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第四章 魔族と死霊術師
王族への招待
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「アーチャー。あなた、メス‥‥‥違う。なに? 妻はいない? シェナはダメ?」
「妻? いないし、シェナがダメって意味がわからん。今のところ……だれとも結婚する気はない。いきなりどうしたんだ、お前‥‥‥?」
「そう‥‥‥なんでもない」
いきなりシェナは黙ってしまう。
妻がいるいないの話がそんなに悩むことなのか?
そう言いたいくらい、彼女は真剣に考えこんでいて話かける余地が無かった。
王族になれば、自分の夫になれば。
アーチャーがそうしてくれれば、自分は死ななくて済むし彼の望むこともできるのに。
彼が地上世界で勇者と仲間だったことは聞いた。
それでも、数いる魔王や力ある魔族に匹敵するとはシェナには思えない。
これが一番の安全策なのに‥‥‥
そう思って出した提案があっさりと却下され、シェナはすこぶる不機嫌だった。
「行くか? そろそろ行かないと、夜になってもたどり着けない気がする。どこにロア族がいるのかわからないが、どこに行けばいいんだ?」
「待って。いま――案内はしたくない。違う、出来ない」
「出来ない? なんでだ? さっきまではそんなこと言ってなかっただろ?」
「それはアーチャーの考えを知らなかったから。いまは違うから出来ない」
「シェナ、何が心配なんだ? 教えてくれないか?」
「そう。うん‥‥‥ロアの女性のことは話した。シェナが地図を持って帰っても、父上様は自分のものにするから。シェナは何をしても力がない。アーチャーはどうして平気なの」
さっきから何度も同じことばっかり言っている気がする。
シェナはそうぼやいていた。
この人は何度も何度も訴えても聞いてくれない。
まだ死にたくないって言ってるのに。
「何が平気なのって主語がないから、ずっと分からなかった」
「え?」
「それってなあ、シェナ? つまり、こういうことか??」
アーチャーは手に持っていた魔石だの、宝石だのを何気ない仕草でポイっとシェナの目の前に放り投げた。
何、これ?
十数個のそれらの一つ一つからアーチャーの投げた方の手に向かって糸のような、まるで導線にも見て取れるそれが緩やかに弧を描いてつながっていて、シェナの獣人として優れた動態視力はそれをスローモーションのように追っていた。
宙を舞うそれらは数度、まばたきをする合間に空中で奇妙な位置に停止した。
シェナはまるでそれは光の筋でつながった魔法陣みたい。
そう思ってしまう。
「何を‥‥‥?」
「マスター・ラーズからもらった」
「だから、何をもらったの??」
「これだよ」
光が出ていないもう片方の手で示すそれは、やはり魔法陣?
でも見たことのない紋様。
それにその光はどこから出ているの‥‥‥?
不思議がるシェナにつづいて聞こえてきたのは、一族の魔法使いでも口にしたことのない不思議な呪文のような祈りのような言葉だった。
(世界のことわり、地脈の王、天空の女神、風の翼、光と闇の和子そして、時空と混沌の盟主。我は波の飾り手、汝が委ねし歴史の波へといざ漕ぎださん。さあ、世界は開かれたり)
奇妙な波が押し寄せてうねるように魔法陣が胎動する。
意思を持ったかのように身震いと赤い雷のようなものが表面を幾重にも疾走する中、ゆるやかにそれなのにどこからか巻き起こった風がシェナの頬を軽やかに撫でていく。
綺麗。
そう思った『向こう側』に見えたそれは、この地下世界ではあり得ない。
地上世界にしか存在しないはずの、夜空と果てしない銀盤に散りばめられた宝石のような星々が輝いていた。
「魔法? でも知らない。見たことがない。これはどこ、アーチャー??」
「星、だよ。シェナ。これは、唐草文様の非対称性をずらずことでこことあそこを移動できる、扉紋。っていうらしいな。マスター・ラーズは星まで行けるんだとか冗談っぽく言ってたが」
「これで何をしたいの、アーチャー?」
「今からでもマスター・ラーズのとこに行けるぞ? あいにくと上もまだ昼間だが。これは天空に扉を開いたから夜空が見える。意味が分かるか? 魔人様の結界をすり抜けるなり、突破していくなり。それをするためにどれだけの力がいると思う、シェナ?」
「知らない‥‥‥」
それは嘘だ。
シェナは否定しながらも、その答えを知っていた。
魔力の強い相手が張った結界や特別な空間。
それを越えるには、より強いものが必要。
魔力なり、神格なり、魔素で換算するならより上位の濃いそれなり‥‥‥
「その顔は知っているって顔だな。つまり、魔人様以上か同格の能力がある――というのは嘘でな」
「は?嘘って嘘って‥‥‥??」
「この紋章や紋様って呼ばれるのは、地上世界でずっと古代に栄えたフォンテーヌ文明の遺産なんだとか。ま、つまりな。シェナは魔族は力が強い存在に従うって言っただろ? 俺は魔導師だが、魔人様のように強くはない。だがこうしてズルをする方法は知っている。全てが自分の持っている魔力だけで優劣が決まるわけじゃない」
「だから何が言いたいの? あなたは知識とその頭脳で生き残るつもりなの‥‥‥??」
自分の知らない世界。
魔族にも蓄えた知恵でその地位を確立すう者はたくさんいる。
いまある能力を更に、後からの何かで増大させようとする誰かもいるし、そうして魔王になった例もいくつかある。
でもそれらは全部、結果論だ。
先にこれだけのレベルのものが使えるから、自分はこの地下世界に君臨する十数柱の最高位に近い。
そんな魔人様の結界も突破できるなんて公言した者も、やり遂げた誰かもまだいない。
もしいれば、その誰かは自分の領地を魔人様のように結界でおおい、種族を瘴気の脅威から守ろうとするだろう。
そんな魔王はまだ誰もいなかった。
「妻? いないし、シェナがダメって意味がわからん。今のところ……だれとも結婚する気はない。いきなりどうしたんだ、お前‥‥‥?」
「そう‥‥‥なんでもない」
いきなりシェナは黙ってしまう。
妻がいるいないの話がそんなに悩むことなのか?
そう言いたいくらい、彼女は真剣に考えこんでいて話かける余地が無かった。
王族になれば、自分の夫になれば。
アーチャーがそうしてくれれば、自分は死ななくて済むし彼の望むこともできるのに。
彼が地上世界で勇者と仲間だったことは聞いた。
それでも、数いる魔王や力ある魔族に匹敵するとはシェナには思えない。
これが一番の安全策なのに‥‥‥
そう思って出した提案があっさりと却下され、シェナはすこぶる不機嫌だった。
「行くか? そろそろ行かないと、夜になってもたどり着けない気がする。どこにロア族がいるのかわからないが、どこに行けばいいんだ?」
「待って。いま――案内はしたくない。違う、出来ない」
「出来ない? なんでだ? さっきまではそんなこと言ってなかっただろ?」
「それはアーチャーの考えを知らなかったから。いまは違うから出来ない」
「シェナ、何が心配なんだ? 教えてくれないか?」
「そう。うん‥‥‥ロアの女性のことは話した。シェナが地図を持って帰っても、父上様は自分のものにするから。シェナは何をしても力がない。アーチャーはどうして平気なの」
さっきから何度も同じことばっかり言っている気がする。
シェナはそうぼやいていた。
この人は何度も何度も訴えても聞いてくれない。
まだ死にたくないって言ってるのに。
「何が平気なのって主語がないから、ずっと分からなかった」
「え?」
「それってなあ、シェナ? つまり、こういうことか??」
アーチャーは手に持っていた魔石だの、宝石だのを何気ない仕草でポイっとシェナの目の前に放り投げた。
何、これ?
十数個のそれらの一つ一つからアーチャーの投げた方の手に向かって糸のような、まるで導線にも見て取れるそれが緩やかに弧を描いてつながっていて、シェナの獣人として優れた動態視力はそれをスローモーションのように追っていた。
宙を舞うそれらは数度、まばたきをする合間に空中で奇妙な位置に停止した。
シェナはまるでそれは光の筋でつながった魔法陣みたい。
そう思ってしまう。
「何を‥‥‥?」
「マスター・ラーズからもらった」
「だから、何をもらったの??」
「これだよ」
光が出ていないもう片方の手で示すそれは、やはり魔法陣?
でも見たことのない紋様。
それにその光はどこから出ているの‥‥‥?
不思議がるシェナにつづいて聞こえてきたのは、一族の魔法使いでも口にしたことのない不思議な呪文のような祈りのような言葉だった。
(世界のことわり、地脈の王、天空の女神、風の翼、光と闇の和子そして、時空と混沌の盟主。我は波の飾り手、汝が委ねし歴史の波へといざ漕ぎださん。さあ、世界は開かれたり)
奇妙な波が押し寄せてうねるように魔法陣が胎動する。
意思を持ったかのように身震いと赤い雷のようなものが表面を幾重にも疾走する中、ゆるやかにそれなのにどこからか巻き起こった風がシェナの頬を軽やかに撫でていく。
綺麗。
そう思った『向こう側』に見えたそれは、この地下世界ではあり得ない。
地上世界にしか存在しないはずの、夜空と果てしない銀盤に散りばめられた宝石のような星々が輝いていた。
「魔法? でも知らない。見たことがない。これはどこ、アーチャー??」
「星、だよ。シェナ。これは、唐草文様の非対称性をずらずことでこことあそこを移動できる、扉紋。っていうらしいな。マスター・ラーズは星まで行けるんだとか冗談っぽく言ってたが」
「これで何をしたいの、アーチャー?」
「今からでもマスター・ラーズのとこに行けるぞ? あいにくと上もまだ昼間だが。これは天空に扉を開いたから夜空が見える。意味が分かるか? 魔人様の結界をすり抜けるなり、突破していくなり。それをするためにどれだけの力がいると思う、シェナ?」
「知らない‥‥‥」
それは嘘だ。
シェナは否定しながらも、その答えを知っていた。
魔力の強い相手が張った結界や特別な空間。
それを越えるには、より強いものが必要。
魔力なり、神格なり、魔素で換算するならより上位の濃いそれなり‥‥‥
「その顔は知っているって顔だな。つまり、魔人様以上か同格の能力がある――というのは嘘でな」
「は?嘘って嘘って‥‥‥??」
「この紋章や紋様って呼ばれるのは、地上世界でずっと古代に栄えたフォンテーヌ文明の遺産なんだとか。ま、つまりな。シェナは魔族は力が強い存在に従うって言っただろ? 俺は魔導師だが、魔人様のように強くはない。だがこうしてズルをする方法は知っている。全てが自分の持っている魔力だけで優劣が決まるわけじゃない」
「だから何が言いたいの? あなたは知識とその頭脳で生き残るつもりなの‥‥‥??」
自分の知らない世界。
魔族にも蓄えた知恵でその地位を確立すう者はたくさんいる。
いまある能力を更に、後からの何かで増大させようとする誰かもいるし、そうして魔王になった例もいくつかある。
でもそれらは全部、結果論だ。
先にこれだけのレベルのものが使えるから、自分はこの地下世界に君臨する十数柱の最高位に近い。
そんな魔人様の結界も突破できるなんて公言した者も、やり遂げた誰かもまだいない。
もしいれば、その誰かは自分の領地を魔人様のように結界でおおい、種族を瘴気の脅威から守ろうとするだろう。
そんな魔王はまだ誰もいなかった。
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