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第二部 消えた王国
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この十数年。
消えた国は南方にしかなく、その多くは竜公国か帝国。
そのどちらかによって滅ぼされた。
いや、彼が滅ぼしてきたからだ。
「では、故国はどちらかな、御婦人?」
言うべき?
行っても、彼がこの帝国の要人なら話すかもしれない。
あの国のことを。
シェイラは思い切って名乗ってみた。
「クルード王国、第十八代国王の定子。
第一王太子リクトの妻‥‥‥シェイラ。
そう言えば、満足ですか?」
十八代?
だが、それではあまりにも時間が‥‥‥
そして、シルドは思い出す。
その王太子妃が消えた夜の伝説。
王太子と王太子妃の結婚式の夜に、集まった宴席の場にいた人間や竜が全て同じ夢を見たというあの噂を。
「二十年。
どこに隠れておられた?
それよりもあの王太子妃は消えたはず、いやさらわれたとも聞いたがな?
いや、乱心してその身を焼いたとも聞く。
確か、太陽神アギトの聖女、そして――朔月の魔女?
そんな伝説のようなものを聞いた気がするが。
何が本当だ?」
「何が本当も何も。
ただ、アギト様の眷属様の聖女に鞍替えしただけですよ。
それに、あの男には裏切られてばかり。
今更、妻なんて‥‥‥名乗りたくもない」
「そうか。
あの聖者が残した技に連なる者、か。
だがそうなると僕はあまり、そう。
君にとっては良くない存在のようだな?」
「良くない?
意味が分かりませんが?
今夜は満月、あの時とは真逆‥‥‥海に上がった月もまた良いですね、シルド様。
どうしてよくないのですか?
それより、一番不可思議なことは。
なぜ、あなたのような地位の方がこんな場所に?」
これは困った。
確かに、大公なんて人間がこんな夜に一人で歩くなんて何かおかしい。
そう勘繰られても仕方ない。
シルドは苦笑していた。
「その答えは簡単でな。
いまの帝国には残念ながら僕以上の魔導士は二人しかいない。
その二人は、ここにはいない。
それだけだ」
「不用心過ぎますね‥‥‥。
その良くないという御言葉はなぜ生まれたのですか?」
薄明かりの中でシルドは寂しそうに笑った気がシェイラにはした。
まるで、自分がシェイラの国を滅ぼした。
そう、言いたそうに見えたからだ。
「何故、か。
君の夫を殺したのは僕だからだ。
正確には、僕の指示した軍によって、だがな」
「そう‥‥‥死んでいたのね。
妻は?
副官のような女はいませんでしたか?
身ごもっていたか、それとも子供が――」
「リクトはあの戦で死に、妻がいたな。
エリカと言ったか。国そのものは竜公国に滅ぼされた。
彼等、夫妻には‥‥‥子供はいたはずだが。
すまんな、処刑を命じたのは僕だ」
みんな、死んだのね。
こんな簡単にわかる巡り合わせなんて、なんて酷いんだか。
シェイラは笑ってしまう。
リクトが好きだったわけでもない。
その子供の亡霊に出会い、背筋に冷や汗をかいたからでもない。
神の作る巡り合わせはあまりにも残酷だ。
そう、思わざるを得なかったからだ。
「で、どうするかな?
報復されるか?
それとも??」
ははっ。
小さく小刻みに笑い、シェイラはそっとその場に立ち上がる。
「報復?
いいえ、頂くべきものはもう頂きましたから。
朔月の魔女は、静かに消えることとします。
さよなら、シルド大公様」
「おい、待てー‥‥‥」
彼女はまるでかすみのように消えてしまった。
まるで夜の闇に、墨に染まるように。
「朔月か。
満月の夜に悪い呼び名だよまったく‥‥‥」
言えなかったな、あの子供はまだ生まれて間もなくて処刑などできず。
あのエリカといった母とともに、親子は竜公国に流れた、とは。
こうして、シェイラは果たすべき復讐が過ぎたと思い、事実はそうではなく。
しかし、王国は幻影のように歴史の彼方に消え去った。
この後、朔月の魔女がこの世界に戻ったという記録は残っていない。
消えた国は南方にしかなく、その多くは竜公国か帝国。
そのどちらかによって滅ぼされた。
いや、彼が滅ぼしてきたからだ。
「では、故国はどちらかな、御婦人?」
言うべき?
行っても、彼がこの帝国の要人なら話すかもしれない。
あの国のことを。
シェイラは思い切って名乗ってみた。
「クルード王国、第十八代国王の定子。
第一王太子リクトの妻‥‥‥シェイラ。
そう言えば、満足ですか?」
十八代?
だが、それではあまりにも時間が‥‥‥
そして、シルドは思い出す。
その王太子妃が消えた夜の伝説。
王太子と王太子妃の結婚式の夜に、集まった宴席の場にいた人間や竜が全て同じ夢を見たというあの噂を。
「二十年。
どこに隠れておられた?
それよりもあの王太子妃は消えたはず、いやさらわれたとも聞いたがな?
いや、乱心してその身を焼いたとも聞く。
確か、太陽神アギトの聖女、そして――朔月の魔女?
そんな伝説のようなものを聞いた気がするが。
何が本当だ?」
「何が本当も何も。
ただ、アギト様の眷属様の聖女に鞍替えしただけですよ。
それに、あの男には裏切られてばかり。
今更、妻なんて‥‥‥名乗りたくもない」
「そうか。
あの聖者が残した技に連なる者、か。
だがそうなると僕はあまり、そう。
君にとっては良くない存在のようだな?」
「良くない?
意味が分かりませんが?
今夜は満月、あの時とは真逆‥‥‥海に上がった月もまた良いですね、シルド様。
どうしてよくないのですか?
それより、一番不可思議なことは。
なぜ、あなたのような地位の方がこんな場所に?」
これは困った。
確かに、大公なんて人間がこんな夜に一人で歩くなんて何かおかしい。
そう勘繰られても仕方ない。
シルドは苦笑していた。
「その答えは簡単でな。
いまの帝国には残念ながら僕以上の魔導士は二人しかいない。
その二人は、ここにはいない。
それだけだ」
「不用心過ぎますね‥‥‥。
その良くないという御言葉はなぜ生まれたのですか?」
薄明かりの中でシルドは寂しそうに笑った気がシェイラにはした。
まるで、自分がシェイラの国を滅ぼした。
そう、言いたそうに見えたからだ。
「何故、か。
君の夫を殺したのは僕だからだ。
正確には、僕の指示した軍によって、だがな」
「そう‥‥‥死んでいたのね。
妻は?
副官のような女はいませんでしたか?
身ごもっていたか、それとも子供が――」
「リクトはあの戦で死に、妻がいたな。
エリカと言ったか。国そのものは竜公国に滅ぼされた。
彼等、夫妻には‥‥‥子供はいたはずだが。
すまんな、処刑を命じたのは僕だ」
みんな、死んだのね。
こんな簡単にわかる巡り合わせなんて、なんて酷いんだか。
シェイラは笑ってしまう。
リクトが好きだったわけでもない。
その子供の亡霊に出会い、背筋に冷や汗をかいたからでもない。
神の作る巡り合わせはあまりにも残酷だ。
そう、思わざるを得なかったからだ。
「で、どうするかな?
報復されるか?
それとも??」
ははっ。
小さく小刻みに笑い、シェイラはそっとその場に立ち上がる。
「報復?
いいえ、頂くべきものはもう頂きましたから。
朔月の魔女は、静かに消えることとします。
さよなら、シルド大公様」
「おい、待てー‥‥‥」
彼女はまるでかすみのように消えてしまった。
まるで夜の闇に、墨に染まるように。
「朔月か。
満月の夜に悪い呼び名だよまったく‥‥‥」
言えなかったな、あの子供はまだ生まれて間もなくて処刑などできず。
あのエリカといった母とともに、親子は竜公国に流れた、とは。
こうして、シェイラは果たすべき復讐が過ぎたと思い、事実はそうではなく。
しかし、王国は幻影のように歴史の彼方に消え去った。
この後、朔月の魔女がこの世界に戻ったという記録は残っていない。
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