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第二章 ダンジョンの死霊術師
死霊術師、大迷宮へ行く
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「おい、これは間違いないのか?」
いやに図太い声が上から降ってきた。
アーチャーの身長のゆうに二倍はありそうなそこに、彼の座る台がありそこからのものだった。
「なにがどう、間違いないのかを知りたいのですが、お役人様?」
「生意気な奴だな。いいか? この黒の位階というのは、間違いないのかと確認しているんだ。最下位の死霊術師、なのかってな。クソガキ」
失礼な奴はどっちだよ?
巨人族のデクの棒。
アーチャーは心の中で毒づきながら静かにうなづいた。
相手から見れば、その役人のあまりもの威容に怯えたかのように見えるように。
「ふん‥‥‥まあ、お前みたいな若造がこれ以上に上がれる訳ないからな。しかし、新しいタイレス辺境国国王の先触れとして降りるのか」
「何か問題でも?」
彼の悩むような仕草に、アーチャーは不思議そうにたずねていた。
その仕草があまりにも悩まし気に見えたからだ。
「いや、なんでもない。まあ――あまり、地上の常識を振りかざさんことだ。それは暴力にもなるからな‥‥‥」
「‥‥‥? はあ、わかりました」
「ああ、行っていいぞ。ほら、書類だ。気を付けてな」
「ありがとうございます。お役人様」
最初のあの威丈高な彼はどこにいったのか。
妙な不安は杞憂に過ぎなかったが、三か所ある通関の窓口のどれもでアーチャーは同じ視線を向けられていた。これは偶然じゃないな? なら、その根底にあるのはなんだ?
どうしてあいつらは――憐みのような悲しみのような同情のような視線を向けてくるんだろう?
その答えはおおよその見当はついていたが、確信に至ったのは地下世界に降りるための巨大なコンテナのようなものに乗り込んだ後だった。
「高いな。二十エダはあるか?(一エダは一メートル換算)幅は――もう少し広い。なるほど、確かに『箱』だ。なあ、これは何個あるんだい?」
「うん? ああ、これな。十二個で一連だ」
「一連? 数連あるのか?」
「いやーどうかな? 上下に連なっているのかもしれないし、そうでないのかもしれない。なにせ、誰かが管理しているわけでもないし、もしかしたらしているのかもしれないけど‥‥‥この壁と壁の隙間は指先程度にしかないしなあ。誰もわからないんだ。ま、そういうことらしい」
「へえ‥‥‥その割に、昇降の操作盤の扱いは――伝わっているのか?」
入り口と出口は全部で二十四。
確かに十二個だ。
入り口が開くとその内側にある箱との合間には、指一本もないほどの隙間しか見えない。
足元から吹き上げてくる風が――魔界と呼ばれる土地の大気を含んでいてそれが人間の肌には少しばかり痛かった。
冷たいわけでも、温かいわけでもない。
だが、どこかチリチリと肌を焼くような感触がある。
「瘴気、か? こんな希薄なものでも、これだけの威力があるなんてな」
かつての学びの場、賢者の都ハグーンで体験できた瘴気には及ばないが、それでも老人や子供が触れればめまいを起こすかもしれない。
なるほど、人間にとって、いや地上の生物にとっての毒の世界。
それが――魔界。
「これか? 伝わっているというか、これだけは扱い方があるんだよ。書籍にもなってるからな」
「そうなのか。見たところ三千以上の階層があるようだけど‥‥‥? そんなに深いのかい?」
「深い。だけど、一番下を選べばそうは時間もかからんよ」
「それは――どれくらい?」
壁の操作盤はボタン式で三千以上の項目を選べるようになっている。
専門の係員が操作するのだろう、その横にはイスが設置されていた。
足元を固定されているわけでもないし、安っぽいそれはすこしでも衝撃が加われば倒れてしまいそうに見える。つまり、この移動式昇降機はさほど揺れないということだと見て取れた。
「そうだな――まあ、ものの十数分だ」
「これだけの階層を降りるのに?
その時にめまいとかいろいろな副作用は‥‥‥?」
「いいや、全くないな。むしろ地上にいるときよりも体が軽くなったように感じるよ。不思議なもんだな」
「それはぜひ、体験してみたいな」
「それよりももっといいものが見れるさ。もうすぐだな」
「いいもの?」
「見ればわかるさ。そう、見ればな」
そんなに目を見張るなにかがあるのか?
アーチャーは彼の自信満々な素振りに冗談だろ、そう言いそうになった。
この世の多くの『奇妙』、もしくは『異様』、なものはすでに見つくしてきたと思っていたからだ。
しかし、その数分後。
これは確かにいいものだ、とアーチャーは納得してしまっていた。
扉が閉まったあと、数秒すると壁の景色がいきなり変わった。
あちら側が透けて見えたのだ。
次に順番を待つ連中、その向こうにある検閲の作業台に至るまでさっきまで見ていた。
存在していた場所だった。
そして操作盤のスイッチが押されると、最初だけは軽く揺れた感覚がある。その後はただ立ち尽くしているだけのように感じるのに‥‥‥はるかな眼下に迫るその光景は圧巻だった。
アーチャーはその様にあっけにとられ、いつの間にか恐怖を感じていた。
そこははるかなる地上の高山や雲などを超越したあの天空大陸ハグーンの一部から見下ろせた地上世界と同じ光景が広がっていたのだから。
いやに図太い声が上から降ってきた。
アーチャーの身長のゆうに二倍はありそうなそこに、彼の座る台がありそこからのものだった。
「なにがどう、間違いないのかを知りたいのですが、お役人様?」
「生意気な奴だな。いいか? この黒の位階というのは、間違いないのかと確認しているんだ。最下位の死霊術師、なのかってな。クソガキ」
失礼な奴はどっちだよ?
巨人族のデクの棒。
アーチャーは心の中で毒づきながら静かにうなづいた。
相手から見れば、その役人のあまりもの威容に怯えたかのように見えるように。
「ふん‥‥‥まあ、お前みたいな若造がこれ以上に上がれる訳ないからな。しかし、新しいタイレス辺境国国王の先触れとして降りるのか」
「何か問題でも?」
彼の悩むような仕草に、アーチャーは不思議そうにたずねていた。
その仕草があまりにも悩まし気に見えたからだ。
「いや、なんでもない。まあ――あまり、地上の常識を振りかざさんことだ。それは暴力にもなるからな‥‥‥」
「‥‥‥? はあ、わかりました」
「ああ、行っていいぞ。ほら、書類だ。気を付けてな」
「ありがとうございます。お役人様」
最初のあの威丈高な彼はどこにいったのか。
妙な不安は杞憂に過ぎなかったが、三か所ある通関の窓口のどれもでアーチャーは同じ視線を向けられていた。これは偶然じゃないな? なら、その根底にあるのはなんだ?
どうしてあいつらは――憐みのような悲しみのような同情のような視線を向けてくるんだろう?
その答えはおおよその見当はついていたが、確信に至ったのは地下世界に降りるための巨大なコンテナのようなものに乗り込んだ後だった。
「高いな。二十エダはあるか?(一エダは一メートル換算)幅は――もう少し広い。なるほど、確かに『箱』だ。なあ、これは何個あるんだい?」
「うん? ああ、これな。十二個で一連だ」
「一連? 数連あるのか?」
「いやーどうかな? 上下に連なっているのかもしれないし、そうでないのかもしれない。なにせ、誰かが管理しているわけでもないし、もしかしたらしているのかもしれないけど‥‥‥この壁と壁の隙間は指先程度にしかないしなあ。誰もわからないんだ。ま、そういうことらしい」
「へえ‥‥‥その割に、昇降の操作盤の扱いは――伝わっているのか?」
入り口と出口は全部で二十四。
確かに十二個だ。
入り口が開くとその内側にある箱との合間には、指一本もないほどの隙間しか見えない。
足元から吹き上げてくる風が――魔界と呼ばれる土地の大気を含んでいてそれが人間の肌には少しばかり痛かった。
冷たいわけでも、温かいわけでもない。
だが、どこかチリチリと肌を焼くような感触がある。
「瘴気、か? こんな希薄なものでも、これだけの威力があるなんてな」
かつての学びの場、賢者の都ハグーンで体験できた瘴気には及ばないが、それでも老人や子供が触れればめまいを起こすかもしれない。
なるほど、人間にとって、いや地上の生物にとっての毒の世界。
それが――魔界。
「これか? 伝わっているというか、これだけは扱い方があるんだよ。書籍にもなってるからな」
「そうなのか。見たところ三千以上の階層があるようだけど‥‥‥? そんなに深いのかい?」
「深い。だけど、一番下を選べばそうは時間もかからんよ」
「それは――どれくらい?」
壁の操作盤はボタン式で三千以上の項目を選べるようになっている。
専門の係員が操作するのだろう、その横にはイスが設置されていた。
足元を固定されているわけでもないし、安っぽいそれはすこしでも衝撃が加われば倒れてしまいそうに見える。つまり、この移動式昇降機はさほど揺れないということだと見て取れた。
「そうだな――まあ、ものの十数分だ」
「これだけの階層を降りるのに?
その時にめまいとかいろいろな副作用は‥‥‥?」
「いいや、全くないな。むしろ地上にいるときよりも体が軽くなったように感じるよ。不思議なもんだな」
「それはぜひ、体験してみたいな」
「それよりももっといいものが見れるさ。もうすぐだな」
「いいもの?」
「見ればわかるさ。そう、見ればな」
そんなに目を見張るなにかがあるのか?
アーチャーは彼の自信満々な素振りに冗談だろ、そう言いそうになった。
この世の多くの『奇妙』、もしくは『異様』、なものはすでに見つくしてきたと思っていたからだ。
しかし、その数分後。
これは確かにいいものだ、とアーチャーは納得してしまっていた。
扉が閉まったあと、数秒すると壁の景色がいきなり変わった。
あちら側が透けて見えたのだ。
次に順番を待つ連中、その向こうにある検閲の作業台に至るまでさっきまで見ていた。
存在していた場所だった。
そして操作盤のスイッチが押されると、最初だけは軽く揺れた感覚がある。その後はただ立ち尽くしているだけのように感じるのに‥‥‥はるかな眼下に迫るその光景は圧巻だった。
アーチャーはその様にあっけにとられ、いつの間にか恐怖を感じていた。
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