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第四章
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「でも、動かないなー。
いつになったらあの検問、とおしてくれるのかしら?」
問題はこの外見だった。
始まりはいつも十二歳の秋の頃。
終わりはいつも十六歳の夏の頃。
外見は幼い少女なのに、中身は数十年?
それとも百年は経過した精神年齢かもしれない。
逆行転生なんて‥‥‥記憶を保持したままなんども繰り返すんだから、本当にタチが悪い。
「ま、この外見じゃどう頑張っても、あのルバーブには‥‥‥載せてもらえないわよね」
そうぼやいていると、少し前にいるどうにも目立つ女性が目に入った。
エレーナも真紅の髪でそれはそれで生えるのだが、彼女の褐色の肌に銀色の髪、赤い瞳。
頭に巻いた黒い羅紗の布が印象的。東方の背の高い少女が馬を連れてそこに立っていた。
「綺麗な人‥‥‥あんな美しい女性、故郷の晩餐会でもお目にかかったことなかったわ
わたしはいつも、戦場でいて、手なんて剣をふりまわしていたから節くれだっていたものね」
今回の人生こそは、かならずやり遂げてやる。
でもその前にこの大門をくぐらなきゃ、ね。
列が進むのをのんびりと待つことにしよう。
馬が水を飲みたがればそばにある運河に連れて行けばいいし、列を少し離れたところで今日中には市内に入門できるだろう。
そう思いくつろいでいたものの、列は遅々として進まず、天には太陽がたかく昇ってきた。
「これ‥‥‥いつになるんだろ?」
明日になるのは嫌だなあ。そこまで時間はかからないと思うけれど、でも‥‥‥?
運河を下ってきた客船から降りてきた乗客は専用の降り口から門内へと案内されていく。あれはなんで? あ、そうか。船内で国境の検閲を終えて来たんだ。
「船にすれば良かったかなあ‥‥‥」
なるべく安く旅費を抑えるようにしてきたから、こればかりは仕方がない。あの夜以来、天使は毎夜のように現れてはエレーナに神託です、母国に戻りなさい、真紅の幻影団の設立が先です、とばかり告げてくる。
神様たちはどうにでも、聖女と魔王を戦わせたいようだった。
最近ではめんどくさいから、仮眠を多くとるようにして、天使に出会わないようにしてきたのが裏目に出てしまった。
襲い掛かる睡魔に耐えきれなくなってきたのだ。
いかに精神年齢が高くても、肉体年齢はまだ幼い十二歳。
身体はそのままなのだから。
「しまった‥‥‥これは、もたない、かも‥‥‥?」
あくびが口を続けてついて出てしまう。このままでは、寝入ってしまって馬ごと荷物を盗まれかねなかった。
そんな時だ。彼女が、動いた。
そして、エレーナのすさまじい眠気がさめてしまうほどのあるものを、彼女は目撃してしまう。
「え!?
‥‥‥どういう、こと‥‥‥?
人が、消えた?」
なんで?
あの子はどこに行ったの??
エレーナの目の前を馬とともに街道から外れて草原に入った彼女は、人目を避けるように草むらに向かっていった。誰かに見られたくないこと――用を足しに行ったのかもしれない。
驚いたのはその直後だ。草むらと数本の雑木の背丈がいかに高いとはいえ‥‥‥
「馬が木の間をくぐったら消えるなんて‥‥‥あるのかしら??」
なにかの魔法でも使った?
前世では魔女なんて呼ばれたこの身だ。
まだ魔力をあやつるには肉体が慣れていないだけ。
もう数か月経過すれば以前のように大掛かりな攻撃魔法や転移魔法が使えるようになる。
そのエレーナの感覚に、魔法が使われた余波やその痕跡は何も感じられなかった。
「凄いわ、どんな仕組みで消えたんだろ?」
ついつい興味を持ってしまうのが自分の悪い癖だ。
それは理解していたが、もしかしてあそこには、何かの魔道具が設置されている可能性もいなめない。
あんな目立つ女性なのだ。
このアーハンルド王国でなにがしかの魔法を使う要職についている可能性は高い。
そう思うと自然に彼女のあとを追いかけている自分がいることにエレーナは気づいていた。
茂みをかきわけ、あの女性が進んで行った方向にある木々の周囲を確認してみる。
しかし、目当てのものは見つからなかった。
「‥‥‥ない。なんで?
なんで、なんの魔力反応もないの‥‥‥!?」
理解ができない、あり得ないとエレーナは小さく叫んでいた。
でも待ってそういえばあの女性。どこかで見覚えがあるような‥‥‥?
記憶というものは都合のいいものだ。いまは本当にそう感じていた。
あの時――自分が勇者テダーの一撃に敗れ去り魔力を封じる拘束を受けた時だ。
五感を封じる魔法をかけられて、その視界が閉じかけた時。
確かに‥‥‥彼女はいた。妙な能力を使う女性だった。
光と闇を自在にあやつり、雷撃や風の猛威をあっさりと封じられた記憶まで思いだしてしまった。
「そうか、あの子は退魔師。
世界と世界のはざまにある虚空を自在にあやつる、伝説の‥‥‥。
それなら、魔法を使わなくてもどうにでも移動できるわけ、ね」
驚きと同時に、道がまた一つ見えた気がした。
彼女を探そう。そこに勇者テダーのパーティがいるはずだから、と。
エレーナはうなづくと、また列に並ぶために街道に戻ったのだった。
いつになったらあの検問、とおしてくれるのかしら?」
問題はこの外見だった。
始まりはいつも十二歳の秋の頃。
終わりはいつも十六歳の夏の頃。
外見は幼い少女なのに、中身は数十年?
それとも百年は経過した精神年齢かもしれない。
逆行転生なんて‥‥‥記憶を保持したままなんども繰り返すんだから、本当にタチが悪い。
「ま、この外見じゃどう頑張っても、あのルバーブには‥‥‥載せてもらえないわよね」
そうぼやいていると、少し前にいるどうにも目立つ女性が目に入った。
エレーナも真紅の髪でそれはそれで生えるのだが、彼女の褐色の肌に銀色の髪、赤い瞳。
頭に巻いた黒い羅紗の布が印象的。東方の背の高い少女が馬を連れてそこに立っていた。
「綺麗な人‥‥‥あんな美しい女性、故郷の晩餐会でもお目にかかったことなかったわ
わたしはいつも、戦場でいて、手なんて剣をふりまわしていたから節くれだっていたものね」
今回の人生こそは、かならずやり遂げてやる。
でもその前にこの大門をくぐらなきゃ、ね。
列が進むのをのんびりと待つことにしよう。
馬が水を飲みたがればそばにある運河に連れて行けばいいし、列を少し離れたところで今日中には市内に入門できるだろう。
そう思いくつろいでいたものの、列は遅々として進まず、天には太陽がたかく昇ってきた。
「これ‥‥‥いつになるんだろ?」
明日になるのは嫌だなあ。そこまで時間はかからないと思うけれど、でも‥‥‥?
運河を下ってきた客船から降りてきた乗客は専用の降り口から門内へと案内されていく。あれはなんで? あ、そうか。船内で国境の検閲を終えて来たんだ。
「船にすれば良かったかなあ‥‥‥」
なるべく安く旅費を抑えるようにしてきたから、こればかりは仕方がない。あの夜以来、天使は毎夜のように現れてはエレーナに神託です、母国に戻りなさい、真紅の幻影団の設立が先です、とばかり告げてくる。
神様たちはどうにでも、聖女と魔王を戦わせたいようだった。
最近ではめんどくさいから、仮眠を多くとるようにして、天使に出会わないようにしてきたのが裏目に出てしまった。
襲い掛かる睡魔に耐えきれなくなってきたのだ。
いかに精神年齢が高くても、肉体年齢はまだ幼い十二歳。
身体はそのままなのだから。
「しまった‥‥‥これは、もたない、かも‥‥‥?」
あくびが口を続けてついて出てしまう。このままでは、寝入ってしまって馬ごと荷物を盗まれかねなかった。
そんな時だ。彼女が、動いた。
そして、エレーナのすさまじい眠気がさめてしまうほどのあるものを、彼女は目撃してしまう。
「え!?
‥‥‥どういう、こと‥‥‥?
人が、消えた?」
なんで?
あの子はどこに行ったの??
エレーナの目の前を馬とともに街道から外れて草原に入った彼女は、人目を避けるように草むらに向かっていった。誰かに見られたくないこと――用を足しに行ったのかもしれない。
驚いたのはその直後だ。草むらと数本の雑木の背丈がいかに高いとはいえ‥‥‥
「馬が木の間をくぐったら消えるなんて‥‥‥あるのかしら??」
なにかの魔法でも使った?
前世では魔女なんて呼ばれたこの身だ。
まだ魔力をあやつるには肉体が慣れていないだけ。
もう数か月経過すれば以前のように大掛かりな攻撃魔法や転移魔法が使えるようになる。
そのエレーナの感覚に、魔法が使われた余波やその痕跡は何も感じられなかった。
「凄いわ、どんな仕組みで消えたんだろ?」
ついつい興味を持ってしまうのが自分の悪い癖だ。
それは理解していたが、もしかしてあそこには、何かの魔道具が設置されている可能性もいなめない。
あんな目立つ女性なのだ。
このアーハンルド王国でなにがしかの魔法を使う要職についている可能性は高い。
そう思うと自然に彼女のあとを追いかけている自分がいることにエレーナは気づいていた。
茂みをかきわけ、あの女性が進んで行った方向にある木々の周囲を確認してみる。
しかし、目当てのものは見つからなかった。
「‥‥‥ない。なんで?
なんで、なんの魔力反応もないの‥‥‥!?」
理解ができない、あり得ないとエレーナは小さく叫んでいた。
でも待ってそういえばあの女性。どこかで見覚えがあるような‥‥‥?
記憶というものは都合のいいものだ。いまは本当にそう感じていた。
あの時――自分が勇者テダーの一撃に敗れ去り魔力を封じる拘束を受けた時だ。
五感を封じる魔法をかけられて、その視界が閉じかけた時。
確かに‥‥‥彼女はいた。妙な能力を使う女性だった。
光と闇を自在にあやつり、雷撃や風の猛威をあっさりと封じられた記憶まで思いだしてしまった。
「そうか、あの子は退魔師。
世界と世界のはざまにある虚空を自在にあやつる、伝説の‥‥‥。
それなら、魔法を使わなくてもどうにでも移動できるわけ、ね」
驚きと同時に、道がまた一つ見えた気がした。
彼女を探そう。そこに勇者テダーのパーティがいるはずだから、と。
エレーナはうなづくと、また列に並ぶために街道に戻ったのだった。
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