漆黒の霊帝~魔王に家族を殺された死霊術師、魔界の統治者になる~

星ふくろう

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第一章 棄てられた死霊術師

「ギルド」と死霊術師

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「なら、どうすれば満足だったんだ!? 俺が謝罪でもして、床に頭でもこすりつけて居残りを願えば満足だったのか?」
「あなたねえ、いつまでそんな子供のようなこと言い続けてるの? あの場で自分から退散したのはあなたでしょ?」
「だからなんだって言うんだよ。俺はきちんとサポートしてきたぞ!? そのおかげで、あいつらは死ななかった!
 誰ひとりとして欠けることなく帰還できただろ? そりゃ、俺一人の功績なんて言いはしない。シェニアとの共同作業だ。それでも十分なほどだろう? まだ俺に我慢してい続けろと?」
「誰もそんなことは言ってないわ。あなたの個人的な見解なんて関係ない。これは公人としての責任を問うてるのよ? 理解してないの?」
 
 あの場にいなかったくせに、後からなにを言いだす、このハイエルフは‥‥‥
 呆れと怒りと、それでいて、どこかに申し訳なさ。
 ついでに恥ずかしさもあれば、凄まじいむなしさも感じてしまう。
 認められないとは、こんなにも悲しくて寒い、寂しい感覚を引き起こすんだな。

「なあ、イライア。期待をかけてもらおうが、何かを背負っていようが、公人だろうが、だ。パーティのボスである勇者が決めて、国王に依頼し、王が決めたんだ。俺に何ができる? あんたなら、どうにかできたと言うなら、過去に戻ってそう言って来いよ。外野はあとからなんとでも言えるんだからな!」
「呆れた‥‥‥」

 イライアはやってらんないわ、そう言うと抱えていた書類の束をアーチャーを通した部屋の中にあった机の上に叩きつけた。彼が腰かけ、片肘をついていたそのテーブルは、叩かれた勢いでいささか振動する。
 その行為よりも、発した音の大きさにアーチャーは驚いていた。

「これ、なんだかわかる?」
「いいや、まったく‥‥‥」
「なら説明したげる」
「要らん、それより雷光の‥‥‥ギルマスを出せよ?」
「バクスター様は王宮よ。後始末に奔走されてるわ‥‥‥バカ」
「バカはないだろ? いくらギルドの幹部だからって、物には言い方ってもんがある」
「まともな、ギルドメンバーに対してなら――そうしてるわ。これ、なんだか知って欲しいの。あなたの、始末書と被害報告とその損害賠償の請求書よ!」

 なんだそれ?
 俺の始末書?
 クレームでもあったか?
 被害報告?
 誰が何を出した?
 まるっきり、身に覚えのないことだった。

「説明したあげるから、よく聞いて。ギルドメンバーの中であのパーティに参加したうち、最年少はあなただけ…でも! 宮廷死霊術師の役職を持つのもあなただけなのよ。意味が分かる?」
「それはそうだろう? 俺以外にも、ニーニャなら宮廷鑑定師、クラレなら宮廷魔導師なんて役職を貰ってたはずだ。シェニアは弓使いだから、宮廷‥‥‥なんだか忘れたが」
「なんでもいいわよ、これは全部。その宮廷死霊術師様が報告なされた被害報告よ。自分が書いたの忘れたの?」
「あ‥‥‥っ。確かにそれは俺が書いたが、でもあれだろう?
 パーティに依頼がきてその成果報告としてあげた書類ばかりじゃないか‥‥‥」
「そう、でもね。うちのギルドには、あなたが出したものなの。自分の仲間の何を補助して来たかは知らないけど、その過程ででたクレームだの被害の損失だの。誰が計上して、支払いしたと思ってるの? 私よ、私!」

 もう、滅茶苦茶だ。
 アーチャーには、彼女が自分の仕事を増やされて困ったからその当てつけに文句を言いに来た。
 もしくは、いまが責める絶好のチャンスだ。
 そう思ってやってきたとしか思えない。
 事実、イライアはストレスを発散できたかのようにどこかはつらつとして見えた。
 これでは昨日からサンドバッグのままだ。
 アーチャーにとっても我慢の限界だった。

「ああ、そうか!? ならどうした? それがあんたの仕事だろうが。俺があいつらを補助しなけりゃこの百倍は損害報告書が上がったろうよ。感謝して欲しいもんだな、オバサン!!」
「おばっ!? まだ若いわよ!」
「‥‥‥シェニアよりは年増だ。エルフでも見慣れたら、どこか劣化しているかよく分かるもんだな?」
「ぶっ叩かれたいの!? まだあんたみたいな若造に負ける気はしないわよ? 王都の半分、森林で埋め尽くされたい?」
「‥‥‥ハイエルフがそれだけの能力があるなら、どうしてあの時に撃退しなかった? あの魔王たちを。バクスターのじーさんもそうだが、総合ギルドもフォンテーヌ教会も動かなかった。結局、俺の恩人は見殺しにされたんだがな??」
「王宮の天空に居座られたんじゃ、どうしようもないわよ。あそこは禁忌。王国の最高機関。その外‥‥‥この外壁のうえにいた雑魚は全部始末したわ。地下世界につなぎをつけたのもギルマスだっていうのに。恩知らずはどっちよ‥‥‥」

 過去の話じゃ会話にならない。
 平行線はもうこりごりだった。

「はあ‥‥‥、なあ、イライア。その書類、なんでギルドが支払いしたんだ? 勇者一行の経費は王国持ちだろ‥‥‥?」
「補助として同行させた二人についてはギルド経費よ‥‥‥あなたと、シェニア。二人については、うちもちなの。
 だから、宮廷死霊術師様なんて役職も必要だったの――その‥‥‥正式ではないから」
「初耳だな。それじゃまるで、魔女のクラレや盗賊のニーニャは正規の戦力で俺たちはあくまで臨時、そう聞こえて仕方ないぞ?」
「その通りよ。二人には参加当初から爵位だってあるわ」
「――っ嘘、だろ‥‥‥? ならライルやエバンスにもか?」
「あるわよ。エバンスは王国騎士だから知らないけど。ライルは領地だってあるわ。本当に知らないの?」
「知らないよ。そんな情報は全部伏せられてた気がするな。なるほど、あの依頼が来た時の常に書かれていた侯爵様だのなんだのってのは――」
「そうね、ライル宛よ。彼は王国から正式に叙勲されて依頼を受け、あなたたちにそれを降ろす。そういう役割なの」
「‥‥‥で? そのはずが、全部の補填は俺の名前でされていたから俺とシェニアの分だけで済んだはずが、パーティメンバー全員分をギルドが補填していた、と?」

 イライアはそうよ、この間抜け、そう言いまた書類の山を手で叩きつけた。
 貧乏くじばっかりじゃないか‥‥‥アーチャーからはため息しかでなかった。
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