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序章 死霊術師、追放される
「恩知らず」の聖女様
しおりを挟むそんな、二人がひそひそと会話を交わす間にも、王と聖女の会話は交わされていた。
いまは先代の国王時代にこの王都を襲来した、魔王の再来に対してどう対処するか。
そんな議題がされる場だというのに。
聖女は国王が自分に対して口にした言葉ヘの不満を立て続けに叫んでいた。
「わたしが数年がかりで風の女神アミュエラ様の神殿に赴き、修行をして聖女になれたというのに‥‥‥そんな出迎えしかできないなんて、あまりにもひどいではないですか、お父様? 本日までという期限にきちんと間に合わせたんですよ!? もっとかける言葉があるんじゃないですか?!」
「ミリア。いい加減にしなさい。お前の成果は認めよう。よくぞ務めを果たした。それでこそ、王族というものだよ、我が娘よ。しかしな、王族であればその言葉と態度を改めなさい。まったく‥‥‥神殿で何を学んできたのだ、お前は!?」
ああ、その通りですよ、国王陛下。
こんな世間知らずの小娘、もとい‥‥‥神殿でヌクヌクと育っただけの第二王女。
聖女になるのは、王族の義務じゃないか。
あの時、あんたたちがもっと魔族に対抗する手段を講じていれば‥‥‥
アーチャーは国王の言葉を肯定していた。
ついでに、彼ら王族に対する怒りも彼の胸中には渦巻いていた。
(先代の国王が魔王に喧嘩を売ったから――俺の恩人は死んだんだ。)
そう、声高に叫びたいのを我慢して、勇者パーティーに参加しろという神託にしたがって三年。
これまでの数十回に及ぶ、魔族との抗争、さまざまなダンジョンや隣国との紛争。
思想の違う相手との戦争に至るまで。
アーチャーは裏方として外交から雑務に至るまですべてをこなしてパーティーを支えてきた。
確かに、俺がいなくてもこの勇者パーティーは成立するだろう。
だが、いなくなれがこいつらはまともな戦闘も出来なくなる。
その事実はアーチャーともう一人の仲間しか理解出来ていないのが現実だった。
やっぱり、受けれないよと勇者からの提案を拒否しようと考えた時。
下座から聞こえてくる聖女の文句にその思考を妨げられて、アーチャーはふと我に返っていた。
「いい加減にして下さい、お父様。魔族に対抗する重要な会議だからというから、こちらに急いできたのです。王族が聖女などの神官の代わりをしなければならないなんて、本当に嘆かわしい‥‥‥。それもこれも、おじい様がまともな武力も揃えずに、あの魔王に逆らったから王国が危機にあるのではないですか!?」
「ミリア!! それが王族の口にする言葉か!? 先王の潔い判断を否定するなどと、今すぐに王族から追放されても仕方ないほどの批判だと理解していないのか? 家臣のまえで情けない‥‥‥」
「あら、そんなことはありませんわよ、お父様。為政者というもの、その判断を後世に批判される覚悟も持たなければなりません。そして‥‥‥」
「なんだ? 何が言いたい? お前の子供のような意見など、私は求めてはおらんぞ」
もう下がるがいい、気分が悪い。
場の雰囲気も壊しておるではないか。
そう言い、国王は下がれ、と聖女に対して片手を振っていた。
だが、ミリアはその指図をふっ、と愚かそうに鼻先で笑い飛ばしてしまう。
国王とその家臣たちが怒りの声をあげようとした時だ。
王女兼聖女は勝ち誇ったかのような口調で語りだした。
「お父様、いいえ――国王陛下。風の女神アミュエラ様からの神託がございます。今後の王国に対しての神からのご指示ですわ」
「神託で指示だと‥‥‥? 神々が現世の問題を論ずるというのか? それは――禁じられた行為だ」
「禁じられた? それは誰によってですか? 国王陛下? 大神官? それとも‥‥‥ッ??」
「ミリア、いい加減にしなさい。はるかなる太古の昔。多くの種族がまだ混沌とした中で生きていた頃のことだ。全ての種族の自由をかけて戦った聖女がいた。そして、その御方は最高位の女神になられた。いいか、ミリア。その女神がさまざまな世界の最高神たちと交わした約束がある。それが、神の位にある存在は現世に干渉してはならないというものだ。代わりとして、勇者や聖女が選ばれて民衆を導くのだ。だが、そこに神託による現世への指図などの神の意志は存在してはならない。そう、定められておる」
はあ、と呆れたように頭を振る王女は古臭いものを、とうめくように呟いていた。
もうその女神の影響はどこにも及ばないのですよ、国王陛下とも付け加えて。
「最高神カイネ・チェネブ様のことですね、お父様。どこから学ばれたのですか? 地下世界の青の魔人からですか? 先代国王陛下が魔王にこの王都を襲われた際に、彼が地下世界から支援し、魔王たちが去ったことは事実でしょう。でも‥‥‥我が主、アミュエラ様をはじめとした神々は言われております。最高神カイネはもう、この世界にはいない、と」
「ああ‥‥‥そんなことはすでに知っている。だがな、王女ミリア。この国はその最高神カイネの部下である青の魔人によって救われたのも事実だ。それを恩をいま、反故にするというのか? お前はこの国の王族ではないか。彼の――青の魔人様の助力が無ければ、お前は産まれて来れなかった」
「関係ありませんわ、お父様。人の生まれまで、神は関与できません。同時に、死にも関与しないのです。つまり、神託がどうあれ、選ぶのは我々……そういうお話ですわ」
勝ち誇ったように言うその様に、王は悲しみに満ちた声をあげた。
彼が信じる神、最高神カイネに対する謝罪と、恩人を罵るような娘に対する怒りの思いだった。
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