70 / 76
第五章 夢霊の女王と死霊術師
賢者の都とイオリの未来
しおりを挟む
部下の数人が検分したそれを手にしてみて、バルバロス王は「これは」、とうめくように声を漏らしていた。
それは無理もない反応だった。
十年ほど前に、彼の親友が愛娘と共に預けていった、魔法具と呼ばれるものとそっくりだったからだ。
王はアーチャーとその背に抱かれるイオリを交互に見ると、はるかな天空に位置するはずの結界を見上げ、そして理解を示したようだった。
「これをどこで?」
「どこでもない、俺が作った物だ」
「いや、しかし‥‥‥彼は地上のどこでもそうそう簡単には作れないものだと。そう言っていた」
「そうだよ。塔でしか作れない。そんなことを言っていなかったか?」
「塔‥‥‥? その塔の名はご存知か?」
もちろん、とアーチャーは首を振った。
むしろ、知らない方が問題だと思いながら。
「塔は天空にある。もしくは、果てしない山脈の奥地に。天空大陸は賢者の都ハグーンか、もしくはかつて聖者サユキが座したという、太陽神アギト神殿の法王庁にある秘密の階段を上がらなければたどり着けない」
「その名は!?」
「ジェニスの塔、で一般的には通っているかな? 正式名称は、骸無の塔だ。満足して貰えたかな?」
「いや、もう一つ知りたいことがある。その名、骸無の名は一部のものしか知らないと聞いた。そう、そこを出ることを許された者だけがその資格を持つと」
「ああ、それも間違いじゃない。言いたいことは分かるよ。俺が黒の札の死霊術師だから不審なんだろ?」
「先に暴露されては困りますな領主殿。ではそうでない証があるとでも??」
お前動くなよ?
アーチャーはそう言い、彼に腹から担がれているせいで顔をこちらに向けようとしたらまるで、青い毛皮のマフラーよろしくなっているイオリを改めて抱き上げた。
懐から大事そうにある紋章を引っ張り出すと、それをもう片方の手で掲げて見せる。
関わり合いのない者には滅多にお目にかかることのない、賢者の都ハグーンとジェニスの塔が左右に描かれた紺に近い蒼い紋章。
それは、まぎれもなくアーチャーが賢者であり、青の位階の存在だと示していた。
「見たことはあるか? あんたたちの狼の眼なら、ここからでも見えるだろ?」
「幾度か見せて頂いたことはある。もっとも、彼の紋章はこの色ではなかったが」
「その色じゃなかった? 不思議だな。どんな色だった?」
「緑より青に近く、赤よりは緑に近い。なんでしたかな、浅葱、でしたか。そう言っていましたな」
「浅葱は特例だ。普通は赤か青なんだが‥‥‥まあ、いい。それで俺の身分は証明できただろう? イオリの父親がいない今、天空の結界を失うのはロアに取っても死活問題だ。だが、俺ならあれを強化することも、弱めることもできる」
「つまり、結界を盾にとって従わせようと? そういう魂胆ですかな?」
「違うよバルバロス王。俺はこのイオリをハグーンに推挙したいんだ。蒼狼族の姫であれば、賢者の都に入る資格は手に入る。親がハグーンの出身であるなら、もう一つ有利になるがどうだ?」
「意図が読めませんな。それであなたに何の得が?」
「こんなとこでこれだけ距離を空けてする話じゃないが‥‥‥」
ここでようやく、パルド市から先遣としてロア族に接触していた黒曜族のルカが口を開いた。
どうやらイライアからは極力、手を貸さないようにと厳命されていたらしい。彼女は賢く機会を狙っていたというわけだ。
「では、新領主様の挨拶も身分も明らかになったわけですから、いかがですか、ロア族の皆様。ここは席を移動するということで」
「つまり、正式に歓待せよ。しなければ、総合ギルドからの支援はなくなるぞ、と。そういうことか。まったく、黒曜族はなにかにつけて計算高い‥‥‥」
「聞かなかったことにしておきます、バルバロス王。いまのわたしは、黒曜族の者ではなく地上世界の総合ギルド本部から正式な指示を受けた特使ですから。レパードの蒼狼族の王からこの土地を守るために手を貸す。その約束を忘れてもいいのですよ?」
「これですよ、領主様。あなたも気を付けられた方がいい。黒曜族の女はいつも計算高い」
「何ですって? アーチャー様、お気になさらないでください」
双方から言われるとアーチャーは困ってしまう。
何より、あの夜にあった古き黒曜族の女性、ラスもまた気が強かったなあ。
いまこの場で抱き上げているのがイオリでなく、シェニアなら良かったのに。
そうふと思ってしまう、アーチャーだった。
それは無理もない反応だった。
十年ほど前に、彼の親友が愛娘と共に預けていった、魔法具と呼ばれるものとそっくりだったからだ。
王はアーチャーとその背に抱かれるイオリを交互に見ると、はるかな天空に位置するはずの結界を見上げ、そして理解を示したようだった。
「これをどこで?」
「どこでもない、俺が作った物だ」
「いや、しかし‥‥‥彼は地上のどこでもそうそう簡単には作れないものだと。そう言っていた」
「そうだよ。塔でしか作れない。そんなことを言っていなかったか?」
「塔‥‥‥? その塔の名はご存知か?」
もちろん、とアーチャーは首を振った。
むしろ、知らない方が問題だと思いながら。
「塔は天空にある。もしくは、果てしない山脈の奥地に。天空大陸は賢者の都ハグーンか、もしくはかつて聖者サユキが座したという、太陽神アギト神殿の法王庁にある秘密の階段を上がらなければたどり着けない」
「その名は!?」
「ジェニスの塔、で一般的には通っているかな? 正式名称は、骸無の塔だ。満足して貰えたかな?」
「いや、もう一つ知りたいことがある。その名、骸無の名は一部のものしか知らないと聞いた。そう、そこを出ることを許された者だけがその資格を持つと」
「ああ、それも間違いじゃない。言いたいことは分かるよ。俺が黒の札の死霊術師だから不審なんだろ?」
「先に暴露されては困りますな領主殿。ではそうでない証があるとでも??」
お前動くなよ?
アーチャーはそう言い、彼に腹から担がれているせいで顔をこちらに向けようとしたらまるで、青い毛皮のマフラーよろしくなっているイオリを改めて抱き上げた。
懐から大事そうにある紋章を引っ張り出すと、それをもう片方の手で掲げて見せる。
関わり合いのない者には滅多にお目にかかることのない、賢者の都ハグーンとジェニスの塔が左右に描かれた紺に近い蒼い紋章。
それは、まぎれもなくアーチャーが賢者であり、青の位階の存在だと示していた。
「見たことはあるか? あんたたちの狼の眼なら、ここからでも見えるだろ?」
「幾度か見せて頂いたことはある。もっとも、彼の紋章はこの色ではなかったが」
「その色じゃなかった? 不思議だな。どんな色だった?」
「緑より青に近く、赤よりは緑に近い。なんでしたかな、浅葱、でしたか。そう言っていましたな」
「浅葱は特例だ。普通は赤か青なんだが‥‥‥まあ、いい。それで俺の身分は証明できただろう? イオリの父親がいない今、天空の結界を失うのはロアに取っても死活問題だ。だが、俺ならあれを強化することも、弱めることもできる」
「つまり、結界を盾にとって従わせようと? そういう魂胆ですかな?」
「違うよバルバロス王。俺はこのイオリをハグーンに推挙したいんだ。蒼狼族の姫であれば、賢者の都に入る資格は手に入る。親がハグーンの出身であるなら、もう一つ有利になるがどうだ?」
「意図が読めませんな。それであなたに何の得が?」
「こんなとこでこれだけ距離を空けてする話じゃないが‥‥‥」
ここでようやく、パルド市から先遣としてロア族に接触していた黒曜族のルカが口を開いた。
どうやらイライアからは極力、手を貸さないようにと厳命されていたらしい。彼女は賢く機会を狙っていたというわけだ。
「では、新領主様の挨拶も身分も明らかになったわけですから、いかがですか、ロア族の皆様。ここは席を移動するということで」
「つまり、正式に歓待せよ。しなければ、総合ギルドからの支援はなくなるぞ、と。そういうことか。まったく、黒曜族はなにかにつけて計算高い‥‥‥」
「聞かなかったことにしておきます、バルバロス王。いまのわたしは、黒曜族の者ではなく地上世界の総合ギルド本部から正式な指示を受けた特使ですから。レパードの蒼狼族の王からこの土地を守るために手を貸す。その約束を忘れてもいいのですよ?」
「これですよ、領主様。あなたも気を付けられた方がいい。黒曜族の女はいつも計算高い」
「何ですって? アーチャー様、お気になさらないでください」
双方から言われるとアーチャーは困ってしまう。
何より、あの夜にあった古き黒曜族の女性、ラスもまた気が強かったなあ。
いまこの場で抱き上げているのがイオリでなく、シェニアなら良かったのに。
そうふと思ってしまう、アーチャーだった。
0
あなたにおすすめの小説
落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!
たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。
途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。
鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒!
素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。
裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!
「お前は用済みだ」役立たずの【地図製作者】と追放されたので、覚醒したチートスキルで最高の仲間と伝説のパーティーを結成することにした
黒崎隼人
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――役立たずの【地図製作者(マッパー)】として所属パーティーから無一文で追放された青年、レイン。死を覚悟した未開の地で、彼のスキルは【絶対領域把握(ワールド・マッピング)】へと覚醒する。
地形、魔物、隠された宝、そのすべてを瞬時に地図化し好きな場所へ転移する。それは世界そのものを掌に収めるに等しいチートスキルだった。
魔力制御が苦手な銀髪のエルフ美少女、誇りを失った獣人の凄腕鍛冶師。才能を活かせずにいた仲間たちと出会った時、レインの地図は彼らの未来を照らし出す最強のコンパスとなる。
これは、役立たずと罵られた一人の青年が最高の仲間と共に自らの居場所を見つけ、やがて伝説へと成り上がっていく冒険譚。
「さて、どこへ行こうか。俺たちの地図は、まだ真っ白だ」
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
【読切短編】転生したら辺境伯家の三男でした ~のんびり暮らしたいのに、なぜか領地が発展していく~
Lihito
ファンタジー
過労死したシステムエンジニアは、異世界の辺境伯家に転生した。
三男。継承権は遠い。期待もされない。
——最高じゃないか。
「今度こそ、のんびり生きよう」
兄たちの継承争いに巻き込まれないよう、誰も欲しがらない荒れ地を引き受けた。
静かに暮らすつもりだった。
だが、彼には「構造把握」という能力があった。
物事の問題点が、図解のように見える力。
井戸が枯れた。見て見ぬふりができなかった。
作物が育たない。見て見ぬふりができなかった。
気づけば——領地が勝手に発展していた。
「俺ののんびりライフ、どこ行った……」
これは、静かに暮らしたかった男が、なぜか成り上がっていく物語。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
追放された無能鑑定士、実は世界最強の万物解析スキル持ち。パーティーと国が泣きついてももう遅い。辺境で美少女とスローライフ(?)を送る
夏見ナイ
ファンタジー
貴族の三男に転生したカイトは、【鑑定】スキルしか持てず家からも勇者パーティーからも無能扱いされ、ついには追放されてしまう。全てを失い辺境に流れ着いた彼だが、そこで自身のスキルが万物の情報を読み解く最強スキル【万物解析】だと覚醒する! 隠された才能を見抜いて助けた美少女エルフや獣人と共に、カイトは辺境の村を豊かにし、古代遺跡の謎を解き明かし、強力な魔物を従え、着実に力をつけていく。一方、カイトを切り捨てた元パーティーと王国は凋落の一途を辿り、彼の築いた豊かさに気づくが……もう遅い! 不遇から成り上がる、痛快な逆転劇と辺境スローライフ(?)が今、始まる!
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました
東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。
王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。
だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。
行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。
冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。
無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――!
王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。
これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる