殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう

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放蕩息子の皇太子殿下、婚約者を売り飛ばす件 1

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 それは、数十年に一度あるかないか。
 このラスディア帝国の信奉する大地母神ラーディアナの聖女が交替するという儀式が行われようとしていた
 皇帝は候補と思われる、敬虔な信徒の貴族令嬢のうちから数名を選び出し、認定の儀式をするように命じた。
 そんな重大な聖なる儀式の一週間前に‥‥‥事件は起こった。

「いやーー申し訳ないですな、殿下。
 またまた、わしの勝ちですよ。
 いやはや、今夜はとてもツイている」

 そう言ったのは次期皇帝と目されているエミリオ皇太子のポーカー仲間のザイール大公。
 今年、五十を越えたイスに座ると腹の上に顔が載っているような、そんなデブである。

「くっーー!!!!
 なぜこんなに六回も続けて負けるのだーーーー!!!???」

 そして、見た目だけは美丈夫なエミリオ皇太子。
 赤毛に緑の瞳、歌劇団が謳うオペラ会場に行けば、主演男優よりも衆目を浴びるような美男子がそこにはいた。
 彼は今夜、すでに六回もポーカーに負け、持っている牧場だの領地だの、爵位まで賭ける真似はしなかったが。
 しかし、皇帝陛下から賜った成人祝いの宝剣まで賭けてふんだくられているところを見ると‥‥‥
 彼はまあ、まともな人間ではないことはよくわかる。
 貴族の子弟や爵位を持つ者が集まる紳士クラブで、彼はその身分も忘れて冷静さをかいた発言を連呼していた。

「ふざけるな、大公殿!
 これはイカサマだ、こんなことが続くはずがない!!」

 わたしは絶対に認めないぞ!
 そう負けを認められない愚か者。
 これが次期皇帝とは、帝国も終わったな。
 そんな呟きが、そこかしこから聞こえていた。
 対する大公はそんな皇太子の剣幕などまったく意に介していない。
 皇太子殿下と大公は身分でいえば同列だから、怯む必要も、へりくだることもないからだ。

「いやー困りましたなあ、エミリオ皇太子殿下。
 負けは負け。
 これが紳士の決闘ならばあなた、もう六回も死んでいるのですよ?
 負けた敗因を考えられたらいかがですか?
 もう賭けるものすらないでしょう?」

 それとも、いま着ている服まで賭けられますか?
 そう、ザイール大公はおちょくるように言い放つ。
 
「もっとも、裸でここから出た日には次期皇帝の座など消えてなくなるでしょうけどねえ。
 もう荘園も領地も、殿下の持たれている三つの爵位も全部、わしの物ですよ?
 この宝剣すらも。
 さすがに、公爵の爵位まではいただきませんけどね?
 どうします?
 もうお帰りになられた方が良いでしょう?」

 そう言い、大公は紳士クラブの入り口を指差した。
 翌週はそう、確か聖女様の認定の儀式に殿下も御出席されるのでしょう?
 準備はしなくていいのですか?
 ザイール大公は薄ら笑いを浮かべて、エミリオ皇太子を嘲笑った。
 その嘲笑の波は紳士クラブ全体に広がり、嘲笑の波がエミリオ皇太子を襲う。
 彼は皇太子というプライドにかけて、この奪われたすべてを取り戻す決意を固めた。

「ザイール大公。
 そうまで言われるならば、まだ賭けるものはいくらでもある」

 エミリオ皇太子はふふん、と俺を甘くみるなよ叔父上殿。
 そう言い放った。
 僕は皇太子だ、いざとなれば国庫からいくらでもー‥‥‥
 そう、彼は考えていた。

「殿下、まさか会計院からこのポーカーの負けを支払わせるおつもりではないでしょうな?
 あれは行政に必要な経費だけが出るのですぞ?
 国の行事や公式な目的以外、皇帝陛下とて使うには議会の承認が要ります。
 戦争や飢饉などの災害時は陛下の独断で利用できますが‥‥‥」

 そう大公に軽くたしなめられ、この愚かな皇太子の目論見はもろくも崩れ去った。
 彼の懐には金貨数枚もなく、これまでに賭けた財産と等価になるものはなかった。
 冷静になれ、そう自分に言い聞かせてもなにも物事は変わらない。
 くそう、このまま負け犬の汚名を背負って帰るしかないのか!!?
 そう、悔し紛れに思いついたこと。
 それはーー

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