが代理となり、法王の指示をしたためたその密書を読んで二人はおおきなため息をつかざるを得なかった。
「なんだよ、これ。
ここから三日はかかる王都エリオスにまで行けってか?
しかも、そこで在駐してる魔王軍犯罪捜査局の捜査官に依頼しろってか?」
「普通のことじゃないわね。
魔王軍って言っても、地上世界の統括をしてる魔王シェイブの配下よ?
いつもならアーハンルド王国から北に馬を飛ばせば済む問題なのに、依頼が来てるエリオスに行けってことは‥‥‥」
「まあ、あれだろうな」
バルダックは理解したかのように呟いていた。
十数年前の、帝国と王国の魔導大戦。
あの大戦は本当にひどかった。過去を思い出して、バルダックは頭に手をやる。
精霊界に存在する精霊や妖精と契約した精霊騎士や人工の神である星霊と呼ばれる存在を身に宿した、生きる兵器、星霊戦姫と呼ばれる女性兵士たち。
その多くが、ハグーンやジェニスといった古代の魔法を習得した、賢者と呼ばれる集団から支援を受けて双方がほぼ全滅するまで戦った。
山や砂漠が戦場となり、どこも人の血で真っ赤に染まったという。
ハーミアに指示を与えた魔装人形は、賢者が現代に一部だがよみがえらせた古代の魔導大国の魔法に拠って作られている。そんな途方もない破壊力を備えた連中を相手に‥‥‥。
「法王猊下はよく戦い抜いて、あの戦争を終わらせることができたもんだ。
奇跡としか言いようがない」
バルダックはルスティカ三世を尊敬してやまなかった。
「なら、行くので決まりね?
どちらにせよ、聖女セリカ様からの指示なら拒めないわ。猊下の勅命ともなれば必ずよ」
「ああ、そうだな。
明日にでも、旅立とう。
で、誰に会うんだ?」
ふと、相手のことを知らないことに気づいてバルダックはアリスに尋ねた。
「アデレイ公爵家のレビン。
人間って書いてある」
アデレイのレビン?
バルダックはその人物を知っていた。
いつかの異世界召喚されてきた勇者数名を葬った時、バルダックでも手こずる猛者をその獲物でやすやすと貫いた槍の名手。
「神槍の‥‥‥レビン、そして精霊騎士か‥‥‥」
眠たそうな目をして、瞬きひとつせずに閃いたあの槍だけは忘れられない。
黒い髪に鳶色の目が、異様に光っていて気味が悪かった。
「知り合いなの?」
アリスに聞かれて、知り合いってほどじゃないが顔は知っているとバルダックは答えた。
あれの恐ろしさは槍ではない。その従えている連中だ、とも付け加えて。
こうして、その夜から早馬を飛ばして王都エリオスについたのは二日後のこと。
捜査官レビンに、ようやくエリオスからの救援要請が届けられたのだった。
その大半が、社会で不遇だった人間ばかり。
自分で自分の環境を変えれないまま、負け犬のような人間が多いのよ」
「ひどいな、負け犬って。
まあ‥‥‥俺もいじめに負けて投身自殺したんだけどさ‥‥‥」
どこか遠くを見るように、少年は悲し気な視線で足元を見ていた。
負け犬。
それは、隠し切れない事実だった。
「もちろん、病気もあるだろうし。
その人の環境もあるだろうけど。異世界にいけばどうにかなるって、そんな本や物語が多いらしいわね、あなたの世界では?」
「多いって言うか‥‥‥まあ、ブーム。
簡単に言うと、それが好まれてるよね」
「でもね、現実世界で半端者は、どこにいっても‥‥‥適当にしか生きれないのよ。
特にそれが原因で自殺したような、人生を捨てた人間が異世界を救おうなんて。
おこがましいと思わない? その異世界でも、あなたの世界でも。必死に生きて頑張ってる人がいるのに。その人たちに恥ずかしいと思わない?
胸を張ってわたしは生きています、頑張ってますって言える?」
「うっ‥‥‥。
でも、言えなくても。
死をどう選ぶかは‥‥‥、本人の決めることじゃないか。
誰も死にたくて死んだわけじゃない」
そう?
アリスは少年の言い分に納得がいかないようだった。
なら、と言葉を続ける。
「死んだなら、あなたは、そうね。
あなたの世界で言うところの、ゲームオーバー。
終わったの。死人は黙って、来世でやり残したことを完遂できるように努力なさい。
少なくとも、異世界転生なんてのは単なる、逃げでしかないのよ。
そして、わたしたちにとっても異世界勇者は害悪なの」
「なんで、害悪‥‥‥」
「この世界のことはわたしたちが、この世界に生きる存在がみんなで必死になって決めることだから。
わかった?」
「なんとなく。
でも、だからってどうするのさ?
追い返すのか?
どうやって??」
それは簡単だ。
バルダックが少年に振り上げたそれは‥‥‥。
「嘘っ‥‥‥!!?」
その一声を残して、少年の首と胴は綺麗にわかれてしまった。
アリスが魔法を唱え、その肉体を骨も残さないように灼熱の業火で焼き上げる。
数分もしない間に、少年の痕跡はこの世界から消えてしまった。
「また、一つ罪を犯してしまったわね‥‥‥」
アリスは主神である竜神にどうかお許しくださいと、懺悔をしていた。
バルダックはこれも仕事だと割り切るように、彼女に声をかける。
「しかたないさ。
異世界からの侵略を防げと、それがこの世界の神の思し召しだ。
しかし、あいつ。
どうなるんだろうな、また死んで。
その後は?」
「わたしの魔法は肉体だけでなく、魂までも消滅させるから。
知らなくて利用されただけとはいえ、世界を侵略する行為は重罪よ。
それに‥‥‥」
「それに?」
「異世界で逃げ出した半端者は、この世界に来ても半端者よ。
そんな存在、利用されたって仕方ない」
「まだ来世で利用されないように、魂まで消滅させてやった方が本人の為、か。
それが正解かどうかはわからんが‥‥‥」
「また来るのかしら?
次で何人だったかしら?」
「さあ?
二十を超すまでは数えたがなあ」
また、ダルデ司祭様。
あの御方に報告すれば、わかるわね。
そう言い、アリスはバルダックに帰りましょう? と誘いをかけた。
世界を照らす太陽は地平線に姿を隠そうとしている。
また一日、聖職者としてのアリスとその護衛としてのバルダックのささやかな日常が幕を閉じるのだった。
とりあえず近隣の街に宿を取ると、二人は騎竜に乗った竜神アルバス神殿直属の聖騎士の訪問を受けた。
特に名乗りもしなかったその騎士は、「法王猊下からの勅命です」とだけ告げると、蜜蝋で封をされた文箱に入った密書を手渡し、戻って行ってしまった。
「なんだよ、ありゃ?
まるで風みたいな野郎だな?」
仕事上がりのエールは格別だ。傭兵はそう言うと、ジョッキになみなみと継がれたそれを何倍も飲み干してしまう。
「あなたねえ、法王猊下からの勅命なのよ?
少しは控えたらどうなの?
もう、礼儀知らずなんだから‥‥‥」
相棒の振る舞いに呆れた顔をして、アリスはとりあえず、部屋に戻りましょう?
そうバルダックを促し、アリスの部屋へと集まることにした。
「結界、敷くのか?」
「当たり前でしょう?
こんな重要な命令、どこの誰にも知られる訳にはいかないわ」
「まあ、そりゃそうか‥‥‥」
直属の上司のそのまた上。
聖女セリカが代理となり、法王の指示をしたためたその密書を読んで二人はおおきなため息をつかざるを得なかった。
「なんだよ、これ。
ここから三日はかかる王都エリオスにまで行けってか?
しかも、そこで在駐してる魔王軍犯罪捜査局の捜査官に依頼しろってか?」
「普通のことじゃないわね。
魔王軍って言っても、地上世界の統括をしてる魔王シェイブの配下よ?
いつもならアーハンルド王国から北に馬を飛ばせば済む問題なのに、依頼が来てるエリオスに行けってことは‥‥‥」
「まあ、あれだろうな」
バルダックは理解したかのように呟いていた。
十数年前の、帝国と王国の魔導大戦。
あの大戦は本当にひどかった。過去を思い出して、バルダックは頭に手をやる。
精霊界に存在する精霊や妖精と契約した精霊騎士や人工の神である星霊と呼ばれる存在を身に宿した、生きる兵器、星霊戦姫と呼ばれる女性兵士たち。
その多くが、ハグーンやジェニスといった古代の魔法を習得した、賢者と呼ばれる集団から支援を受けて双方がほぼ全滅するまで戦った。
山や砂漠が戦場となり、どこも人の血で真っ赤に染まったという。
ハーミアに指示を与えた魔装人形は、賢者が現代に一部だがよみがえらせた古代の魔導大国の魔法に拠って作られている。そんな途方もない破壊力を備えた連中を相手に‥‥‥。
「法王猊下はよく戦い抜いて、あの戦争を終わらせることができたもんだ。
奇跡としか言いようがない」
バルダックはルスティカ三世を尊敬してやまなかった。
「なら、行くので決まりね?
どちらにせよ、聖女セリカ様からの指示なら拒めないわ。猊下の勅命ともなれば必ずよ」
「ああ、そうだな。
明日にでも、旅立とう。
で、誰に会うんだ?」
ふと、相手のことを知らないことに気づいてバルダックはアリスに尋ねた。
「アデレイ公爵家のレビン。
人間って書いてある」
アデレイのレビン?
バルダックはその人物を知っていた。
いつかの異世界召喚されてきた勇者数名を葬った時、バルダックでも手こずる猛者をその獲物でやすやすと貫いた槍の名手。
「神槍の‥‥‥レビン、そして精霊騎士か‥‥‥」
眠たそうな目をして、瞬きひとつせずに閃いたあの槍だけは忘れられない。
黒い髪に鳶色の目が、異様に光っていて気味が悪かった。
「知り合いなの?」
アリスに聞かれて、知り合いってほどじゃないが顔は知っているとバルダックは答えた。
あれの恐ろしさは槍ではない。その従えている連中だ、とも付け加えて。
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