漆黒の霊帝~魔王に家族を殺された死霊術師、魔界の統治者になる~

星ふくろう

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第五章 夢霊の女王と死霊術師

賢者の都とイオリの未来

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 部下の数人が検分したそれを手にしてみて、バルバロス王は「これは」、とうめくように声を漏らしていた。
 それは無理もない反応だった。
 十年ほど前に、彼の親友が愛娘と共に預けていった、魔法具と呼ばれるものとそっくりだったからだ。
 王はアーチャーとその背に抱かれるイオリを交互に見ると、はるかな天空に位置するはずの結界を見上げ、そして理解を示したようだった。

「これをどこで?」
「どこでもない、俺が作った物だ」
「いや、しかし‥‥‥彼は地上のどこでもそうそう簡単には作れないものだと。そう言っていた」
「そうだよ。塔でしか作れない。そんなことを言っていなかったか?」
「塔‥‥‥? その塔の名はご存知か?」
 
 もちろん、とアーチャーは首を振った。
 むしろ、知らない方が問題だと思いながら。

「塔は天空にある。もしくは、果てしない山脈の奥地に。天空大陸は賢者の都ハグーンか、もしくはかつて聖者サユキが座したという、太陽神アギト神殿の法王庁にある秘密の階段を上がらなければたどり着けない」
「その名は!?」
「ジェニスの塔、で一般的には通っているかな? 正式名称は、骸無ガイムの塔だ。満足して貰えたかな?」
「いや、もう一つ知りたいことがある。その名、骸無の名は一部のものしか知らないと聞いた。そう、そこを出ることを許された者だけがその資格を持つと」
「ああ、それも間違いじゃない。言いたいことは分かるよ。俺が黒の札の死霊術師だから不審なんだろ?」
「先に暴露されては困りますな領主殿。ではそうでない証があるとでも??」

 お前動くなよ? 
 アーチャーはそう言い、彼に腹から担がれているせいで顔をこちらに向けようとしたらまるで、青い毛皮のマフラーよろしくなっているイオリを改めて抱き上げた。
 懐から大事そうにある紋章を引っ張り出すと、それをもう片方の手で掲げて見せる。
 関わり合いのない者には滅多にお目にかかることのない、賢者の都ハグーンとジェニスの塔が左右に描かれた紺に近い蒼い紋章。
 それは、まぎれもなくアーチャーが賢者であり、青の位階の存在だと示していた。

「見たことはあるか? あんたたちの狼の眼なら、ここからでも見えるだろ?」
「幾度か見せて頂いたことはある。もっとも、彼の紋章はこの色ではなかったが」
「その色じゃなかった? 不思議だな。どんな色だった?」
「緑より青に近く、赤よりは緑に近い。なんでしたかな、浅葱、でしたか。そう言っていましたな」
「浅葱は特例だ。普通は赤か青なんだが‥‥‥まあ、いい。それで俺の身分は証明できただろう? イオリの父親がいない今、天空の結界を失うのはロアに取っても死活問題だ。だが、俺ならあれを強化することも、弱めることもできる」
「つまり、結界を盾にとって従わせようと? そういう魂胆ですかな?」
「違うよバルバロス王。俺はこのイオリをハグーンに推挙したいんだ。蒼狼族の姫であれば、賢者の都に入る資格は手に入る。親がハグーンの出身であるなら、もう一つ有利になるがどうだ?」
「意図が読めませんな。それであなたに何の得が?」
「こんなとこでこれだけ距離を空けてする話じゃないが‥‥‥」

 ここでようやく、パルド市から先遣としてロア族に接触していた黒曜族のルカが口を開いた。
 どうやらイライアからは極力、手を貸さないようにと厳命されていたらしい。彼女は賢く機会を狙っていたというわけだ。

「では、新領主様の挨拶も身分も明らかになったわけですから、いかがですか、ロア族の皆様。ここは席を移動するということで」
「つまり、正式に歓待せよ。しなければ、総合ギルドからの支援はなくなるぞ、と。そういうことか。まったく、黒曜族はなにかにつけて計算高い‥‥‥」
「聞かなかったことにしておきます、バルバロス王。いまのわたしは、黒曜族の者ではなく地上世界の総合ギルド本部から正式な指示を受けた特使ですから。レパードの蒼狼族の王からこの土地を守るために手を貸す。その約束を忘れてもいいのですよ?」
「これですよ、領主様。あなたも気を付けられた方がいい。黒曜族の女はいつも計算高い」
「何ですって? アーチャー様、お気になさらないでください」

 双方から言われるとアーチャーは困ってしまう。
 何より、あの夜にあった古き黒曜族の女性、ラスもまた気が強かったなあ。
 いまこの場で抱き上げているのがイオリでなく、シェニアなら良かったのに。
 そうふと思ってしまう、アーチャーだった。

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