漆黒の霊帝~魔王に家族を殺された死霊術師、魔界の統治者になる~

星ふくろう

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第五章 夢霊の女王と死霊術師

「精霊剣士」と死霊術師

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「アーチャー‥‥‥? ねえ、いいのそれ?」
「なにがだ、イオリ?」
「だからその、魔王を倒すって」
「なにっ? あ‥‥‥」
「あ、じゃない。忘れてたでしょ? ロアも蒼狼族。魔族なのに」
「いや待て、そういう意味じゃない」
「もう、遅い。たぶん」

 迂闊なオスは嫌いとイオリがそっぽを向く。
 おろしてくれと足をばたつかせるが、アーチャーはそれには応じない。

「独占したいならきちんとして」
「いや、それは欲しくない」そう言うが、「なら放置しないで。ちゃんと父上様と話をして」とイオリはしなきゃ噛みついてやるとばかりにアーチャーの首筋に口元をよせる。

「やめろっ! それ痛いじゃ済まなくなる」
「お話!」
「‥‥‥分かったよ。バルバロス王、あんたの娘はこう望んでいるがどうすればいいんだ?」
「ふっ。面白い領主様だ。あなたはどうされたい? そのイオリを罪人にしますかな?」そう、彼は言い奇妙な珍客を見守っていた。部下が近寄ろうとするが、それを唸り声を上げて制止する。
 その場ではアーチャーを優先するという意思が働いているように、彼には感じれた。

「難しいことは抜きだ。俺はこのイオリを罪人だとは思わない。むしろ、こいつはきちんと死のうとした‥‥‥俺たち人間にはない文化だが。だが、それでも王族としての名誉は汚していないと俺は思うよ。助けたのは俺だ。裁くなら、俺を裁けばいい」
「さて、それは難しいですな」
「あんたたち、ロア族ってのは男も女も主語がないのか? 俺はずっとイオリの足らずに、こら噛むなっ!」
「最低、自分のメスの悪口言うなんて‥‥‥」
「だから、そのオスメスってのやめろ! 人間はそんな言い方をしない」そう言うと、イオリはふうん? と考える仕草をする。そして言うのだ。「なら何? どう言えばいい?」‥‥‥と。
 アーチャーはその言葉に緊張感を失ってしまった。

 ここでこいつを守らなきゃ意味がないだろ?
 自分では不敵な笑みを――浮かべたつもりだった。
 しかし、イオリの一言と、周囲の雰囲気がそれを台無しにしてしまう。
 
「なあ、バルバロス王。あんたの娘、なにか躾を間違ってないか? どうしてこうも夫婦だの、夫だのって言いまわるんだ‥‥‥??」そう問うと、彼は苦笑していた。「それは領主様。あなたが何か許可を出されたからではありませんか?」
「許可? 俺が何の許可を出したと‥‥‥???」
「そうですな、例えば自分のものであるとか、ですかな?」
「もの? 確かにここまで連れてくるあいだは建前としてそんな話はしたが」
「ならそれかもしれませんな。ロアの女は自分から主張することは少ない、イオリがそこまで言い張るのはあなたが何かを成そうとしているからでは? 先ほどの魔王の話もそうだ。我々は共同体として、その使命を帯びるのでね」

 共同体、か。
 そういう意味なら、もしイオリに領主として使命を与えればどうなるだろう?
 アーチャーはふとそんなことを思ってしまった。

 蒼狼族の地下世界の王よりも上位にある自分。
 その価値はそこにこそ、あるのではないか、と。

「バルバロス王、提案がある」
「伺いましょう。しかし、良き提案でなければイオリが悲しむことになりますがな?」不敵に笑うのは今度は彼の方だった。領主様がどれほどのものか。
 若いその身でイオリ一人も従えれないで何が領主様なのか、そんな目で彼はアーチャーを見ていた。

「俺を領主と認めるなら、そうだな。イオリに使命を与える。蒼狼族にも、ロアにも関わる問題だ」
「ほおぅ? で、それはなにを?」

 アーチャーが指差したのは意外にも、空に敷かれた結界の中の結界。
 このロア族の領土を守る、イオリの実の父親が設置したというそれだった。

「あの結界に俺は興味があるんだ、王よ」
「結界? 確かにこの地は二重の結界の内側にあるが‥‥‥それが何か?」
「これに見覚えはないか?」

 アーチャーがそう言い、自分の懐にあったものを、王の側近に投げて渡す。
 もし、危険物だとすれば即、信頼を失うからだ。
 それを受け取った若いロア族の騎士はなんどもなんども、安全かどうかを見極めようとしてその体毛を青に輝かせていた。
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