聖女は剣聖と呼ばれて

星ふくろう

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第二章

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「えっ!?
 おおかみ‥‥‥?」
「ヘザーだ。
 あれでも、人狼、というべきかな?」
 そう紹介を受けた狼はのっそりと起き上がる。その様は勇壮な野生の狩人といったようで、巨体をほぐすようにゆすると淡い燐光とともにその身は縮んでしまった。
「人狼って‥‥‥変身するんだ‥‥‥」
「ああ、彼女は蒼狼族という魔族の出身だよ。
 この西の大陸では珍しいけどね?」
 へえ、そうなんだ。
 飛竜の首は胴回り三メートル以上はある。その上を、灰色の道着のような物を着込んだ蒼い髪の美女が歩いて渡ってきた。
「あ、血が‥‥‥」
「え?
 ああ、ごめんなさい。
 あの剣士のものね。
 たいしておいしくもない」
 そう言って、袖口でふく様はたしかに狼を連想させた。
「見せて、その傷」
「え、でもここ空中‥‥‥??」
「いいのよ、そばにいるだけでみえるから」
「はあ」
 どうやってズボンの生地の上から傷口を診れるのか。こんな不安定な空中にいるのに。
 とても不思議そうに見ているハーミアが面白いのか、ヘザーはにこりと笑うと傷口に片手をかざしてなにかを唱えた。

「あ‥‥‥治癒魔法?
 それも高位のやつだ」
 だがその詠唱に時間を要していない。
 リザやエレーナたちが使う魔法とはまた違う系統のものらしい。ハーミアはそう思う間に裂傷はみるみる間に塞がり、痛みが引いて行く。
 破傷風とかにならなきゃいいんだけど。
 治癒魔法とはいい名前だけど、その効果は完璧じゃない。
 失った細胞を活性化させてつなぎ合わせ、再現する。失った手足を複製する。
 そこまでは出来るようだが、入った菌まで浄化するには至らない。それをするためには、ハーミアのような聖女の神聖魔法が必要だった。
「あなた、聖女様なのに、神聖魔法もできないの?
 役に立たないのね?」
「えっ‥‥‥。
 いや、あーはい‥‥‥すいません」
 ありがとうございました。と素直に礼を述べたものの、内心複雑なハーミアだった。
「こら、ヘザー。
 まったく‥‥‥」
「だって、その通りでしょ?
 なんのための聖女なんだか‥‥‥」
 ふっ、とうすら笑いを浮かべてヘザーは竜の背にもどり、また狼になって寝そべってしまう。
 嫌な奴!
 ハーミアが睨むその視線を遮るようにして、ようやく彼は微笑んでいた。

「どちらにせよ、危ういところを助けれてよかった。
 僕はヨアヒム・フェザーンと言います」
「ああ、ヨアヒム、さん。
 珍しい御名前ー‥‥‥」
「よくそう言われますよ。
 しかし、危なかった。
 あなたはなぜ、あの連中に?」
 冷静になってそれを言われると、なぜ、というまえにこちらにもなぜあの場所に? という疑問が湧いて出てくる。彼が‥‥‥あの連中。
 王国の追手でないとは限らないのだから。
「あの、助けて頂いてなんですけど。
 あなたは?
 あなたは‥‥‥どうして、あそこに?
 まるで、わたしが困るのがわかるようにいらした気がするんですけど?」
「いや、それは邪推というものだ。
 どちらかといえば、お互いが追い、追われていた連中が同じだった。
 そういうのが、正しいだろうな」
「‥‥‥え?
 どういう、こと??」
 どうと言われても、とヨアヒムはそれは言えないのですよ、と首を振る。
 言えないのに、話をふらないでよ。
 そうハーミアは思いながら、彼がなにかを知る程度には知己をえた。
 噂に聞く、魔獣調教師‥‥‥テイマーだ。
「まあ、何と言いますか。
 あなたが追われていた連中、各地で魔獣を封印から目覚めさせたり。
 どこかの飼われている獣を狂わせたりと、ね。
 なにぶん、こちらも困っていたのですよ」
 こちらも、か。
 その言い方だと、個人でどうこうしてる訳ではなさそうだし怪しいなあ。
 でも助けられた恩もある。
 どうしたものかなーと悩んでいると、ヨアヒムはハーミアの沈黙を疑われていると感じたのか言えるだけなら、と話し出していた。

「実は、元の王国をクビになりまして。
 この子たち、ルーシェとヘザーと共に気ままに旅をしていたんですが‥‥‥」
「その気ままな方が、どうしてあの連中と?」
「いえ、ですから。
 あなたがいてくれてある意味、良かったかというか」
「――まるで‥‥‥わたしを出汁にしたような言い方をされるんですね?
 おびきだしたかのように聞こえます、ヨアヒム様‥‥‥」
 誤解ですよ、と青年は手をふった。
 その笑顔の中にどうにも鈍い眼光が光っていて。
 どこかでその目を見たような気になりながらハーミアはいまはどうにもできないわ、と孤独に空の虜囚? それとも仲間なのか。
 不安になりながら、後ろに首をむけるの疲れるわーと、うめいていた。
「あの連中、各地で魔獣を解放したり、封印されていたのを目覚めさせたり、飼われているのを放逐したりとまあ、ロクデモないことをしていましてね。
 それを追いかけてー‥‥‥いるんですよ」
「なぜ、追いかけているんですか?
 そんなこと、聖騎士団や各国の騎士団の仕事でしょう?」
 未だに警戒を解かないでいるハーミアに向かい、のっそりと起きてきた蒼狼が近場でふんっと大きく鼻を鳴らして呆れたように言った。
「ねえ、ヨアヒム。
 旦那様?
 こんなものわかりの悪い聖女、助けて何の特になるんですか?」
「こら、ヘザー。
 やめないか、竜王様のお身内だぞ‥‥‥」
 だって、と蒼狼はヨアヒムの頬を愛おしそうに舐めると、
「ねえ、ハーミア様。
 聖女様なら、あたしやルーシェを使役できてるヨアヒムがどれだけ凄いか理解できないの?
 どんなテイマーだって、純粋な魔族のあたしまで従属させれると思うんですか?」
「え。
 いえ、それは‥‥‥すいません、不勉強で‥‥‥」
 だめね、話にならない。
 そう言い、蒼狼は後方に戻ってしまう。可愛くない! 
 ハーミアは内心、憤り感じるがヨアヒムの価値は理解できないからどうにも判断がつかなかった。

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