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第四章 魔族と死霊術師
「姫」の疑惑
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つくづく信頼がないのか、それとも信じようとしてくれているのか。
シェナもそれは同じことを思っているようにアーチャーには感じ取れた。
だが、救い出した命の恩人とはいえ、会ってすぐのそれも同族でもない人間の男の話。
それを信じてくれるだろうか?
アーチャーは心に迷いを感じながら、ふうと一息ついていた。
「パラドを出てから三日だ。乗り合いの馬車で、特別席を用意させたから部屋は別室だった。だけどシェナ。逃げようとすればいつでも逃げれたはずだ。それに俺はお前に手をだしていない。噛まれたけどな」
「だから――何??」
目の前のお姫様。
相変わらず尻尾を盛大に膨らませて怒っている。
いや、不機嫌なだけか。
ああ、‥‥‥なるほどな。
アーチャーはこの時、初めて気づいた。
シェナはわがままなんじゃない、もやもやとしたはっきりしないことが嫌いなだけなんだ、と。
なら――試してみるか。
その尻尾に賭けてみよう。
「俺は何度も言うが、奴隷とも都合のいい女とも、物とも思っていない。いままでは、パルド市で偶然にも救ったお姫様を実家に届ける旅の間の護衛。今からはその力を貸して欲しい。俺は地下世界を、いいや‥‥‥魔界を変えたいんだ」
「魔界を? ふうん‥‥‥」
狼姫は岩に腰掛けた死霊術師をしげしげと見おろした。
上から下まで何度も視線を這わせて、頭上の耳をピクピクと交互に動かしてなにかを聞き取ろうとする。
人間のそれと見た目は同じだが、嗅覚は数千倍はあるだろう鼻で何かを嗅ぎ取ろうとし、尻尾はその作業に全神経を集中させているためか、いままでに見たことがないほどにピンッと、天に向かって立っていた。
どうやら、アーチャーの言った言葉に嘘がないかどうかを感じ取ろうとしているらしい。
俺なら魔法でその嘘を見破るのにな。
どうやら狼には狼の判断する基準があるようだった。
逆にいえば彼女がアーチャーをさぐっているとき、アーチャーはシェナを観察することができる。
これはいい機会だと、死霊術師はじっと見つめ返してみた。
蒼い腰まである髪、真っ白と青が混じった立派な上半身ほどもある尾、耳は外側が蒼で内側の毛が銀色。
肌は透けるほどに白く、目は燃えるような緑色。
お姫様と言われたら、それと思えるほどに気品の漂う様はさすがというべきか。
これで噛み癖がなければいい女なんだが‥‥‥二歳年下。
しかし、シェナというその名前は――あまりにも、その姿に似合っていなかった。
「で、何かわかったか?」
「うー‥‥‥恥ずかしい。なんで見つめるの?」
「いや、なんとなく。シェナって名前がきになってな」
「どう‥‥‥いうこと?」
「どうもなにも。シェナは、人間の言葉で赤い花だ。しかし、どこも赤くない。真っ青。緑が少し。それ本当の名前か?」
「あ、それ――は‥‥‥魔法で調べた。の??」
「いいや? 魔法じゃないよ、単にそう思っただけだ。純粋な蒼狼族なんだろ??」
そう問いかけると、シェナはいいえ、と首を振った。
どこか申し訳なさそうに。
「純粋ではないから――売られた。それだけ」
「そっか。そんなこともあるな」
「っ? 聞かないの??」
「聞いて欲しいならそうするが? 誰にも言いたくないことはあるもんだ。俺が言えない話も、その一つだよ。シェナ??」
狼姫は複雑そうな顔をする。
言いたない、聞かれたくないことは誰にもある。
それを自分が語らないまま、アーチャーには言えと迫るのはどこか心苦しいものがあるのかもしれない。
「あなたは嘘を言っていない。それはわかる。でも、良いことも考えていない」
「ほう‥‥‥それはどんなもので、どんな結果が来るんだ?」
「それは分からない。誰にとって悪いことなのか、それ分からない。でも、良いことじゃない」
「それは多分、おれの人生にとって悪いことなんだろうな。まあ、いいか。誰かに話したくなったら言ってもいい」
「どういうこと?」
きょとんとするシェナに、アーチャーは企みを打ち明けてみることにした。
「まず魔界を変えたいって話だ。これを見てくれ」
「何? 地図の――新しい? 金、鉄? 宝石が欲しいの??」
数枚の同じ土地の測量地図。
だが、そこに描かれているのは地下に埋蔵された鉱物資源や、もっともアーチャーが欲しかったものだ。
「その地図はこの大草原のものだ。そう、ロアの土地だな。俺が蒼狼族と手を結びたいのは彼らがこの地下世界、タイレス辺境国のなかで五指に入る人数をほこるのが一つ。もう一つはその鉱石の埋蔵量の豊富さだ。それを掘り起こし、上へと地下世界から地上世界に輸出できれば――このタイレス辺境国は豊かになる。魔族がそれぞれの国から出たがらないのならそれでいいんだ。獣人はこの国の六割の人口を占める。残り一割が人間、三割が魔族。その人間が贅沢をしてるんだ。それをやめさせるには、どうすればいいか分かるだろ?」
「ふうん‥‥‥。悪くないけど、多分、無理。魔族は良い顔をしない。それに、獣人は奴隷であることに慣れてる強いものに従うのが地下世界の約束。それを変えるのは無理。そう思わない??」
「思わない」
「なんで?どうして断言できるの? 誰もそうは思わないのに‥‥‥」
「それは簡単だよ、シェナ。地上世界は争いばかりだ。魔導大国もあれば、竜族の国もある、魔族の国もあるし、勇者や聖女なんてすさまじい能力を持った連中もいる国も多い。でもそんな国々を越えて大きな力を持ったのが三つある。知ってるか?」
「三つもあるの? 知らない。それは何?」
「あくまで国を越えたって範囲の話だ。なにせ、世界の半分は種族関係なく集まっているからなあ。エイジス連邦に‥‥‥それは置いといて。一つは、ラーズ。シェナを助けたあの宣教師の所属する紋様省や教会を統括する組織フォンテーヌ教会だ。世界中のどこにでも、人口十数人の村にだってその支部がある。一つは、総合ギルドだ。地下世界はここだけみたいだけど、上には世界中の大都市にその支部を持つ。もっとも、各国との癒着が激しいからあまりあてには出来ないけどな」
「もう一つ‥‥‥は?? そんなにたくさんの組織があって喧嘩にならないの??」
「なる時もある。だが、おおむねみんな協力してるな。最後は猫耳族の支配する天空だ。グリムガル王国の隣の高山に本拠地を持つ猫耳族は、世界中の空を支配下に置いてる。 飛空艇がどこの都市にでも降り立ち、経済圏を確立してるんだ。猫耳族がいなきゃ、どこの国も行き来に困る。ま、そんな三つの組織が成立してるのは、金があるからだ。金は身分を変える。常識もな?」
不敵に微笑むアーチャーが見せるその地図は、シェナには別の意味で宝物に見えたのだった。
シェナもそれは同じことを思っているようにアーチャーには感じ取れた。
だが、救い出した命の恩人とはいえ、会ってすぐのそれも同族でもない人間の男の話。
それを信じてくれるだろうか?
アーチャーは心に迷いを感じながら、ふうと一息ついていた。
「パラドを出てから三日だ。乗り合いの馬車で、特別席を用意させたから部屋は別室だった。だけどシェナ。逃げようとすればいつでも逃げれたはずだ。それに俺はお前に手をだしていない。噛まれたけどな」
「だから――何??」
目の前のお姫様。
相変わらず尻尾を盛大に膨らませて怒っている。
いや、不機嫌なだけか。
ああ、‥‥‥なるほどな。
アーチャーはこの時、初めて気づいた。
シェナはわがままなんじゃない、もやもやとしたはっきりしないことが嫌いなだけなんだ、と。
なら――試してみるか。
その尻尾に賭けてみよう。
「俺は何度も言うが、奴隷とも都合のいい女とも、物とも思っていない。いままでは、パルド市で偶然にも救ったお姫様を実家に届ける旅の間の護衛。今からはその力を貸して欲しい。俺は地下世界を、いいや‥‥‥魔界を変えたいんだ」
「魔界を? ふうん‥‥‥」
狼姫は岩に腰掛けた死霊術師をしげしげと見おろした。
上から下まで何度も視線を這わせて、頭上の耳をピクピクと交互に動かしてなにかを聞き取ろうとする。
人間のそれと見た目は同じだが、嗅覚は数千倍はあるだろう鼻で何かを嗅ぎ取ろうとし、尻尾はその作業に全神経を集中させているためか、いままでに見たことがないほどにピンッと、天に向かって立っていた。
どうやら、アーチャーの言った言葉に嘘がないかどうかを感じ取ろうとしているらしい。
俺なら魔法でその嘘を見破るのにな。
どうやら狼には狼の判断する基準があるようだった。
逆にいえば彼女がアーチャーをさぐっているとき、アーチャーはシェナを観察することができる。
これはいい機会だと、死霊術師はじっと見つめ返してみた。
蒼い腰まである髪、真っ白と青が混じった立派な上半身ほどもある尾、耳は外側が蒼で内側の毛が銀色。
肌は透けるほどに白く、目は燃えるような緑色。
お姫様と言われたら、それと思えるほどに気品の漂う様はさすがというべきか。
これで噛み癖がなければいい女なんだが‥‥‥二歳年下。
しかし、シェナというその名前は――あまりにも、その姿に似合っていなかった。
「で、何かわかったか?」
「うー‥‥‥恥ずかしい。なんで見つめるの?」
「いや、なんとなく。シェナって名前がきになってな」
「どう‥‥‥いうこと?」
「どうもなにも。シェナは、人間の言葉で赤い花だ。しかし、どこも赤くない。真っ青。緑が少し。それ本当の名前か?」
「あ、それ――は‥‥‥魔法で調べた。の??」
「いいや? 魔法じゃないよ、単にそう思っただけだ。純粋な蒼狼族なんだろ??」
そう問いかけると、シェナはいいえ、と首を振った。
どこか申し訳なさそうに。
「純粋ではないから――売られた。それだけ」
「そっか。そんなこともあるな」
「っ? 聞かないの??」
「聞いて欲しいならそうするが? 誰にも言いたくないことはあるもんだ。俺が言えない話も、その一つだよ。シェナ??」
狼姫は複雑そうな顔をする。
言いたない、聞かれたくないことは誰にもある。
それを自分が語らないまま、アーチャーには言えと迫るのはどこか心苦しいものがあるのかもしれない。
「あなたは嘘を言っていない。それはわかる。でも、良いことも考えていない」
「ほう‥‥‥それはどんなもので、どんな結果が来るんだ?」
「それは分からない。誰にとって悪いことなのか、それ分からない。でも、良いことじゃない」
「それは多分、おれの人生にとって悪いことなんだろうな。まあ、いいか。誰かに話したくなったら言ってもいい」
「どういうこと?」
きょとんとするシェナに、アーチャーは企みを打ち明けてみることにした。
「まず魔界を変えたいって話だ。これを見てくれ」
「何? 地図の――新しい? 金、鉄? 宝石が欲しいの??」
数枚の同じ土地の測量地図。
だが、そこに描かれているのは地下に埋蔵された鉱物資源や、もっともアーチャーが欲しかったものだ。
「その地図はこの大草原のものだ。そう、ロアの土地だな。俺が蒼狼族と手を結びたいのは彼らがこの地下世界、タイレス辺境国のなかで五指に入る人数をほこるのが一つ。もう一つはその鉱石の埋蔵量の豊富さだ。それを掘り起こし、上へと地下世界から地上世界に輸出できれば――このタイレス辺境国は豊かになる。魔族がそれぞれの国から出たがらないのならそれでいいんだ。獣人はこの国の六割の人口を占める。残り一割が人間、三割が魔族。その人間が贅沢をしてるんだ。それをやめさせるには、どうすればいいか分かるだろ?」
「ふうん‥‥‥。悪くないけど、多分、無理。魔族は良い顔をしない。それに、獣人は奴隷であることに慣れてる強いものに従うのが地下世界の約束。それを変えるのは無理。そう思わない??」
「思わない」
「なんで?どうして断言できるの? 誰もそうは思わないのに‥‥‥」
「それは簡単だよ、シェナ。地上世界は争いばかりだ。魔導大国もあれば、竜族の国もある、魔族の国もあるし、勇者や聖女なんてすさまじい能力を持った連中もいる国も多い。でもそんな国々を越えて大きな力を持ったのが三つある。知ってるか?」
「三つもあるの? 知らない。それは何?」
「あくまで国を越えたって範囲の話だ。なにせ、世界の半分は種族関係なく集まっているからなあ。エイジス連邦に‥‥‥それは置いといて。一つは、ラーズ。シェナを助けたあの宣教師の所属する紋様省や教会を統括する組織フォンテーヌ教会だ。世界中のどこにでも、人口十数人の村にだってその支部がある。一つは、総合ギルドだ。地下世界はここだけみたいだけど、上には世界中の大都市にその支部を持つ。もっとも、各国との癒着が激しいからあまりあてには出来ないけどな」
「もう一つ‥‥‥は?? そんなにたくさんの組織があって喧嘩にならないの??」
「なる時もある。だが、おおむねみんな協力してるな。最後は猫耳族の支配する天空だ。グリムガル王国の隣の高山に本拠地を持つ猫耳族は、世界中の空を支配下に置いてる。 飛空艇がどこの都市にでも降り立ち、経済圏を確立してるんだ。猫耳族がいなきゃ、どこの国も行き来に困る。ま、そんな三つの組織が成立してるのは、金があるからだ。金は身分を変える。常識もな?」
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