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第一章 棄てられた死霊術師
死霊術師の、「ささやか」な報復 2
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「んー? あとはなんだ? しっかし‥‥‥これは多いよなあ、本当に」
六頭立て馬車四台、荷馬車二台、従者は六十人から編成、半数を騎士で固めるべし?
おかしいだろ、国が出すべきものじゃないのか、これ?
中にある侍女などに至っては最低十人以上とある。
これじゃまるで、広大な領地を有する爵位持ちの領主同士の土地交換みたいだ。
家臣団まで移動するとなるとこの四から五倍は必要になる。
「つまり、現在の領主様はあの土地を捨てるつもりってことか」
軽く調べたところ、地下世界のタイレス辺境国の領主はここ十年で三人も変わっていた。
任期が短いというわけではなく、要衝のはずなのに務まる人材がいないということらしい。
これはその土地が揉め事が多くおさめにくいということだ。
「あからさまな嫌がらせだよな。聖女より悪女だろ? 魔女は‥‥‥魔法使いに失礼か」
そろそろ来てもいい頃なんだが――?
アーチャーは壁に置かれた巨大な置き時計に目をやった。
二度目の総合ギルド。
クエストを戻しに来たわけではない。必要な人員を用意してくれと頼みに来たのだ。
タイレス辺境国国王、もしくは、伯爵として。
「遅かったな? このギルドは上得意を待たせるのが好きらしい」
「あなたねー。あれだけ嫌味言われてさっさと退散しながらまたやって来る神経が信じられないわよ‥‥‥」
イライアは相変わらず眉間にしわを寄せていた。
書類の見過ぎか、高齢期、もしくは視力でも悪いのではないかと疑ってしまうほどにそれは、眉間に深く刻まれていた。
「そんなのあったら男も寄ってこないだろ?」
「大きなお世話よ! セクハラ!」
「そっちが先にパワハラしたんじゃないか。上司としての料簡の狭さを疑うね。まあ、いいや。いけるんだろ?」
「ふんっ。‥‥‥あの程度、揃えれないわけないでしょ。期日に地下の城に行かせればいいのね。もう決めたの?
永住できる人間や亜人を集めるなんて」
「俺は戻るよ、でも地下世界は捨てれないだろ? 役人やそういったところは現地の人間がいる。だが、城の中をしょっちゅう人間が変わっていたんじゃな。安定はしないその為の大金貨だ」
「どこからあんな大金用意したのよ? たった一日で‥‥‥」
「やりようはいくらでもあるのさ。 それに――勇者様のお墨付きだしな?」
これねえ、とイライアは手にした書類を斜めから上からとすがして見ていた。
どう見ても、本物のサインだとは思えない。それに、昨日ここに来た時に、ライルはそんな話はしていなかった。
真に受けるのはどうにも、恐ろしいものがあるのだ。
「本物?」
「偽物でも関係ないよ。偽造じゃない。それに、そんなことをされるあいつの管理が悪い。ギルドにもどこにも非は無いよ。あるとしたら俺にだけど、それもしないだろうな」
「どうしてそう言えるの?」
「侯爵様はプライドだけが高い。能力の割に、思慮も浅い。だからあんなことをして平気なんだ」
「王の御前でってこと? でもあれは――」
ライルだけじゃないよ、とアーチャーは指先を立てる。
王女様もだ、と。
「一番恥をかいたのは王様だろうな。聖女と勇者様に良いようにされたんだ。この件に関してそうそう、大きな声は上がらないだろうな。ライルにしてもかつての追い出した仲間に、騙されたんだ。表だって好き勝手はできないだろ?」
「いいのね? ギルドは総知らんを決め込むわよ? この依頼も、あなたじゃなく代理人を通じてって話にするけど。まあ、こちらとしては溜飲が下がるわ。でもあなたがこれから大変ね」
「気にしなくていいよ。どうにでもなる。それより、頼みがあるんだ」
「頼み? シェニアにはまだ渡してないわよ?」
いや、それじゃないよ、とアーチャーは首を振る。
別口だと言い、彼は大金貨を十枚ほど追加してテーブルに置いて見せた。
「何をしろと‥‥‥?」
「魔王だ」
「魔王? どの魔王よ?」
「十数年前のあの魔王、さ。どこの誰か程度は掴んでるだろ?」
しかし、イライアは残念だけどと首を横に振る。
世界最大の機関の一つである総合ギルドですらもつかめてないなんて。
アーチャーにはいささか、予想外だった。
「おい、冗談だろ? ならなにか? 二十四柱のどの魔王かすらも手掛かりがないと?」
「先日の御前会議でも、周知されたのは魔王から新たな要求があったことだけよ。地上と地下を含めて眠っていたり行方不明だったり。伝説にしか名前がない魔王だっている。洗い様がないわ」
「その為の地下世界の領主だろうが‥‥‥」
「うちだけに文句言わないでくれる?王国に言いなさいよ、王国に」
そう言いながらイライアはそそくさとテーブルの大金貨を回収する。
その手の速さといったら、盗賊のニーニャよりも素早かったほどだ。
「回収したなら受けてもらうぞ?」
「内容によるかなー? うちの子たちに危険な真似はさせたくないわ」
「ま、いるかどうかも謎だしな。その魔王討伐に俺の義妹が参加するんだ――」
「護れ、と? そういうこと? 裏から手を回してどうにかすればいいの?」
「任せる。ただ、死なせないように頼む。 生きて無事に帰還させてくれ」
「無茶苦茶ねー‥‥‥呆れた。自分で守ればいいじゃないの」
「間に合えばな? その前に公的に認めさせるのが先だ。どこにいるのかもわからない相手に手を尽くしてる場合じゃない」
「ねえ‥‥‥」
「なんだよ?」
こんなことに力注ぐならさっさとライルたちを倒して気を晴らせばいいのに。
そう言われると、アーチャーはため息をつくしかなかった。
「決して復讐心だけでやってないからな?」
「どうだか‥‥‥?」
イライアははい、これ自分で渡しなさい。
そう言い、アーチャーに宝石を換金した代わりに大金貨数枚を握らせるのだった。
六頭立て馬車四台、荷馬車二台、従者は六十人から編成、半数を騎士で固めるべし?
おかしいだろ、国が出すべきものじゃないのか、これ?
中にある侍女などに至っては最低十人以上とある。
これじゃまるで、広大な領地を有する爵位持ちの領主同士の土地交換みたいだ。
家臣団まで移動するとなるとこの四から五倍は必要になる。
「つまり、現在の領主様はあの土地を捨てるつもりってことか」
軽く調べたところ、地下世界のタイレス辺境国の領主はここ十年で三人も変わっていた。
任期が短いというわけではなく、要衝のはずなのに務まる人材がいないということらしい。
これはその土地が揉め事が多くおさめにくいということだ。
「あからさまな嫌がらせだよな。聖女より悪女だろ? 魔女は‥‥‥魔法使いに失礼か」
そろそろ来てもいい頃なんだが――?
アーチャーは壁に置かれた巨大な置き時計に目をやった。
二度目の総合ギルド。
クエストを戻しに来たわけではない。必要な人員を用意してくれと頼みに来たのだ。
タイレス辺境国国王、もしくは、伯爵として。
「遅かったな? このギルドは上得意を待たせるのが好きらしい」
「あなたねー。あれだけ嫌味言われてさっさと退散しながらまたやって来る神経が信じられないわよ‥‥‥」
イライアは相変わらず眉間にしわを寄せていた。
書類の見過ぎか、高齢期、もしくは視力でも悪いのではないかと疑ってしまうほどにそれは、眉間に深く刻まれていた。
「そんなのあったら男も寄ってこないだろ?」
「大きなお世話よ! セクハラ!」
「そっちが先にパワハラしたんじゃないか。上司としての料簡の狭さを疑うね。まあ、いいや。いけるんだろ?」
「ふんっ。‥‥‥あの程度、揃えれないわけないでしょ。期日に地下の城に行かせればいいのね。もう決めたの?
永住できる人間や亜人を集めるなんて」
「俺は戻るよ、でも地下世界は捨てれないだろ? 役人やそういったところは現地の人間がいる。だが、城の中をしょっちゅう人間が変わっていたんじゃな。安定はしないその為の大金貨だ」
「どこからあんな大金用意したのよ? たった一日で‥‥‥」
「やりようはいくらでもあるのさ。 それに――勇者様のお墨付きだしな?」
これねえ、とイライアは手にした書類を斜めから上からとすがして見ていた。
どう見ても、本物のサインだとは思えない。それに、昨日ここに来た時に、ライルはそんな話はしていなかった。
真に受けるのはどうにも、恐ろしいものがあるのだ。
「本物?」
「偽物でも関係ないよ。偽造じゃない。それに、そんなことをされるあいつの管理が悪い。ギルドにもどこにも非は無いよ。あるとしたら俺にだけど、それもしないだろうな」
「どうしてそう言えるの?」
「侯爵様はプライドだけが高い。能力の割に、思慮も浅い。だからあんなことをして平気なんだ」
「王の御前でってこと? でもあれは――」
ライルだけじゃないよ、とアーチャーは指先を立てる。
王女様もだ、と。
「一番恥をかいたのは王様だろうな。聖女と勇者様に良いようにされたんだ。この件に関してそうそう、大きな声は上がらないだろうな。ライルにしてもかつての追い出した仲間に、騙されたんだ。表だって好き勝手はできないだろ?」
「いいのね? ギルドは総知らんを決め込むわよ? この依頼も、あなたじゃなく代理人を通じてって話にするけど。まあ、こちらとしては溜飲が下がるわ。でもあなたがこれから大変ね」
「気にしなくていいよ。どうにでもなる。それより、頼みがあるんだ」
「頼み? シェニアにはまだ渡してないわよ?」
いや、それじゃないよ、とアーチャーは首を振る。
別口だと言い、彼は大金貨を十枚ほど追加してテーブルに置いて見せた。
「何をしろと‥‥‥?」
「魔王だ」
「魔王? どの魔王よ?」
「十数年前のあの魔王、さ。どこの誰か程度は掴んでるだろ?」
しかし、イライアは残念だけどと首を横に振る。
世界最大の機関の一つである総合ギルドですらもつかめてないなんて。
アーチャーにはいささか、予想外だった。
「おい、冗談だろ? ならなにか? 二十四柱のどの魔王かすらも手掛かりがないと?」
「先日の御前会議でも、周知されたのは魔王から新たな要求があったことだけよ。地上と地下を含めて眠っていたり行方不明だったり。伝説にしか名前がない魔王だっている。洗い様がないわ」
「その為の地下世界の領主だろうが‥‥‥」
「うちだけに文句言わないでくれる?王国に言いなさいよ、王国に」
そう言いながらイライアはそそくさとテーブルの大金貨を回収する。
その手の速さといったら、盗賊のニーニャよりも素早かったほどだ。
「回収したなら受けてもらうぞ?」
「内容によるかなー? うちの子たちに危険な真似はさせたくないわ」
「ま、いるかどうかも謎だしな。その魔王討伐に俺の義妹が参加するんだ――」
「護れ、と? そういうこと? 裏から手を回してどうにかすればいいの?」
「任せる。ただ、死なせないように頼む。 生きて無事に帰還させてくれ」
「無茶苦茶ねー‥‥‥呆れた。自分で守ればいいじゃないの」
「間に合えばな? その前に公的に認めさせるのが先だ。どこにいるのかもわからない相手に手を尽くしてる場合じゃない」
「ねえ‥‥‥」
「なんだよ?」
こんなことに力注ぐならさっさとライルたちを倒して気を晴らせばいいのに。
そう言われると、アーチャーはため息をつくしかなかった。
「決して復讐心だけでやってないからな?」
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