漆黒の霊帝~魔王に家族を殺された死霊術師、魔界の統治者になる~

星ふくろう

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序章 死霊術師、追放される

「無能」な死霊術師

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 晴天の霹靂というものは、意外と、そしてあっさりとしたものだ。
 さくさくと噛み千切れるようなフィッシュフライのような噛みごたえのように、現実を切り分けていく。
 あいにくとこのフィッシュフライ、もとい、指示は何も美味しくなかったが‥‥‥

「ねえ、お父様? 私、聖女になりましたの」

 そう能天気な声がしたのは昼前のことだ。
 国王陛下の座する玉座の間で、勇者やその仲間たちが今後の魔族との関係について、国の重役も交えた中で語っていたときに、背後から聞こえてきた。

「おおっ、ミリアか! そうか、認定の儀式は滞りなく済んだようだな? ご苦労だった」
「お父様‥‥‥。娘の快挙をその程度の言葉で済まされるのですか??」

 国王がかけたねぎらいの言葉だけでは不満だと、第二王女は顔を曇らせる。
 どうやらもっと派手なリアクションを期待していたらしい。
 だが、国王の反応は淡々としたものだった。
 いまは――彼女のその成果は素晴らしいものだったけれど、それ以上の重大な会議の真っただ中だったからだ。

「王女ミリアよ。そなたが風の女神アミュエラの聖女になったことは王国にとって尊き成果だ。しかしな、いまはそれを諸手をあげて喜ぶには場所がよくない。国あっての王、民あっての聖女だ。控えなさい」
「そんなっ!? わたし、六年も頑張ったのですよ、お父様? もっと褒めていただいてもいいと思います!」
「ミリア‥‥‥。聞き分けなさい。もう、国民を導く聖女なのだよ、お前は?」

 戒める国王の言葉も、この尊大な王女の心には届かない。
 いや、幼い。
 もしくは世間知らず。そして――その心の中には差別意識が渦巻いているに違いない。
 それが、聖女ミリアに対する、アーチャーの第一印象だった。

「‥‥‥自分が特別だと思いこんでこじらせたまま、聖女になったお嬢様か。これから王国も大変だな?」 
「おいおい、アーチャー。そんな嫌味を言ってやるなよ? とても可愛らしい王女様じゃないか。むさくるしい会議の場に、一風の涼風が吹き込んだようだよ」
「ライル?……正気か? 勇者様はどこまでも心が広いな、おい」
「別に? ただ、彼女は美しいよ?」

 まじかよ、この色好きな勇者め。
 年長で身長が高いライルを少し見上げるようにして、アーチャーは呆れていた。
 彼の脳裏には、いつも女性のことばかりが詰まっている。
 そう思いながら。

「まあ、確かに。高嶺の花って感じはするけどな。だが、王の御前だぞ?」
「無礼だって言いたいのか?僕がじゃなく、彼女が?」
「そりゃそうだろ。ここは会議の場だぞ、王女様の遊びの場所じゃない。あの魔王の再来をどうするかって話をしてるのに‥‥‥いきなり飛び込んできてあれとはな――」
「まあまあ、いいじゃないか。彼女は王女なんだし少しくらいのわがままは許されてもいいはずだよ。それに聖女になったんだろ? それってつまり――」

 勇者ライルはこの国で最高位の冒険者だ。
 その眼は神に準じていて、人には見えないものを見い出すことができる。
 少なくとも、彼は聖女になったミリア王女に好意的な視線を向けていた。

「あー‥‥‥なにか? 聖女様はそれなりに使える、と? まあ、そりゃそうだろうが――」
「そうだよ。隣国の英雄ルークや僕、程度には‥‥‥強いかな?」
「そりゃまた、強い聖女様だな? だけど実戦経験を積めば、の話だろ。いまはまだ、単なるつぼみのままだ。いきなりの戦力にはならんだろ?」

 この質問には勇者ライルも困った顔をしてしまう。
 さすがの彼も、ここ三年ほどかけて育ってきた自分たちパーティーにいきなり彼女が参加すると言えば戸惑い、即答はできないはずだった。
 でもね、アーチャー? と、ライルは言葉を続ける。

「やっぱりさ、アーチャー‥‥‥君のような死霊術師では、ね? あまり、使い物にならないね」
「‥‥‥はっきりと言うもんだな」
「いや、治癒魔法や神聖魔法はさ。ほら、神官がいるし。攻撃や防御にかんしても、タンクもいれば魔女もいるわけでさ。君のように、アンデッドを使役するその過程で開発された治癒系統の魔法では‥‥‥」
「役に立たない、と?」
「まあ、そうだね。実を言うと、君の魔法? 魔法と言えるのかな? 死霊術は反魂と蘇生で成立する、だっけ。どれも補助の魔道具なしじゃ、君、使えないだろ?」

 痛いところをついてきやがる、とアーチャーは心でこぼした。
 俺だってそうしたくてしてるわけじゃない、理由があるからそうしてるんだ――女神様の神託がなければお前なんか足元にも及ばないんだぞ、ライル?
 その真実は言えないがな、女神様から口止めされているから。
 このパーティーの創設時から参加している、死霊術師アーチャー・イディスはためいきを漏らした。

 周囲を見渡すと、同じパーティーメンバーが揃いも揃って全員が頷いていた。
 アーチャーは使えないからねー、などと好き勝手な意見を述べている。
 王前だから大きな声には出さないが視線は誰もがそう物語っていた。

「お前ら‥‥‥なんだよその目は??」
「実は、アーチャー。話があるんだ。あの御方もいらしたから丁度いいと思う。快く引き受けて欲しい」
「話? 王の御前だぞ、失礼だろう、ライル‥‥‥?? いまはそんな議題を出していい時じゃない」
「いや、まあ‥‥‥。出来るなら、何も聞かず黙ってここを出て行った方がいいよ。それが君のためだ、アーチャー」
「ライル‥‥‥??」

 アーチャーはいきなり切り出された話に、なんだよそれ、と。
 ‥‥‥信じられないものを見たように首を振って受けとめれずにいた。
 こいつらは三年も苦楽を共にしてきた俺をクビにする気なのか? と、そう思いながら。

 
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