正しい魔眼の使い方

星ふくろう

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第一章 愛の奇跡

愛情のタイムリミット 2

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 おや、これは困ったな。それを言われると私は好奇心をくすぐられるじゃないか。
 この若いお嬢さんはなかなかに交渉の上手な女性だ。
 さて、私は彼女の期待に応えてあげるべきか、だがそれではルールを破ってしまう。
 しかし、私に触れた者の中にこれまでこんな形の質問をした存在はいただろうか?
 はるか古代から続く死神の記憶の中に、そんな経験はなかった。
 何より、最も気になるのが先程の感情の名前。
 愛情、愛、まあどちらでもいい。
 それを万能の自分が知らないことが興味をそそった。

「お嬢さん、その愛情だが。
 それはどのあたりに位置する感情かな?」

 唐突な質問。
 どのあたり?
 それはどういう意味?
 貴重か、どうでもいい、そういうこと?
 それとも、感覚としての表現?
 なにを基準にしたらいいの?
 弓羽は迷う。
 どう答えれば彼には伝わるのだろう。
 この高ぶる、胸の内の感情を。
 その価値を‥‥‥?

「ああ、そっか。
 価値ってこと、だよね、たぶん。
 それは、これを知らないで死ぬと、人生半分損するくらい。
 生きている意味がないくらい。
 それくらい。命を賭けてでもいい時もあるくらい。
 だと、思う。
 弓羽は頭悪いからこれだけしかわからない。
 でも、しーちゃんの為なら、死んでもいいよ。
 それくらい大事だよ、死神様」

「ほうー‥‥‥。
 そこまで大事なもの、ということなのか。
 実は私はそれを知らない。ああ、これはさっきも話したね。
 うんーー」

 死神は考えてみる。
 愛情という概念とその価値を片鱗でも知れた対価として、この子のいうしーちゃん、か。
 彼女の時間が残りどれくらいかを教えてもいいかもしれない、と。

「いいだろう、お嬢さん。
 その教えてくれた対価として、私も答えよう。
 その女性の限界はーー」

 その時だ。
 エンバーに言われて残り少ない命を燃やして駆けつけてきた雫が、弓羽のマンションのドアを開けたのは。

「弓羽!??
 どこにいるの!?
 ねえ、弓羽!!!!」

「しーちゃん???」

 あそこ、お父さんの寝室だ。
 まだ生きてる、弓羽。
 お願い少しだけ時間が欲しい、あの子に会いたい。
 せめて、あと一度だけ。

「弓羽!!!」
 
 弓羽の父親の寝室のドアを開け飛び込んできた雫はその場で固まってしまう

「え‥‥‥!?
 あなた、誰!!???」

 疑問の声を上げながら、壁際にいる弓羽を目にすると背中に庇うようにしてそばに駆け寄る。

「弓羽、無事だった!?
 この人誰よ??」

「しーちゃん‥‥‥会いたかった。
 会いたかったよ‥‥‥」
 
「え、ねえ、ちょっと。
 弓羽ーー」

 その言葉は、恋人からの口づけで遮られてしまう。

「ごめんなさい、しーちゃん‥‥‥。
 もう、時間がないのに。
 エンバーは、いないんだね‥‥‥」

 契約はうまくいかなかった。
 どうやら、そうらしい。
 雫は沈痛な面持ちで黙ってしまう。
 だがその強い意思の瞳は、死神を見据えて離さない。

「弓羽、この人、誰?」

 危険な人?
 何かされてない?
 そんな意味がその質問には含まれていた。

「ううん、大丈夫。
 その人は死神だよ、お父さんを迎えに来てくれたの」

「へ?
 死神‥‥‥???」

 信じれない、聞いたことはあるけど、見たことはなかった。
 何より、死神が人の姿をして現れたなんて、聞いたことがない。
 雫には弓羽の言葉がすぐには飲みこめなかった。
 だが、理解できたことは一つだけある。
 自分たち二人を迎えにきたのでなければーー

「あなたが死神で、弓羽のお父さんだけを連れていくのならーー
 私と弓羽は悪魔のエサに‥‥‥なるんですね?」

「それは間違いではないね。
 それとそちらの、弓羽さんかな?
 この雫さんのタイムリミットはーー」

「10時30分」

 雫がそう静かに答えた。
 おや、それをなぜ知っているのかな? 死神は不思議そうな顔をする。
 誰も、伝えてはいけないはずなのに。

「エンバーが教えてくれたの。
 弓羽は10時20分。だから最後に会いに行けってーー」

 そして、時計の針は10時15分を指していた。
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