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第二章
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しおりを挟む「ハーミア様。
ヘザーの御無礼はお詫び申し上げます。
他言は無用に願いたいのですが。ヨアヒム様はかつてエルムド帝国の天才魔導士、シルド公が作り上げたと言われる魔眼の継承者なんです」
「魔眼?」
「ええ、どんな魔獣や神獣すらも。
時によっては神や獣すらも従える、獣王の魔眼、をお持ちです」
魔眼、ね?
また出て来たぞ―、トンデモアイテム。
なんなのよ、この世界は!?
まあ、いいわ。
そんなに凄いものをもっているということは、つまり‥‥‥。
「ようはその悪い連中を追いかけていて」
「はい、それがあながを追っていた連中とも同じだった、と。
そんな話になりますな。
しかし、なぜ、追われているのですか?」
ヨアヒムが会話を遮り、しかし、ハーミアにはその心当たりが‥‥‥まるでなかった。
「わかりません。
仲間たちといたアリューシア市から飛空艇で二週間の旅のはずだったのに。
途中で降りたヌアザの街でいきなり襲われたんですよ。
それから丸二日間、あの調子で逃げたり、斬り合いになったり。
よく生き延びれたと思いますけど‥‥‥」
「なるほど。
では、あなたはどちらに?
アリューシアから二週間ということは――」
「アーハンルド王国に行きます。
そこの神殿に用があるので」
そうですか、とヨアヒムがにっこりと微笑んだ。
「これから、僕たちはアーハンルド王国に向かいます。
あなたもどうですか?」
「それは‥‥‥助かります。
けど、もう夜になろうとしてますけど‥‥‥?」
そうですね、とヨアヒムが言い彼は降下をルーシェに命じていた。
「この下に河が見えますから。
今夜はそこに宿を張るとしましょう。
ついでに、詳しくお伝えしますよ」
「はあ‥‥‥」
本当に信じて良いのかしら?
一抹の不安を覚えながら、飛竜が大きく旋回するとハーミアは悲鳴を上げてその首に捕まったのだった。
上空から見た河筋は入り組んでいて、山裾から差し込んでくる夕陽を頼りにするのかと思いきやルーシェは夜目も利くらしくなるべく周囲から襲われにくい、しかし、水辺のある窪みにその身体を降ろしていた。
狼から人へと身を変じたヘザー同様、ルーシェもまた黒髪の美しい美女へとその身を変えていて、「なんだかなって言いたくなるわねー。なによ、獣王の魔眼って‥‥‥」と、ハーミアがぼやきたくなるほどに彼は二人の美女にかしづかれていた。
それは魔眼の能力なの、それともあなたの魅力なの?
そう問いたくなるほどに彼らはあまりにも深い仲のように見えてしまい、まるで一夫多妻かと思ってしまうほどだった。
「実は恥ずかしながら、エルグランデ王国をクビになりまして‥‥‥」
なぜ、旅をしているのかと問いかけてみたらそんな回答が返ってくるものだからハーミアはつい、そりゃそれだけ魔獣に慕われていたら間違いも起こるわよね‥‥‥と思ってしまった。
「それはまた、なぜ?」
「そうですね、簡単に言えば。
経費、ですかね?」
「‥‥‥は?
それほど優秀なテイマーなのに、経費ですか?」
どれだけ高い禄高だったんだろう? エルグランデ王国は数年前から魔王と戦争をしていて仲間のエレーナはその魔王に対応するために‥‥‥母国に戻ったのに。
「ええ、経費です。
どうやら我が国の王太子殿下はいささか、金銭に細かい方でして。
戦費がかさむのに、使えないテイマーはいらんとそうおっしゃいましてね――」
ハハハっと軽やかに爽やかさを振りまき笑うその様は、まったく悔しそうに見えなかった。そして、後悔しているようにも。
だいたい、そんな優秀なテイマーなら‥‥‥あれ? 使えないテイマー?
どういうこと?
ハーミアの中で益々、疑念が膨れ上がって行く。彼の言うことは矛盾だらけだ。
まあ、もっとも‥‥‥愛するリザになぜか一目惚れをしてエルグランデ王国と法皇猊下がいるアーハンルド王国の連絡役。そんな名目で彼女を両国間の架け橋にしているカーティス王太子は好きになれなかった。最近ではエレーナにまで側室になれと粉をかけているらしい。まったくもって、面白くなかった。
「信じられない、そんな顔をされていますね、ハーミア様?」
「ルーシェさん‥‥‥そんなことはないですよ。
でも‥‥‥」
「分かんないよねー、聖女様には。
あたしとルーシェは、まだ幼い頃に旦那様に救われたからくっついているの。
旦那様の魔眼の影響じゃないんだよ。それに――」
「旦那様は、魔眼を使おうとはなさいませんでしたから。
あの王国では‥‥‥流浪の民として下級役人の家にお住まいでしたから。
王太子殿下からなされれば、王宮で飼育している魔獣の中でも低級魔獣しか扱わせてもらえない。
そんな旦那様は、金がかかるだけの存在だったのです」
二匹の魔獣のその言葉は、どうやら嘘ではないようだ。ハーミアはなぜ彼が目立たないようにしているのかは理解できなかった。いい能力があるなら、それを使えばいいのにとそう思うからだ。
「はは。あなたの目はあれですね。
使えるものならば、なぜ使わない。そう言われているようです」
「んーまあ‥‥‥ね。
それは否定しません。
そんなに凄い力なら特にそう思います」
あーあ、これだから世間知らずの聖女様は困るよねーと、蒼狼が声を上げる。
「魔眼ってのは使えば使うほど、寿命を削るんだよ」
「あ‥‥‥」
しまった。その可能性を失念していた。
そんな理由なら、亡命者がようやくありつけた仕事なら‥‥‥そりゃ使えないわよね。
あっさりと理解する自分自身もどうかとは思うが、彼の言葉にはどこか真実味があった。
「まあ、そんな詰まらない理由で解雇です。
お恥ずかしい」
そう言いながら、彼――ヨアヒムは簡単な身の上話をしてくれたのだった。
これも旅の味わいですよ、といいながら。
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